大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

第4回:パソコンは、まだ安くなるのか? 価格上昇をもたらす3つの要因



●パソコンの高性能・低価格化が進んだ1年

 この1年間を振り返ってみると、ノートパソコンの実売価格の下落は急速に進展した。 パソコンショップの販売データを直接集計しているコンピュータ・ニュース社の調べによると、2000年3月には239,921円だったノートパソコンの平均実売価格は、今年1月には195,971円と20万円を切り、実に44,000円もの下落幅となっているのだ。

 この背景には、ノートパソコンに採用される高性能CPUの価格が低下したこと、液晶ディスプレイの量産効果による価格低下というように、ノートパソコンの製造コストの多くを占める基幹部品の価格が下がっていることが直接影響している。

 今年3月の最新集計では、主要メーカーから新製品が発売されたことで単価が上昇、210,553円となっているが、それでも昨年3月と比べた下落幅は約3万円と大きなものになっている。

 一方、デスクトップパソコンは、昨年3月には167,224円だったものが、今年3月の集計では171,042円と逆に上昇傾向にある。この理由としては、昨年同期はソーテックの低価格パソコンが好調な売れ行きを見せていたが、昨年後半以降、ソーテック自身が高付加価値モデルへと事業の主軸を移し始めたことで、市場全体として、10万円を切る製品ラインが薄くなったこと。さらに、液晶ディスプレイ搭載モデルの売れ行き拡大で、売れ筋製品自体の単価が上昇してきたことがあげられる。

 だが、これも1年前に比べて、高性能CPUの搭載、メモリ、ハードディスクの容量増大といった機能強化が図られている点を考えると、平均単価の上昇という数字上の結果とは裏腹に、事実上の低価格化が進んでいるのは間違いない。

 いずれにしろ、日進月歩ならぬ、秒進分歩とさえいわれるIT産業の技術変化の激しさによって、どんどん高性能モデルが低価格で購入できるという構図にさらに拍車がかかったのが、この1年だったといっていいだろう。


●さらに安くなり、普及が進む液晶ディスプレイ

 問題は、これからもパソコンの価格は下落するのかという点だ。

 もちろん、これまで通り、パソコンの高性能化が進展し、それがより安い価格で買えるようになるというサイクルは持続することになるだろう。18か月で2倍の性能に達し、価格は同じという「ムーアの法則」は、CPUの世界では相変わらず健在で、これがパソコンの高性能化と低価格を実現している。

 また、日本IBMでは、企業向けとはいいながらも、「この5月には、デルコンピュータよりも安いノートパソコンを投入する」ことを漏らしており、10万円台前半の製品が登場することを示唆している。こうしたメーカー間の競争も、パソコンの価格低下に拍車をかけることになろう。

 一方、価格が上昇傾向にあったデスクトップパソコンに関しても、液晶ディスプレイそのもののコストが下落していることで、2001年度は、間違いなく価格が下降する方向にシフトするだろう。

 あるディスプレイメーカー関係者は、「15インチ液晶は、今年後半には、単体でも5万円台の攻防になってくるのは間違いない。1年前に比べて約半分の価格になっている。さらに、今年は17インチ液晶の価格下落が最も激しい年と見ており、17インチ液晶のパソコン本体へのバンドルも急速に進展するだろう」と話す。

 また、別のディスプレイメーカー幹部は、「今年3月末には、企業からの一括受注案件において、15インチ液晶ディスプレイを4万円台で応札したところがあった。こうした無茶な商談が実際に動くようになれば、韓国、国内を含めたディスプレイメーカー各社もそれに向けた体制を整え始めるのは当然。今後はますます液晶の価格下落に拍車がかかる」と話す。

 今後1年を展望しても、BluetoothやUSB2.0の採用、ADSLモデムの搭載など、期待される新技術は目白押しだが、いずれもパソコン本体の急激な単価上昇の要因になるとは考えにくい。液晶の価格下落が、これを吸収してしまう程度だろう。Windows XPに関しても、現行モデルの範囲であれば、十分動作が可能であるために、これによる高性能化、高価格化もないと見られる。

 技術的側面から見た場合、パソコン本体の高性能化と、価格の下落は、今年も持続するといっていい。


●価格を上昇させそうな3つの要因

 だが、その一方で、技術以外の外的要因によって、パソコンの価格を上昇させるような動きがいくつか見られているのだ。

 第1点目は、メーカーから販売店に支払われるインセンティブ(販促支援金)の減少に伴う、値引き幅の縮小という要因である。

 一部報道などによると、2000年度上期に家電量販店、パソコンショップなど上位10社に支払われた販促金は、合計で約107億円といわれている。これは、'99年度上期と比較するとほぼ横這いである。

 販促金は、一般的に売り上げ金額に応じて支払われることが多いため、売上高が上昇すれば、それに比例して販促金も上昇する。'99年度上期と2000年度上期を比較すると上位10社の売上高は17%も上昇しており、売上高対比での販促金比率は減少傾向にあるのだ。

 さらに、「このインセンティブの構成の中心は、携帯電話に移行しており、パソコンという側面でみれば数字以上に減少している」(販売店関係者)との指摘もある。パソコンメーカーの業績が悪化するなかで、メーカー各社は相次いで販促金の絶対額を絞り込んでおり、これが実売価格の底上げに影響するというわけだ。

 第2点目は、来年4月の施行が見込まれている個人向けパソコンのリサイクルの影響だ。

 改正リサイクル法では、今年4月の施行と同時に、企業から廃棄されるパソコンに関しては回収の義務が課せられている。家庭で利用している個人向けパソコンに関しては、来年4月以降から対象になると見られているが、関係者などによると、その指針が今年7月にも決定することになる。

 問題は、この回収費用に関して、廃棄時徴収になるのか、販売時徴収になるのか、という点だ。法人向けパソコンは廃棄時徴収のスタイルを採用、個人向けとして先行採用された家電4品目(テレビ、エアコン、冷蔵庫、洗濯機)も同様に廃棄時徴収の仕組みを採用している。

 だが、家電4品目では、早くも「不法投棄の温床になっていること、販売時の値引き交渉の対象になっているという問題が表面化している。今後、販売時徴収に改正するように働きかける」(家電量販店など48社で構成するNEBAの岡嶋昇一会長)という動きが出ている。

 同様にパソコンショップなどで構成される業界団体の日本コンピュータシステム販売店協会でも、販売時徴収の方向で意見をとりまとめているようだ。

 メーカー側では、販売時徴収では、廃棄時点でのリサイクルに関わるコストの計算が難しいことや、過去に販売した製品との整合性が取りにくいことを理由に、廃棄時徴収を主張しているが、どうも業界全体としては、販売時徴収の方向に動きはじめているのは事実のようだ。そうなれば、今後発売されるパソコンには、2,000~3,000円程度の回収費用が上乗せされるということになる。

 パソコンをどんどん買い換えて、古いパソコンを中古パソコンショップに売るというタイプのユーザーにとっては、販売時徴収は、その負担分だけ、本体の値上げと同等の意味をもつことになる。

 3点目は、Windows XPが発売される今年秋までの一時的要因であるが、このWindows XPへのアップグレードを巡る価格上昇だ。

 先に断っておくが、これはまだ流動的な話で最終決定ではない。だが、現時点でのパソコンメーカーへの取材などをまとめると、Windows XP発売直前にパソコンを購入したユーザーは、Windows XPへのアップグレードが、ユーザー負担によるものになりそうなのだ。

 これまでのWindows 98、Windows Meへのアップグレードは、発売直前の一定期間に購入したユーザーに関しては、無償でアップグレードができた。

 だが、実は、この制度は、パソコンメーカーがマイクロソフトから新OSを購入して、メーカーは自らの「持ち出し」という形で、ユーザーに無償で提供することで実現されていた。メーカーが「持ち出し」覚悟で無償アップグレードしていた背景には、新OS発売までの間のユーザーの買い控えを避けるためと、事実上、メーカー各社が横並びで無償対応しているという競合上の問題がある。

 その結果、パソコン最大手のNECなどはこの期間中に販売される20~30万本を超えるOSの代金を、事実上、「持ち出し」で対応していたわけで、その費用は馬鹿にならない。

 メーカー関係者の話では、「収益が悪化しているなかで、こうした対応は事実上不可能になっている。マイクロソフトも、無償アップグレードに配慮した特別価格での提供は計画していないようで、今回は、XP発売前のパソコン買い控え覚悟で、アップグレードをユーザー負担に頼ることになるだろう」と話す。

 だが、これも1社が無償アップグレードに乗り出せば、各社横並びという形になる可能性は捨てきれない。過去の例でも、外資系メーカーが「無償」を仕掛けて、しぶしぶ国産メーカーが追随するということがあっただけに、蓋を開けてみるまでわからない、といったところだ。

 こうしてみると、技術的側面では、低価格の要因があるものの、いくつかの外的要因がパソコンの価格上昇をもたらすことになりそうだ。

 今年度のパソコンの価格の行方は、外的要因を上回る技術進展と価格下落がカギとなる!?


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(2001年4月20日)

[Reported by 大河原 克行]


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