第87回:ULVモバイルPentium IIIがもたらす変化は夏以降に現われる



 先週の水曜、超低電圧版(ULV)モバイルPentium III 500MHzが発表された。このニュースに関しては、いくつもの記事で取り上げられ、さらに1週間近い時間が経過しているため詳しくお話しする必要はないと思う。

 Intelは昨年10月に技術発表を行ない、翌月のCOMDEX/Fallでは実機(ThinkPad 240)に搭載した状態で動作するデモも行なわれていた。何も驚くことはない。発表はあらかじめわかっていたのだから。

 しかし、待望されたULVモバイルPentium IIIにも関わらず、その採用機はIBMのThinkPad 1124(240ベースのiシリーズ機)しか発表されていない。追っていくつかの製品が発表されるとの話も聞いているが、様子見を決め込むPCベンダーも多いようだ。


●ULVモバイルPentium IIIの本命は600MHz版?

 あるメーカーの開発者は「ULV版と言えども、モバイルPentium IIIを採用するということはパフォーマンス指向のユーザーをターゲットにするということ。500MHz版では現行の低電圧版モバイルPentium IIIよりもクロックが低くなってしまう。採用するなら次に出る600MHz版以降だ」と話す。

 ULVモバイルPentium IIIには、Crusoe搭載機と比較して設計が容易(既存の設計を踏襲できる、ノウハウの蓄積が多い)といったメリットがある。採用するなら、既存のボディにULVモバイルPentium IIIを詰め込み、(可能なら)冷却ファンを取り除くなどの措置を計りたいと考える。しかし、既存の機種をベースとする時、クロックダウンとなるような変更はマーケティング政策上、行ないにくいというわけだ。

 ULVモバイルPentium III 600MHzは、今年の夏ごろ登場するとの噂だが、バッテリオプティマイズモード時の周波数は発表されていない。しかし、最高600MHzでも動作することで、エンドユーザー向けへの申しわけは立つ。実際、ULVモバイルPentium IIIは600MHz版以降と話すPCベンダーは前述の1社ではない。

 プロセッサと同時発表されたThinkPad 1124は冷却ファンを取り除けていないが、B5ファイルサイズのノートPCの場合、冷却を工夫することでファンレス設計も可能だと複数のメーカーが話していることから見て、ULVモバイルPentium III 600MHzを採用したファンレス設計のB5ファイルサイズサブノートPCが夏以降に登場する可能性は高い。

 なにやらスポーツ紙まがいの噂話になってしまったが、ULVモバイルPentium IIIの採用が広がるには、もう少し時間が必要だろう。それもCrusoeとは異なった採用のされ方をすると思われる。Crusoeが新筐体や新コンセプトによる従来とは異なる、良い意味でのニッチ製品を期待されたのに対して、ULVモバイルPentium IIIには既存のコンベンショナルなノートPCの改善が期待されている。


●ULVでCrusoeと同じになるわけではない

 一部でULVモバイルPentium IIIによりCrusoeは死んだと言われている。これはある意味正しいが、別の見方から評価すると正しくない。

 薄型軽量ノートPCは(3週前に扱ったような)B5ファイルサイズの薄型ノートPC以外、全く意味がないと考えるなら、確かにCrusoeの存在意義はなくなったように思える。ULVモバイルPentium IIIのリリースを見ると、平均消費電力が0.5Wを切った事を強くアピールしているが、プロセッサ単体の消費電力をことさらに言われても、あまりインパクトはない。よく言われているように、プロセッサ単体が製品全体の消費電力に占める割合は多くないからだ。

 むしろ、ファンレス設計を実現できたり、熱設計が楽になった分だけ、別の機能を詰め込めるようになることの方がずっと重要だろう。モバイルPentium IIIに対するCrusoeのアドバンテージはここにあった。そして、今でもそのアドバンテージは(以前より縮まったとはいえ)確実に存在する。

 しかしながら、B5ファイルサイズというフォームファクタで考えた時、ファンレス設計などを実現するだけであれば、ULVモバイルPentium IIIでも十分に実現できるようになった。Crusoeはチップセットの一部(ノースブリッジ)を内蔵しているなど、ULVモバイルPentium IIIよりもさらに低消費電力ではあるものの、そのアドバンテージを意欲的にノートPCへと取り入れなければメリットが出てこない。

 TransmetaはTM5600で予定していた700~800MHzの周波数を未だ達成できていないことや、1月末までに予定していたTM5800のサンプル出荷の遅れ、台湾TSMCへの製造委託スケジュールの遅れなど、製造面で不安を感じさせる話が続いていることもあり、結果的に同じ製品となるならULVモバイルPentium IIIの方がいいという判断を、Transmetaを支持しているPCベンダーの一部がしたとしても、全く不思議ではない。

 ただ、個人的にはCrusoeへの興味は薄れていない。元々Crusoeに期待していたのは、米国のビジネス市場でウケそうなコンベンショナルな製品ではないからだ。パーソナル向けに尖ったコンセプトを持つ新しいモバイル機器をPCベースで作って欲しい。そんな気持ちからCrusoeに注目してきた。そして、その点ではULVモバイルPentium IIIでは太刀打ちできないと思うからだ。

 なぜなら、低消費電力にフォーカスして製品の設計と出荷計画を練っているCrusoeと、パフォーマンスにフォーカスして設計されているPentium IIIを低消費電力化したULVモバイルPentium IIIでは、その存在意義が異なるからだ。ULVモバイルPentium IIIでCrusoeの活躍する分野は確実に減ったが、カバーできるすべてのエリアが重なっているわけではない。


●低消費電力化で期待したい無線LAN内蔵

 あくまでB5ファイルサイズの薄型ノートPCが流行する、という前提の元で話をするが、ULVモバイルPentium IIIの登場やLVモバイルPentium IIIの高性能化、あるいはその先にある0.13μmプロセス化で消費電力が下がることにより、サブノートPCにもさまざまな機能を内蔵する傾向が強まるだろう。

 コネクタの増設という意味では、すでに限界に近いほどさまざまな端子が筐体の脇から出ているが、省電力化が進み、また内部コンポーネントの小型化が進む結果、B5ファイルサイズのサブノートPCには、何らかのデバイスを内蔵するスペースが生まれそうだ。

 ここにThinkPad X20のようにType2 CFスロットを入れるのもいいが、CD-ROMドライブ内蔵でもB5ファイルを実現できている今、まだまださまざまなデバイスが統合できるだろう。コンシューマ向けには無理かもしれないが、企業もしくは教育機関向けでは無線LANのコンポーネントを内蔵可能なモデルも、いくつか登場するはずだ(すでにA4フルサイズでは無線LAN内蔵モデルも登場している)。

 ある大手メーカーによると、企業や教育機関、公官庁向けの大量納品では、無線LANの内蔵を指定されるケースが目立って増えているという。建物などの設備が古くなった場所に、大量のPCを導入する場合、改めてネットワーク設備を引くよりも無線LANの方が取り回しも良く、かつコスト的にも安くなる場合があるからだ。

 中には電源コンセントを学生の数だけ用意できないため、ノートPCをバッテリで運用し、かつネットワーク接続は無線LANで行なうという学校への導入ケースもあるという。

 こうした企業や教育機関、公官庁からの要求に、企業向けノートPCを開発するベンダーは敏感に反応するモノだ。B5ファイルサイズのサブノートPCへの無線LAN内蔵は、それほど遠い先の話ではないだろう。

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【1月30日】Intel、超低電圧版モバイルPentium III/モバイルCeleronを正式発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010131/intel1.htm
【1月30日】日本IBM、超低電圧版Pentium III搭載の「ThinkPad i 1124」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010131/ibm1.htm

[Text by 本田雅一]


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