後藤弘茂のWeekly海外ニュース


サブ1,000ドルPC戦争がますます激化
~米国で売れ筋のPC価格が地滑り下落~

●PCの売れ筋価格帯が500ドル近くスライドする?

 今、PCを買おうと思っているのなら、ちょっと待った方がいい。というのは、デスクトップPCの価格が、ここ数年で最大の変動期に入っているからだ。少なくとも米国では、デスクトップPC価格は大きく下落しつつある。ちょっと前まで米国の小売り市場でのPCの売れ筋、つまりボリュームゾーンは1,500ドル~2,500ドルだった。ところが、今年前半でそれはずるずると下がっており、この夏には1,000ドル~2,000ドルへと、500ドルもスライドしそうなのだ。

 たとえば、米Compaq Computer社が今月から来月にかけて投入するホーム向けデスクトップ「Presario」の新シリーズの価格を見てみよう。主力のPresario 4500シリーズのローエンドモデルは、Pentium 200MHz、16MBのSDRAM、2.1GBのHDD、16倍速CD-ROMドライブ、33.6Kbpsモデム、3Dグラフィックスアクセラレータを搭載して希望小売価格が999ドル! さらにすごいのは、ローコストシリーズの「Presario 2200」で、これになると米Cyrix社のPentium相当MPU「MediaGX」180MHz、16MB DRAM、1.6GB HDD、8倍速CD-ROMドライブ、33.6Kbpsモデムの構成で799ドルだ!! また、MMX Pentium200MHz搭載モデルは1.499ドル、Pentium II 233MHz搭載のハイエンドモデルは2,699ドルとなっている。つまり、Compaqのラインナップは、ローエンドモデルが1,000ドル以下、エコノミータイプが1,000ドル~1,500ドル、ミッドレンジが1,500ドル~2,000ドル、ハイエンドが2,500ドル前後という構成になるわけだ。

 また、Compaqはホーム向けだけではなく、ビジネス向けデスクトップ「Deskpro」シリーズでも価格を引き下げた新モデルを発表した。Deskpro 2000のエントリモデルは、やはり1,000ドルを切る価格で、Pentium 166MHz、16MB DRAM、1.2 Gbytes HDDを搭載する。もはやトップメーカーのCompaqのビジネス機ですら、ローエンドは1,000ドルを切るのが当たり前なのだ。このCompaqの動きに刺激され、米Hewlett-Packard社なども価格引き下げを始めた。おそらく、Compaqの価格が、'97年中盤からのデスクトップ価格のスタンダードになるだろう。

●サブ1,000ドルPCは、799ドルの戦いへと

 米国で、この急激なPC価格の地滑りが起き始めたきっかけは、今年前半のサブ1,000ドルPC(1,000ドル以下PC)の成功だった。昨年後半から今年頭にかけて、PCメーカー各社が相次いでサブ1,000ドルPCを投入、しかも、それが、市場で善戦をしたのだ。ある市場調査会社の調査によると、大手小売店でのサブ1,000ドルPCのシェアは、急拡大、ピークの4月には、なんとの30%近くを占めるに至ったという。それこそ、飛ぶように売れていたらしい。しかも、それに引きずられるカタチで、1,000~1,500ドルクラスも性能を上げ、お買い得度を向上させた結果、PC全体の価格が下がり始めたというわけだ。

 サブ1,000ドルPCが成功したのは、とくに、コンシューマ市場での2強の米PackardBell社(Packard Bell NEC傘下)とCompaqが、本格的にサブ1,000ドルPCを売り出したのが大きかった。実際、サブ1,000ドルPCには10社近くが参入したが、実際はCompaqとPackard Bellの一騎打ちだったようだ。最初のCompaqのサブ1,000ドルPCはモニタなしで999ドルだったのに対し、Packard Bellはモニタ込みで999ドル。というわけで、Compaqも成功はしたものの、Packard Bellの方がもっと伸びた。そこで、今回、CompaqはPentium 180MHz相当の性能でしかもモニタ込みで999ドルと仕切なおした。それだけ、Compaqはこの市場を重視しているわけで、この夏以降はますますサブ1,000ドル戦争が暑くなりそうだ。

 こうしてホームPCの価格が下がると、中身はほとんど変わらないビジネスPCも価格を引き下げないわけにはいかない。さらに、そこへ1,000ドル前後が主流になると見られるNet PCも登場する。Net PCが1,000ドルでできるのに、ほとんど変わらない通常のデスクトップが高いというのは許されない。というわけで、ホームPCの価格下落とNet PCの登場の影響を受けて、ビジネスPCも1サイクル遅れて価格が下がり始めた。

 このコラムでは、昨年12月にこのコラムで「1,000ドルパソコンの時代が来る!? 元Compaqの幹部らが999ドルのパソコンを発売」と題して、低価格PCを実現するデバイスやNet PCの登場の影響で、エントリーレベルのPCの価格が1,000ドルになる時代が来ると予想した。その予想は、ほぼ的中したようだ。

