大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

第5回:日本橋電器街 VS. ヨドバシカメラ ~大阪夏の陣


建築中のヨドバシカメラ
 これから大阪が熱くなりそうだ。といっても、気候の話ではなく、ましてやユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)のゴールデンウイークの好調ぶりや、夏の甲子園に向けた地元校の活躍の話ではない。今回の話題は、大阪を舞台にしたパソコンショップの熾烈な、熱い争いのことである。

 なぜ、大阪が熱いのか。実は、今年5月には、千日前にビックカメラが出店、さらに今年11月には、梅田駅の北側にヨドバシカメラが出店することが決定、さらに、ソフマップもターミナル駅への大型店舗の出店を明らかにするなど、今年は大阪エリアに大型店舗が続々と出店するのだ。

 つまり、今年の年末にかけて、大阪エリアには、相次ぐ新規大型パソコンショップの出店が予定されており、その影響で販売店間の争いが激化するのは間違いないというわけだ。

 昨年も、大店立地法施行の影響で、全国各地で大型パソコンショップの出店ラッシュになったのは記憶に新しい。大阪エリアもご多分に漏れず、ソフマップの梅田への出店、ヤマダ電気の福島への出店などが見られた。

 だが、今回の出店は、ポイントカード制度を武器に安売り競争を仕掛けるヨドバシカメラ、ビックカメラの参戦となり、「これまでの大型店の出店とは違う、安売り競争が始まる」(大阪・日本橋の大手パソコンショップ幹部)ともいえるのだ。

 関西エリアのパソコンユーザーにとっては、パソコンを安く買うチャンスが増えるということにつながるというわけだ。

 まず、現時点で明らかになっている点をまとめておこう。

 ビックカメラの出店場所は、かつて、ファッションビルである「プランタンなんば」が入店していた場所である。年輩の方には旧「千日デパート」の跡地といった方がわかりやすいかもしれない。

 これを全館利用して、カメラ、家電、パソコンを取り扱うことになる。

 難波駅からは少し離れた場所とはいえ、千日前の繁華街の真ん中に位置するだけに、集客力はかなりのものが期待できるだろう。

 一方、ヨドバシカメラは、梅田駅の北側のかつてのJR所有地を1,010億円で落札、ここに大型ビルを建設しての出店となる。阪急ホテルの前で、JR大阪駅、地下鉄梅田駅から地下道で直結される立地の良さ。現在、ビルを建設中で、11月には全館の3分の1を利用して、ビックカメラ同様、カメラ、家電、パソコンなどが展示販売される。最終的には、地下1階、地上4階をヨドバシカメラが使用、13階建ての店舗棟には、数々のテナントが入居し、一大ショッピングエリアを形成する。

各方向からみたヨドバシカメラ。その大きさと駅至近の立地がよくわかる

 ソフマップに関しては、姫路などへの出店の噂があがっているが、「大阪南側のターミナル駅への出店が有力」という声が同社関係者の間からあがっており、こちらの出店の方が先行するだろう。ソフマップは、昨年11月の梅田への出店、さらに日本橋にザウルス2をオープンするなど、関西エリアにおける出店攻勢が続いている。

 ところで、こうした関東勢の相次ぐ出店に共通しているのは、いずれも日本橋への出店ではない、という点だ。

 大阪・日本橋電器街は、東京・秋葉原、名古屋・大須と並ぶ三大電気街のひとつ。上新電機、ニノミヤといった地元量販店のほか、ソフマップ、OAシステムプラザなどのパソコン専門店が軒を連ねる。最近では、同人誌系の販売店も増えており、その点でも秋葉原と同じような動きが見られている。

 今回の、こうした各社の相次ぐ新規出店は、むしろ、日本橋包囲網ともいえる立地への出店というわけである。

 では、なぜ、日本橋以外の地域への出店が見られているのだろうか。

 大きな理由としてあげられるのが、パソコンがコモディティ化したことで、電器街の専門店が扱う商品ではなくなってきたという点だ。つまり、ふつうにショッピングに訪れた家族連れ、カップルなどがプラっと寄って、手軽に購入していく商材に、パソコンおよびパソコン関連製品が位置づけられるようになってきたということだ。

 梅田、心斎橋(千日前)といった地域への大型パソコンショップの出店は、まさにそれを意味しているといっていい。

 これは東京エリアでも、同様で、有楽町にビックカメラ、ソフマップが相次いで出店するというのも同じ理由からだ。

 だが、大阪エリアならではの理由も当然ある。ひとつは、日本橋の立地の問題だ。

 日本橋電器街は、堺筋線の恵比須町駅が最寄りの駅だが、ターミナル駅ではないことから、多くのユーザーがなんらかの乗り換えを経由してここにたどり着く。少し離れた場所に一大ターミナルである難波駅があるが、買ったパソコンを持って移動するにはちょっと無理がある距離だ。

 例えば、Windowsの深夜零時のカウントダウン発売の際なども、東京・秋葉原の場合であれば、急げばJRを利用して帰ることができるが、大阪・日本橋の場合は、地下鉄の終電時間が早いために、電車で帰ることはほぼあきらめざるを得ない、という点でも、交通手段の不便さのひとつといえる。

 同様に自動車で訪れるにしても、駐車場が少ないなどの問題が浮上している。また、歩行者用道路が狭いといったことも指摘されており、大きな荷物をもって歩くには不便との声もある。

 それに対して、激戦区となりつつある梅田は、地下鉄が4線入っているのに加え、神戸、京都などからも乗り換えなしでこられるという好立地だ。帰宅途中にちょっと寄ってみる、というユーザーを獲得するには、極めていい場所といえるのだ。また、駐車場も梅田駅周辺には数多く完備されており、この点でも梅田の優位性がある。

 これに対して、日本橋電器街の周辺には、古くからの住民たちが数多く住んでいることから、街全体の再開発がすすめにくいという問題もある。

 かつて、ある地元大手量販店の創業社長が、日本橋電器街の発展のためには大型の駐車場が必要であるとして、堺筋通りの地下に大型駐車場の建設案を提示したことがあったが、電器街側が強力に推進するのとは裏腹に、地域住民が大反対し、これが実現しなかったという逸話があるほどだ。

 再開発などによって、日本橋の街自体を大きく変化させるというのは、これ以上は難しいというのが実体だろう。

 その点、梅田は大規模再開発のまっただなかにあり、一大ショッピングエリアとしての変貌も期待されているのだ。

 このように梅田地区が、ヨドバシカメラ、ソフマップ、ヤマダ電機によって、ひとつの市場を形成するのならば、地元の大手量販店も梅田に進出し、真っ向から対立するというのもひとつの手法だ。地元量販のブランドは、東京から見る以上に地元に浸透しており、同じ立地のなかであればその優位性が発揮できるからだ。

 しかし、地元大手量販の梅田への本格出店はないだろう。その理由は明快である。もし、日本橋に大型店を構える量販店が、梅田に進出してしまえば、それは梅田への集客拡大を促し、日本橋の地盤沈下を促進することに直結するからだ。

 わざわざ日本橋にいかなくても、地元にブランド力がある量販店で商品が買えるとなれば、日本橋の集客はますます減少していくことになる。関東勢が相次いで梅田に進出しているのに対して、関西の地元勢が進出できないジレンマはこんなところに理由があるのだ。

 日本橋のある販売店は、「昨年後半以降、日本橋への集客数は7割程度に減っているようだ」と話す。

 とくに、大型店舗が軒を連ねる日本橋5丁目近辺の集客力が落ちているといわれる。

 ある大手販売店の幹部は、「どうにもならない大型店を維持するのに苦労しているくらいならば、そこに大型100円ショップでも誘致したほうが日本橋全体の活性化につながる」と吐き捨てる。事実、なんさん通りの先の、電器街から外れたところに100円ショップができて新たな集客を呼んでいる。だが少し離れているために、電器街の集客にはつながっていないのが実状だ。「これが、電器街の真ん中にできれば、話は違ったのだが……」というのが、先の販売店幹部の落胆につながっている。

 いずれにしろ、日本橋 VS. 梅田の図式は、今後、より鮮明になってくるだろう。いや、むしろ、日本橋電器街 VS. ヨドバシカメラといってもいいかもしれない。

 「コジマ、ヤマダは、低価格で仕掛けてくるが、ヨドバシの場合は、低価格+ポイントカードで攻めてくる分、その影響力は大きい。この価格に真っ向から対抗していては、とても身が持たない」というのは関東のある量販店の声だ。

 ヨドバシカメラと、秋葉原の雄であるラオックスの直接対決となった宮城県仙台の「仙台決戦」では、ラオックスが、秋葉原では行なっていないポイント制度を、唯一、仙台店だけで導入したにも関わらず、形勢はヨドバシカメラにある、との見方が大半だ。

 「上新電機やニノミヤは、まだヨドバシの怖さを知らないだけに、どうものんびりしているようにしかみえない。われわれはヨドバシの怖さを知っているからこそ、いまから準備をすすめている」とはソフマップ。

 当然、ヨドバシカメラは、開店と同時に13%のポイント還元サービスをスタートさせるだろう。場合によっては、キャンペーンとして15%還元を打ち出すことも視野にいれておかなくてはいけない、という指摘すら関係者の間では出ている。

 ヨドバシカメラにいかに対抗するか、ということは、日本橋電器街全体の盛衰を決定づけることになりかねないと感じるのだが……。


バックナンバー

(2001年5月1日)

[Reported by 大河原 克行]


【PC Watchホームページ】


ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp

Copyright (c) 2001 impress corporation All rights reserved.