|
電気街からPC街へと変貌した秋葉原は、さらに新しい時代を迎えようとしています。全5回の予定で、秋葉原の“今”をレポートします。毎週月曜日に掲載予定。(編集部)
◆閉店? リニューアル?
強調される「撤退」の文字。その意味とは……? |
JR秋葉原駅の駅ビルである「アキハバラデパート」は、12月31日で閉店、撤退すると発表した。店内には、閉店セールを告知するチラシが数多くかかっている。
だが、今後の同社の計画を見ると、どうも閉店、撤退とは違う感じであることがわかる。
1階の飲食店関係はそのままに、2階、3階を12月31日で閉店する。その後、2階店舗は3月に一部オープン、残りの部分と3階部分を3月18日にオープンしてグランドオープンとなる。
グランドオープン後も、アキハバラデパートの名前はそのまま使用、3階フロアだけ「アキハバラデパート」に「フジヤマ」という冠をつけて、コンセプトショップとして店舗を運営することになる。
つまり、リニューアルというのが、言葉としては適切なのだろう。
しかし、同社では、あえて閉店、撤退という言葉を使った。
アキハバラデパート営業企画部門・山岸克次課長代理は、次のように話す。
「経営陣のなかでは、50年間続けてきたものを、初めて大きく変更するということに対する強い思い入れがあった。だからこそ、リニューアルではなく、一度閉店、撤退するという意味を強く出したかったようだ」。
これまでにも、何度となく店舗内のリニューアルを続けてきた同社が、50年目にして、初の大幅なリニューアルに臨む--これを、あえて「撤退」、「閉店」という言葉で表したかったという意識が強く伝わってきた。
◆「撤退」の理由は客層の変化
アキハバラデパート外壁に大きく貼られた横断幕 |
山岸課長代理は、「秋葉原の客層の変化」をあげる。
「もともと秋葉原の客層は、お父さんが子供を連れてパーツやパソコンを買いにくる、あるいは家族連れで家電製品を買いにくるという街だった。つまり、お父さん、お母さんといった年齢層の顧客が中心だった。アキハバラデパートの店づくりも、電気街の帰りに、ファミリーでフラっと寄ったり、40歳代以上の男性が同じように帰り際に寄っていける店づくりとしていた」
紳士服売り場や文具売り場、輸入食品売り場なども、そうした顧客層をターゲットにしていた。紳士服では、3つ口ボタンではなく、2つ口ボタンタイプを最後まで取り扱いの中心としていたのも、高年齢層がターゲットであることの証だ。アキハバラデパート内に昭和30年代にオープンした100円均一ショップも、ファミリー層を狙うという背景から登場した店舗だったといえる。
「だが、ここ数年は、20歳代前後の若い人たちが急速に増えた。その変化に伴って、アキハバラデパート自体も変化しなければならなくなってきた」
山岸課長代理によれば、JR秋葉原駅の乗降客数は、まったく減っていないという。秋葉原電気街を訪れる客数も同様だという。だが、その客層が、ここ数年で大きく変化していると分析しているのである。つまり、今回の「撤退」は、その客層の変化にあわせたものなのだ。
◆ターゲットは「アキバ系消費者」
アキハバラデパートでは、「アキバ系SC(ショッピングセンター)」への転換を標榜している。ここでターゲットとしているのは、30歳代を中心とした顧客層だ。
同社では、具体的なターゲットを3つに分類して提示している。
1つは、23歳コンピュータプログラマー。小学生のときにスーパーファミコンにはまり、目が悪くなった経験がある。趣味はデジカメ、毎日1時間以上ネットサーフィンをする、といったように仕事にも趣味にもコンピュータがあるという人。
2つめは30歳、IT関連関連企業営業マン。大学生の時、マジック・ザ・ギャザリングにはまり、ドラクエとFFシリーズはすべてクリア、古本屋でほしい漫画があると全巻まとめ買いする、というゲーム好きがそのまま大人になった人。
3つめは、37歳メーカー技術研究職。中学生の時、ゲームセンターに通い、機動戦士ガンダムにはまっていた。いまでも、毎週、少年ジャンプと少年マガジンは購入、秋葉原に詳しいという、子供の頃から秋葉原に通っていたようなユーザー。
これらのユーザー層を「アキバ系消費者」と位置づけ、新たな店の主要ターゲットとしているのだ。
これまでのアキハバラデパートの客層は、いわば45歳を中心に、前後10歳程度をターゲットとした店づくりだった。それを15歳程度も、若返らそうとしている。
いわば、それが秋葉原の街を訪れる顧客層の変化そのものを指しているといえるだろう。
◆3Fにはアニメ、ゲーム系ショップを
現在は紳士服売り場などが置かれている3F。3月のグランドオープン以降大きく様変わりする |
大きく変化するのは3階である。同社では、この3階の取り組みについては、「フジヤマプロジェクト」と名付け、オープン後も「アキバラデパート フジヤマ」という名前を使用する。
ここには、キャラクターグッズ、ホビーグッズ、ゲーム、AVソフト、コミックなどの売り場を設ける予定だ。さらに、フジヤマプロジェクトでは、ネットとの連動も模索することになるという。
ラジオ会館をはじめとするフィギュア系ショップ、アニメ系ショップとの競合を指摘する声もあるが、「駅の玄関口という位置づけから、取り扱い製品についてはあまり深堀りはしない。薄く広くの展示を心がける」と、ディープな世界とは異なるバランスをとった店舗構成となりそうだ。
ところで、なぜ、フジヤマなのだろうか。
「フジヤマという名前は、実はなんでも良かったんですよ。でも、訪れた外国人にも、すぐに覚えてもらえるような名前がいいなぁと」
海外まで商取引が可能となるネットビジネスへの展開までを視野に入れているという背景も、このプロジェクトが外国人に覚えてもらいやすいフジヤマという名称に決定した理由の1つともいえそうだ。
◆アキハバラデパートは顧客に合わせて変化する
グランドオープン以降のアキハバラデパートは、「秋葉原のインフォメーション的な役割を果たしたい」と山岸課長代理は話す。
それにはいくつかの意味がありそうだ。
1つには、ゲームやキャラクターグッズなどの発売をここで告知できるという意味でのインフォメーションだ。「秋葉原の駅ビルという性格上、ここにゲームの発売日に並んでもらうというわけにはいかない。しかも、専門店ほど深堀りした取り組みも行なえない。ただし、アキハバラテパートで、そうした商品情報、発売情報が発信できれば、他の店舗ともお互いに相乗効果が生まれるはず」
そして、秋葉原の変化が感じられる店舗であるという意味でのインフォメーションの役割もありそうだ。
今後、秋葉原地区には、ヨドバシカメラの出店や、都が計画している再開発計画によって、ITセンターや大規模住居などができる可能性もある。それに合わせて、アキハバラデパートも変化していくことになるという。だからこそ、アキハバラデパートが客層の変化、街の変化が感じられる場所になるといえるかもしれない。
「家族そのものが増えれば、女性向けの商品展示スペースが増える可能性だってあるだろう」というわけだ。
実は、アキハバラデパートの各店舗は、テナント出店のように見えるが、そのほとんどが自社運営なのである。だからこそ、統一したコンセプトの上で、デパート全体を変えていくことができるのである。
「狙いは秋葉原版ビームスですよ」と山岸課長代理は笑う。
ビームスとは、渋谷、原宿をはじめ全国にあるセレクトショップ。「いま」を先取りすることでも有名だ。もちろん、アキハバラデパートが展示、販売するものは、ビームスとは大きく異なる。
だが、来年3月、秋葉原の「いま」を反映した店が、秋葉原の入り口に誕生することは間違いなさそうだ。
(2001年12月3日)
[Reported by 大河原 克行]