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●Pentium 4リリースでRDRAMは数が見え始めた
昨年後半のSDRAM価格の暴落は、DRAMベンダーの状況を一変させた。昨年のDRAMベンダーは、堅調なDRAM需要を背景にイケイケドンドンモードだった。これなら製造キャパシティを広げても大丈夫だろうという読みのもとに、一部メーカーは設備投資もガンガン行なっていた。メモリアーキテクチャも、SDRAMからDDR SDRAMへとある程度価格も維持しながら推移して、収益を確保できると踏んでいた。ところが、需要の縮小と価格の下落で、そうした楽観的な見通しは吹き飛んでしまった。各社は、なんとか収益を上げる手を考えなくてはならなくなった。
こうした状態で、RDRAMカードを持つDRAMベンダーの間ではRDRAMへの揺り戻し(増産計画)が進んでいた。Samsungは、昨年のIntelの「RDRAM Credit Program」で、ボックスバンドルのRDRAMメインサプライヤになったこともあり、“DDR SDRAMもやるけどRDRAMもやる”的な色彩を強めていた。そして、エルピーダメモリ(NEC+日立製作所)も東芝も、この状況で利幅がそこそこ取れて、しかも確実な出荷量が読めるのはRDRAMだと見始めていた。
「Brookdale(ブルックデール:SDRAMベースのPentium 4チップセット)が出るまでの間も、IntelはやはりPentium 4を数出すことを考える、そうすると、RDRAMが必要になる。RDRAMはPentium 4などの絡みで数がはっきり見えているので堅いビジネスだ」とあるDRAM関係者は言う。つまり、Pentium 4が無事デビューし、そのPentium 4の普及を急ぐIntelの態度が鮮明になったことで、RDRAMの需要が読めるようになったわけだ。
一方、DDR SDRAMは最初の期待より、立ち上がりに時間がかかりそうな気配が昨年末頃から見えてきた。例えば、「Intel Developer Forum(IDF)」でスピーチしたSamsungのJon Kang氏(Senior Vice President, Memory Division)は、「DDR SDRAMはたぶん来年まではリアルボリュームで立ち上がらない」、「DDR SDRAMは最初はサーバーアプリケーション。ボリュームゾーンへ浸透するには時間がかかる」と説明した。そのため、DDR SDRAMが本格的に立ち上がるまでは、RDRAMで突っ走ろうと3社は考えたようだ。
もちろん、3社ともDDR SDRAMをやらないわけではない。例えば、エルピーダの犬飼英守氏(取締役、テクニカルマーケティング本部本部長)は、IDFのセッションで今年末の製品比率について「RDRAMが30%、DDR SDRAMは15%を予想している」と説明している。要は、DDR SDRAMもやるけれど、ボリュームが立ち上がり始めるのが今年後半、おそらく第4四半期頃になってしまうので、それまではRDRAMで稼ごうという話なのだ。MicronやHyundaiのように、DDR SDRAMだけに突っ込むのではなく、DDR SDRAMという保険はかけながら、RDRAMを増産する両天秤戦略と言い換えた方がいいかもしれない。
●4iで3社合意ができたのは1月後半?
こうした流れで、今年1月頃には3社のRDRAM増産方針は確実になっていたようだ。そこに、さらに「4i」という札が絡んでくる。RDRAMの製造コストを引き下げる4iデザインは、以前から存在は知られていたが、昨年7月のPlatform ConferenceでSamsungが発表するまでは、DRAMベンダーはコミットを明らかにしていなかった。
Samsungは、4iデザインのRDRAMを、今年の後半から0.17μmプロセスで出荷するつもりでいた。だが、関係者によると、少なくとも4i開発を始めた段階では、Intelのチップセットでサポートを得られる確実な保証を得ていたわけではないらしい。それでも4iデザインを開発してしまうところに、Samsungの開発リソースの豊富さとRambusとの結びつきの強さ、そしてIntelへの影響力に対する自信が見える。
いずれにせよ、実際に4iを開発してRDRAMチップのコストを大幅に削減できる見通しを立てたことで、SamsungとRambusはIntelに4iサポートを強く働きかけていたらしい。そして、おそらく1月になったあたりで風向きが変わり始める。Intelが2002年の次世代Pentium 4チップセットをRDRAMベースにすることを確認し、そこで4iとPC1066(1,066MB/secの転送レートの高速RDRAM)のサポートを決めたのだ。
それに呼応して、エルピーダと東芝も4iとPC1066をやると宣言(エルピーダはそれ以前からPC1066のサポートを明らかにしていた)することになった。それまでは、両社は、Intelチップセットでのサポートがない限り4iの開発はできないと考えていたようだ。「4iはIntelのチップセットのサポートが決まったからやることにした。サポートがなければやれない。それだけの話」と犬飼氏は説明する。
ある関係者は、この3社とIntelによる4i立ち上げの合意は、1月末のPlatform Conferenceの直前あたりの時点で決まったと伝える。もしそれが本当なら、DDR SDRAMがPlatform Conferenceで勢いづく前になんとかしようと動いた可能性が高い。じつに政治的な戦いが、水面下では行なわれていたわけだ。
実際、エルピーダと東芝の生産計画は、4iがつい最近決まったことを裏付ける。それは、この2社の4iが来年前半の量産予定となっており、しかも0.15μmプロセスを飛ばしていきなり0.13μmプロセスになっているからだ。4iまで1年のタイムラグがあることは、4i開発が潜行して進んでいたのではなく、本格的に開発を決定したのがつい最近だったことを示唆している。IDFでスピーチした東芝の斉藤昇三氏(メモリ事業部DRAM統括部統括部長)も、「実際に、4iが決まったのはこの1カ月くらいの話」と言う。
●エルピーダと東芝のために足並みを揃える
こうして、4iは3社が足並みを揃えて、来年中盤のIntelの次期チップセットに合わせて量産することになった。しかし、ある業界関係者によると、RambusとSamsungはIntelが現行のPentium 4用チップセット「Intel 850」のマイナーバージョンアップでの4iサポートを期待していたらしい。「バンク数のサポートの変更だけなので、対応はi850ベースでも可能なはず」とその関係者は言っていた。RambusとSamsungがi850での4iサポートに期待していたのは、今年後半のSamsungの4i RDRAMチップ出荷に合わせたかったからだ。しかし、IDFでは別の関係者が「i850でのサポートの可能性は完全になくなった」と言っていた。
じつは、Intelが4iをi850でサポート“しない”ことは、エルピーダと東芝をRDRAMに注力させるためには必要なことだった。もし、年内にIntelが4iをサポートすると、RDRAMメーカーの中で4iで先行するSamsungだけがコスト競争力をつけてしまうからだ。そうなると、エルピーダと東芝はRDRAMに注力しにくくなってしまう。そのため、“RDRAMをコストダウンするときはみな一緒”と、4iサポートを揃えたわけだ。そして、エルピーダと東芝も、それなら乗れるとなったのだと思われる。Samsungとしては0.17μmデザインの4iは商品価値が薄くなってしまったわけで、その意味では面白くないだろう。
RDRAMの救世主4iだが、この4iのサポートはRDRAM市場を混乱させる可能性もはらんでいる。例えば、従来の2x16dデザインのRDRAMを使ったRIMMと、4i RDRAMのRIMMをデュアルチャネルで混在させることはおそらくできないだろう。こうした対応はどうするのかなどは、まだ見えない。もしかすると、4i RDRAMと同時に2チャネルRIMMを導入してしまうのかもしれない。このあたりの展開が見えてくるのは、また今後ということになりそうだ。
それから、3社だけではRDRAMはまだ足りない。DRAMの生産シェアはSamsung、Micron、Hyundaiが3強で、それに次ぐのがエルピーダ、それからInfineonや東芝などといった構成になっている。今回、Samsungとエルピーダ、東芝がRDRAM増産を決めたものの、MicronとHyundaiはDDR SDRAMへ走っている。この状態では、メインストリームデスクトップPC市場の必要量を100%満たすことはまだできないだろう。
また、プラットフォームで言うなら、Intel以外のPentium 4チップセットはDDR SDRAMサポートになりそうだ。もちろん、AthlonプラットフォームはDDR SDRAMへ移行しつつある。こうした状況を見ると、少なくとも、これまでのようにひとつのDRAMアーキテクチャがウイナーテイクオールで全てを取ってしまうということにはなりそうにない。
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【2月28日】IntelがRDRAM路線に一気に揺り戻し
--エルピーダ、Samsung、東芝がRDRAM増産計画を発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010228/kaigai02.htm
(2001年3月8日)
[Reported by 後藤 弘茂]