第123回:いよいよ登場した54Mbps無線LANを試す



 この数カ月で、11Mbpsの速度で無線ネットワークを構築できる「IEEE 802.11b」に準拠した無線LANデバイスは、すっかりホームネットワークの定番になってきた。未だに無線LANの話題になると「802.11bって企業向けが中心ですよね」と言われることがあるのだが、各部屋に電話のモジュラージャックがない住宅の多い日本の事情も手伝ってか、なかなか普及しないHomePNAを後目に、個人で無線LANを導入するユーザーは増加中である。

アクセスポイント「PCWA-A500」 ワイヤレスLANPCカード「PCWA-C500」

 もちろん、我が家でも無線LANは常時利用できる状態にあり、いつでもどこでも、家庭内でワイヤにとらわれずに家庭内のLANサービスとインターネットサービスの両方を利用できる状態にある。しかし、全く不満がないかと言えば、やはり速度的な不満はある。

 そんな時、802.11bよりも高速な無線LANとして以前から注目されていた「IEEE 802.11a」に準拠した製品がソニーから発表された。ワイヤレスLAN PCカードの「PCWA-C500」とアクセスポイントの「PCWA-A500」である。今回はその性能と使い勝手についてレポートしよう。



●5GHz帯の利用でリンク速度54Mbps

 802.11bが2Mbpsだった802.11と同じ2.4GHz帯を利用しているのに対して、802.11aでは5GHz帯を利用している。国内では、5GHz帯は屋外での利用が禁止されているが、室内での利用が認可された周波数帯だ。「OFDM (直交周波数分割多重)」という高速かつ安定した通信を行なえる変調方式を利用し、最大54Mbpsという高速な通信を行なうことができる。

 ただし周波数帯が異なることもあり、従来の802.11bとの互換性はない。おそらくデュアルバンドの無線LAN PCカードを作れば、両方の規格を利用できる製品を開発できるだろうが、CWA-C100とPCWA-A200は5GHz専用となっているため、従来の無線LANネットワークとの相互運用は不可能となっている。また、この2製品はバイオシリーズ専用周辺機器の「バイオギア」と位置付けられており、他PCでの利用が保証されていないという制限もある(ただし、手元にあるすべてのPCカードスロット付きPCで利用することができた。Windows XP用ドライバも添付されている)。

 高速な無線LANの規格としては、他にも「IEEE 802.11g」という規格があり、現在標準化作業の佳境に入っているところだ。標準化団体のIEEE内に設立されている802.11ワーキンググループでは、9月下旬にも802.11g規格の標準仕様を承認する予定だったが、米国ニューヨークで発生したテロ事件の影響で定例会議が中止になったため、未だ標準仕様として勧告されていない。現在の動向としては11月開催の定例会議で承認される見込みとなっている。

 802.11gは802.11aと同じ最大54Mbpsの速度を2.4GHz帯で実現する。このため、従来の無線LANとの接続が可能で802.11bの後継として有力視されていた。しかし802.11gの仕様を巡って、IntersilとTexas Instrumentsが争いを演じたことから標準化が遅れ、その影響で802.11aが主流になりつつある。両者の最大速度は同じだが、5GHz帯を利用する802.11aの方が実効速度に勝り、かつ1アクセスポイントでサポートできるコネクションの数が多いためだという(もっとも、802.11g対応製品を利用できない現在、それを確認する方法はないのだが)。802.11aはソニー以外にも、IntelやTDKが製品化を進めており、業界は少しづつ次世代無線LANの本命として802.11aを見るようになっているようだ。802.11gを推進し、802.11b製品低価格化の主役を演じたIntersilも、802.11aに対応したチップの出荷を予定している。

 どちらが次世代になるのかは、まだ不確定な要素が残っているものの、関係者の話では帯域を広げることが可能な5GHz帯への移行をこの機に行なってしまおうという機運が高く、802.11aが次世代無線LANの主役ということになりそうだ。


●実測値で18Mbpsの転送速度

 802.11aは、周波数帯や変調方式こそ異なるものの、通信手順は従来の802.11と同じである。このため使い勝手や機能など、エンドユーザーが触れる部分は従来の無線LANと全く同じだ。802.11aだからといって、何か特殊なことがあるわけではない。なお、テストに利用したアクセスポイントのPCWA-A500はルータとしての機能も備えているのだが、今回はルーティングを行なわないブリッジモードで動作させている。

 速度の計測は有線LANで接続されたサーバと無線LAN端末間、無線LAN端末同士の両方で、FTPによる転送とWindowsのファイル共有機能を使ったファイルコピーの両方で行なったが、いずれの場合も結果はほぼ同じだった。有線LANサーバからの転送では、実効速度で18~18.5Mbps、インフラストラクチャモード時の無線LAN端末同士の転送では約9Mbpsの速度が出た(両端末がアクセスポイントとの間で通信を行なうため、インフラストラクチャモードでは転送速度がほぼ半分になる)。アドホックモードでは、無線LAN間の転送時にも18Mbps前後の速度が出る。同様の条件で802.11bでは3.5Mbps前後の速度だ。

 これだけ高速だと、たとえば音楽ファイルや画像ファイルの転送も、実に快適に利用できる。さらに間に壁を一枚入れ、部屋をまたいだ通信を行なってみたが、電波強度が半分の状態でもほとんど速度は変わらず、15~16Mbps程度の通信速度を維持できる。さすがにさらに1枚の壁を隔てると、アクセスポイントを見つけることすら難しくなるが、これは家庭向けの802.11bアクセスポイントでも事情は同じ。到達距離に関する両者の差は、ほとんど感じない。

 ソニーが802.11aの採用を真っ先に決めたのは、動画を無線で転送するためだ。今回、デスクトップ機のバイオLXに内蔵されているGigaPocketから、ネットワークを通じてバイオノートGRで動かすPicoPlayerで再生させるという使い方を行なってみたが、標準画質の4Mbpsはもちろん最高画質の8MbpsのMPEG-2ストリームも、よどみなくノートPC側から見ることができる。無線でテレビ放送や蓄積したビデオデータが飛んでくるというのは、なかなか新しい感覚で楽しい(さすがにインフラストラクチャモードで8Mbpsのモードだとフレーム落ちするが、通常デスクトップPCは有線LANで接続されるはずだから問題にならない)。

 ソニーは以前から、今年のキーワードとしてワイヤレスを挙げ、ワイヤレスでビデオやオーディオをいかに楽しく操るか、テーマにしていると話していた。今のところ、バイオシリーズに含まれるアプリケーションの中で、802.11aの実力を感じさせてくれるものはGigaPocketとPicoPlayerだけなのだが、関係者は「まだまだ実現できていない、映像を駆使した楽しいアイディアがたくさんある」と話す。今後、帯域の広がったワイヤレスLANで新しいアプリケーションを構築してくれるのを楽しみにしたい。


●それでも互換性が……

 ただし、すべての場面で802.11aが活躍するというのは、少し先の話になるだろう。家庭内だけで利用するのであれば、高速な802.11aは大変魅力的だが、外出先でインターネットに接続する無線LANのホットスポットを利用したいのであれば、802.11bを外すことはできない。モバイルでの利用は、まだまだ802.11bとの互換性が重視されなくてはならない。新型バイオノートSRに標準装備された無線LANが802.11bなのは、もちろんコスト的なものもあるだろうが、様々な場所へと移動して利用するモバイルPCには、802.11bとの互換性が必要だったからだろう。

 やはり無線LANの普及を強力に推し進めている日本IBMも、先日の発表会で次世代無線LANに関しては802.11gを含めて、互換性や標準規格の推移を見守りながら慎重に対応を進めたいという話をしていた。家庭内でAVを楽しむアプリケーションを中心とするソニーと、ビジネスでのモバイルPCの利用を重視する日本IBMの立場の差とも言うことができる。

 もっとも、そうした議論を重ねているうちに、世の中の無線LAN製品が2.4GHzと5GHzのデュアルバンドへと移行してしまうのではないだろうか。デュアルバンド化によるコストアップも時間と共に無視できる差になっていくと考えられるからだ。それまでの間、どの製品を選択するのか。僕は家庭内(もしくはまだ無線LANを活用していない小規模のオフィス)だけであれば、あえて802.11aへの先行投資も悪くないと感じるが、事情は利用形態によって異なるものだ。それは各々の置かれた状況で判断していただきたい。

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【10月1日】ソニー、5GHz帯を利用するIEEE 802.11a無線LANシステム
~転送速度は最大54Mbps
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20011001/sony.htm
【keyword】IEEE 802.11a
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20011019/key185.htm#802

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(2001年10月30日)

[Text by 本田雅一]


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