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Xboxタイトルから見えるXboxとPlayStation 2の思想の違い
-Gamestock 2001レポート


●マルチテクスチャとダイナミックライティングがXbox

 Microsoftは先週のGamestockで、8本のXboxタイトルの発表とデモ(プレイアブル)を行なった。個々のゲームの内容はGame Watchのレポートを参照してもらうとして、ここではタイトルとハードウェアとの絡みを見ていこう。

 今回のデモは、Xboxの開発キットXDKのα2版で行なわれた。α2版はNV20チップ(GeForce 3)を搭載したもので、「最終出荷製品の半分の性能」(エド・フリーズ副社長、Microsoft Game Publishing)という。もっとも、メモリ帯域の面ではこの開発キットの方がホンモノのXboxより高い(UMA構成ではないため)と思われる。グラフィックス性能は半分より上と考えていいだろう。また、NV20とXboxのグラフィックスチップ「XGPU(NV2A)」のグラフィックスコアは基本的に同一なので、メモリ回りを除く、グラフィックスのファンクションはXboxと同等のものを備えている。つまり、ここで見られるグラフィックスは、機能的にはXboxで実現できるということだ。

 今回は、開発キット上のデモ段階なので、それほど詳しくはまだ言えないが、ほとんどのゲームが、マルチテクスチャとダイナミックライティングをふんだんに使った贅沢な絵となっている。

 例えば、Bungie Softwareのアクションゲーム「Halo」では、キャラクタが銃を撃つとその銃火がダイナミック光源となり、銃口の向いている方向の壁が発砲の度に照らし出される。壁に弾が当たると、弾痕がバンプマッピングで描かれる。また、ダンジョンの中の点光源が、金属質の壁に鈍く映り込む。

 サンプルスクリーンショットを見てもらえばわかる通り、壁や装甲などの金属の質感もじつにリアルだ。こうした質感は、3Dオブジェクトに対して単純に“ベーステクスチャ+バンプマッピング”だけでは実現できない。「多いところでは、7レイヤーのテクスチャを貼った。だからここまでのリアリティが出せた」という。このクオリティの絵がリアルタイムで描画されるところは、なかなか圧巻だ。

「Halo」
(発売:Microsoft、開発:Bungie Software)
金属素材の質感がリアル、ライティングがわかりにくいショットばかりなのが残念

●6~7レイヤーのマッピングは当たり前

 Haloだけでなく、今回公開されたタイトルのほとんどが、こうした極端なテクスチャ重ねを行なっている。例えば、Adrenium Gamesのアドベンチャーゲーム「AZURIK - Rise of Perathia」も「通常はワンタイム4テクスチャで1パスで処理しているが、2パスを使っている場所もある。2パスなら4×2で最大8テクスチャを使える」とAdreniumのStephen Clarke-Willson氏(Executive Studio Director)は説明する。レーシングゲーム「Codename: Project Gotham(Gothamがプロジェクトのコードネーム)」を出展したBizarre Creationsでも、最大6レイヤーのマッピングを使っていると言っていた。

 NV2A/NV20は1レンダリングパイプで最大4レイヤーのマッピングを行なうことができる。だが、それでも足りずに各社ともレンダリングパイプを2回まわしているわけだ。もしこれが、1パスで1マッピングしかできないグラフィックスハードウェアだと、同じ質感を出すのにテクスチャの枚数分レンダリングパイプを回さないとならなくなる。つまり、その分サイクルが必要となり、実質的なフィルレートが低下し、描画が追いつかなくなるので現実的ではない。つまり、7レイヤーマッピングは、4マッピングが1度に可能で、多彩なマッピングエフェクトを備えるXGPUで初めて実現できた絵ということになる。

●テクスチャサイズもXboxの利点

 また、Xboxでは、テクスチャ自体もサイズが非常に大きいため、アップに耐える。AdreniumのClarke-Willson氏によると「AZURIKでは516×516(512の間違い?)ドットのテクスチャサイズが普通で、これよりも大きな1Kドット以上のテクスチャもかなり使っている。だから、これまでにないリアリティを達成できている。テクスチャはすべて圧縮している。圧縮すると、実質的にテクスチャの格納容量は6倍になるので、もしメモリの半分の32MB分をテクスチャに使うとしたら、約200MB分というとてつもない量のテクスチャを使うことができる」とClarke-Willson氏は説明する。

 NV2AはメモリがUMA構成(CPUとグラフィックスがメモリを共有する)で64MBと大きく、そのうちの必要な分をビデオメモリとして取ることができる。さらにテクスチャ圧縮機能(1/6に圧縮)をハードウェアで備えている。そのために膨大なテクスチャを使えるということだ。

 また、Bizarre Creationsでは、テクスチャマッピングの精度も高いと指摘する。例えば、レースゲームでの、車体やフロントグラスへの周囲の風景の映り込み(キューブエンバイロメントマッピング)。映り込み自体は、他のプラットフォームでも実現できるが、Bizarre CreationsのGothamでは、スクリーンショットの通り映り込みが非常に緻密で正確だ。また、クリアに映り込む車種、鈍く映り込む車種など、車種によって映り込みのニュアンスも、テクスチャレイヤーを重ねることなどで表現しているようだ。

 Xboxでは、エンバイロメントマッピングの利用が目立つ。例えば、VR-1 Entertainmentのアドベンチャゲーム「Nightcaster」では、エンバイロメントマッピングをしたプロテクタパーツを全身にまとった中ボスが登場する。

「Codename: Project "Gotham"」
(発売:Microsoft,開発:Bizarre Creations)
精緻な車体への映り込み。エグゾーストパイプもエンバイロメントマップされている?

●効果的なダイナミックライティング

 今回は、多くのソフトが点光源を多数使ったデモを行なった。例えば、Gothamの街灯のひとつひとつが光源で街路樹の影を路面に落としたり、Haloのダンジョンの中が点光源だらけだったり。Gothamでは、クルマのヘッドランプも光源となりアスファルトに反射しているが、このアスファルトへのライトの映り込みも淡くリアルだ。

 点光源をゲームプレイで利用している例もある。Nightcasterでは主人公が浮遊する魔法球を従えており、その魔法球を使って魔法を出す。魔法球が点光源になっていて、球が照らす範囲が攻撃できる範囲となっている。

 それから、多くのゲームがパーティクルポリゴンを派手に使っている。PlayStation 2ゲームを初めて見たときに、「パーティクルが飛んでるとPlayStation 2ゲームだね」みたいな印象を受けたのだが、Xboxタイトルもその点は似ている。ただし、補足しておくと、PlayStation 2はパーティクルポリゴン性能が特に強化されているので、この点ではXboxに遜色はない。

「Codename: Project "Gotham"」
(発売:Microsoft,開発:Bizarre Creations)
道路面に移るヘッドランプがリアル。街灯がみんな光源だったりする

「Nightcaster」
(発売:Microsoft,開発:VR-1 Entertainment)
ちょっとわかりにくいが杖の先で浮遊している球が照らす範囲が攻撃範囲となる

●7,000ポリゴンでキャラクタを構成

 Xboxではポリゴン数ももちろん多い。例えば、AdreniumのAZURIKではメインキャラクタは7,000ポリゴン、敵キャラは3,000ポリゴンで構成されている。Gothamでは、クルマなのに6,000ポリゴンを使っている。車体の微妙なラインを表現するためにはこれだけのポリゴン数が必要だったという。車体に関してはほとんどCADデータ並の精度だが「XGPUはピークで125Mポリゴン/secのポリゴン性能を持つため、これだけポリゴンを使っても余裕がある」(Bizarre Creations)という。また、車体の表現にはProgramable Vertex Shaderの機能も使っているという。Gothamは完成版では街路樹から落ちて道路に積もった葉をクルマが巻き上げたり、クルマが当たったゴミバコからゴミがまき散らされたりといった表現も入れるという。

 ポリゴン数は、今回の各社の説明では、大体、ピークで10~30万ポリゴン/フレームの表示を行なうとしていた。ただし、米国のタイトルは30フレーム/sec(Gothamなどは60フレーム/秒)の作品が多く、そうしたタイトルは60フレーム/sec換算だとこの半分の値になる。しかし、初期タイトルで、そこまでのポリゴン性能が出せるならそれはかなりのものだ。

 また、ポリゴン数以外にボーン(骨格:スケルトン)数などもキャラクタにリアリティを与えている。例えば、AZURIKでは「メインキャラクタは120のボーンを持っているので自然な動きができる。これはXGPUのProgramable Vertex Shaderによって可能になった。また、ボーンの上の筋肉も部分的にはポリゴンで作り込んである」(Clarke-Willson氏)という。このゲームは、デモを見ると筋肉のムキムキ感が気持ち悪いくらいリアルだ。

 ただし、現在のタイトルは、まだXGPU/DirectX8の目玉であるProgramable Vertex Shader/Pixel Shaderのプログラマブルな部分は使い始めたばかりで、各社ともそれほど使い込んではいないようだ。

 このほか、Xboxは画面のジャギーを除去するフルスクリーンアンタイエイリアシング機能(NVIDIAはHRAAと呼ぶ)を備えていることも売りだ。今回のデモではHaloが使っていた。他のメーカーも使う予定だが「まだOSにバグがありHRAAが安定して使えないので今回は見送った」(Clarke-Willson氏)という。

 それから、Xboxは256チャネルの3Dオーディオもハードウェアでサポートする。「3Dオーディオについては、多分E3でデモができるだろう。クルマがコーナーを曲がる時に、タイヤがこすれるリアルカーの音を3Dで再現するつもりだ」(Bizarre Creations)という。

「AZURIK - Rise of Perathia」
(発売:Microsoft、開発:Adrenium Games)
ムキムキの筋肉を表現したAZURIK。体をひねった時など肩のあたりなどがまだ不自然か

●日米のアーキテクチャの違いは思想の違い?

 こうして見ると、Xboxのタイトルのグラフィックスは、これまでのゲーム機の絵とはかなり違って見える。ポリゴン数はもちろんだが、目立つのはマルチテクスチャによる質感やテクスチャの緻密さ、ライティングの多さなどだ。モロにPCゲームの絵作りなのだが、このあたりには、日米のゲームハードウェアの違いが反映されている。

 PlayStation 2を見ると、Xboxより1年半(発売予定時期で比較)古いハードウェアであるにも関わらず、ポリゴン性能は66Mポリゴン/secとかなり高く、フィルレートも2.4Gピクセル/secと高い。しかし、その反面レンダリングパイプはシンプルで、テクスチャを1枚貼るごとにパイプを1回づつ回さなければならない。つまり、テクスチャを貼るとその分フィルレートが落ちてしまうわけで、テクスチャをマルチでがんがん貼るのは難しい。また、ビデオメモリは4MBで、それを超えるテクスチャは32MBのメインメモリに格納して置いて、そこからビデオメモリに転送しないとならない(メモリ帯域は極めて広い)。グラフィックスハードウェア側にはテクスチャ圧縮機能もない。そのため、PlayStation 2では大きなテクスチャは扱いにくい。

 このハードウェアの違いは優劣の違い(時間差の分の性能差は当然ある)というより、考え方の違いに根ざしており、それは日米の基本的なゲームグラフィックスの作り方の差を反映しているようで面白い。

 「日本のゲーム業界ではデザイナが描いたテクスチャがいちばんきれいという発想があって、例えば、壁の複雑な質感もデザイナが描いて表現する伝統がある。だから、マルチテクスチャをそれほど重視しない。それに対して、米国では壁の色は壁の色で決まっていて、それが環境で変わるという発想がある。そのため、どんどん多彩なマルチテクスチャマッピングを行なう方向に向かってきた。原点の発想が違う」とある開発者は指摘する。

 つまり、PlayStation 2のアーキテクチャからは、複雑なテクスチャはデザイナが描いてしまおう的な発想が見えるのに対して、Xboxからは多彩なテクスチャエフェクトで省力化しよう的なにおいがするということだ。PlayStation 2の方がアニメ的、Xboxの方が映画的と言ってもいい。その結果が、できた絵の違いになっているわけだ。よくも悪くもアメリカ的なゲーム機、それがXboxだ。

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【3月14日】Microsoft Gamestock 2001開幕、Xboxの同時発売タイトルなどを発表
http://www.watch.impress.co.jp/game/docs/20010314/ms1.htm


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(2001年3月19日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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