非同期通信レポート 第26回

「NET&COM'98」 Telecomレポート

TEXT:法林岳之


NET&COM'98で今年のトレンドを探る

 '98年2月4日~6日、幕張メッセで開催されている『NET&COM'98』は、ネットワークや通信関連の製品を中心とした展示会だ。主なターゲットが企業ユーザーであるため、パーソナル向けの製品はあまり見かけなかったが、今年の通信関連のトレンドを示唆する製品や技術も見受けられた。そんな中から気になったものをいくつかピックアップして紹介しよう。


本サービスへ向けて注目を集めるADSL

 今回のNET&COM'98で話題となっているのが、CTI(Computer Telephony Integration)とxDSL(x Digital Subscriber Line)だ。ともにネットワーク側のサービスやフィールドテストが開始されたため、メーカー側だけでなく、ユーザーの注目度も高いようだ。

 CTIは'98年2月1日からのナンバー・ディスプレイのサービス開始を受け、より現実感のある製品群が展示されている。ナンバー・ディスプレイについては近日、別途レポートをお送りする予定なので、そちらを参照していただきたい。

 xDSLは従来の銅線によるネットワーク上で、音声よりも高い周波数を使うことにより、数Mbps以上のデータ転送を可能にする技術だ。ただし、通常のアナログモデムなどと違い、距離によって伝送速度が異なり、『ADSL(Asymmetrical Digital Subscriber Line)』『SDSL(Symmetrical DSL)』『HDSL(Hi-Bit Rate DSL)』など、いくつかの種類がある。これらの内、最も一般ユーザーに現実味があると言われているADSLでは、下り1.5~8Mbps上り16~640kbpsという速度を実現する。距離は約5.5km以下という制限があるが、日本では約80%の加入者宅がNTTの局から3.5km以内にあるため、NTTがサービスを開始すれば、十分実用になると言われている。しかし、ADSLで利用する周波数帯域はISDNと干渉する部分があるため、現時点では工場やビル内といった構内でのネットワークに利用されるケースが多い。また、すでに光ファイバー化されている地域では利用できないなどの制限もある。

 ところが、第11回Telecom Watchでもお伝えした通り、NTTがフィールドテストを開始したことで、にわかにxDSLの市場が活気づいている。今回のNET&COMでは、xDSL関連専門のコーナーも設けられおり、実際にADSLによるインターネット環境を試すことができる。

 数あるADSL関連の出展の内、まず目を引いたのがパラダイン・ジャパンマクニカのブースだ。パラダイン・ジャパンはモデムやネットワーク機器のメーカーとして知られているが、実はxDSL技術に最も熱心なメーカーとしても有名で、マクニカは販売を担当している。両社のブースではつい先日、発表されたばかりの『HotWire MVLシステム』が展示されていた。

HotWire MVLシステム
HotWire MVLシステム

 HotWire MVLシステムは同社の持つxDSL技術をベースにしているが、利用する周波数を100kHz以下に制限することにより、ISDNとの干渉というADSL特有の問題を解決したのが特徴だ。しかもアナログ電話を利用するためのPOTSスプリッタなどを設置する必要がないため、従来の音声通話とデータ通信を同一線上で同時に利用できる。伝送距離は最大7km、通信速度は上り下りとも128~768kbpsの範囲で、64kbps単位の可変設定が可能だ。速度的には従来のADSLの10%程度だが、価格も10%程度(約4~5万円?)であり、バックボーンの速度やパソコン側の端末速度なども考え合わせると、非常にバランスのいい技術と言えるだろう。ちなみに、ユーザー側機器はEthernetカード接続型PCI及びISAバスカード型USBポート接続型などが用意されている。

スリーコムジャパン Viper DSL
スリーコムジャパン Viper DSL
SII ADSL対応ルータ
SII ADSL対応ルータ

 この他にも、ADSL関連は注目したい製品が多い。昨年USロボティックスと合併したスリーコムジャパン『Viper DSL』セイコーインスツルメンツ『ADSL対応ルータ』などがそうだ。最終的にはNTTがサービスを開始しないことには何とも言えないが、製品レベルの下地は少しずつ整い始めているようだ。フィールドテストの結果や今後のNTTの動向に注目しよう。


ISDNとPHS関連は?

岩崎通信機 SOABLE メインシステム
岩崎通信機 SOABLE メインシステム
岩崎通信機 SOABLE システム構成
岩崎通信機 SOABLE システム構成

 続いて、ISDNとPHS関連を見てみよう。昨年末に出荷されたNECAtermIW60に代表されるように、ISDNとPHSが融合した製品が増えている。もともと、PHSのバックボーンとしてISDN回線が採用されていることもあり、両方に対応する製品はさらに増えそうな気配だ。

 今回は企業向け製品が多かったが、SOHO環境のユーザーにも便利な製品も展示されていた。たとえば、岩崎通信機『SOABLE(ソアブル)』というシステムもそのひとつ。これはISDN回線を最大3回線まで収容できるSOHO向けデジタルPBX(構内交換機)で、ビジネスホンを接続したり、PHSを子機として登録することができる。もちろん、ISDNターミナルアダプタやISDNダイヤルアップルータを接続することも可能だ。

 個人でISDN回線を3本も敷設している人はそんなにいないだろうが、中小企業やSOHOなどでは十分考えられる。複数のISDN回線を効率よく利用したいときには、なかなか便利な製品と言えるだろう。ちなみに、気になる価格だが、写真のメインユニットの部分が20万円、あとはオプションとなっている。PHSのオフィスステーション部分を含んで10万円前後だったら、個人でも買う人がいるかもしれない。(たとえば、ボクとか(笑))

セイコーインスツルメンツ MC-P100
セイコーインスツルメンツ MC-P100

 一方、PHS関連ではセイコーインスツルメンツが発表したばかりのPCカード型PHS電話機の『MC-P100』を出展していた。写真を見てもわかる通り、PCMCIA Type IIのPCカードで、出っ張りの部分にイヤホンを接続すれば、電話機としても利用できるというもの。対象となるPHS事業者はDDIポケット電話グループで、PIAFSを包含するαDATA32に準拠している。

 同様の製品としては、三菱電機のPHS無線カード『TL-DC100』という製品があるが、MC-P100の方が出っ張りの部分が小さく、アンテナも内蔵になっているため、装着時に邪魔にならない。両製品のページで写真を見てもらうと、その違いがよくわかるはずだ。

 ちなみに、対応機種はWindows95、Macintoshなどのパソコンに加え、Windows CEマシンや各種PDAなども含まれる。DDIポケット電話でサービスされているPメールをパソコン上から送信するユーティリティなども同梱される予定だ。価格はオープンプライスだが、おそらく1万5000円~2万円以内に収まるのではないかと予想している。出荷は3月20日の予定。スマートにモバイルコンピューティングを楽しみたいユーザーには、注目の製品と言えるだろう。

NTTエレクトロニクス WTA-128
NTTエレクトロニクス WTA-128

 また、ISDN機器というわけではないが、ISDNターミナルアダプタを上手に活用する製品も見つけることができた。NTTエレクトロニクスの『WTA-128』という製品は2.4GHz帯の無線を使うことにより、RS-232Cポートを無線化できるものだ。これを使えば、居間にISDNターミナルアダプタが設置されていても離れた書斎からインターネットに接続できるようになるわけだ。昨年発売されたソニーのPCワイヤレスシステム『WNS-230』の対抗製品ということになる。

 無線部分の伝送速度は最大625kbpsまで対応しており、最大8台まで子局として登録することができる。価格は8万円以下を予定しており、できるだけ早い時期に発売したいとしている。また、バリエーションとして、10BASE-TのEthernetコネクタを接続する製品なども検討しているそうだ。性能的にはWNS-230に一歩譲る面があるが、コンパクトで場所を取らないという魅力もある。また、同社は半導体なども手掛けており、さらにコストダウンしてくる可能性もある。正式な発売を期待しよう。



インテルからLAN&56kbpsモデム

 PC Watchでも既報の通り、ようやく国際標準規格のめどが立った56kbpsモデムだが、今回はインテルの新製品を見ることができた。

インテル EtherExpress PRO/100 LAN-Modem56Kアダプタ
インテル EtherExpress PRO/100 LAN-Modem56Kアダプタ

 インテルが展示していた『EtherExpress PRO/100 LAN-Modem56Kアダプタ』は、56kbpsモデムとLANカードの機能を搭載したマルチファンクションカードだ。この製品はすでにアメリカで発表されているが、国内でも間もなく、市場に登場する予定だそうだ。ちなみに、56kbpsモデム部分はRockwell Internationalなどが提唱するK56flexに対応しているが、国際標準規格が勧告されたときにはアップグレードすることも可能だ。

 「なーんだ、ありがちじゃん」と考えるかもしれないが、意外なことに国内には『56kbpsモデム&LAN』というソリューションにマッチするカードが存在しない。ボクも個人的に非常に欲しいので、いろいろとリサーチをしたのだが、正規に販売されている製品でこのソリューションを満たす製品はないのだ。そういった意味でもインテルの製品が国内に投入される意義は大きいと見ている。

 さて、56kbpsモデムの話題が出たところで、最新情報をお伝えしておこう。今週末、スイスのジュネーブで56kbpsモデムの国際標準規格『V.pcm』に関するITU-Tの会合が行なわれており、現時点ではそのまま合意に達すると見られている。ただ、モデムの標準化の世界は、常にどんでん返しが繰り返されており、必ずしも予定通りに進まない可能性もある。来週か再来週には海外のニュースサイトなどでも結果が報じられるはずなので、注目したい。

 ちなみに、V.pcm対応製品の登場とアップグレードに関してだが、早ければ今春にも新製品が登場し、それ以降にアップグレードサービスなども行なわれるはずだ。ただ、プロバイダの対応などがどうなるかという問題も含まれているため、実際に利用できるのは今夏以降と見ておいた方がいいだろう。

[Text by 法林岳之]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp