非同期通信レポート 第25回

「COMDEX/Fall'97」 Telecomレポート Part.4

TEXT:法林岳之


通信関連チップで'98年の動向をつかむ

 COMDEX/Fall'97には本体メーカーや周辺機器メーカーだけでなく、半導体メーカーなども数多く出展している。こうした半導体メーカーの新製品を見ることで、'98年以降の製品のトレンドをある程度推測することができる。ここでは半導体メーカーとその周辺情報を紹介しよう。


RockwellはK56flexをベースに複合機能化

Rockwell International RipTide サンプルボード
Rockwell International
RipTide サンプルボード

 K56flex方式を提唱するRockwell Internationalだが、今回はK56flex対応モデムチップをベースに、他の機能を盛り込んだ複合機能チップを展示していた。ひとつはサウンド機能を内包したRipTide、もうひとつはEthernetコントローラを内包したLANfinityだ。  RipTideはK56flex方式のモデムチップに、WaveStream64及びEndless Waveによるソフトウェアシンセサイザー、アナログ及びデジタルジョイスティックインターフェイスPCI SoundBlasterエミュレータ(特許)、MPU-401インターフェイスAC-3 Decodingなどを搭載したモデム&サウンドチップで、同社はこのチップを搭載したPCIバス用サンプルボードを展示していた。

 特に、要チェックなのはPCI SoundBlasterエミュレータだ。最近、国内でもPCIバス用サウンドカードがいくつか販売されはじめたが、なかにはMS-DOS用ゲームでSoundBlaster互換として利用できないものもある。ところが、このRipTideでは特別な常駐プログラムなしにSoundBlasterエミュレーションを実現している。

Rockwell International LNAfinity サンプルボード
Rockwell International
LNAfinity サンプルボード
Rockwell International PHS用チップ
Rockwell International
PHS用チップ

 一方、LANfinityの方はK56flex方式のモデムチップに、10/100BASE-TのEthernetコントローラを内蔵したモデム&Ethernetコントローラチップで、MAGIC PacketやWake On RIngといった同社独自の機能も搭載している。パワーマネージメントについても配慮されており、PC97のOnNowにも対応できるとしている。主にCardBus PCカードやPCIバスカードに搭載することを狙っているようだ。

 ちなみに、この他にもRockwellはPHS用チップなども展示しており、幅広いニーズへの対応を見せていた。

 担当者の弁によれば、ともに間もなく製品出荷が始まり、早ければ'98年春にもこれらのチップを搭載した製品が市場に出回るだろうとのことだった。従来は複数の機能を実現するのに、複数のチップを搭載したり、処理能力の高いDSPで複雑な処理をしていたが、これらのチップを搭載することにより、コストパフォーマンスが高く、安定した動作が望める製品を作ることができるようになるという。

 PC97/98仕様を謳うパソコンが各社から登場しているが、ISAバスを使わないようにするためにはPCIバス用カードが必要になる。しかし、PCIバスのリソース(本数)も限られているため、必然的に複合機能カードが登場することになる。複数の機能を包含したチップを使えば、複合機能カードも容易に開発できるというわけだ。



MotorolaはK56flex対応チップとソフトウェアモデムを公開

Motorola K56flexモデムチップセット
Motorola
K56flex対応モデムチップセット
Motorola 56kbpsソフトウェアモデム
Motorola
56kbpsソフトウェアモデム

 10月にコンシューマ向けモデム市場からの撤退をアナウンスしたMotorolaだが、モデムやISDNに関わることをやめるわけではない。COMDEX/Fall'97ではRockwell Internationalなどが提唱するK56flex方式を採用したモデムチップセットHSP(Host Signal Processing)ベースのソフトウェアモデムなどを展示していた。

 K56flex対応モデムチップセットは、同社のDSP56303というDSPなどによって構成されており、写真の外付け用の他に、ISAバス内蔵用PCIバス内蔵用などもラインアップしている。

 同社はModemSURFRVoiceSURFRという56kbpsモデムを販売しているが、元々、自社製DSPを使ったPower28.8Premier33.6といったモデムを販売してきた実績があり、各方面で高い評価を得ていた。今回発表されたモデムチップセットはこうした製品群に投入されてきた技術を販売するということになる。

 Motorolaのチップと言うと、PowerPCばかりが注目されているが、通信の世界では非常によく使われており、ISDNターミナルアダプタやISDNダイヤルアップルータでもCPUとして同社製のチップが採用されている。すぐにというわけではないだろうが、'98年はMotorola製チップを搭載したモデムが国内でも販売されるかもしれない。

Motorola CyberSURFR
Motorola CyberSURFR

 一方、HSPベースのソフトウェアモデムは、COMDEXFall'97直後に正式な発表が行なわれている。SM56と名付けられたソフトウェアモデムは、MMX命令に最適化されており、K56flex対応の56kbpsモデムとして販売される。コマンド体系はクラス1のみだが、FAX機能も当然サポートしている。ただし、コンシューマ向けには販売されず、Windows95が動作するパソコン向けのOEM用として供給される。Windows NT4.0でも動作するように開発が進められており、Windows NT4.0プリインストールマシンにも標準で内蔵されることになりそうだ。

 デモを見ている限り、さほどストレスは感じなかったが、コスト的なメリットがどれくらい出てくるかが選択のポイントになるだろう。個人的にはPentium IIを搭載した低価格モデルに搭載されるのではないかと予想している。

 同社はこの他にもケーブルモデムのCyberSURFRをデモで公開していた。こちらもCOMDEX/Fall'97直後に正式な発表が行なわれている。下り方向10Mbps、上り方向768kbpsを実現するモデムだが、今のところ、日本の市場にはあまり関係なさそうだ。ただ、今回の取材で見たケーブルモデムの内、最もデザインに凝っていたのがMotorolaだった。



ソフトウェアモデムは流行るか

 ソフトウェアモデムの話が出たところで、そのあたりの可能性について少し触れておこう。モデムの心臓部にはRockwell InternationalやLucent Technologiesなどが販売するモデムチップセットが採用されている。このモデムチップセットの処理をCPUに置き換えてしまおうというのがソフトウェアモデムだ。

 ソフトウェアに置き換えると言っても、モジュラージャックをつなぐコネクタや制御のためのチップは必要になる。とは言え、モデムチップセットを採用していたときに較べれば、コストダウンが望める上、ソフトウェアを書き換えることで容易に他のプロトコルに対応できるわけだ。その反面、十分なCPUパワーがないと、動作に支障をきたすことになる。

PCtel HSPモデム製品群
PCtel HSPモデム製品群

 前述のMotorolaの他にも、HSP Technologyを開発したPCtelがISAバス用の『PCT489』、PCIバス及びCardBus用の『PCT789』という2つのHSPモデム用チップセットを展示していた。ともにK56flexに対応しており、ITU-T国際標準規格が勧告されたときにアップグレードすることを可能にしている。

 また、ANALOG DEVICESもV.34対応ソフトウェアモデムにサウンド機能を包含したHSPモデムチップセット『AD1821』を'97年6月に発表しており、これを搭載したサンプル品も会場で目にすることができた。ちなみに、このAD1821を搭載したソフトウェアモデムもMMX命令に最適化されている。

 ソフトウェアモデムは国内ではごく一部のメーカーがパッケージ品を販売しているに過ぎないが、数多くのメーカーがソフトウェアモデムのチップセットを供給し始めると、パソコン本体に採用されてくる可能性も高くなる。ひょっとすると、'98年夏の商戦ではソフトウェアモデム搭載のオールインワンパソコンが出てくることになるかもしれない。もちろん、そのためにはWindows98でも動作するようにしなければならないのだが……。


日本と世界の通信インフラストラクチャの違い

 さて、Part.1~4までに分けてお送りしたCOMDEX/Fall'97レポートだったが、最後に全般的な感想を書いておこう。

 最近、グローバル化という単語をよく耳にする。いろいろなものを世界と共通のグローバルなものにすることで、世界の製品と渡り合えるようにしよう、コストダウンを図ろうといったことが語られている。特に通信の世界では耳にする機会が増えている。たしかに、グローバル化によってさまざまなメリットが生まれるかもしれないが、デメリットが出てくることも忘れてはならない。今回の取材はこれを強く感じるものだった。

 まず、率直に言えることは「日本とアメリカの通信インフラストラクチャは違う」という点だ。たとえば、Part.1で紹介した112kbpsモデム67kbpsモデムは、日本で利用する価値はほとんどないだろう。それは言うまでもなく、ISDNに乗り換えた方がより快適だからだ。

 また、ケーブルモデムについてもまだ日本とアメリカではかなり事情が異なる。確かに、ケーブルテレビは日本でも普及し始めているが、まだ地域が限定されており、賃貸マンションなどでは居住者全員、もしくは家主の許諾がなければ、契約できないといった制約もある。それらをクリアした上で、はじめてケーブルモデムが話題として取り上げられるわけだ。アメリカのように大半の地域でケーブルテレビが見られるのとは状況が異なるわけだ。

 無線関連についても同じだ。まず、携帯電話は各国で仕様が違う上、国土の広さも環境も異なるため、自ずと利用方法にも差が出てくる。アメリカでは自動車で移動中に携帯電話で電子メールを受信するのが便利かもしれないが、電車通勤が当たり前の日本ではあまり現実味がない。通信インフラストラクチャ云々以前に、交通のインフラストラクチャが違うわけだ。日本ではむしろPHSをベースにしたコンパクトな無線端末を使い、乗り換えの駅などで電子メールを受け取る方が現実的ではないだろうか。

 とは言え、海外製品がダメと言うつもりは毛頭ない。今回のレポートでも紹介したように、海外にはまだまだ優秀な製品がある。ただ、それをそのまま日本に持ってきても商売にはならないだろうというのが正直な感想だ。特に通信機器に関してはこの傾向がハッキリ出ている。COMDEX/Fall'97で紹介されていた数多くの製品が日本の土壌にマッチした形で登場することを期待したい。

[Text by 法林岳之]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp