法林岳之のTelecom Watch
第11回:1997年12月編
'98年の展望
~機器もサービスも、より細やかな使い勝手が求められる~

 昨年末のボーナス商戦は今ひとつ盛り上がりに欠けたが、'98年向けの新製品もいくつか発表された。'98年の展望を踏まえながら、通信関連ニュースを振り返ってみよう。


より使いやすいISDN環境を求めて

 '97年の通信関連ニュースでは『56kbpsモデム』『ISDNターミナルアダプタ』『ダイヤルアップルータ』『データ通信対応PHS』『デジタル携帯電話』などが話題になった。しかし、主役の座ということになると、やはりISDNをおいて他にない。

 '96年は『AtermIT45』(NEC)や『MN128』(NTT-TE東京/ビー・ユー・ジー)に代表されるように、価格が最も重視されていた。ところが、'97年は価格がある程度、落ち着いてきたこともあり、機能や使いやすさに注目が集まった。たとえば、『液晶ディスプレイ』や『アナログポートに接続した電話機からの各種設定』ができる製品などがそうだ。ISDNを導入する多くのユーザーが快適なインターネット環境を求めているため、パソコンから設定できれば十分と考えられていたが、電話という基本的な機能に重要視されたため、こうした機能が充実したわけだ。筆者もこの2つの機能を備えた製品をすべて試用したが、パソコンから設定するときよりも数倍ラクであり、現在のISDNターミナルアダプタに欠かせない機能と見ている。

 では、'98年はどうなるか。その指針となる製品が'97年12月に登場した。まず、12月10日にはオムロンがDSU内蔵で34,800円という低価格を実現した『MT128BII-D』という製品を発表した。しかし、この製品で注目すべき点は価格ではない。この製品には『RVS-COM』というISDNターミナルアダプタ用FAXソフトが添付されており、ISDNターミナルアダプタでのFAX送受信を可能にしている点だ。アナログ回線からISDN回線に移行したとき、大半の通信はISDNターミナルアダプタ経由になるのだが、FAX送受信があるため、どうしてもモデムを捨てることはできなかった。しかし、このソフトを使えば、モデムを利用する必要もなくなり、完全にデジタル化できるというわけだ。

 この『RVS-COM』はドイツのRVS Datentechnik GmbH社が開発したもので、ISDNターミナルアダプタを使ったFAXの送受信、留守番電話、ファイル転送、ソフトウェアモデム、リモートコントロールなどを実現する統合テレフォニーソフトだ。国内ではメガソフトがパッケージの販売権を取得しており、今春にも市販される予定だ。ただ、動作にはCAPIという仕様に準拠したドライバが必要になるため、どんなISDNターミナルアダプタでも動作するというわけではないが、すでに日本語化もされているので、今後、RVS-COM対応を謳うISDNターミナルアダプタも増えそうな気配だ。今年のトレンドのひとつとして、ぜひ注目したい。

注:RVS-COM
※従来のバージョンのRVS-COMではCAPI(Common ISDN API)を使って制御していたが、RVS-COMのソフトファックス機能は、ISDNのオーディオ信号をATコマンドなどによって直接制御するため、CAPIに対応していないISDNターミナルアダプタでも動作する。ちなみに、オムロンのMT128B II-Dはこの拡張ATコマンドに対応した市販初のISDNターミナルアダプタということになる。

 12月6日にはサン電子が2種類のISDNターミナルアダプタを発表している。ひとつは上位機種となる『TS128GA Pro』、もうひとつは従来の『TS128JX/D』の後継となる『TS128JX2/DZ』という製品だ。TS128GA ProはRockwell InternationalとLucent Technologyが提唱する『K56flex』のホストモードを国内ではじめて搭載したISDNターミナルアダプタだ。56kbpsモデムはその特性上、ホスト側はデジタル回線でなければならない。プロバイダなどではアクセスサーバを設置しているが、ISDNターミナルアダプタでも同様のことが実現できるため、以前からISDNターミナルアダプタの56kbpsホストモード搭載を期待していたが、サン電子がいち早く実現したというわけだ。さすがにこれを何台も揃えて、プロバイダを運営するのは不可能だが、PIAFSにも対応していることから、オフィスなどのリモートアクセス用にも適しており、意外に応用範囲の広い製品ではないかと見ている。

 一方のTS128JX2/Dは従来機の機能やスタイルを継承しながら、アナログポートを3つにしているが、注目すべきはパソコンとTS128JX2/DZを最長100mまで離れて配線できる『ESP(Extension Serial Port)』という機能を搭載した点だ。通常、パソコンとISDNターミナルアダプタはRS-232C、もしくはUSBで接続するが、距離的な制限があるため、どうしてもISDNターミナルアダプタをパソコンの近くに設置する必要があった。しかし、実際の利用環境では居間に屋内配線の引き込み口があり、パソコンは書斎などに設置することが多かったため、ISDNを導入しにくいという弱点があった。ESPを使った環境ではTS128JX2/DZとパソコンを電話機などに使っている4芯のモジュラーケーブルで接続できるため、敷居やドアなどがあってもある程度は配線しやすくなるわけだ。

 また、ISDNターミナルアダプタではないが、ソニーはRS-232C接続を無線化するアダプタ『WNS-230』という製品を発表した。こちらはパソコンとISDNターミナルアダプタのRS-232Cポートに接続することで、その間を無線でつないでしまおうというものだ。通信速度も最大230.4kbpsまで追従するため、128kbps接続でも十分効果を発揮する。居間にISDNターミナルアダプタとWNS-230、書斎にパソコンとWNS-230という組み合わせでセッティングすれば、面倒な配線もなくなるというわけだ。ただ、価格的に2台1組で79,800円と高いのが難点だ。しかし、これは無線ユニットが元々高価であるためで、現時点ではしかたないというのが正直な感想だ。

 TS128JX2/DZとWNS-230、そして'97年12月に出荷が開始されたAtermIW60は、いずれもISDN導入時に、部屋のレイアウトに合わせたアレンジができる製品だ。'98年のISDNターミナルアダプタのもうひとつのトレンドは、3LDKや一戸建てといった一般的な環境で、いかにISDNを上手に配線できるかという点だろう。各社の知恵比べを期待したい。

 この他にも、今年トレンドになりそうな機能がいくつかある。たとえば、機能的にはまだ実現していないが、長距離系NCCなどで利用されている回線選択装置、いわゆる「LCR」もそのひとつだ。ISDNターミナルアダプタのアナログポートからの発信は、基本的にアナログ回線と同じ料金体系が採用されているが、長距離通話ということになれば、当然、長距離系NCCが安くなる。これを自動的に選択してくれる機能をISDNターミナルアダプタにも盛り込むわけだ。ただ、関東地区に限っては、東京通信ネットワーク(TT Net)が東京電話という市内通話3分9円という機能を'98年1月から開始したため、LCRそのものの存在意義が危うくなっている。今のところ、東京電話のサービスはアナログ回線に限られているが、年内にもISDN回線でサービスを開始すると言われており、ISDNターミナルアダプタに東京電話対応のLCR機能が盛り込まれる可能性もある。

 いずれにせよ、今年のISDNのキーワードは、「いかに上手に電話サービスを使うか」ということだ。部屋のレイアウト、料金、統合的な電話環境を上手に使いこなすことができる製品の登場を期待したい。

【関連記事】
□オムロン、DSU内蔵で34,800円の低価格TA
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/971210/omron.htm
□サン電子、56kbpsモデム内蔵のホスト用TA
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/971224/suntac.htm
□ソニー、RS-232Cの無線アダプタ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/971201/sony.htm


'98年の展望

 さて、実は12月の通信関連ニュースはこの程度しかない。あとは筆者のCOMDEX/Fall'97通信関連機器レポートくらいだ。そこで、今回は年頭ということもあり、'98年の通信関連の展望を紹介するとしよう。

 まず、製品を見てみよう。ISDNターミナルアダプタと並んで人気が出てきたISDNダイヤルアップルータは、今年もいろいろなメーカーから製品が出てくるだろう。価格は5万円前後が主流になると予測しているが、カギを握っているのは『使いやすさ』『設定しやすさ』という点に尽きる。前回も紹介したが、正直なところ、この点については『MN128-SOHO』(NTT-TE東京/ビー・ユー・ジー)が抜きん出ており、なかなか並ぶ製品が出てこない。ただ、安定度という点に関しては、『RT80i』(ヤマハ)が優れているが、使いやすさやサポート面についてはとても一般ユーザーにお勧めできるものではない。しかし、各社もこうした人気製品を上回るものを企画しているようで、すでに噂はいくつも聞こえている。

 次に、56kbpsモデムだが、先月もお伝えしたように、標準化のメドが立ち、秋には正式勧告というスケジュールになりそうだ。しかし、6月にはWindows 98の発売が控えており、PC97/98デザインガイドで56kbpsモデム(PCMモデム)が条件として挙げられているため、各社は国際標準規格を先取りした製品を早ければ春、遅くとも夏までには投入してくるだろう。また、ノートパソコンが普及していることからもPCカード製品が数多く出てきそうだが、限られたPCカードスロットの資源を有効に活用することからも、本命はLANカードなどの機能を包含したマルチファンクションカードということになりそうだ。

 PHSやデジタル携帯電話では、昨年登場した『GENIO』(東芝)や『ピノキオ』(松下電器産業)のようなPDAの機能を持つ製品、もしくは既存のPDAとの連携を強化した製品がさらに増えることになりそうだ。特に、PHSに関してはここで頑張らなければ、先がないため、端末も含め、かなり強力な製品が登場してくると予想している。個人的には『ドラえホン』のようなユニークな端末、AtermIW60並みに幅広い端末を収容できる親機も発売して欲しいのだが……。

 一方、サービス面では前述の東京電話が台風の目となりそうだ。今のところ、関東地区限定ではあるが、全国各地にある電力系NCCが同様のサービスを検討している。NTTも毎月、定額料金を支払うことで、隣接区域の通話を市内通話と同料金にする『エリアプラス』、料金体系を5分10円にするサービスなどで応戦する構えだ。長距離系NCCも東京電話に対抗する値下げをアナウンスしており、今年は電話料金の価格競争が激化する。短い間隔でもサービスの変更はできるので、これを機にいろいろな割引サービスの検討をぜひお勧めしたい。今年は「電話を賢く使う」がキーワードだ。

 また、NTTでは2月から関東と関西で、xDSLのフィールド実験を行なう。xDSLは既存のアナログ回線上で数Mbpsクラスの通信速度を実現する技術だ。ただ、既存のアナログ回線と違い、伝送できる距離が数kmに限定されているため、ビルや集合住宅で利用されると考えられていた。ところが、全国規模でサービスを展開するNTTがサービスを開始すれば、局内にxDSLモデムを設置できるため、かなり利用価値が高くなる。実際にサービスを行なうかどうかはNTT次第だが、高速なインターネット接続環境を実現できるものとして注目したい。ちなみに、xDSLのフィールド実験の締切りは目前に迫っているので、興味のある人はぜひホームページなどを参照して欲しい(http://www.at-net.ne.jp/RandD/xdsl/)。

[Text by 法林岳之]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp