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第94回:Windows XPはノートPCの体験も変えてくれる? |
Windows XPは、これまでのマイクロソフトとは異なる(好みにもよるだろうが)カラフルなデザインと、タスク指向で目的の機能にたどりつきやすいインターフェイスを備えて、今年の秋に登場する。3月23日には英語版のβ2が完成し、今週から各OEMに向けてリリースが開始される予定だ。
この連載を振り返ると、モバイルユーザーこそWindows 2000を使うべきだ、との記事を掲載したことがあった。これはWindows Meが登場した今も間違っていないと思う。ではWindows 2000とMe、両方の後継であるWindows XPも、モバイルユーザーにとって有益なリリースとなるのだろうか。マイクロソフト風に言えば、Windows XPはノートPCユーザーの体験も変えてくれるのか?
●基本はあくまでWindows 2000だが
Windows XPは、マイクロソフトのマーケティング担当者自身が認めているように、Windows NT 5.1(Windows 2000をNT 5.0とした場合)と言える、OSのカーネル部分に関してはマイナーバージョンアップでしかない。しかし多くのユーザーにとって、Windows XPはWindows 2000よりも重要なリリースになる。
理由は、個人のユーザーが購入するノートPCのOSは、まだまだWindows 9x/Meであることが多いからだ。メーカーがサポートしていない、特殊なドライバが存在する、などさまざまな理由で、Windows 2000に移行できなかったユーザーも、Windows XPには移行できる可能性が高い。また、個人向けに販売されるPCにプリインストールされることで急速に広がることも間違いない。
まったく障害なく、現在のすべてのWindows 9x/MeユーザーがWindows XPへと移っていくことはできないだろう。しかし、時間がいずれは解決してくれる。ユーザーが多くいないところには、良いソフトウェアが育たないことは間違いなく、安定性とパフォーマンスに優れるWindows NTベースのシステムに多くの個人ユーザーが流れ込むことで、より良いプラットフォームへと成長することが期待できる。
Windows 2000はノートPCと組み合わせた時、オフラインフォルダや、速いレジューム速度、わかりやすく高機能なダイヤルネットワーククライアント、より細かなプロセッサのステータス制御、より進んだACPIサポートなどのメリットを享受できる。
Windows XPもこうした機能は引き継がれ、一部についてはさらに拡張されているのだが、パッケージによって実装されない機能がある。Windows XPは家庭向けのHome Editionと、企業クライアント向けのProfessional Editionがあるが、Home Editionでは、モバイル関連の機能のうちオフラインフォルダが利用できない。
マイクロソフトの担当者によると、Home Edition(個人向けPCのほとんどがHome Editionを採用するはず)からProfessional Editionへのアップグレードパスを用意するそうだが、少々残念な点ではある。
●レジューム速度が高速化される?
基本的にWindows 2000と同じとはいえ、チューニングが進んでいる部分も当然ながら存在する。そのうちの1つがレジューム速度の高速化だ。Windows XPは、Windows Meと同じように高速ブート機能に対応することになっているが、Windows Meの時とは異なり「何秒でブートが完了します」といったギャランティは行なわれていない。
その代わりと言ってはなんだが、レジューム速度に関しては、かなり集中的に改良を施したようだ。レジューム時に必要な再構成のプロセスを、さまざまな方向から並列化、あるいは低プライオリティのバックグラウンドプロセスとし、カーネル内のプラグ&プレイマネージャは各ACPI機器の電源再投入/再構成処理の完了を待たずに制御を返すようになった。さらにキーボード、マウス、PCカードの各ドライバ(いずれも反応の遅いレガシーデバイス)の初期化は、完全にバックグラウンドプロセスで行なわれるように変更したという。
これらにより、レジューム速度はかなり高速化されているようだ。実際、WinHECの展示会場でのデモを見ると、レジュームボタンを押すと、まるでバックライトだけが消えていたかのように、素早く動作可能状態にまで復帰する。
ただし、復帰速度は各デバイスドライバの実装に大きく依存するそうで、デバイスドライバの出来が悪ければ、劇的な高速化は期待できないという。このため、マイクロソフトはBootvisという起動プロセスのパフォーマンス分析を行なうツールを提供している。
Bootvisを使えば、コールドブート、レジュームなどのプロセスで、どれぐらいの時間をどの部分で使っているかを簡単に分析することができる。すべてのノートPCが、素早いレジューム速度を実現できればいいのだが、当面はどの程度のパフォーマンスを実現できるのか、ベンチマークなどで各製品を評価しながらクオリティチェックを行なう必要がありそうだ。
●プロセッサごとに省電力機能の最適化が可能になるWindows XP
Windows 2000にアップグレードしたら、気のせいか少しバッテリ寿命が延びたような気がするという話を聞いたことがある。実際、僕自身もWindows 98が動いていたThinkPad 570にWindows 2000をインストールしたら、バッテリの保ちが良くなった経験がある。
これはWindows 2000が、ACPIのS0ステート時にプロセッサの動作ステータス(Cステート)を実に細かく制御しているためだ。たとえば、WordやInternet Explorerなど、利用時間のほとんどがプロセッサのアイドルタイムで占められるようなアプリケーションでは、ほとんど瞬間的にしか電力を喰わない。ほかの時間はクイックスタートモードに落ちてしまう。この時のモバイルPentium IIIは、わずか500ミリワットしか電力を消費しなくなる。
ただし、Windows 2000のACPIによるプロセッサ電力管理は、設計時点で判明していた仕様を元に固定パラメータで動作している。つまり、モバイルPentium IIIが備える省電力モードに最適化されているわけだ。
Windows XPではこの機能を拡張し、プロセッサ電源管理のパラメータをプログラマブルにしているという。つまり、カスタマイズ次第で新しいプロセッサの省電力機能を生かすことができる。まもなく製品として登場予定のモバイルAthlonや将来のモバイルPentium 4などが、新しい省電力動作モードをサポートした時には、それをどのように利用するかをカスタマイズする事で、さらに省電力化することができる。
さらにSpeedStepやPowerNow! で見られるような、プロセッサパフォーマンス調整のしくみをシステムレベルでサポートしている。これにより、OS内部で管理されている各プロセスのCPU使用時間を元に、より高精度なプロセッサ管理が可能になるだろう。
●またも延命されそうなPCカード
もう1つWindows XPとは関係がないが、最新のPCカード仕様であるCardBayが正式バージョンになったという話を、WinHEC会場で聞くことができた。CardBayはCardBus仕様のPCカードに、USBの信号線と電源供給線、それに新カードを認識するためのプロトコルを追加したものだ。将来的にはUSB 2.0の仕様も取り込むため、長期的にはかなりの高速化を望むことができる。
モバイル機器においてカード型のデバイスは、扱いが容易で持ち運びしやすいため、ノートPCに拡張性を持たせる手段としては最適と言える。そうした意味からすれば、カード型のUSB機器が利用できるCardBayは魅力的だ。
しかし、元となっているPCカードの仕様そのものが古すぎることは否定できない。PCカードは元々ISAベースの古いバス仕様に、機械的な挿抜検出の仕組みなどを組み合わせており、コネクタも耐久性に関して多くを望めない。存在そのものがレガシーなのだ。
PCMCIAは、PCIベースのCardBus仕様を決めたとき、一度はレガシーを捨てるチャンスがあった。互換性を持たない仕様を選べることにすればよかったのだ。そして今回、やはりレガシーPCカードをサポートしない仕様と、完全なる互換性を持つ仕様の両方を選択できるようにできたはずである。
しかし、結果的にCardBayはレガシーも含めてすべてのPCカード仕様をサポートしなければならなくなった。PCカードはさらに延命がはかられ、まだ当分はなくなりそうにない。
□間連記事
【3月13日】マイクロソフト、Windows XPを国内で公開
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010313/ms.htm
【2月14日】Microsoft、Windows XPのロゴとスクリーンショットを公開
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010214/ms.htm
【3月27日】PCMCIA、PCカードスロットをUSB対応とするCardBay規格を発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010327/cardbay.htm
(2001年3月27日)
[Text by 本田雅一]