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●今年に入ってトーンダウンしたDRAMベンダー
先週、米サンノゼで開催されたIntelの開発者向けカンファレンス「Intel Developer Forum(IDF)」では、IntelがPentium 4プラットフォームをRDRAM主軸で行くことを宣言。また、エルピーダメモリ、Samsung Electronics、東芝の3社が、RDRAMの増産とローコストRDRAMのサポートを表明した。DDR SDRAMからRDRAMへと大きく揺り戻したIntelのデスクトップメモリ戦略。この急激な方向転換はどうして起こったのだろう。
この背景には様々な事情が複雑に絡み合っている。また、水面下の見えない動きも多い。そこで、現在わかっている限りの情報をもとに、これまでの流れと今後予想される動きをレポートしてみたい。
まず、振り返ると、DDR SDRAMを巡る状況は去年から今年にかけて大きく変わっていた。DDR SDRAMは対応チップセットとマザーボードが昨年末から次々に登場し、飛躍しつつあるように見えていた。だが、その一方で、メモリベンダーのトーンはどんどんダウンしていた。それが明確に見え始めたのが、1月末のPlatform Conferenceだった。あるメモリ業界関係者は「去年夏頃から11月のCOMDEXあたりまでは、これからはDDR SDRAMだというムードがはっきり出来ていた。ところが、年が明けてみたらDRAMベンダーが一気に盛り下がっていた」と同カンファレンス後に語っている。
Platform Conferenceでは、VIA TechnologiesやAcer Laboratories Inc.(ALi)といったチップセットベンダーは相変わらずDDR SDRAMでアジっていた。マザーボードも多数出展されていた。ところが、DRAMベンダーはと見ると、大半はぐっとトーンが落ち、慎重な物言いが目立つようになった。
例えば、DDR SDRAMが一気に普及すると予測したのは、MicronとHyundai MicroElectronicsくらい。あとのメーカーは、DDR SDRAMのプラン自体は説明するものの、DDR SDRAMをあまり強調し過ぎないように配慮したプレゼンテーションに変わった。いちばん象徴的だったのは、昨年までは必ず各社が見せていた、DDR SDRAMがDRAM市場の主流になって行くという市場トレンド予測のシートがプレゼンテーションに見あたらなくなったことだ。昨年7月の前回のPlatform Conferenceや、その後のAMD 760チップセット発表会では、ほとんどのメモリベンダーがこれからはDDR SDRAMへと移行すると声高に叫んでいたことを考えると、かなりの変わりようだった。
じつは、このコラムもPlatform Conferenceの時点では状況が全くつかめていなかった。この変化をどうレポートしていいのかすらわからないという状態だった。そこで、Platform Conferenceの翌週は、慌ててメモリ関連の状況把握に動いた。その結果、メモリベンダーがDDR SDRAMの様子見に入ったことやIntelのRDRAMチップセット計画などが見えてきた。
●MicronのDDR SDRAM同価格宣言が波紋を呼んだ
では、DRAMベンダーがDDR SDRAMについてトーンダウンした理由はなにか。多くのDRAM業界関係者が「ベンダーの立場から言えば、その原因のひとつは、まずMicronにある」と明言する。ことの発端は、DRAM最大手のMicronがDDR SDRAMをSDRAMと同価格にすると宣言したことだ。これのどこが問題なのか。
「DDR SDRAMとSDRAMが同価格というのは、使う側からすると魅力ある話だろう。しかし、供給側からするとうまみもないのにわざわざ製造が大変な製品は作りにくい。DDR SDRAMのようにノウハウの塊まりのような製品で、作る側が何もメリットを見いだせないとなると、DDR SDRAMを製造することに意味がなくなってしまう」とあるDRAM業界関係者は言う。
つまり、割高なDDR SDRAMがSDRAMと同じ価格になることは、ユーザーにとっていいニュースだが、ベンダーにとっては致命的にバッドニュースなのだ。そもそも、DDR SDRAMは、当面はダイサイズ(半導体本体の面積)がSDRAMより大きく、また検査にも手間がかかるため、どうしてもSDRAMよりもコスト高についてしまう。それを同価格で売らなければならないというのは、納得できないというわけだ。
もっとも、同価格にするというのが弱小メーカーならそんなに影響はない。しかし、膨大な製造キャパシティを持つMicronがDDR SDRAMの価格を今のSDRAMと同価格に持ってきて本格的にボリュームを出し始めたら、その影響はほかのメーカーを直撃する。ほかのDRAMベンダーも、競争力を保とうと思ったら、ある程度は追従しなければならない。
それでも、DRAMベンダー各社は、Micronがそう言い始めた昨年中盤はまだ冷静に見ていた。それは、まずDRAM価格が高騰していたから、次にMicronの本気度がわからなかったからだ。
●昨年後半のSDRAMの暴落で状況が急変
昨年前半は、PC市場の好調を受けてDRAM価格はじりじり上昇し、128Mbit SDRAMチップならスポット市場で18ドルの高値で取り引きされていた。つまり、DRAMは絶好調で、マージンもたっぷりあり、さらにPC市場の活況が続いてこの好調を維持できると考えられていたのだ。「128Mbit品が10何ドルと言えば、もしDDR SDRAMとSDRAMが同価格になってもそれなりの勝算はあると考えていた」とあるDRAMベンダーの担当者も、当時を振り返る。
ところがDRAM価格はそこから暴落した。9月10月11月は坂道を転がり落ちるように価格が急落、1月になる頃にはスポットで5~6ドルに、Platform Conferenceの頃には4ドル台にまで落ちてしまった。大口価格も、それと連動して下落しているという。ここまで来ると、DRAMベンダーは採算割れになってしまう。このDRAM暴落の主因は、米国でPCセールスに突然ブレーキがかかってしまったためだ。かき入れ時の秋冬シーズンに、動きがパタっと止まってしまったため、一気にDRAMがだぶついてしまった。
この暴落の結果、MicronがDDR SDRAMの価格をSDRAMと同じにするつもりかどうかは重大な問題になった。大勢は、まさか同価格にしないだろうと思いつつ、半信半疑という状態だったようだ。例えば、メルコでDDR SDRAMを担当する尾崎浩氏(メモリ事業部 第一開発グループリーダー)は1月頭に「Micronが同価格と言うのが、SDRAMの下落する前の価格とイコールという意味なのかどうか。まさか、今のSDRAM価格に合わせることはないだろう」と語っていた。
だが、今のところMicronはあくまでも価格を下げると言っている。例えば、Platform Conferenceの2週間後に台湾で行なわれたDDR Summitでは、「現在はDDR200(PC1600)とPC133 SDRAMが同価格、DDR266(PC2100)は10~20%程度の価格プレミアがある。しかし、第2四半期にはDDR266とPC133を、同じ容量なら同じ価格に持ってゆく」とMicronのJeff Mailloux氏は説明している。
●広がるMicronの戦略に対する懸念
こうした状況で、DRAMベンダーはMicronのDDR SDRAM同価格戦略に対する懸念や反発を強めていた。例えば、「SDRAMがここまで下がると、どこかで収益を出さないと企業が存続できない。DDR SDRAMで少しでもプレミアをとりたいと誰もが考えるのは当然」とエルピーダメモリの樋口三左男部長(テクニカルマーケティング本部営業技術部)は語る。Micronと並んでDDR SDRAMを積極的に推進しているはずのHyundaiですら「Micronの価格戦略はアグレッシブ過ぎる。第2四半期から今のSDRAMの価格で出せるとは思えない。当社としては、同価格になるのは早くても第4四半期と見ている」という。
ここで今年第4四半期と言っているのは、おそらくDRAM価格が持ち直すという期待があるからだ。というのは、第4四半期までには次期OS「Windows XP(Whistler:ウイスラ)」が登場するからだ。Windows XPでは、快適に使用するために最低限必要なメモリの量が増える。まだまだ64MBが多い米国のPCの搭載メモリが、一気に128MBへと増えれば、DRAM需要が急増し、価格が持ち直すとDRAM業界では期待している。いずれにせよ、誰もMicronほど過激な展開は望んでいないわけだ。
また、Micronの真意が見えないというのも、状況を複雑にしているようだ。「この状態でDDR SDRAMとSDRAMを同価格にするMicronの狙いがどこにあるのか読めない」とあるDRAM関係者は漏らす。例えば、コスト競争力に優れるMicronが、DDR SDRAMの立ち上がり時期に価格競争をしかけることで、他メーカーを市場から追い落とす戦術を取ろうとしていると分析する人もいる。かと思うと「Micronの目的はRambusをつぶすこと。そのため、採算割れになってもDDR SDRAMを低価格にして一気に普及させて、Rambusの息の根を止めようとしている」と説明するDRAM業界関係者もいた。関係者によると、Micronは特に戦略が読みにくい企業なのだという。
もっとも、DRAMベンダーが様子見モードになっていった理由はそれだけではない。DDR SDRAMのマザーボードへのインプリメンテーションの難しさなどのハードルが見えてきたことなど、様々な要因が絡んでいる。だが、Micronの同価格戦略が大きな要素だったことは確かだ。
では、こうした状況で、どうして、いつから、エルピーダ、Samsung、東芝の3社がRDRAMへと向かっていったのか。次回はそのあたりの事情をレポートしよう。
(2001年3月7日)
[Reported by 後藤 弘茂]