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●bitPlayとはなんぞや?
「DMT-PR1(bitPlay)」 |
プレスリリースによるとDMT-PR1は「1台でCD、MD、FM放送などの音楽や、テレビやDVDビデオの映像に加え、HDDやメモリースティックを利用して音楽/映像を楽しめる」ということになっている。これだけを見る限り、DMT-PR1はHDDを内蔵したAV機器のようだ。実際、これは間違っていないのだが、気になるのは「主な仕様」の項に、CPU Celeron 800MHz、128MBメモリ、OS Microsoft Windows 2000 Professionalといった、見慣れた文字が並ぶところだ。
しかし、ソニーのPCといえば、VAIOシリーズであることは誰もが知っているところ。GigaPocketを搭載し映像系を強化したVAIO RXなど、AV機能を取り込んだPCもラインナップされている。となると、DMT-PR1はなぜVAIOじゃないのか? VAIOと競合する製品なのか? という疑問も生じてくる。今回、短期間ではあるものの、DMT-PR1を試用する機会を得たので、こうした疑問の答えを探してみることにした。
●bitPlayのオーディオスペック
付属のスピーカー |
本体は、外形寸法こそ小さいものの、PCのつもりで持ち上げるとビックリするほど重く、オーディオ機器に近い重量感がある。早い話、持った瞬間、これがPCではなく、AV機器であることがわかる重さだ。筐体は完全にシールドされており、内部にユーザーがアクセスして取り付けるようなオプションは用意されていない。つまり、メモリを増設したり、HDDを交換したり、拡張カードを追加したり、といったことは一切考慮されていない。PCでは考えにくいことだが、AV機器と考えれば、むしろ当然のことだろう。内蔵する40GBのHDDは、騒音対策もきちんとされているようで、動作音が音楽やDVDの鑑賞の邪魔になることはない。
HDDに加えて本機が搭載している「ストレージデバイス」は、MDLP対応のMDデッキ(MDデータには非対応)、ソニーの著作権保護機構であるMagicGateに対応したメモリースティックポート、DVD-ROMドライブの3つ。DVD-R/RWはもちろんCD-R/RWへの書込みもサポートされていない。デジタイズした音楽のサーバーとなるのは本機の掲げる重要なテーマの1つであるハズだが、クライアントはMDウォークマンやメモリースティックウォークマンに限られることになる。DMT-PR1は、最大5時間(容量制限による)のTV番組録画ができるのだが、これをデジタルメディアに書き出すことはできない(どうしても保存したい場合は、アナログビデオ出力を用いて外部のVTRを利用することになる)。
付属のスピーカーは、片チャンネルあたりソフトドームツィーター×1、8cmウーファー×1、10cmサブウーファー×1、パッシブラジエーター(ドローンコーン)×2の5ユニット構成の凝ったもの。本体背面の専用スピーカーコネクタに接続する。2基のパッシブラジエーターは、デザイン上のアクセント(保護ネットを外した場合)にもなっているが、このユニット構成から期待するほど豊かな低音が得られるわけではない。エンクロージャが小さい以上やむを得ないのだが、サブウーファーユニットを独立したエンクロージャにした方が、コストパフォーマンス的には良かったのではないかと思う。
付属するディスプレイが15インチサイズであることを考えると、ユーザーはかなり近い距離でスピーカーの音を聞くことになる。多くのユニットからなるスピーカーを近距離で利用する場合、個々のスピーカーユニットの音がバラバラに聞こえる心配があるのだが、それはあまり気にならなかった。ただ、近距離で聞いた場合、上下方向の指向性が結構シビアで、体を前のめりにするか、背もたれに寄りかかるかで、かなり音質が異なる印象を受けた。なお、スピーカーを駆動するアンプは、「S-Masterデジタルアンプ」と呼ばれる50W×2の出力をサポートしたもの。DSPとの組合せで、バーチャルサラウンド再生をサポートする。
●「PCモード」はあくまで付加機能
本体上部の操作パネル |
