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x86系CPUとして最高クロックとなる
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Intelは本日付けでIntel Pentium 4プロセッサ(以下Pentium 4)として最高クロックとなるPentium 4 1.7GHzを発表した。今回はこのPentium 4のエンジニアリングサンプルを入手する機会に恵まれたので、ベンチマークなどを通じPentium 4 1.7GHzの処理能力、そしてPentium 4の買い時などについて考えていこう。
●ステッピングがCステップとなり新しいバージョンのBIOSが必要
今回リリースされたPentium 4 1.7GHzは、Cステップへとステッピングアップされている。今回のステッピングアップにより、特に新しい機能が追加されたわけではないが、通常のバグフィックスなどといった若干の修正が加えられている。情報筋によればIntelはOEMメーカーに対してこのCステップにより高クロックの歩留まりが向上する、つまりより高クロックのCPUを作るのが容易になると説明しているという。なお、新しいCステップのコアは従来のPentium 4にも適用され、1.5GHz、1.4GHz、1.3GHzの各クロックグレードもCステップへの切換が行なわれる。
しかし、ステッピングアップにより、クロック倍率の設定方法が変更され、古いBIOSのPentium 4マザーボードにPentium 4 1.7GHzを挿した場合、正しく1.7GHzに設定できない。例えば、GIGA-BYTE TechnologyのGA-8TXに挿した場合800MHzに設定されてしまい、そのままでは1.7GHzで動作しなかった。Intel純正のD850GBもバージョンアップが必要で、IntelのWebサイト(http://developer.intel.com/design/motherbd/gb/gb_bios.htm)で公開されていた最新BIOSにアップデートしたところ、きちんと利用することができた。
今後出荷されるPentium 4マザーボードであれば最初からCステップ対応BIOSになっていると思われるが、既に市場にあるマザーボードでは当然BIOSのアップデートが必要になる。筆者の手元にあったIntelのD850GBでは旧バージョンのBIOSの状態で、CステップのPentium 4 1.7GHzを挿してみたがとりあえずは動作していた。ほかのマザーボードでもクロック設定はおかしいものの、起動はしてBIOSアップデートは問題なく行なえた。そうした意味では、特にCステップをサポートしたBIOSではないマザーボードでも、購入後にCステップ対応BIOSにアップデートすればいいだろう。
●クロックだけでなくコア電圧も上がっているのでクーリングには細心の注意を
Pentium 4 1.7GHzの従来製品との違いは、ステッピングだけではない。もう1つの大きな違いはCPUコア電圧だ。1.5GHzまでのPentium 4は1.7Vで駆動されていたが、Pentium 4 1.7GHzは1.75Vと0.05Vコア電圧が上がっている。これにあわせて消費電力が上がっており、原稿執筆時点では正式なデートシートがアップされていないためどの程度かはわからないが、Pentium 4 1.5GHzのTDP(Thermal Design Power:熱設計)に利用する消費電力の値が54.7Wであるので、計算上は65.6Wとなり、軽く60Wを超える消費電力となってしまう。発熱量は消費電力に比例して大きくなっていくので、当然Pentium 4 1.7GHzの発熱量はより増える計算になる。
このため、Pentium 4 1.7GHzでは以前にも増してクーリング周りに注意を払う必要があるだろう。例えば、CPUクーラーを正しく取り付けないとCPUを壊してしまうことなども予想され、CPUクーラーの取り付けには十分注意を払いたい。今回はエンジニアリングサンプルを入手したため、付属してきたファンもサンプル品であったが、Pentium 4 1.5GHzのリテールボックスに付属しているものよりも明らかに巨大なヒートシンクがついていた。リテールボックスのPentium 4 1.7GHzにも、こうしたこれまでよりも巨大なCPUクーラーがバンドルされることになると思われるので、付属のシリコングリスを必ずつけてきちんと放熱できるように取り付けるようにしたい。
●Athlon 1.33GHzとの比較ではアプリケーションにより勝ったり負けたり
今回はPentium 4 1.7GHzにおけるパフォーマンスを、ライバルであるAthlonと比較するため5つのベンチマークプログラムを利用して計測することにした。いわゆるアプリケーションベンチマークとして、BAPCO(http://www.bapco.com/)のSYSmark2000、Ziff-Davis Media(http://www,ziff-davis.com/)のBusiness Winstone 2001、Contents Creation Winstone 2001の3つを利用した。SYSmark2000はオフィス系アプリケーションのほか、Photoshopのようなコンテンツ作成系のアプリケーションを含んだ総合ベンチマークテストで、Business Winstone 2001はビジネスアプリケーションのみ、Contents Creation Winstone 2001はコンテンツ作成系のみといったアプリケーションベンチマークとなっている。3Dアプリケーションにおけるパフォーマンスを計測するテストとしては、MadOnion.com(http://www.madonion.com/)の3DMark2000 Version 1.1を利用した。
このほか、今回はPentium 4のパフォーマンスを見るテストという事情を勘案して、Intelが配布しているIntel Pentium 4 Application Launcher V2.1を実行した。これにはeJay(MP3エンコードソフト)、Incoming Forces、NaturallySpeaking Pref 4.0など、Pentium 4/Pentium III/Celeronが対応しているインターネット・ストリーミングSIMD拡張命令(以下SSE)、Pentium 4が対応しているストリーミングSIMD拡張命令2(SSE2)に対応したアプリケーションを集め、実際にファイルのエンコードなどを行なってその時間を計測し、それを相対数値化するというベンチマークだ。もちろん、SSE/SSE2に対応していないAMDのCPUなどでは不利になるが、今回はSSE/SSE2の威力を見るという意味であえてベンチマークに加えてみた。
なお、テスト環境は表1の通りで、今回は比較対象として、これまでのPentium 4 1.3/1.4/1.5GHzとAthlon 1.33GHzを用意した。メインメモリはPentium 4がDirect RDRAM(PC800、256MB)、AthlonがDDR SDRAM(PC2100、256MB)で、ビデオカードはエルザのGLADIC MX(GeForce2 MX、32MB SDRAM)、ハードディスクはIBMのDTLA-307030、OSはWindows 98 Second Edition 英語版+DirectX 8という構成だ。
【表1:テスト環境】
CPU | Pentium 4 | Athlon |
---|---|---|
マザーボード | Intel D850GB | ASUSTeK A7M266 |
チップセット | Intel850 | AMD-760 |
メモリ | PC800 | PC2100(CL=2.5) |
メモリ容量 | 256MB | |
ビデオカード | ELSA GLADIAC MX(GeForce2 MX、32MB) | |
ハードディスク | IBM DTLA-307030(30GB) | |
OS | Windows 98 Second Edition(英語版)+DirectX 8.0a |
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Pentium 4 1.7GHz Pentium 4 1.5GHz Pentium 4 1.4GHz Pentium 4 1.3GHz Athlon 1.33GHz |
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Pentium 4 1.7GHz Pentium 4 1.5GHz Pentium 4 1.4GHz Pentium 4 1.3GHz Athlon 1.33GHz |
【3DMark2000 Version1.1】
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Pentium 4 1.7GHz Pentium 4 1.5GHz Pentium 4 1.4GHz Pentium 4 1.3GHz Athlon 1.33GHz |
【Intel Pentium4 Application Launcher】
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Pentium 4 1.7GHz Pentium 4 1.5GHz Pentium 4 1.4GHz Pentium 4 1.3GHz Athlon 1.33GHz |
テスト結果はグラフの通りだが、ざっと見て、Pentium 4 1.5GHzに比べてPentium 4 1.7GHzがかなり処理能力が上がっているのが見て取れる。例えば、SYSmark2000ではOverall(総合値)がPentium 4 1.5GHzが194だったのに対して、Pentium 4 1.7GHzは212と大幅な向上を見せており、Athlon 1.33GHzの240にはまだ追いついていないものの、だいぶ差を縮めてきた。さらに、Business Winstone 2001やContents Creation Winstone 2001でもこの傾向は同様であり、やはりPentium 4 1.7GHzはAthlon 1.33GHzとの差を詰めている。
Pentium 4 1.5GHzとAthlon 1.33GHzの比較では、Athlon 1.33GHzに軍配が上がっていた3DMark2000 Version 1.1では、Pentium 4 1.7GHzがAthlon 1.33GHzを上回った。CPUの処理能力よりもビデオカードの性能がボトルネックとなる高解像度では差はないが、CPUの処理能力が結果に影響を与える低解像度ではPentium 4 1.7GHzがAthlon 1.33GHzを上回った。
SSE/SSE2に対応したアプリケーションを集めたIntel Pentium 4 Application Launcherでは、当然の事ながらPentium 4がAthlonを上回った。このように、SSEやSSE2に対応したアプリケーションが出そろえば、Pentium 4のAthlonに対するアドバンテージは決して小さくないと言えるだろう。
●大胆な価格設定によりPentium 4も魅力的な選択へ
以上のように、Pentium 4 1.7GHzとAthlon 1.33GHzという両社の最高クロックのCPUを比較すると、ある局面ではPentium 4がAthlonを上回り、別の局面ではAthlonがPentium 4を上回るという状況である。正直なところ一概にどちらのほうが性能面でアドバンテージがあるとは言えない状況であると思う。これまではオフィスアプリケーションなどでPentium 4の処理能力は確かにAthlonに劣っている面はあったのは否定できなかったが、それもPentium 4 1.7GHzではクロックが上がったことによりオフィスアプリケーションでの処理能力は向上し、Athlonとの差も縮まってきた。しかも、SSEやSSE2をサポートしたアプリケーションを利用した場合には圧倒的なアドバンテージを有している、こうしたことを考えると、実際に高クロックの1.7GHzが追加されたことにより、ハイパーパイプライン構造を採用することで高クロックを実現し、SSE/SSE2によりビデオ、オーディオなどのアプリケーションを利用する際の処理能力を上げていくというIntelのコンセプトがだいぶ実現されてきたと言っていいだろう。
また、もう1つPentium 4で見逃せないのは、今月末の価格改定により価格が大幅に下げられるということだ。この件に関しては後藤氏のコラム「IntelがPentium 4を大バーゲン。今月末には半額に!?」(http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010411/kaigai01.htm)が詳しいので繰り返さないが、この価格改定によりPentium 4 1.7GHzはAthlon 1.33GHzとほぼ同じ価格レンジになるという。となれば、Pentium 4 1.7GHzとAthlon 1.33GHzのシステムレベルでの価格差は、Direct RDRAMとDDR SDRAMの価格差、マザーボードの価格差だけになっていると言える。既にDirect RDRAMのOEMレベルでの価格は100ドルを切っており、DDR SDRAMとの価格差は20~30ドル程度であるという。マザーボードもAMD-760チップセットのマザーボードとさほど変わらないレベルになってきており、Pentium 4用チップセットのIntel 850が2チャネルをサポートし、ピーク時のメモリ帯域が3.2GBと高いことを考えると、価格差は許容できないレベルではなくなってきている。
以上のような状況を考えると、これまではSSE/SSE2をサポートしたアプリケーションを利用するユーザーにはPentium 4がお薦めとしてきたが、一般的な用途に利用するユーザーであってもPentium 4を選択肢にいれる価値は十分にあると思う。SSE/SSE2をサポートするアプリケーションが増えつつある現状を考えると、どちらかと言えばコンテンツを作成する機会が多いユーザーはPentium 4を選択するのがよいと言っていいだろう。
ただ、既に本コーナーでも指摘しているように、Intelは第3四半期にPentium 4のソケット形状を現行のPGA423からmPGA478へと変更する。そうなれば、その後発売されるPentium 4は、0.13μmへと微細化されたNorthwoodを含めすべてmPGA478ベースとなる。少なくとも現行のPGA423ベースのPentium 4も2GHzまではリリースされることが明らかになっているが、もし将来のアップグレードを重視するのであれば、mPGA478ベースのPentium 4を待ちたいところだ。
(2001年4月23日)
[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]