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第88回:モバイル向け.NETサービスのごく一部を実現しそうなMicrosoft |
携帯電話によるIP接続の実態は変化が激しく、調査には大きな“揺れ”がある。このため、数字そのものに意味はないが、「日本がモバイルインターネット先進国」という話は信じていい。ワイヤレスデバイスに対応したアプリケーションの数も、ずっと日本の方が数多く取り組みも早かった。
しかし、だからといって米国をそうそう馬鹿にもできない。主要な大手IT企業、たとえばMicrosoft、IBM/Lotus、Oracle、Sun Microsystems、Adobe Systemsなどは、揃って“ワイヤレス”という言葉を連呼している。特にMicrosoftとLotusの取り組みは素早かった。
●日本と米国の市場構造の違い
なぜなのか? と深くつっこむと、なかなか結論にたどり着くのは難しくなるが、日本と米国のワイヤレスを比較したときの大きな違いとして、コンシューマ中心かビジネス中心か、という点が挙げられる。たとえばiモードが普及した原因として、コンシューマを中心とした爆発的な普及を挙げる声は多い。対する米国は、こうした技術あるいはトレンドが、コンシューマから広がる事はほとんどない。
米国のユーザーにとって、ワイヤレスのコミュニケータは純然たるビジネスの道具なのだ。もちろん、日本のユーザーでも同じ事だ、と言う声もあるだろうが、実態としてのコンテンツの作り方や売り方の違いが、同じ技術を(日米で)別のアプリケーションに仕立て上げているように思う。
たとえば米国では、Research In MotionのBlackberry( http://www.blackberry.net/ )というモバイル機器/サービスの人気が高い。米国取材をしていると、日本でiモードを使っている人をどこでも見かけるのと同じように、ほとんど毎日ユーザーを目撃する。もちろん、IT業界に身を寄せる僕の周りだからなのかもしれないが、ここ1年ほどのBlackberryユーザー増加傾向は目を見張るものがある。Blackberryはインターネット対応の高機能ページャとPDAを合体させたような機械で、クレードルを用いてPCと同期も行なえるというもの。
Blackberryの売り方を見ていると、もちろんパーソナル向けの道具としても販売しているのだが、ExchangeやDominoと連携させた企業向けソリューションとしてウケている。通信料もビジネス向けには月額固定で利用できるようにするなど、企業内で社員みんなに持たせ、ワイヤレスで情報を活用するという提案が中心なのだ。(最近、ロータスは近く詳細を発表予定のDomino EveryplaceにBlackberry対応機能を搭載すると発表している)
●Exchangeを中心に据えたMSのワイヤレス戦略
企業向けから攻めるという戦略は、もちろんMicrosoftも例外ではない。Microsoftの場合、かなり前から「いつでも、どこでも、どんなデバイスからでも」という標語を掲げており、昨年発表した.NET戦略においても、ワイヤレスソリューションは重要な構成要素の1つだった。
僕は(オリジナルの).NET戦略を、とても優れたものだと評価している。彼らの描く.NETの世界では、どんなデバイスからでも、同じ情報に対して、利用するデバイスなりの処理を可能とするからだ。ただし、現在発表されている.NET Enterprise Server群は、それらコンセプトを具現化したものではない。
そんなわけで、すぐに新しいワイヤレスの世界が拓けるというわけではないが、MicrosoftはExchangeとSQL Server上のアプリケーションをモバイル環境でも利用するための製品として、昨年の秋に.NET Enterprise Serverの一部であるMobile Information 2001 Serverを発表している。
ExchangeとSQL Serverのアプリケーションへのアクセスを実現させる製品ということからもわかるとおり、これは完全に企業向けの製品だ。しかし、Microsoftという会社は、どんな製品にも「個人で使うと便利そうな」機能を必ず組み込む。
Mobile Information 2001 Serverにも、同製品と連携して動作するソフトウェアとしてOutlook Mobile ManagerというOutlookを拡張する機能が提供されるとアナウンスされていた。Outlook Mobile Managerは、PDAやワイヤレス端末でOutlookの情報を活用するためのアドオンソフト。発表時には、どのような製品になるのか、今1つ明確ではなかったが、先日やっとそのβ版が公開( http://www.microsoft.com/office/outlook/mobile/default.htm )された。なお、公開されたβ版は英語版で、日本語版のOutlookにインストールすることはできなかった。
Microsoftのモバイル戦略は、Exchangeとその将来形をベースに、企業向けに作られたものだが、Outlook Mobile Managerに限っては個人でも活用可能で、かつ面白い可能性を持っているように思う。
●将来はPCが秘書のように情報の確認メッセージを送ってくれる?
Outlook Mobile ManagerはOutlookのアドオンとして動作し、エンドユーザーに必要な情報を必要なときにメッセージとして届けてくれるというものだ。β版を見る限り、まだその機能はシンプルだが、さまざまな可能性を持っている。
まず、Outlook Mobile Managerは電子メールをモバイルデバイスに転送する機能を持っているが、すべてのメールを転送するわけではない(すべてのメールを選ぶことも可能だが)。内部に組み込まれた自然言語解析モジュールを用い、内容やメールのステータス(緊急性のフラグ)などを判別し、設定した重要度に達したメールのみを転送する。
緊急度や重要度の判断は、ユーザー自身がパラメータを設定することも可能だが、AI技術で普段やりとりしている情報から自動判別する機能を持っているのが大きな特徴だ。たとえば、あまり重要でないメールを頻繁に消したり、あるいは読み飛ばしているようならば、Outlook Mobile Managerはそこに書かれた内容やメールの種類(特定のメールニュースなど)を重要ではないと判断する。逆に、レスポンス良く応えている内容やすぐに内容をチェックしているメールは、重要度が高いと判断するようだ。
限られたメモリ量、メッセージ文字数を有効に活用するため、EmCmサービス( http://radio.mtc.co.jp/ )と同じようなメッセージ圧縮機能(不要な文字を削除する機能)も組み込まれている。Outlook Mobile Managerの場合、英語版ということもあり、スペルを簡略スペルに変換するなどの機能も加え、20~30%ほど文章量を短くする。さらに、Outlookのアドレス帳と連携し、重要なメッセージを送ってきた相手の連絡先を参照し、携帯電話などからすぐに連絡するため、電話番号などの情報を付加してくれるというアイディアも面白い。
ほかにもスケジュールやタスクリストをチェックし、あらかじめ予定や仕事の確認をメッセージとして送る機能もある。この時にも、特定の相手との予定を知らせるメッセージには、連絡先を挿入するといった工夫がされている。
通知手段は携帯電話やページャ、ワイヤレスPDAなどを選択可能。選択可能なデバイスはアドオンのモジュールで拡張できる。仕事中、自宅、外出先、休暇中など、その時のユーザーのステータスに応じて、別々の連絡手段をプロファイル登録することも可能だ。
●Mobile Information 2001 ServerとローカルのOutlookの両方で動作する
Mobile Information 2001 Serverと組み合わせた時は、サーバサイドでも動くため、Outlookを起動していない時でも、設定さえしておけばサーバが設定された条件に応じて通知を行なってくれる。一方、ローカルのOutlookで動作させておけば、常時接続でPCを起動しっぱなしにしなければならない、という条件はあるものの、個人用途でもこの機能を活用することができる。
果たして日本語になったとき、自然言語解析の品質がどうなるのか? 本当に期待通りに動作してくれるのか? といった疑問は当然わいてくるが、実に興味深い製品だ。日本語版の登場を期待すると共に、こうした技術が実用段階に移行されつつあることに興味を抱く。Outlook Mobile Managerは、.NET戦略のごくごく一部を我々に可能性として見せてくれているが、将来的にはMicrosoft以外からも、似たような製品、サービスが提供されることになるだろう。
数年後には、PCやネットサービスが、秘書の代わりに必要なインフォメーションを選別し、我々のアシスタントを務めてくれる時代になるかもしれない。
[Text by 本田雅一]