AV機器としては、15インチの液晶ディスプレイを備えたDVD-Videoの再生機能付きのミニコンポ、ということになるが、上述したインターネット関連機能を除き、本機がPCの機能を備えているメリットはほとんど感じられない。たとえば、AV機能を備えたPCなら、TVを見ながらCDからHDDに音楽データを取り込んだり、HDDの音楽データをメモリースティックに転送したり、といったマルチタスク的な使い方は、当たり前のようにできる。しかし、PC機能が背後に隠れたAV機器である本機では、そのような使い方はできない。
AV機器モードでできることは、その時点でメニュー画面で示されていることだけであり、同時にメニューの複数項目を選ぶことはできない。DMT-PR1には、専用のコネクタ(ステレオミニプラグ状)を用いる、トラックボール一体型のキーボードが付属しているが、極めて簡易なもので、長い文章を作成するなど本格的な利用には不向きだ。トラックボールの使い勝手も、ポインティングデバイスとして最低限のものでしかない。キーボードの役割は、簡単な電子メール作成、MD等での曲データ入力などに限られると言ってよいだろう。本機の操作の主役となるのは、あくまでも付属のリモコンなのである(リモコンとほぼ同じスイッチが本体フロントパネル上部にも用意されている)。
bitPlay専用のキーボード。トラックボール状のポインティングデバイスを備える |
●いまひとつ曖昧な、bitPlayの位置付け
というわけで、冒頭の疑問に対する筆者なりの回答を記しておこう。DMT-PR1は、VAIOではない。すでに述べたように、VAIOがAV機能を取り込んだPCだとしたら、DMT-PR1はPC機能が背後に潜んだAV機器である。両者の製品コンセプトは全く異なる。
だからといって、VAIOとDMT-PR1が市場で競合しないかというと、ちょっと自信がない。DMT-PR1を買ったユーザーは、別途PCを欲しいと考える可能性がある(DMT-PR1はPCとして使うにはちょっと辛い)反面、VAIO RXを買ったユーザーがDMT-PR1を買うとは到底思えないからだ。もちろん、VAIO RXとDMT-PR1で、再生される音楽の品質を比べれば、それは間違いなくDMT-PR1の勝ちである。だが、VAIOユーザーがもう少し高い音質が欲しいのであれば、一般的なミニコンポ等を買えば済む。VAIOのサウンド出力をミニコンポに接続する、というのは「あり」だろう。おそらくその方が、DMT-PR1より、使いでのあるシステムになるハズだ。
DMT-PR1は、PCの機能を内蔵していながら、PCをほとんど意識しなくて済む、という点では一定の成功を収めている。しかし、PCをPCとして使うには、結局PCを意識せざるを得ない、というのがおそらく現実だと思う。だからこそ、本機にはPCモードへ切り替えるボタンが用意されているのだろうし、そうでないというのなら、AVとPCを切り替えるスイッチは不要だ。PCとしてのメリットを追求するのなら、まずPCとしての使い勝手に優れていなければならないし、それを追求した途端、その製品はAV機器から、AV機能を備えたPCになってしまう。
極力PCを隠すのは、PCが使いこなせないユーザー向け、ということもあるのかもしれないが、デザイン等を見る限り、本機が想定するユーザー層は、若い独身者に思えてくる。15インチの液晶ディスプレイでTVを見るという本機のコンセプトは、ファミリーのリビングルームには似合わない。社会に出た若い人、あるいはこれから社会に出る若い人が、PCを避けて通れるとは思いにくいことを考えると、DMT-PR1よりVAIO RXを選んだ方がメリットがありそうだ。もし、本機に付属するディスプレイが15インチの液晶ではなく、30~40インチクラスのプラズマディスプレイなら、商品コンセプトとして面白かったのではないかと思う(反面、価格的な面で商品性を失ってしまうことも容易に想像がつくのだが)。
□bitPlayの製品情報
http://www.sony.co.jp/sd/products/bitplay/
□関連記事
【9月17日】ソニー、Windows 2000ベースのHDD内蔵AV家電(AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20010917/sony.htm
【9月18日】ソニー、HDD内蔵AV家電「ビットプレイ」の説明会を開催(AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20010918/sony.htm
(2001年11月21日)
[Text by 元麻布春男]