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●IntelがPentium 4の猛烈な値下げをOEMにアナウンス
Intelが猛烈なPentium 4値下げ攻勢に出る。Pentium 4の価格を、いきなりPentium IIIと同じレベルに持って行く。CPU価格を一気に引き下げることで、Pentium 4マシンの価格を、1,000~1,200ドルの価格レンジ(日本なら14~15万程度)にすることが目的だ。
複数のOEM関係者によると、Intelは先週、Pentium 4の価格を4月末に大幅に引き下げることを通知してきたという。新しい価格はPentium 4 1.4GHzが200ドルを切り、1.5GHzは250ドルちょっとのラインになるようだ。これは、現在の半額程度のバーゲン価格。マザーボードやクーリングなどのコストアップを入れても、1,200ドル以下のPCに搭載できる価格ということになる。また、その1.5GHz版の後に続く高クロック版のPentium 4も、かなりの低価格で登場する計画だという。Intelは、Pentium 4を一気に下げたことで、第4四半期までは、もう価格を動かさないと通知したらしい。
一方、Pentium IIIの価格はほぼそのままで行くようだ。Intelは第2四半期中に1.13GHzの0.18μm版Pentium III(Coppermine:カッパーマイン)を、第3四半期の頭には1.2GHzの0.13μm版Pentium III(Tualatin:テュアラティン)をリリースする計画だ。しかし、Pentium 4が値下げになったため、これらの新Pentium IIIの価格はなんとPentium 4と同等になってしまう。つまり、OEMメーカーにとってオーバー1GHz Pentium IIIは、クロック/価格では魅力のないものになってしまうわけだ。しかも、Tualatinはもともと1.26GHzだった計画が、1.2GHzへと格下げとなっている。
●Intel CPUの価格階層
ここで、Intelの第2四半期の価格戦略を整理しておこう。Intelは本来はCPUのリストプライスを、きっちりとした階層に整理していた。通常、CPUの性能が1グレード上がると価格が33%上がるように設定されている。つまり、100ドル→130ドル→180ドル……といった具合の階層状の価格になっている。実際の価格は、これよりも数ドル~10ドル程度ずれるが、それでも価格階層はおよその目安にはなる。この法則に沿って、Intelの現在のCPU価格計画(1,000個ロット時のOEM価格ベース)を整理すると次のようになる。
3月価格 | |||
Pentium 4 | Pentium III&Celeron | 区分 | |
800ドル前後 | |||
600ドル前後 | 1.5GHz | ||
450ドル前後 | 1.4GHz | ||
330ドル前後 | 1.3GHz | ||
250ドル前後 | 933MHz/1GHz | ||
180ドル前後 | 850/866MHz | ↑Pentium III | |
130ドル前後 | ↓Celeron | ||
100ドル前後 | 766/800MHz | ||
75ドル前後 | 733MHz以下 |
第2四半期の予定価格(4月末~7月頭頃まで) | |||
Pentium 4 | Pentium III&Celeron | 区分 | |
800ドル前後 | |||
600ドル前後 | 2GHz | ||
450ドル前後 | |||
330ドル前後 | 1.5GHz以上 | 1.2GHz | |
250ドル前後 | 1.5GHz | 1.13GHz | |
180ドル前後 | 1.3/1.4GHz | 933MHz/1GHz | ↑Pentium III |
130ドル前後 | 850MHz | ↓Celeron | |
100ドル前後 | 800MHz | ||
75ドル前後 | 766MHz以下 |
第2四半期で本来計画していた価格 | |||
Pentium 4 | Pentium III&Celeron | 区分 | |
800ドル前後 | |||
600ドル前後 | 1.5GHz以上 | ||
450ドル前後 | 1.5GHz | ||
330ドル前後 | 1.4GHz | 1.26GHz | |
250ドル前後 | 1.3GHz | 1.13GHz | |
180ドル前後 | 933MHz/1GHz | ↑Pentium III | |
130ドル前後 | 850MHz | ↓Celeron | |
100ドル前後 | 800MHz | ||
75ドル前後 | 766MHz以下 |
●大きく変わったPentium 4の価格ポジショニング
これを見るとわかるのは、3月時点の価格階層は、Pentium 4がPentium IIIの上の階層にあるきれいな構造になっていること。Pentium 4はあくまでもPentium IIIの上位のCPUという位置づけだ。ところが、4月末からはこれが一気に崩れ、Pentium 4は完全にPentium IIIと競合する価格レンジにやってくる。Pentium IIIとPentium 4で、CPUレベルでは完全に価格差がなくなるわけだ。
これを、先々週までOEMに通知していたもともとの価格計画と比べて見ると面白い。もともとの計画では、Pentium 4の価格は下げるものの、それでもPentium 4 1.4GHzでようやくPentium III 1.26GHzと同レベル。Pentium IIIの余地も十分残されていた。つまり、「Pentium IIIではTualatinはあまり売りたくはないけれど、Coppermineは安くていいよ。Pentium 4はその上のユーザー向けだね」というサインだったわけだ。そして、Pentium 4 1.5GHzから上は400ドル以上の高値のままだった。それが今では、「Pentium IIIとPentium 4は同じ価格なんだから、もうPentium 4にしないと損だよ」というサインに変わったわけだ。劇的な戦略の変化と言っていいだろう。
もっとも、Intelが新世代CPUの価格を旧世代CPUと同レベルかそれ以下にするのは伝統的な戦略だ。これまでも、この方法で新世代CPUを一気に普及させてきた。しかし、今回がこれまでと異なるのは、あまりにその時期が早いことだ。Pentium 4はリリースからまだ2四半期で、これまでのIntelなら、200ドルレンジにまで持ってくるのにあと2~3四半期はたっぷりかけるはずだった。このアグレッシブな価格戦略の裏にはいったい何があるのだろう。
●対Athlonの価格設定
まず、当然考えられるのは対Athlon戦略だ。Athlonの現在価格とIntelの第2四半期の価格計画を比べると面白い。Pentium 4の新価格は、Athlonに対して同価格なら300MHzのクロック差をつけている。Intelは、Athlonにこれだけの差をつければいいと考えているのかもしれない。一方、Pentium IIIの価格の方はというと、Athlonとだいたい同クロックで同価格となっている。逆に言えばAMDの方が価格を合わせている雰囲気がある。
Athlonの現在の価格 | |||
Athlon | Pentium 4 | Pentium III | |
330ドル前後 | 1.3/1.33GHz | 1.5GHz以上 | 1.2GHz |
250ドル前後 | 1.1/1.13/1.2GHz | 1.5GHz | 1.13GHz |
180ドル前後 | 950MHz/1GHz | 1.3/1.4GHz | 933MHz/1GHz |
Intelは、昨年後半から今年頭にかけて、Athlonが予想を大きく超えた成功を収めたことに警戒心を強めている。そのため、ここで一気にPentium 4の価格レンジを下へ持ってきて、なんとかしようと考えた可能性が高い。これまでは、その戦略は、RDRAMが足かせになってできなかった。Pentium 4システムにはRDRAMが必要なのに、RDRAMの供給量は限られていたからだ。CPU価格を下げても、RDRAMの調達が難しいため、PCメーカーがあまり乗り気にならなかったのだ。しかし、すでにレポートした通り、Samsung、エルピーダメモリ、東芝の3社がRDRAMの大増産に入ったことで、第2四半期以降はRDRAMをある程度の量確保できるメドが立った。そのため、Pentium 4の価格攻勢をもっとアグレッシブに促進できるようになった。Pentium 4システムの低価格化に弾みがつけば、RDRAMの需要も高まり、DRAMベンダーのRDRAMシフトも進むという、ポジティブスパイラルに持って行けるという読みもあるだろう。
●TullochとBrookdale-Gを来年投入
ただし、そうは言ってもいきなりPentium 4をPentium IIIに置き換えることはできない。まず、ダイサイズ(半導体本体の面積)の大きなPentium 4ではPentium IIIほどの生産個数を確保できないから、いきなりPentium 4の生産割合をガンと増やすとまた品不足に陥ってしまう。また、RDRAMにしても、メインストリームデスクトップの必要量をカバーできるメドはまだ立っていない。だから、大胆なPCメーカーがいきなり全ラインをPentium IIIからPentium 4に切り替えようと思っても、サポートがつかない(供給されない)可能性が高い。
Intelにしても、Pentium 4がPentium IIIに置き換わるのは、当初計画通り来年の第1四半期になると説明しているらしい。ということは、Pentium 4の普及の時期自体は変わらない。つまり、今回の低価格戦略はイコール普及加速ではないことになる。目的の主眼は、Pentium 4 PCの価格を1,200ドル以下に持って行くことで、Pentium 4の価格競争力を高めることだろう。また、それによって、PCメーカーの今年後半のPentium 4へのシフトを、促進するということだろう。
ちなみに、IntelはPentium 4のパフォーマンスアップの計画も変更していない。3月末のWinHECのキーノートスピーチでは、Intelのパトリック・ゲルシンガ副社長兼CTO(Intel Architecture Group)は、「Pentium 4の1.7GHz版が非常に近いうちに出る」と語っている。また、Pentium 4 2GHzも7月頃には登場すると見られている。さらに、第4四半期には0.13μm版Pentium 4(Northwood:ノースウッド)が2GHzと2.2GHzで登場。来年第2四半期までには2.4GHzにクロックが上がる見込みだ。
チップセットでは、予定通りSDRAMサポートのチップセットIntel 845(Brookdale:ブルックデール)を第3四半期に投入し、DDR SDRAMサポート版(Brookdale-DDR)も来年第1四半期に投入する見込みだ。また、来年中盤には、RDRAMベースの新チップセット「Tulloch(タラク)」と、DDR SDRAMベースのチップセット「Brookdale-G(ブルックデール-G)」も予定されている。
(2001年4月11日)
[Reported by 後藤 弘茂]