Memphisの11月1日出荷説でMicrosoft内部に混乱?
●Memphisの出荷は11月1日?
コトの起こりは、米Microsoft社がMemphisのβ1版の発表に合わせ、同社と提携するソリューションプロバイダに送ったレターだったという。「Memphis ship date is a moving target」(InfoWorld,7/15)によると、同社はそのメールの中で、Memphisのスケジュールについて説明したそうだ。それは、β2は7月23日(なんと今週だ)、リリースキャンディデイト1が8月29日、最終的にフィックスしたゴールデンマスターが10月15日、そして、製品の出荷が11月1日というものだ。じつは、このニュースは先々週にComputer Reseller Newsなども伝えており、ソースを考えると確実性の高い情報だった。先週、それと矛盾する記事が登場するまでは。
NEWS.COMが先週掲載した「Microsoft confused over Memphis」(NEWS.COM,7/15)では、Microsoftの開発担当者のコメントで、このスケジュールが否定されている。MicrosoftのWindowsグループプロダクトマネージャのアダム・テイラー氏は、11月1日出荷というスケジュールについて「私は言っていない」と否定。MicrosoftとしてはMemphisを年内に出荷できるものと希望しているが、98年第1四半期にずれ込むかも知れないと語っている。確かに、現在、Memphisチームはがむしゃらに開発ペースを上げている。だが、それにしても11月1日というのは、かなり苦しい気がする。後者の記事の方が、Microsoft自身のレターより、正確なのではないだろうか。
●今週、MicrosoftはWindows戦略をアップデイト
さて、Memphisの最後の追い込みで忙しいMicrosoftだが、その次の戦略も急ピッチで進めている。今週は「Windows Platform Briefing」というイベントをシアトルで開催、次世代OSとアプリケーション環境などについての概要を明かすらしい。「MS Wants To Make A Simple OS」(TechWire,7/21)がその内容の一部を伝えている。それによると、現在のMicrosoft Transaction Server (MTS)より発展した新しいtransactional programming modelなどが語られるらしい。その最初の製品は、IIS 4.0に組み込まれるMTS 2.0になるそうだ。どうやらWebサーバーと連携したトランザクション処理が、今後の重要な争点になりそうだ。
●Microsoftは89%の純利益アップで株価が急落
ところで、Microsoftは先週、今年4~6月期の決算を発表した。その内容は純利益が約10億6000万ドルで前年同期比89%増。文句なしの数字だ。ところが、発表直後からMicrosoft株は急落。「Microsoft Leads the Way As Technology Stocks Slide」(The Wall Street Journal,7/18、有料)によると先週金曜日には9ドルも下落したという。その理由は、ウォールストリートの一部では、Microsoftの純利益がもっと高いという予想があったためというからたまらない。期待と幻想が膨らみすぎるのも考えモノ。
こういう騒ぎを見ていると、「Microsoft continues to warn of slower revenue growth」(Computerworld,7/18)のように、Microsoftの幹部が業績の発表の度に、今後は低成長になると警告する理由もわかるような気がする。熱を冷まさないと、決算の度に株価がジェットコースターのように上下してしまうというわけだ。
また、「Microsoft sales aren't as giant as its image」(Seattle Times,7/16)は、Microsoftという会社は株価市場でのバリューは1,650億ドルもあるが、実際の売上高は年間114億ドルに過ぎない。これは、他の企業と比べると異常に大きなギャップだと指摘している。それだけ、Microsoftのマーケットバリューというのは膨れ上がっているわけだ。風船は、破裂する時が怖いが、Microsoftのマーケットバリューはどうだろう。
●IntelがPentiumの製造を終了する
話は変わるが、米Intel社はいよいよクラシックPentium(非MMX Pentium)の製造を終了するらしい。「Intel drops Pentium production in shift to MMX」(InfoWorld,7/17)によると、Intel幹部が先週火曜日に、同社がPentiumの"wafer starts"を止めたと語ったという。これは当初の予定より数ヶ月早く、MMX以降をIntelがますます加速しようとするサインだという。
●IntelはMPU価格引き下げで10億ドルを逃す
