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第93回:新CLIEに感じた疑問 |
先日ある仕事で、PDAを6種類もオンラインショップで購入し、そのプロセスや(直販の場合は)カスタマリレーションについて調べるという作業を行なった。中には所有しているものもあった上、各製品は末期モデルも存在したから、なんとも無駄なことを……と思いつつレポートを書いたものだ。
そうこうしているうちに、春の新製品が登場してきた。PDAの話題を2週続けるのはどうかと思うが、これだけ数多く登場してくるとどうしても気になる。中でもPalm OS搭載機は一斉切り替えといった感じだ。
●Palmの真価とは
先週、iPAQの名を出したばかりなのに、と言われそうだが、iPAQ(Pocket PC)とPalmは(今更ではあるが)全く性格を異にする製品だ。もちろん、PDAという分類の中で競合はするが、あまりに性格が異なりすぎて比較できない。
知り合いのあるPalmユーザーは「iPAQは、ターガスの折り畳みキーボードと一緒に持ち歩いてPHSカードでも挿しておけば、とりあえずノートPCはいらないなぁ」と話していた。Pocket PCは、名前の通りポケットサイズのPCととらえるのが正しい。iPAQのPCカードジャケットは、PCカード用のリチウムポリマーバッテリも内蔵しているため、長時間通信を行ないながら作業ができるはず。
ではPalmが真価を発揮するシーンとはなんだろう。言い尽くされていることだが、PC上で管理している情報を切り出し、手早く参照できる道具として最適なもの、というのが僕の認識だ。だから、転送したメールを自動受信できる携帯電話やPHSと組み合わせると便利だと思うし、ノートPCとも補完関係になる(当然ZAURUSは? という問いもあるだろうがここでは割愛したい)。
だから、Palm Vxのような携帯しやすいPalmはもっともPalmらしい製品だと思うし、ソニーのCLIEを買うなら視認性の高いモノクロモデルがいいと個人的には考えている。ちなみに、今はVisor DeluxeにOutlookの情報を同期させているが、これはVisorだとSpringboardで遊べるから。個人で使うなら、好みで遊べる機種を選ぶのもいい。
そうした手軽なPalmの使い勝手の良さを選んだ上で、ユーザーが「これもやりたい」とニーズが広がっていき、そこにニッチ商品やソフトウェアが生まれるのは、至極当然のことだ。しかし、Palmでなんでもやろう、これも加えよう、という考えが先行しすぎてしまうと製品コンセプトがずれてくる。
●新カラーCLIEになにを求めようというのか?
幸い、僕はある雑誌社の関係で短時間ながら新CLIEに触れることができた。今回の製品も実際に購入し、評価してみようと思っている。しかし、諸手を挙げて新CLIEに賛成しているわけではない。非常にすばらしいと思う部分がある反面、どうにもしっくりと来ない部分も感じている。
すばらしいと思うのは、縦横を2倍にした解像度だ。もちろん、ソニー独自の拡張となるが、ソフトウェアの互換性は取れている。高解像度対応の地図ビューアもダウンロードできるようになるが、機能性うんぬんよりも、ちゃんと日本語が表示できるようになったことが大きい。
Palmのソフトは、どれも8ポイントのスモールフォントでバランスが取られている。日本語版では、デフォルトが12ポイントのラージフォントだが、これだと文字が大きすぎてカッコ悪い。しかし、8ポイントではまともに漢字を表現できないし、12ポイントにしても大して綺麗に表示できるわけではない。
あるパーティの席上、Palmにはもっと解像度が必要ではないかと水を向けると「シンプルなことがPalmの美徳なのに、これ以上の機能を求めてどうする」と言われたことがある。しかし、機能性の話と、母国語がきちんと表示できるかどうかは話が異なる。
新CLIEは、またもやソニーの独断先行か? と批判されることもあるだろうが、日本向けモデルとして解像度を上げたことは素直に評価したいと思う。
しかし、音楽再生はどうだろうか? 11時間連続再生可能な音楽再生機能は、ネットワークウォークマンが欲しいと思っているような人には悪い機能じゃないかもしれない。最近はOpenMGも、以前に酷評した時ほどは悪くないようだ(もっとも、あまりいいとも思えないが)。
しかし、旧型との価格差(カラーで15,000円、モノクロなら2万円)が比較的大きいこと、専用DSPを用いた機能であること、重量もサイズも大きくなっていることなどを考えれば、すべての人に必要とは言い切れない。もし僕が音楽再生機能を欲しいのであれば、別途、音楽再生専用の装置を利用する。動画再生にしても、どうしてPalmで頑張って動画再生させるのか。Palm好きのユーザーが遊びでやるなら話はわかるが、Palmで動画を扱うことの実効性に疑問を感じる。
高解像度で日本語が見やすいPalmを作ったことで、少し使ってみたいと思う反面、無用に多機能化が進んでいるというイメージを強く感じた。“エンターテイメント”という言葉はわかるが、それでなにをやりたいのか? どんな製品にしたいのか? 人気の出そうな機能を組み込んだだけなのか? 今1つ理解に苦しむところが残る。
●現世代のコンセプトとマーケティングトークのギャップ
もっともCLIEを全く理解できないわけではない。コンシューマに対して、CLIEを用いて楽しさを演出しようと思えば、結果として今回の製品が生まれてくるというのも理解はできる。しかし、来年に予定されているARMプロセッサへの移行を考えれば、今は現行のPalmが得意とする分野の中で勝負してくれた方がいい。
たとえば、今回の製品で言えばPEG-E700C以外に、PEG-S300の上位機種(モノクロ軽量でダブルレゾリューション)が用意されていたなら、こんな感想は持たなかっただろう。あるいはCLIEがメモリースティックではなく、Springboardのような(機能追加モジュールとして)現実的なオプションを用意していれば、テクノロジガジェットとしておもしろい展開もあっただろうが……。
今のPalmはクロックが少々上がろうとも、圧倒的にプロセッサのパワーが劣っている。その代わりに、PalmはPalmらしい分野で活躍できるシンプルなアーキテクチャが、今の製品の魅力を生んでいる。そうした基本を壊さずに(派手に)機能をアップさせるためには、何らかのハードウェア追加は必要になる。
また、ネットワークとの接続に関しても、速度が上がってしまうと現行のプロセッサでは、TCP/IPでPHSの速度を活かせないという問題もある。TCP/IPのソフトウェアとしての実装に問題があるのかもしれないが、やはりプロセッサパワーの不足が最大の原因だろう。同じ理由で、WebブラウザのPalmScapeも使い勝手が悪い。
今のまま、各社がPalm OSに手を加え続けている状況で、果たしてARMへの移行時、すべての環境に対して配慮されたAPIを持つ汎用的なOSに仕上がるのか。仕上がったとして、どこまで複雑さを回避できるのか。
市場は常に動いているし、1つの分野で満足されるようになると(Palmの場合はPCの情報クリッパー的機能)、ユーザーは別の要求をしはじめる。そこに追随するのは正しいことだが、今は動きやすくなるまで(ARMへと移行するまで)、本来コンピートしてきたところに留まるべきではないか。
Palm OSは次の段階へと進むためにさまざまな改良が計画されている。しかし一方で根本的な変化が訪れるまでの間、ユーザーに対して新しい提案をしていかなければならない。今はその狭間で、ギャップに苦しんでいる時期だろう。
これからの新入学、就職シーズン、新たにPDAを買いたい、中でもPalmを選びたいと思っている人がいるなら、こうアドバイスしたい。今買うなら、軽量で手軽に情報が参照をできる簡潔な製品を選ぶことを勧める、と。
□間連記事
【3月14日】ソニー、反射型カラーTFT液晶を搭載した新CLIE
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010314/sony.htm
□ソニースタイルのホームページ
http://www.jp.sonystyle.com/home.html
[Text by 本田雅一]