第122回:Windows XP導入前、8つの疑問



 今ひとつ市場での盛り上がりには欠けるようだが、プリインストール版が秋葉原に登場し始め、パッケージ版の発売までの期間も1カ月を切ったWindows XP。今週25日にはニューヨークタイムズスクエア近くにあるマリオットマーキーズシアターで、ビル・ゲイツ氏による発表会イベントも執り行なわれる予定だ。筆者は.NET関連の発表や技術解説が行なわれるProfessinal Developers Conferenceに主席するためロサンゼルスに移動後、このイベントに参加する予定だったが、家族に強く引き留められ、このイベントへの出席を直前にキャンセルした。

 Windows XPの話題は、特にモバイルPCだけに限ったものではないが、レジューム速度の改善や省電力機能の改善などノートPC利用時のメリットは非常に大きい。先日、本サイトにもコラムを書いているN氏と雑談した折り「ノートPCでの改善幅は大きいからインストールしているが、デスクトップPCはそれほど急いで導入しようとは思わないなぁ」と話していたが、Windows 2000を導入しているユーザーならデスクトップPCのOSを早急に変更する必要はないかもしれない(Windows 98 SE/Meユーザーは除く)。

 また、どうしようかと検討しようにも、いくつかの疑問がクリアではないと考えている読者も多いようだ。そこで今回は、このコラムを含むいくつかの記事に関連してお寄せいただいたWindows XP関連の疑問に対して答えてみる。実は同じようなテーマの記事が、いつも記事を提供している別サイトにあるのに気付いて、話題を別の方向にしようとも思ったのだが、それにも増してWindows XPに関する質問が多いのである。


●疑問1:なぜ「スタート」の下に隙間があるのか?

 少々くだらない(?)ところからスタートさせてしまったが、別サイトでWindows XPのビジュアルデザインについて書いた時、大量に届いた質問だ。マイクロソフトの某担当に聞いてみたが、理由に関する回答が得られなかったため、その後、独自に調べてみた。隙間とは、スタートボタン(デフォルトでは緑)の下に隙間があり、タスクバーの青い筋が出てくる現象である。冒頭でのN氏との雑談でも、気になるなぁと話題に上った。

 スタートボタンのテクスチャは、あらかじめ登録されたビットマップと設定されたフォントサイズに合わせて自動的に生成されるもので、その大きさはちょうど良くなるようにプログラムされている(ハズ)である。実際、英語版ではきちんと隙間のない絵になる。

 しかし、このプログラムは英語版のフォントに合わせて設計されたものだ。新ユーザーインターフェイスLunaのスタイルを決めるリソースファイルを覗いてみると、英語版は「start」の表示をFranklin Gothic Mediumのイタリック体で行なっており、日本語版はMS UI Gothicのイタリック体太字を用いている。英語フォントと日本語フォントは、文字スタイルの違いから同じポイント数ではボタン内のバランスが取れないため、前者が14ポイントなのに対して後者は12ポイントのサイズが指定されている。この設定にすると文字の高さが最も近くなるだからだ。

 ところが、全く同じにはならない。文字のテクスチャの高さ(黒い部分の高さ)は日本語の方が1ドット大きいが、フォントに設定されている上下余白分を計算に入れると日本語の方が上下1ドットづつ、合計で2ドット小さくなる。これが、スタートボタンの下に2ドットの隙間を作ってしまうようだ。

 試しにあるツール(まだ公開されていないがLunaをカスタマイズするツールをサードバーティが開発している)を使ってスタートメニューのフォントを12から13ポイントに変更すると、多少文字は大きくなるものの下部の隙間は消えてなくなった。


●疑問2:PCの台数分だけWindowsを買わなければならないのか?

 改造を繰り返すうちにパーツが集まり、何台ものPCを使っている自作派ユーザーや、デスクトップPCとノートPCを併用している人など、複数台のPCを持っている人は多くなっている。今まで1個のWindowsを購入すれば良かったのに、Windows XPでは台数分のお金を支払わなければならないのか? と思う人は多いようだ。

 誤解している人がいるかもしれないので念のため付け加えておくが、台数分のWindowsを購入しなければならないのは、今も昔も同じである。今まではWindowsのCDを1枚買ってくれば、自宅にあるPCすべてにインストールできたが、「できる」ことと「してはいけない」ことは異なる。Windowsのライセンス条件によると、同じ人が所有する複数のPCにひとつのライセンスしか与えられていないWindowsをインストールするのはライセンス違反である。

 とは言うものの、こうした苦情を言いたくなるのはわかる。これまでもWindowsを使ってきて、さらにWindowsを使い続けようとしている個人ユーザーからしてみれば、アップグレード版の実売価格12,500円(Home Edition)~21,300円(Professinal)というのは、昨今のPCハードウェア/ソフトウェアの価格を鑑みると少々高めの値段だ(価格はインプレスダイレクト価格)。3台分ほどのアップグレード料金を払ったら、もしかすると一番安いPCぐらい買えてしまうかもしれない。

 また個人的に最も面倒なのが、複数PCのCD-KEYを管理することだ。マイクロソフトのプロダクトアクティべーションの元では、PCのハードウェア1台ごとに1つのCD-KEYが対応するように管理する必要がある。今までのように、ライセンスだけ必要数を買っておき、同じCD-KEYでインストールすることはできない(ボリュームライセンス契約を行なっている企業ユーザーは除く)。

 マイクロソフトは、プロダクトアクティべーションによって増す、ユーザーのライセンス管理に関する負担を軽くする工夫を行なわなければならない。また、個人向けの複数ライセンス契約についても整備すべきだ。2本目以降を2割ほど引いてくれると言われても、今の価格では誰も納得しないだろう。せめて2本目以降は半額にならないものか?

 なお、開発やテストに利用するPCにインストールするなら、MSDNのオペレーティングシステムサブスクリプションを購入するのが最も手っ取り早い。Windows XPのライセンスが1ユーザーに対して10台分与えられるからだ(インプレスダイレクトの価格は79,800円だが、開発者向け製品をすでに所有しているユーザーは65,000円)。


●疑問3:大幅なハードウェアの変更とは?

 これはOffice XPの時にもあった疑問だが、マイクロソフトのプロダクトアクティべーションが「異なるPC」と判断する基準がわからないというユーザーが多いようだ。プロダクトアクティべーションでは、異なるハードウェアにソフトウェア(ここではWindows XP)がインストールされた時、それを検知する仕組みである。これにより、ひとつのライセンスで複数のPCにインストールする不正利用を防ごうというわけだ。この仕組みのおかげで、疑問2のような質問が出てくることになる。

 マイクロソフトの公式な発表によると、使用しているハードウェアのうち6種類までは交換可能だが、それ以上の種類が異なるものに変更された場合、異なるPCであると判断する。試しにテスト用のPCでグラフィック、サウンド、IEEE 1394、テレビチューナ、CD-ROMドライブ、ネットワークカードを変更してリブートしてみたが、異なるPCとは判断されなかった。加えてハードディスクも変更して再インストールを行ない、アクティべーションの登録を再度行なったところ、何の問題もなく利用できた。合計7つの要素が変化しているはずだが、すべてのデバイスを検知しているわけではないようだ。ただ、マイクロソフトによると「マザーボードを交換するとダメ」とのことである。ただ、その場合でもオンラインでのアクティベートができないだけで、電話によるアクティベートは可能である。

 例外はOEM版だ。プリインストールPCに添付されているWindows XPは、そのPCでしか利用できなくなっている。ライセンス先がユーザーではなく特定のハードウェアだからである。この場合、電話によるアクティベートは行なわれないハズということになる。パーツにバンドルされたOEM版のWindows XPを購入する自作派ユーザーは、将来マザーボード交換の際に電話アクティベートできない可能性を考慮すべきだ。これが可能であるかどうか、現在マイクロソフトに問い合わせ中である。回答が得られ次第、この連載で報告することにしよう。


●疑問4:あなたが言うほどレジューム速度が速くないのだけど?

 Windows XPは電源オンからの起動、サスペンドモードからのレジューム、ハイバネートモードからのレジュームのすべてが大幅に高速化された。これは我が家の複数のPCで確認をしている。今まで個人的に確認した機種は日立Flora 220FX、NEC LaVie MX、日本IBM ThinkPad s30、X21、コンパックARMADA M300、Evo N400c、日本HP Omnibook 500だ。

 ただし、β2の段階ではそれほど高速ではなかった。またRC1の段階でも製品版ほどは高速ではない。さらにハイバネートモードからのレジューム速度は、RC2になって(実際にはRC1より少し後のビルド)高速化が図られている。開発者などでβ版を入手してテストしていた読者は、今一度チェックしてみることを勧める。

 またマイクロソフトによるとACPI 2.0にフル対応したPCでなければ、高速化の効果は限定的にしか得られないという。ベストのパフォーマンスを得るには、Windows XPと共にテストされたBIOSが必要だ。すでにWindows XP対応BIOSの配布を行なっているベンダーもあるので、チェックしてみよう。コンパックと日本HPの製品を利用しているユーザーは、米国本社のサイトをチェックして欲しい。


●疑問5:うちのPCでも快適に動く?

 Windows XPは重い。そんなイメージがあるようだ。あるようだ、ではなく実際に重たい。しかし遅いというわけではない。ただ、ノートPCの場合は深刻な問題となるケースもある。メモリ上限が低い製品が多いためである。

 快適な動作を期待するなら、256MBのメモリを搭載することを勧めておきたい。これ以上のメモリが搭載されていれば、Windows XPはWindows 98やMeよりもずっとレスポンスよく動作する。Windows 2000よりも軽快と感じるほどだ。だから遅いということはないわけだ。

 しかし重いOSであるため、メモリが少なくなると動きが緩慢になる。192MBが上限のPCの場合、Windows 98やMeよりはずっと良い結果を得られると思うが、Windows 2000と比べた場合はパフォーマンス的には同等になってくると思う。ただし、レジューム速度の高速化が期待できるため、Windows XPにアップグレードする意味はあると思う。また、見た目をWindows XPスタイルからWindowsクラシックスタイルに変更し、システム設定のパフォーマンスタブを用いて各種ビジュアルエフェクトを抑制すれば、Windows XPの方が軽快だと思う。

 128MBが搭載できるメモリの上限となっている場合は、Windows XPへの移行はあまりお勧めしない。Windows XPを選ぶよりもWindows 2000を選ぶ方がいい。もしくはそのまま利用するかだ。

 なお、プロセッサ速度に関しては、それほどセンシティブに考えなくていいと思う。Celeron 333MHzのシステムにもインストールしたことがあるが、動きは悪くない。

 Crusoe搭載機に関してはWindows 2000の方が快適に動くようだ。ただし、Crusoe搭載機にはWindows Meプリインストールの機種が多い。Crusoe搭載機のベストチョイスはWindows 2000だと思うが、Meからならばパフォーマンスゲインがあるため移行するメリットがある。


●疑問6:無線LAN対応とはどんなもの?

 Windows XPの無線LAN対応は、IEEE 802.11(aやbなども含む)手順での接続に必要な機能をWindows XP側で揃えているということだ。このおかげで、Windows XP対応の無線LANカードを使っていれば、ユーティリティなどをインストールせずに無線LANを利用できる。

 Windows XPの802.11設定機能は非常に簡単に利用できる。自動的にアクセスポイントを検索し、CSSIDを自動セットしてくれ、ユーザーに接続するかどうかを訊いてくる。接続を希望すれば、その場で接続が確立されるのだ。WEP暗号化コードが設定されている場合は、キーワードを問い合わせるダイアログが表示される。また、複数のアクセスポイントを登録し、アクセスポイントに優先順位を付けておくことも可能だ。登録されたアクセスポイントには、自動的にローミングもしてくれる。さらにセキュリティを高めるため、802.1x準拠の暗号化機能もサポートしている。

 このように非常に便利なWindows XPの無線LAN対応だが、どうもルーセント製チップ以外の無線LANカードと組み合わせた時に調子が悪い。たとえばメルコ製のルーセントチップの無線LANカードや、同じくルーセント製チップのミニPCIカードを用いたIBMやデルの内蔵無線LAN機能では、見事に動作してくれるのだが、インターシル製チップを採用するインテルのPRO/Wireless 2011はインボックスドライバでアクセスポイントとの通信がうまく確立されなかった上、Windows 2000用ドライバも動かなかった。アイ・オー・データ製のカードに至ってはインボックスドライバも添付されていない(ただし、このカードの場合、Windows 2000用ドライバを用いることができる)。

 あるベンダーの話によると、アクセスポイントの仕様によっては互換性の問題が出る場合があるらしく、一部製品に関してはアクセスポイント側のファームウェアアップグレードが必要になるという。出先で使おうと思ったら使えない、なんてことがないようにしたいものだが、状況次第ではしばらく互換性で混乱する可能性もありそうだ。


●疑問7:プリインストール機はHome Editionばかりだけど、会社のネットワークでも大丈夫?

 店頭で販売されているPCのほとんどがWindows Meであったのと同じように、店頭で購入できるPCのほとんどはWindows XP Home Editionがプリインストールされている。Home EditionとProfessionalの違いの多くは企業向け機能の有無だが、モバイルユーザーの中にはドメインネットワーク参加機能がHome Editionにないことを気にしている人が多いようだ。

 会社と自宅の往復で自前のノートPCを持ち運びたいが、会社のドメインネットワークに接続できないとなれば、Professionalへのアップグレードを検討しなければならない。

 しかし心配は無用だ。Home EditionがインストールされたPCをドメインネットワークに登録することはできない。しかし、これはドメインネットワーク上のネットワーク資源を利用できない、という意味ではない。あくまでドメインコントローラのディレクトリにコンピュータを登録できないだけなのだ。ユーザー名とパスワード、そしてドメイン名を正確に入力すれば、ネットワーク資源にアクセスすることはできる。パスワードを保存することも可能なので、使い勝手はほとんど変わらない。

 ディレクトリに登録されたコンピュータからしか、一切ネットワーク資源にアクセスできないようにしていない限りほとんど困ることはない(実際ほとんどの環境で問題なく利用できると思う)。また、本当に仕事に利用するためにProfessionalへのアップグレードが必要なのだとしたら、管理者に相談してProfessionalのライセンスを割り当ててもらうように交渉してみてはいかがだろう。


●疑問8:Windows Media Playerのジャケット写真は日本のCDでも出てくるの?

 マイクロソフトはWindows Media Player 7を発表する際、CDの楽曲名やアーティスト名、アルバム名などをインターネットからダウンロードし、自動的に設定する機能を提供すると話していた。実際、この機能は洋盤CDには有効であり、ほとんどすべてのCDがデータベースに登録されている。米国在住者の話によると、インディーズレーベルの発行するCDでさえ、メジャーなものであれば登録されているそうだ。

 ところが日本のアーティストとなると、ごくごく一部を除き、からっきし登録されていないのが実情だ。そもそも、そんな便利な機能があることさえ知らないユーザーもいるんじゃないかと思えるほどだ。海外アーティストのCDであっても、日本でプレスされたCDコードが異なるCDに関しては、やはりタイトルを自動取得することはできない。

 Windows XPには、CDをWindows Media Player for XPで録音する際、CDジャケットの写真をフォルダに自動登録するという機能が追加されている。この機能は記者説明会でもデモンストレーションされ、Windows XPのマルチメディア対応機能のひとつとして紹介されたほど“売り物の機能”のハズである。が、曲名さえも引けない現状で、果たしてジャケット写真が出てくる保証などどこにもない。機能を紹介する側としても説明に苦しむ。

 マイクロソフトへの取材によると、オリコンから提供を受けたデータをマイクロソフト本社で形式変換し、ワールドワイド共通で利用するデータベースに登録するはずだったというが、世界中の形式に対応するためのコンバータの開発に失敗したため、日本からのデータが登録できない状態に陥ったのだという。

 少々お寒い話だが、日本語を含むダブルバイトキャラクタに対応するためデータベースを再構築したそうだが、いざ本番と言うときにデータベースを壊してしまうことが判明し、お蔵入りになったのだそうだ。

 現在もまだ登録は開始されていないが、Windowsのマーケティングを担当する部署のボスは「申し訳ないやら、情けないやら。作業は米国で行なっているので直接タッチはできないが、パッケージ版の発売には絶対に間に合わせるべく作業を指示している。元となるデータベースはすでにあるので、絶対に対応すると考えてもらっていい」と話す。ただし、ジャケット写真に関してはその限りではないという(ということは、WMP7レベルの対応となる)。

 こればかりはその日が来るまで確かめられない。他のプレーヤを使っているから関係ないという読者は多いだろうが、新規ユーザーにとってはWMPが最初のプレーヤソフトになる。ここはひとつ、意地を見せてもらうほかない。


 このほかにも、購入前にこれだけは聞いておきたいということがあるなら、メールでリクエストを出して欲しい。連載ではなく別記事になるかもしれないが、ある程度まとまった段階で記事にすることにしたい。


□関連記事
【10月18日】マイクロソフト、コンビニでもWindows XPの予約販売
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【10月16日】マイクロソフトとNECの提携発表にビル・ゲイツ氏出席
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http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010919/xp1.htm
【7月31日】「Windows XP」関連記事リンク集
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(2001年10月23日)

[Text by 本田雅一]


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