Intelは、またこの8月からMPUの大幅値下げも行う。このニュースはすでにこのコーナーでも何度か伝えたが、MMX PentiumやPentiumの一部では半額になる大バーゲンだ。「Intel to slash Pentium II 300MHz by more than half on Aug. 1」(Computer Retail Week,7/15)によると、Pentium II 300MHzも半額以上のプライスカットになるらしい。
Intelのこのプライスカットは、Intelが当初予定していたものよりもずっと大幅だと伝えられている。「Study: Intel Price Cuts To Erode $1B In Profit」(TechWire,7/19)は、それによって、Intelが今後1年間に失う純利益は10億ドル近くに上るという、アナリストのレポートを伝えている。Intelがこれだけの出血をしてまで低価格攻勢に出たのはなぜか? もちろん、業界の見方はAMDとCyrixにプレッシャーをかけるためと一致している。
●米国ディジタルTVで新たな進展
このコーナーでは、ディジタルTVを巡るPC業界と放送業界の対立に関する記事を何回か取り上げてきたが、Electronic Engineering Timesが、その後の進展をレポートしている。背景から簡単に説明すると、来年から始まる米国地上波ディジタルTV放送で、Microsoftなどコンピュータ業界はコンピュータ寄りのフォーマットを提案したが、放送業界の多くは別なフォーマットを支持、両者の間でにらみ合いが続いている。しかし、「PC camp blinks in standoff over HDTV formats」(Electronic Engineering Times,7/21)によると、先週、コンピュータ業界側のIntelが、放送業界側に歩み寄りを見せたという。放送業界の主張する1,080ラインインタレース表示フォーマットを認めて、PCではそれをダウンコンバートするカードにより対応するという意見を、Intelの上級副社長が語ったと言うのだ。この提案が、コンピュータ業界の統一見解なら、話は急速に進展し始める可能性がある。この記事ではほかに、米国の連邦通信委員会(FCC)のチェアマンの傑作なコメントもあった。この人物は、もし、PC業界が放送業者のデジタル化に資金援助を行うなら、PC業界側の提案が支持を集めて通るだろうと言っているのだ。FCCとしては、ディジタル化を促進でネックとなる設備投資に、リッチなPC業界の力をうまく利用したいということかな。
【Add】●「NetPCは死んだ」とHP幹部が発言?
昨日のニュースサイトWatchで、うっかり、重大なスクープ記事を落としてしまった。というわけで、今日はニュースサイトWatchオマケ編で、1ネタだけ紹介したい。
「HP and Compaq Executives Cast Gloom on NetPC's Future」(PC World,7/17)によると、Hewlett-Packardの副社長がパリで、「NetPCは死んだ」「NetPCにはそれほど期待をしていない」と発言したという。NetPCはPC管理というアイデアを推進するマーケティングツールとしては重要だが、実際の商品としてはあまり有望と思っていないそうだ。また、この記事では、Compaq Computerのヨーロッパでのマネージャにもインタビュー、Compaqもデスクトップ市場でNetPCは5%以下にとどまるだろうという見通しを持っていると報じている。NetPCが成功しないと見る理由を、この記事では企業の導入担当者がコスト面でNetPCに魅力を感じていないことが最大のポイントとしている。
もちろん、これは両社の最上級幹部の公式な発言を取り上げた記事ではないし、ましてや両社の方針として語られたものではない。また、複数のソースから確認された記事でもない。にも関わらず、この記事は注目に値する。というのは、まずHPとCompaqというのは、Microsoft/IntelのNetPC策定に関与し、この戦略を推進する中核企業だからだ。そのHPとCompaqの中に、NetPCを疑問視する声が多いのなら、NetPCの戦略自体がぐらついてしまうかも知れない。今のところ、他のPCメーカーはNetPC構想に乗ってはいるものの、熱意はまだそれほど鮮明ではないからだ。つまり、これがHPとCompaqだというのが大きいわけだ。実際、IDGでもこの記事をかなり重要だと見たらしく、同じ記事がPC Worldだけでなく、InfoWorldやComputerworldにも掲載されている。
しかし、だからといって、両社がNC (Network Computer)に走るとか、PCの管理コスト削減の必要がないと見なしている、と報じられているわけではない。HPの副社長はWindowsターミナルをバックアップするとし、CompaqのマネージャはNetPCの考え方と技術をデスクトップ製品全体に提供するとしている。いずれも、Microsoftの戦略とリンクするが、NetPCには重点を置かないと言っているわけだ。さて、NetPCの行方はどうなるのか。
('97/7/22 23に記事追加)
[Reported by 後藤 弘茂]