プロカメラマン山田久美夫の

ソニー「Cyber-shot DSC-P5」ファーストインプレッション

 次々と新製品が登場するデジタルカメラの世界。だが、昨年の発売以来、ずっと売れ筋ランキングのトップを維持している、お化け商品がある。それが「Cyber-shot DSC-P1」だ。

 なにしろ、ヨドバシカメラの売れ筋ランキングでも、リサーチ会社の売れ筋ランキングでも発売以来トップクラスを快走している大ヒットモデルだ。こんなにも長期間にわたって人気が持続したデジタルカメラは、カシオ QV-10以来の快挙といえるだろう。

 これだけの大ヒット作になると、その後継機となる機種には、ユーザーもメーカー側も、相当な期待と一抹の不安があるわけだ。そして今日、ソニーが満を持して発表したのが、「P1」の後継機となる「DSC-P5」だ。


●よりピュアになったキープコンセプトモデル

 妥協のないスペックを備えながらも、いつでも気軽でスタイリッシュに使えるデジタルカメラ。これが「P1」の基本的なコンセプトだ。そして今回登場した「P5」は、まさに、そのコンセプトをきちんと受け継ぎながらも、「P1」の弱点だった部分をきちんと解消している、なかなかの意欲作といえる。

 これまでも「P1」の後継機に関しては、いろいろな噂や憶測が乱れ飛んでいた。なかには、「P1」の413万画素モデルが登場するのでは……という、なかなか現実味のある話まで飛び交っていた。

 だが、今日発表された、334万画素光学3倍ズーム搭載の「P5」は、「P1」のよさを引き継ぎながらも、そのコンセプトをさらに突き詰めた、キープコンセプトそのもののモデルだった。個人的には、ちょっと期待はずれな部分もあり、ちょっと安心した部分もあった。さすがに他社から続々と小型軽量な300万画素ズーム機が登場しつつあるだけに、初代ほどの大ヒットは望めないかもしれないが、人気モデルになる可能性はきわめて高い。

 本機の最大の注目点はボディの薄型化だ。なにしろ、「P1」の場合、発表当時は334万画素の3倍ズーム機とは思えないほどのコンパクトさに目を奪われたものの、実物を手にしてみると「結構、分厚いなあ」という印象を持ったものだ。実際、カタログも広報写真も、正面から撮影したカットばかりで、その厚さを極力見せないように配慮されていた。

 「P5」を見たときの第一印象は「けっこう薄くなったなあ」だった。もちろん、「P1」ユーザーでなくとも、一目でわかるほどの“薄さ”を実現している。幅や高さはほとんど変わっていないのだが、薄くなったことでコンパクトさがさらに強調されている。

 数値的には「ペンタックス Optio330」のほうがやや勝り、「富士フイルム FinePix6800Z」とほぼ同等だが、全体のプロポーションから見ると、本機の方がかなり薄く感じられるから不思議だ。

 もちろん、本機はレンズの全長が長くなってしまう光学3倍ズームを搭載しているうえ、レンズのほぼ真後ろに液晶モニタがある、薄型化にはきわめて不利なレイアウトを採用している。そのため本機では、沈胴式のレンズ部を二段階の伸縮式にし、望遠側での明るさを若干暗くすることで薄型化を実現している。この薄さを実現するには相当な苦労があったハズで、このあたりにソニーがPシリーズにかける“意地”が感じられる。


●向上した使用感

 基本的なスタイリングは「P1」のものを踏襲している。あまり、代わり映えしない感じもあるが、ボディ中央部の紫のプラスチック部分がなくなったことで、より薄さが強調され、軽快になった感じだ。ただし、デザイン的には、ややスッキリしすぎた感じもあり、もうワンポイント、アクセントが欲しい感じもする。

 携帯性は上々。横幅があるので意外に収納スペースは食うが、これだけ薄手になると、ちょっと大きめの携帯電話用ケースにもきちんと収納できてしまうし、私もそうしていた。本機をいつも気軽に持ち歩くのであれば、純正ケースよりも本機が収納できそうな携帯電話用ケースを探すことをオススメしたい。

 操作性は、最近のCyber-shotシリーズの流れを踏襲している。とくに、本機では撮影/再生モードの切り替えを上面のダイアル操作で行なうようになり、基本操作が分かりやすくなった点は好感が持てる。

 ただ、実際に持ち歩いてみると、携帯中に不用意にダイアルが動いてしまうこともしばしばあり、一長一短ではある。

 起動時間は約3.5秒と、「P1」とほぼ同等。だが、「P1」に比べ、レンズが伸びるときの音がやや静かになっており、高級感が増した。

 実際に使ってみて大幅に進化しているのが、画像の再生速度。「P1」では1コマ表示するのに約3秒かかり、かなり焦れったい感じがあったが、「P5」ではほとんど瞬時に次のコマが表示されるようになった。正確に言えば、「P1」では表示時に記録されたオリジナル画像をいちいち表示していたために、再生に時間がかかったわけだが、「P5」では最近のCyber-shotシリーズと同じように、EXIFファイルのなかに備わっているサムネール画像を先に読み込み粗く表示したあとで本画像を読み込んで緻密な表示に切り替わる方式に変更された。

 もちろん、この方式ではコマ送りをした当初は粗い画像が表示されるわけだが、どんなものが写っているのかをザッと流してみるなら、これでも十分であり、実用的な割り切り方といえる。