●IntelのMPU半額バーゲンがその裏に

 しかし、この夏、PC価格がさらに下がる背景には、もうひとつ大きな理由がある。それは米Intel社によるMPU価格の大幅カットだ。Intelは、8月にMPUの大幅価格カットを行うことを6月にPCメーカーに通達したと言われている。米国のニュースサイトなどの報道によると、MMX Pentium 200MHzが240ドル程度と約50%のプライスカットになるほか、Pentium 200MHzも250ドル程度から120ドル程度に、MMX Pentium 166MHzも270ドル程度から140ドル程度へと劇的に下がるらしい。ほとんど半額セールに近く、もちろんIntelとしては異例の大バーゲンだ。このMPU価格を見れば、Compaqの今回の挑戦的な価格体系も不自然ではないことがわかる。通常、MPUは価格が400ドル台になるとボリュームゾーンのPCに搭載されるようになり、200ドルくらいになると1,500ドル近辺のローコスト版に、130ドル以下になると1,000ドル前後のローエンドモデルに載せられるようになる。当然のことだが、Compaqの価格は、IntelのMPU価格とぴったり一致している。

 では、Intelが、わざわざ利益を捨てるような価格引き下げを行うのはなぜか?じつは、Intelがこの通達を行う前の週には、Cyrixが新MMX MPU「6x86MX」をIntelの同クラスのMPUの半額で発売している。Cyrixは、最初から明確に、6x86MXで1,500ドル以下のPCをターゲットにすると宣言した。しかも、ローエンドでは、MediaGX搭載のPresario 2000シリーズが好調で、さらにAMDもIntelより同性能で安いことを売りに迫っている。この状況で、Intelとしては、たとえ利益を減らしても、絶対に市場シェアは落とせないと判断したのだろう。つまりMPU業界の競争が激しくなったおかげで、MPU価格が下がったというわけだ。

●ユーザーは、もうPCに性能を求めなくなった?

 また、これはIntelにしても消費者の低価格指向を無視できなくなったということを意味している。これまでPCは、性能はアップしても売れ筋マシンの価格は変わらないというパターンで来ていた。より高機能なソフトやハードを提示、ユーザーに欲求を産みだし、つねにPC性能に対してハングリーな状態にさせていた。ところが、今回はその流れが変わった。今年に入り、PCの平均売価も、ずるずると下がっているというのだ。市場調査会社Computer Intelligence InfoCorp (CII)が、そういう調査結果を出している。

 これは、PCの性能がある一定レベルに達して、その結果、ユーザーがそのラインをクリアする製品のなかで、より低価格なものを求めるように購買スタイルが変わったことを意味していると思われる。Windows 95にOfficeアプリ、インターネットツール、あとは若干のエンターテイメントソフトというなら、Pentium 133MHz以上で、16MBDRAM、1GB HDD、CD-ROMドライブ、モデム、グラフィックスアクセラレータがあればコト足りてしまう。大半のユーザーは、それ以上の性能を求める理由がない。PCの低価格化は、こうしたユーザーの低価格指向を表しているのではないだろうか。

 ユーザーの低価格指向が強くなったことは、直販で低価格攻勢をかけてきた米DellComputer社や米Gateway 2000社といった直販メーカーの急成長にも現れている。そこで、今回、CompaqはDeskProを低価格化すると同時に、DeskProを「Build-to-Order」の注文販売で提供することを発表した。従来のように、リセラーが流通在庫を抱えてというCompaqの旧来の流通だと、もうこれ以上の低コスト化が図りにくい。そこで、Compaqは、流通構造も変えて、DellやGatewayに対抗する低価格化を図ろうとしているわけだ。

 さて、米国で吹き荒れるPC低価格化の嵐だが、日本にも影響を与える可能性は高い。それは、まずMPU価格というもっとも金のかかる部材の価格下落が背景にあるからだ。少なくとも米国系メーカーは夏からは価格を引き下げて来るだろうし、日本メーカーも最低限、MPU価格の下落に見合うだけのプライスカットはするだろう。

 問題は、米国のように、ドラスティックなラインナップ再編をやるかどうかだが、それはおそらくないだろう。米国ではサブ1,000ドルPCが一気に火をつけたが、米国ほど価格にシビアでない日本では同じトレンドにはならない可能性が高い。また、PCメーカー各社は、Memphisさえ出れば、再びPCに性能が求められるようになると考えているフシがある。Memphisさえ出れば、USBやDVDなどで差別化したモデルを投入して盛り返せるから、ここで不用意に低価格競争に入るべきではないと考えている可能性は高い。では、今年の年末商戦に間に合うようにMemphisが出ないとしたら? そうなると、ちょっと話は違ってくるかも知れない。

□参考記事
【'96/12/2】「1,000ドルパソコンの時代が来る!? 元Compaqの幹部らが999ドルのパソコンを発売」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/961202/kaigai01.htm
□Computer Intelligence InfoCorp (CII)の調査結果
http://www.ci.zd.com/update/0505.html

('97/7/17)

[Reported by 後藤 弘茂]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp