■MN128-SOHOはISDNルータの定番になるか?
5月の通信関連のニュースの内、ハードウェアに関する情報はあまり多くなかったが、最も注目を集めたのはNTTテレコムエンジニアリング東京/ビー・ユー・ジーの『MN128-SOHO』の発表だろう。今年に入ってから古河電工のMUCHO-STや富士通のNetVehicle-Iなどの低価格のISDNダイヤルアップルータが相次いで発売されたが、MN128-SOHOは先行する各社の製品に負けない機能を実現している。ISDNダイヤルアップルータがどのようなものかという点については、5月30日にWebに掲載した『古河電工MUCHO-ST試用レポート』を参照していただきたい。
MN128-SOHOが従来の製品と異なるのは、「セットアップのしやすさ」「価格」「豊富な機能と使いやすさ」の3つだ。NTTテレコムエンジニアリング東京/ビー・ユー・ジーのコンビと言えば、一昨年12月にMN128でISDNターミナルアダプタの市場を切り開いたことで知られているが、はたして今回のMN128-SOHOがISDNダイヤルアップルータの市場を切り開くことになるのか。ISDNダイヤルアップルータは、どちらかと言えば、ネットワーク機器を専門にするメーカーの製品が多かったが、コンシューマーの気持ちをよく理解した2社がどれだけ期待に応えられるのか。今後の展開がなかなか興味深い。
詳しい試用レポートについては、製品版が出荷され次第、PC Watchでもお送りする予定だが、現在、筆者が試用中の評価機の中でも今までの製品よりもかなり使いやすいという印象を得ている。一方、気になる出荷状況についてだが、予想通り、予約が集中しているようだ。今のところ、NTTテレコムエンジニアリング東京に予約した人とショップなどで予約した人では、入手時期に若干の差が出そうだ。発表会では「未知の分野の製品なので、どれだけ注文が来るのかわからないが、できるだけ期待に応える」としていたが、当面は品不足が続きそうな気配だ。MN128のときのように、半年待ち、便乗値上げといった問題が起きないことを祈るばかり。ボーナスから購入資金をしっかり確保しておき、市場に製品が流れてくるのをじっくり待つようにしたい。
また、NTTがサービスするOCNの内、128kbps相当の専用線接続が可能なOCNエコノミーのサービス地域が6月から拡大するのを受け、NTTはOCNエコノミー対応ルータを発売した。機能的にはMN128-SOHOの方が一枚上手だが、価格は84,000円とMN128-SOHOよりもやや高めに設定されている。OCNエコノミーは今夏過ぎから利用可能な地域が増える予定になっているため、今後も各社からOCNエコノミー対応製品が発売されることになりそうだ。
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■ISDNターミナルアダプタは嵐の前の静けさ?
一方、ISDNターミナルアダプタはビジネスショーなどがあったにも関わらず、新製品の数はあまり多くなかった。5月12日に発表された沖データの『PCLINK TA322DSU』、MN128-SOHOと同時に発表された『MN128V3』、5月16日に発表されたNECの『ComstarzDSU A2』、5月30日に発表されたNECの『AtermIT25DSU』の4機種のみだ。しかし、内容的にはいずれ劣らぬ魅力を持っており、なかなか期待できる製品と言えそうだ。
沖データのPCLINK TAシリーズと言えば、国内のISDNターミナルアダプタ市場ではアレクソン(旧三双電機)と並んで、個人ユーザーにも人気の高かったシリーズだ。しかし、昨年からのISDNブームには今ひとつ乗り遅れてしまい、以前ほどの強さは見られなかった。今回発表されたPCLINK TA322DSUは、先行する各社の製品をよく研究しており、MN128やAtermITシリーズなどと並ぶスペックを実現している。機能的にもまったく不満はない。ただ、この時期に発売する製品としては今ひとつパンチに欠ける気もしなくはない。
MN128V3は従来のMN128で培われた機能を受け継ぎながら、懸案だった停電モードへの対応を済ませ、完成度が高められている。筐体はMN128-SOHOと共通のものに改められ、DSUも本体に内蔵する設計になった。ただ、従来製品に対して継続してサポートされるのかどうかがハッキリしない。
AtermIT25DSUは昨年販売されていたAtermIT45DSUとよく似た構成だが、アナログポートの機能が充実している点が大きく異なる。価格も標準小売価格34,800円(実売では27~8,000円程度)と他を圧倒する安さとなっている。アナログ回線からの移行も工事費を含めて3万円以内でラクに収まる。デジタル部分は64kbps同期通信モードとV.110/57.6kbps非同期通信モードのみだが、MP/128kbps同期通信対応プロバイダが少ない現状を考え、最も現実的な機能を優先した構成を選んだようだ。
4つの新製品の中で異色なのは、Comstartz DSU A2だろう。DSU内蔵ターミナルアダプタだが、アナログポートしか装備しておらず、あとはS/T点端子で対処するという構成になっている。マンションなどで居間にローゼット(屋内配線の引き込み口)があるとき、Comstartz DSU A2を設置し、アナログポートに電話機とFAXを接続。パソコンのある部屋にはS/T点端子からケーブルを伸ばし、他のISDNターミナルアダプタ接続するといった使い方ができるわけだ。家庭内にISDN化するときの起点になる製品ということだ。これも現実的なニーズをよく考えた製品と言えるだろう。
機能的にはPCLINK TA322DSUでインテリジェントBODが搭載されたくらいで、今ひとつ目新しさに欠けるが、いずれもこれからISDN回線に移行しようとする人たちのニーズを的確につかんでいる。とりあえず、ハイエンドを狙わないのであれば、この4製品は個人的にも安心してお勧めできると考えている。こうした堅実な製品が数多く出てくることで、もっとISDNが多くの人に利用されるようになるだろう。
とは言うものの、ボーナスを前にして、これしか製品がないというのはあり得ない。おそらく6月後半には、各社からもっと魅力的な製品が登場してくるに違いない。嵐の前の静けさといったところだろうか……。
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□沖データ、MP、BOD対応でDSU内蔵の外付けISDNターミナルアダプタを発売
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■意外に動きの少ない56kbpsモデム
ISDNターミナルアダプタ以上に動きが少ないのが56kbpsモデムだ。5月にはモトローラの『ModemSURFR 56K/ISA』、マイクロ総合研究所の『MR560XL』、NECの『COMSTARZ MULTI 560』が発表された。いずれもK56flex対応製品だ。
5月はK56flex対応製品がもっと多く発表されるだろうと予想していたのだが、プロバイダの対応が遅れたため、その他のメーカーは大きな動きは見せなかった。では、なぜプロバイダ側の対応が遅れているのだろうか。たしかに、プロバイダもPIAFS対応に続いて、新たな設備投資をするのはキツいというのもある。しかし、実はそれ以上に、投資したくてもモノがないというウラがある。国内のプロバイダで最も多く利用されているアセンドコミュニケーションズのMAXシリーズ用の56kbpsモデムモジュールがなかなか正式に出荷されないため、プロバイダはアナウンスしたくてもできないのだ。今まで取材してきた範囲で予想すると、プロバイダがK56flex対応アクセスポイントを設置し、本格的にサービスが始まるのは8月以降にずれ込みそうな気配だ。そのタイミングに合わせ、各社から待機中のK56flex対応の新製品が出てくると予想している。
さて、今回発表された3製品についても少し触れておこう。この3製品の内、注目なのはマイクロ総合研究所のMR560XLだ。ご存じのように、56kbpsモデムの規格はK56flexの他に、U.S.Roboticsなどが推進するx2 Technologyが存在するが、まだどちらの規格が標準的になるのかはわからない。アメリカのEIA(米国電子工業会)で今秋にも北米向け規格が標準化され、来年にはITU-T(国際電気通信連合電気通信標準化部門)で国際標準規格が勧告される予定だが、その結果如何によってはまたモデムを買い直さなければならない可能性もあるわけだ。
ところが、マイクロ総合研究所ではITU-Tでの国際標準規格が勧告されたとき、MR560XLを有償ながらも国際標準規格対応にアップグレードできることを保証しているのだ。これが単なる宣伝文句ではないことはその構造を見るとわかる。ファームウェアをフラッシュROMに格納するのは当然だが、モデムチップは書き換え可能なダウンローダブルタイプを採用。その上、モデムチップはPLCCソケットに装着し、容易に交換できるような設計となっている。つまり、万全の対策をした上で、アップグレードを保証しているわけだ。先行きが不透明な56kbpsモデムの現状を考えれば、今後はこのスタイルの製品が増えてくることになりそうだ。もし、自分が契約するプロバイダがK56flexに対応し、対応製品を購入することになったら、こうしたメーカーの姿勢もしっかりチェックするようにしたい。
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□日本電気、K56flex方式に対応した56kbpsモデムを発売
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□【法林岳之の非同期通信レポート 第15回】「56Kbpsモデムの実力やいかに?」
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■データ通信用PHSの販売価格はどうなるのか
4月からのデータ通信サービス開始を受け、一気に盛り上がったPHS。データ通信対応端末が入手できない、データ通信カードが出荷されないといった話もあるが、とりあえず5月は冷静さを取り戻している。
とは言え、5月はビジネスショーでいくつか新しい製品が展示され、早いものはすでにメーカーから発表されている。なかでも注目したいのが三菱電機のαDATA32対応の無線モデムPCカードだ。これはPCカードにPHSの機能を包含したもので、主にデータ通信でのみ利用するように設計されている。付属のイヤホンマイクと取り付ければ、電話としても利用することも可能だ。製品出荷は7月だが、PHSの利用をデータ通信中心に考えているユーザーには魅力的な製品だ。
ただ、ここで気になるのが販売価格だ。三菱電機ではこれをオープンプライスとしているが、店頭価格がいくら程度になるのかが興味深い。PHSはつい最近の行政指導のニュースがあったように、異常なまでの乱売合戦が繰り広げられており、新規契約であれば、データ通信対応端末も1万円以下で購入できる。
これはPHS事業者がインセンティブと呼ばれるバックマージンを支払っているためだが、同じシステムがデータ通信用PHSカードやGenioのようなPHS内蔵PDAでも適用するようになると、他のPHSと同じように「値段はあって無きが如し」という状態になり兼ねない。特に、今回の三菱電機の製品などは非常にシンプルな製品であるため、乱売に巻き込まれる可能性は十分ある。ただ、当面はノートパソコンなどとセットで販売されるケースが多くなるだろう。でも、いつか「PHS内蔵PDAが1万円!!」なんていうことが起きそうな気もする。このままでいいのだろうか……。
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□三菱電機、PHS電話機能を内蔵したαDATA32対応の無線モデムPCカードを発売
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[Text by 法林岳之]