非同期通信レポート 第27回

非同期通信レポート 第27回

ナンバー・ディスプレイはどうなってるの? 
【その1】

TEXT:法林岳之

 2月からサービス開始したNTTのナンバー・ディスプレイサービスですが、「いまひとつよく分からない」「ISDN回線からの利用はどうなるのか」など、読者の方からもいくつかご質問をいただきました。そこで、法林岳之氏によるナンバー・ディスプレイサービスのレポートをお届けすることにしました。3回に分け、3日連続で短期集中連載します。(編集部)


大混乱のナンバー・ディスプレイサービス

 '98年2月1日からNTTがサービスを開始したナンバー・ディスプレイ。すでにニュースや新聞などでも伝えられているように、NTTには開始直後から約20万件にも及ぶ苦情が寄せられた。電話の世界において、過去に例を見ないほどの混乱ぶりだが、その一方で家電量販店などでは電話機やFAXの売り上げが好調だと言う。今回はナンバー・ディスプレイというサービスはどんなものなのか、何を目指しているのかといったことから、どうしてトラブルが起きたのかなどを検証してみよう。


ナンバー・ディスプレイとは?

 NTTがサービスを開始したナンバー・ディスプレイは、一色紗絵ちゃんが出演したテレビCMからもわかるように、電話番号を相手に通知するサービスだ。簡単に言ってしまえば、ただそれだけのことなのだが、そのサービス内容は意外に豊富で、応用例も多く、これからの電話の使い方を大きく変える可能性を秘めている。

 このサービスは一般的にナンバー・ディスプレイと総称されているが、実はナンバー・ディスプレイナンバー・リクエストナンバー・アナウンスという複数のサービスから構成されている。ただ、いずれのサービスも大前提となっているのが、

利用者が申し出ない限り、電話番号が相手に通知される

という点だ。この点を念頭に置いて、以下の説明を読んでいただきたい。

 まず、ナンバー・ディスプレイとは呼び出してきた相手の電話番号を事前に知ることができるサービスで、月々400円からの使用料が掛かる。また、相手の電話番号を事前に知るためには、ナンバー・ディスプレイに対応した電話機やFAXなどを用意しなければならない。

 このナンバー・ディスプレイの契約をしたときに、オプション機能として選択できるのがナンバー・リクエストだ。ナンバー・リクエストは、相手が電話番号を通知しないで呼び出してきたとき、

「こちらは○○○○の△△△△です。おそれいりますが、あなたの電話番号を通知しておかけ直しください」

といった具合に、音声でアナウンスする機能だ。○○○○の△△△△の部分には電話番号が入る。また、このナンバー・リクエストによる自動応答のアナウンスが流れるとき、呼び出された側の電話機の着信音は鳴らない仕様になっている。

 それぞれのサービスを利用するための月額使用料と工事費は以下の通りだ。

サービス名 料金種別 アナログ回線 INSネット64 INSネット1500
住宅用 事務用 住宅用 事務用
ナンバー・ディスプレイ 月額使用料 400円 1200円 600円 1800円 18000円
工事費 1回線あたり2000円
ナンバー・リクエスト 月額使用料 200円 400円 200円 400円 2000円
工事費 1回線あたり2000円
※ただし、ナンバー・ディスプレイと
同時工事のときは1回線あたり1000円

 ナンバーディスプレイに関係するサービスとして、もうひとつ提供されているのがナンバー・アナウンスだ。これは最後に掛かってきた電話の相手の電話番号を音声でアナウンスしてくれるというものだ。たとえば、留守番電話に着信はあったものの、何もメッセージが残っていないとき、「136」をダイヤルすれば、相手の電話番号がわかるというわけだ。ただし、このサービスを利用できるのはアナログ回線に限られており、ISDN回線や着信用電話、ピンク電話、共同電話などでは利用できない。ちなみに、料金は月々300円、工事費は1回線あたり2000円となっている。また、端末はナンバーディスプレイ対応のものでなくても構わない。

 また、電話番号の通知については、最初にも触れたとおり、利用者が申し出ない限り、通知される。ただ、企業などでは相手に通知したい番号が代表電話番号だったり、その部署の電話番号だったりすることがある。また、ユーザーサポートの窓口などではフリーダイヤルを利用していることもある。そこで、NTTでは利用者の要求に応じて、代表番号などを通知するサービスも実施している。

 これらのサービスの内、ナンバー・ディスプレイとナンバー・リクエストを利用するには、NTTと契約するだけでなく、対応する電話機やFAXなどの端末機器を設置しなければならない。各メーカーからもナンバー・ディスプレイ対応の端末機器を販売されており、電気店などにも対応機器がずらりと並んでいる。ちなみに、既存の電話機を利用するときのために、電話番号を表示するだけのアダプタも販売されている。また、ISDNターミナルアダプタについては、本体の液晶ディスプレイなどに発信者の電話番号を表示するものと、アナログポートに接続したナンバー・ディスプレイ対応の電話機にも表示できるものがある。


ナンバー・ディスプレイの効能と狙い

 基本的なサービス内容がわかったところで、ナンバー・ディスプレイ関連のサービスがどんなときに役立つのか、何を狙っているのかを見てみよう。

 まず、ナンバー・ディスプレイそのものだが、これはNTT自身が公言しているように、基本的には迷惑電話対策を目的としている。電話に出る前に、電話番号が表示されれば、知らない電話番号のときはとりあえず電話に出ないという対処ができる。

 ただ、ナンバー・ディスプレイでは、一時的に通知したくないとき、相手の電話番号の前に「184(イヤヨ)」を付けてダイヤルすると、電話番号が通知されないというサービスも提供している。逆に、常に通知しない契約にしている回線では、相手の電話番号の前に「186」を付ければ、自分の電話番号を通知することもできる。もし、いたずら電話を掛けるとすれば、相手に電話番号を知られたくないので、当然「184」をつけてダイヤルするか、公衆電話から掛けるはずだ。となれば、呼び出される側の端末には電話番号が表示されなかったり、「コウシュウ」などと表示されるので、実際には応答する前に相手が誰なのかを知ることができない。また、キャッチホンなどの割り込み着信については番号が通知されない。つまり、ナンバー・ディスプレイの迷惑電話を撃退できるという効能は、あまり意味をなさないというわけだ。

 そのために、ナンバー・リクエストというサービスがあるのだが、電話番号を通知しない呼び出しをすべて遮断するということは、言わば鎖国状態で過ごすことになる。コミュニケーションをする相手が限られている人なら、それでもいいだろうが、通常は困るはずだ。たとえば、筆者の家には、いろいろな出版社やメーカーから電話が掛かってくる。その呼び出しに対し、「電話番号が通知されないから出ない」「知らない電話番号だから出ない」などという応対をしていると、たちまち仕事がなくなり、干上がってしまう(笑)。たとえば、誰かの紹介で、はじめて電話をしてくる出版社があったとしても、それは事前に電話番号だけでも知らせてもらわないと応答できなくなってしまうわけだ。

 また、最初にも述べたように、電話番号は利用者が申し出ない限り、基本的に通知されるわけだが、実は発信者側が通知したくても通知できないケースがある。公衆電話もその一例だが、それ以外にも通知できないことがあり得るのだ。詳しくは後述しよう。

アレクソン ALEX-TD503α
アレクソン ALEX-TD503α

 また、もうひとつ忘れてはならないのが、電話番号と人名、もしくは社名との連動だ。通常、電話番号を見ただけで、即座に人名や社名を連想できる人は少ないはずだ。おそらく「えーっと、5275だから……。インプレスかな?」程度の反応になるだろう。つまり、電話番号が表示されるからと言って、必ずしも「相手が誰なのかが事前にわかる」ということには結びつかないわけだ。

 ただ、この点に関しては、端末側に機能を搭載することで、ある程度は結びつけられるようになる。たとえば、先月末にアレクソンから発表された『ALEX-TD503α』というISDNターミナルアダプタでは、内部に100件まで登録できる電話帳を用意しておくことにより、掛かってきた電話の発信者番号を自動的に検索し、該当するときはそこに登録されている名前を表示できる機能を備えている。松下電器が発売するPHSデジタルコードレス電話機にも同様の機能が搭載されている。いずれにせよ、端末側のフォローなくして成立しない機能というわけだ。

 ナンバー・アナウンスに関しては、端末側でフォローする方が使いやすくなりそうだ。というのも、ナンバー・アナウンスでアナウンスされる電話番号は、最後の呼び出しをした発信者の電話番号であり、それ以前の電話番号を知ることはできない。留守番電話にメッセージを残してくれない人が居ても、それが最後の呼び出しでなければ、わからないわけだ。しかし、端末側で掛かってきた電話番号のログを取る機能があれば、さかのぼって参照することができる。現に、ALEX-TD503αには発着信履歴を記録する機能があり、ナンバーディスプレイ対応電話機などでも同様の機能を搭載するものがある。



CTI技術への応用

 これらのことを見ると、ナンバー・ディスプレイは迷惑電話対策のために導入されたというにはあまりにも貧弱であることがわかる。では、いったい何を狙ったサービスなのだろうか。

 それは言うまでもなく、CTI技術への応用だ。CTIとは「Computer Telephony Integration」の略で、電話とコンピュータの環境を融合させることにより、より有機的に使う技術のことだ。この点についてはNTTが公開しているナンバー・ディスプレイ関係のページでも解説されているが、利用者の観点からの解説をしてみよう。

 たとえば、あなたがあるパソコンメーカーのユーザーサポートに電話をしたとしよう。サポート窓口の電話回線にはあなたの電話番号が通知され、その情報を元にユーザー登録のデータベースを検索し、パソコンの画面にあなたの情報を表示する。サポート担当が電話に出るときには、あなたの住所や氏名、利用環境などが表示されていて、質問などに答えやすくなるというわけだ。

 あるいは、ピザ屋に出前を頼んだとき、一度登録してしまえば、次回からは電話を掛けるだけで、配達先の住所などをいちいち伝える必要がなくなるわけだ。すでに、いくつかの宅配サービスでは電話番号を言えば、住所や氏名がわかるシステムを採用しているところがあるが、ナンバー・ディスプレイにCTI技術を組み合わせたシステムに移行することを狙っているからだ。また、あるタクシー会社ではお客さんから電話で呼び出されたとき、発信者番号から住所を検索し、GPSで位置を特定。最も近いところに居るタクシーを配車するシステムを確立しているそうだ。これもなかなか賢い応用例と言えるだろう。

 つまり、ナンバー・ディスプレイが最も効力を発揮するのは、迷惑電話対策ではなく、こうしたCTI技術への応用というわけだ。先日、幕張で開催された『NET&COM'98』でもCTI関連製品が数多く出展されており、今後の市場の成長が期待されている。

 こんなことを書くと、「そうかぁ。ウチにはCTIなんて関係ないしなぁ」と考えるかもしれないが、それはちょっと早計過ぎる。前述のALEX TD503αのように、パーソナルCTIマシンとも言える製品が登場しているからだ。特に、端末機器が高機能な上、パソコンとのリンクが容易なISDNターミナルアダプタでは、この傾向が強く出てくるはずだ。

 また、アナログ回線用のナンバー・ディスプレイ対応端末機器についても、現時点で販売されているのは「とりあえず対応しました」的なものが多く、ナンバー・ディスプレイをフル活用しているとは言い難い。たとえば、番号を通知しないときに「184」をダイヤルするが、端末機器にワンタッチで設定できるボタンがあってもいいはずだ。発着信履歴を記録する機能もISDNターミナルアダプタでしか実現できないわけではない。つまり、端末機器の本格的なナンバー・ディスプレイ対応(というより活用)はこれからというわけだ。

(つづく)

 26日/27日は、ナンバーディスプレイについて以下の内容をお届けします(全3回)。
  • 不十分な事前告知がトラブルを招く
  • 利用者の不勉強だけでは済まされない
  • 他の通信事業者との接続
  • ナンバー・ディスプレイの利用価値
(編集部)

[Text by 法林岳之]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp