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底なしのDRAM地獄~スポット価格は1年で1/10以下に


●DRAMの悲しい話

 「まず、冒頭から悲しいお話をしなければならないと思います。それは、PCのメインメモリでの、DDRの価格がすでにSDR(SDRAM)と同じになっていることです。SDRの価格がいったいいくらになっているかを考えると、これは、サプライする側にとってはとても悲しいことです」

 日本AMDが今週東京で開催した「AMD Developer's Conference '01 Summer, Double Data Rate DRAM」で、日本マイクロン・テクノロジーの山ノ上仁史氏(Account Manager)はのっけからこう切り出した。

 そう、本当に、DRAM業界は悲しみに包まれている。それは、DRAMの大暴落がまだ続いており、しかもそこからの抜け道がまだ見えていないからだ。DRAMは、もうチップベンダーにとって売るだけ赤字のシロモノになってしまっている。そして、今は、業界中がこの嵐が過ぎ去るのを、ひたすら耐えて待っているという状況なのだ。

 では、128MbitのSDRAMチップ(x8 PC133)の今のスポット価格はいくらなのか?

 答えは1ドル60セント前後(スポット市場によって差がある)。瞬間的にはこれよりもっと下がったこともある。これが安いか高いかわからない人に補足しておくと、1年前は同じ128Mbitチップが18ドルを切ったところだった。つまり、PC向けのDRAMチップは1年で1/10以下に値崩れしたことになる。もちろん、1ドル台というのは採算分岐点を大きく割り込んだ価格だ。普通、4ドル台だとDRAMメーカーは泣きが入るし、2ドル以下には絶対に下げないと言われている。1ドル台というのは、かつてないほどの異常事態だ。「これだったら、(カンファレンスで)ボールペンでなくてチップを配った方が安くつく」と、先月のPlatform Conferenceで、あるDRAMベンダーがこぼしていた。

 もっとも、これはスポット市場での価格で、大口需要家価格(コントラクト価格)ではない。コントラクト価格は、DRAMベンダーから代理店などを通じて大手のPCベンダーやモジュールメーカーに直接渡される時の価格で、そこから流出したチップを取り引きするスポット市場とは値動きが違うからだ。通常、供給過剰になると、まず余剰品が流れ込むスポット市場で価格が先に下落する。しかし、スポット価格が下降するとコントラクト価格もつられるため、コントラクト価格もやや(数週間)遅れるもののやはり下落する。だから、現在のコントラクト価格も、スポット価格とそれほど変わらないラインに来ているのは確実だ。

 このDRAM大暴落の結果は、見ての通り、メモリモジュールの超お買い得価格に反映されている。エンドユーザーレベルで言うなら、メモリは本当に“赤字大放出(DRAMベンダーにとって)”状態なのだから、今、DIMMを買わない手はない。そして、この底知れないDRAM暴落は、PC業界のいたるところに大きな影響を与えつつある。


●空前の高値から一気に転落

SDRAMのスポット価格の推移
 DRAM業界は、昨年前半は好景気を満喫していた。次世代DRAM規格の行方など、不安材料はいろいろあるものの、PC市場の好調に支えられてDRAM需要は拡大。DRAM価格は昨年第1四半期の下落から、第2四半期の横這いへ、さらに第3四半期は上昇に転じた。スポット価格はこの時128MbitのSDRAMチップ(x8)でピークが18ドル台。言ってみればウハウハ状態だった。

 だから、これである程度の価格を保ったまま、2001年後半のビットクロス(128Mbitと256Mbitのビット単価が交差する)まで行けば、利益を確保したまますんなり次容量世代へ移行できると見られていた。

 それが急変したのは去年の今頃。夏の終わり頃にスポット価格が下がり始め、あれよあれよという間に128Mbit品で10ドルを割った。図はベンダーからの情報などをベースにまとめたスポット価格のおおまかな推移だが、これを見てもストンと落ちているのがよくわかる。そして、DRAM価格は、年末頃までには128Mbit品で6ドルくらいのラインにまで来てしまった。コントラクト価格はというと、こちらも時間的なズレがあるもののやはり同じ程度の勢いで下落したという。あっという間に1/3の価格になってしまったのだ。

 この原因は、PC市場に急ブレーキがかかったことと、DRAMの高値でPCメーカーがメモリ搭載容量の増加を見合わせたこと、DRAMベンダーが好況を背景に増産に走ったことなどが複合していると言われる。DRAMの場合、フレキシブルな生産の抑制がしにくい上に、カマ(工場)に突っ込んだウェハが後工程も終わって市場まで出て来るまでに1四半期程度のタイムラグがある。そのため、減産してもすぐにはブレーキがかからないという事情があり、こうした需給の極度のアンバランスが発生しやすい。雨の路面のように、ブレーキをかけてもなかなか止まらないわけだ。

 また、DRAMベンダーは、1四半期あとの市況が読めないため、なかなか生産調整をしたがらない。下手に自分だけ減産すると、もし1四半期後に高値に戻った場合は、減産しなかったメーカーが高値の中でシェアを伸ばしてしまうからだ。だから、互いににらみ合いになりやすい。


●SDRAM暴落でDDR SDRAMが盛り上がる

 そうした昨年のDRAM状況の中で、ベンダーにとっての希望はDDR SDRAMだった。DDR SDRAMに移行して、価格プレミアをつけられれば、いくらかでも持ち直すことができるという読みだ。この当時、あるDRAMベンダーの人は「DRAMがここまで下がると、どこかで収益を出さないと会社が存続できない。だから、DDRで少しでもプレミアをとりたいと誰もが考える。DDRが盛り上がっている背景には、こうした事情がある」と説明していた。

 ところが、今年に入ってもDRAM価格はまだまだ下がり続け、状況はさらに緊迫した。2月頃に会ったあるDRAMメーカーの人は「4ドル台になってもうどうしようか頭を抱えている」と話していた。もう後がない状況になってしまったのだ。

 ところが、頼みの綱のDDR SDRAMは、チップセット側の態勢が整わないため、なかなか立ち上がらない気配。さらに、Micron Technologyは、この価格状況になっても、DDR SDRAMとSDRAMを同価格にすると言っている。この時期、「同価格だったら、DDRをやるのに何のメリットがあるのかという話になる。DRAMが高値だった時ならわかるが、この状況で同価格にする目的がわからない」と複数のDRAM業界関係者がこぼしていた。これが、今年の第1四半期の状況だった。


●せっぱつまってRDRAMへ動いたベンダーも空振り

 状況はさらに悪くなるのに、希望のDDR SDRAMもすぐに来ないし、そもそもDDR SDRAMで儲けられないかもしれない。そんな状況で、RDRAMへ針が揺れた。Samsung、エルピーダ、東芝が、Intelに乗っかってRDRAM増産&低コスト化戦略を発表したのだ。この時、関係者は「IntelはBrookdale(Intel 845)までの間も、やっぱりPentium 4を数多く出すことを考える、するとRDRAMが必要だ。RDRAMはPentium 4とかのからみで数がはっきり見えている。ともかく、利益を出さないとならないからRDRAMだ」と語っていた。

 RDRAMならまだ価格プレミアがある。だったら、RDRAMに注力しようという戦略だったわけだ。低コスト版RDRAMデザイン4iで、来年になればSDRAMやDDR SDRAMに対抗できるコストにまで下げられるメドもある。また、SDRAMよりも256Mbit世代への移行がしやすい(チップセットがどれも対応しているから)のも利点だ。256Mbitへシフトすると、ビット単価を保ったままチップ価格を2倍にできる。

 ところが、これも空振りしてしまう。Athlonの奮闘で、Pentium 4の普及が今ひとつ進まず、RDRAMの需要も伸びなかったのだ。またもや、つまずいてしまったわけだ。さらに、SDRAMがさらに下がり続けたため、どこまで行っても追いつかない(差は縮まっているけど)という状態になってしまった。また、PCメーカーは、Intel 845の登場で、一気にPentium 4+SDRAMへとハンドルを切ってしまう。これだけSDRAMが安いのだから、それも当然だ。つまり、SDRAMが4ドル以降さらに下落し続けたために、RDRAMのチャンスを奪ってしまったのだ。

 一方、DDR SDRAMはというと、DRAMベンダーはデスクトップは遅れるとしても、サーバー市場は今年の中盤までに立ち上がり始めると期待していた。IntelがServerWorksのチップセット+DDR SDRAMのプラットフォームをサーバーでは推進していたためだ。サーバー向けならプレミア価格で売れるので、ここでまず稼いで、それからデスクトップやモバイルへと持って行こうというわけだ。実際、DRAMベンダーの中には、この需要を当て込んで、256Mbit世代DDR SDRAMでx4などの語構成の製品(サーバー向けの大容量モジュール構成ができる語構成)を優先していたメーカーもある。ところが、業界関係者によると、これもServerWorksチップセットのバグで離陸に失敗してしまう。こちらも、戦略がガラガラと崩れてしまったのだ。

 そして、この状況で、現在の128Mbitがスポット1ドル台という状況を迎えることになった。昨年、AMDやVIA TechnologiesとDRAMベンダーが、DDR SDRAMで盛り上がり始めた時は、DDR SDRAMで苦境を脱するという期待があった。しかし、今やDRAMベンダーに活気はない。ひたすら歯を食いしばってがんばっているだけという状況だ。打つ手がなくなったと言い換えてもいい。というわけで、底なしのDRAM地獄はまだまだ続きそうだ。


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(2001年8月24日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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