 また、先代モデルの欠点だった、暗所でオートフォーカスが動作しにくいという問題点も、本機では高輝度の赤色LEDによるAF補助光を内蔵。暗いシーンではAF補助光を被写体に照射し、それで測距するため、真っ暗な場所でも補助光が届く範囲であれば、正確なオートフォーカス撮影が可能になった点も大きな進化といえる。なお、このAF補助光は必要に応じて常時OFFになるように設定することもできる。

 バッテリは今回、新開発のコンパクトなインフォリチウム式の「Cバッテリー」が採用されている。もちろん、付属のアダプターによる本体充電が可能だ。ボディの薄型化を図るために、バッテリ自体は従来よりも小型化されており、電池容量は減少している。しかし、カメラ本体の省エネ設計により、「P1」とほぼ同等のバッテリの持ちを実現しているという。実際に使ってみた感じでも、P1と差がない印象だ。写真撮影がメインでない、通常のスナップショットであれば、電池の残り容量をさほど気にすることなく、一泊二日程度の旅行に行けるレベルだ。


●見栄えがよくなった絵作り

 画質は、初代「P1」に比べ、わずかではあるが、確実に向上している。

 「P1」の場合、究極の画質よりも、スタイリングや携帯性といった面を重視した設計になっていたこともあって、同じCyber-shotシリーズの334万画素3倍ズーム機に比べ、やや画質に不満を感じるケースがあった。

 だが、今回の「P5」では、画質の点にも改良が加えられている。といっても、同一シーンで比較撮影をしてみるとわかる程度という感じだが、それでもその違いは明らかだ。

 まず解像度は、「P5」のほうが若干輪郭強調処理が強いこともあって、わずかながら、切れ味がいい印象がある。

 色再現性も、やや鮮やかな方向にセッティングされており、青空がよりクリアな色調に写るようになった。また、肌色がより健康的な色調になった点にも好感が持てる。

 内部処理の14bit化もあって、階調の再現性も向上している。とくに、従来よりもハイライト部の飛びが少なくなり、全体に階調が軟らかくなった印象だ。

 また、機構上、「P1」では通常のプログラムモードでは、自動ゲインアップ以外は選べなかった。そのため、暗めのシーンでストロボを使わずに撮影すると、ノイズっぽい画像になるケースが多かった。

 しかし、本機では自動ゲインアップ以外に、マニュアルで感度を設定できる機能が加わったため、ブレよりも画質を重視したい場合には、低い感度にマニュアル設定することで、ノイズの少ない画像が得られるようになった。

 実際、初代「P1」の画像は、全体に眠い印象があり、シャープ感やクリアさにかけるきらいがあった。300万画素機ならではの高画質さを期待したユーザーには、不満が残る部分でもあった。

 しかし、今回の「P5」では334万画素3倍ズーム機として、不満を感じない画質を実現している。もちろん、画質重視の「DSC-S75」ほどのクォリティーではないが、それでも通常の撮影では必要十分な実力といえるだろう。

 ただ、本機は薄型化のため、レンズが「P1」よりも暗い。とくに望遠側ではF5.6とワイド側の1/4の明るさしかない。そのため、気軽に片手だけでカメラを持って、ラフに撮影すると、屋内はもちろん、屋外でも曇天なら簡単に手ぶれしてしまう。また、ストロボ撮影時の推奨距離も、望遠側では1.4mまでしか保証されていない。このあたりはコンパクト化とのバーターになっている部分だが、その点をきちんと理解して使うべきモデルといえるだろう。

注:P1との画質の比較についてはこちらの関連記事もご参照ください。


●インパクトの「P1」から完成度の「P5」へ

 ソニーは歴代、初代モデルには数字の1を型番にする習慣がある。そして、そのコンセプトを受け継ぎながら、それに磨きをかけた、決定打といえるモデルに付ける番号こそが、今回の「5」だ。

 今回登場した「P5」は、さすがに「P1」登場時ほどのインパクトはないものの、そのコンセプトを踏襲し、より完成度の高いモデルに仕上がっている。

 とくに、「P1」の最大の魅力であり、大ヒットのポイントとなった、イメージとしての「デジタルの楽しさ」も、きちんと受け継いでいる点に好感が持てる。

 「P1」は大ヒット作だが、私自身、常用してみた結果、初めてデジタルカメラを購入する人などには、あまりオススメしなかった。だが、今回の「P5」を使ってみて、この実力であれば、これからデジタルカメラを購入しようという人や常時300万画素機を持ち歩きたい人にも、比較的安心して勧められるモデルのひとつになった感じだ。

 ただ本機は、全体にバランスのいい、欠点の少ないモデルに仕上がっているものの、「P1」に匹敵するほどの、強い個性やソニーならではの主張が感じられない点が残念だ。もちろん、それを求める人には、同時発表の「DSC-F707」のような高性能で強い個性を放つモデルをきちんと用意しているわけだが、常時携帯できるモデルでもそんな部分を感じさせて欲しい。

 ソニーでは、5シリーズの上級機として「7」型番が使われるケースも多いので、もしかすると、「P5」ベースで1/1.8インチ413万画素CCDを搭載したモデル「DSC-P7」が、将来的に登場する可能性もあるかもしれない。そのときには、何かワンポイントでも、光り輝くような個性や主張を感じさせるモデルになることを期待したい。


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□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.sony.co.jp/sd/CorporateCruise/Press/200108/01-0822A/
□関連記事
【8月22日】プロカメラマン山田久美夫の ソニー「DSC-P5」β機実写画像
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010822/yamada.htm
【8月22日】ソニー、光学3倍ズーム、321万画素のサイバーショット「DSC-P5」など
~モバイルフォトプリンタ「DPP-MP1」も発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010822/sony2.htm

(2001年8月23日)


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[Reported by 山田久美夫]


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