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第77回 :COMDEXで拾った次世代Crusoeの話



 モバイル通信なるタイトルの連載を持ちながら、普段は2台のディスプレイを接続したデスクトップPCを使っている私だが、この1カ月ほど日立のFLORA 220FXだけで仕事をしている。といっても、すべての仕事をこのサブノートPCでやる決心をしたわけではない。引っ越しの片づけが進まず、サーバーの電源を入れるのが精一杯というのがその理由だ。

 もっとも、支障無く原稿を納めていることを考えれば、実際のところデスクトップPCに固執する必要はないのかもしれない。そんなことはわかっているが、デスクトップPCを使い続けるのは処理速度の問題ではない。柔軟性とグラフィックスのスペックだ。21インチディスプレイ2台で1,600×1,200ピクセルを2画面開く快適さを味わうと、Web上の資料を開きながら仕事をするやり方を続ける限り、ノートPCに戻ることがとても難しいのである。

 そんな中、COMDEX/Fall 2000でNVIDIAが発表したのが、デスクトップPC向けグラフィックスチップに近い性能を引き出せるGeForce2 GOである。今回はこのほか、COMDEX/Fallで拾ったいくつかの話題を元に話をしたい。


● ビデオメモリ内蔵型はいらなくなる

【GeForce2 GO】
 GeForce2 GOに関する詳しいレポートは、PC Watchの速報記事に記された通り。デスクトップPC向けのローコスト版チップであるGeFORCE2 MXよりは若干性能が低いものの、従来のモバイル用の製品と比較するとかなりのハイパフォーマンスチップであることは間違いない。

 ノートPC向けグラフィックスチップは、NeoMagicの成功以来ずっとグラフィックチップとビデオメモリを混載した1チップものが主流を占めてきたが、GeForce2 GOは完全に外付け。この点において、小型かつ省電力が求められる製品に向かないのは明らかである。ではGeForce2 GOが失敗に終わるか? というと、そんなことはないと思う。なぜなら、ビデオメモリ内蔵型チップは、今後、主流から外れるのではないか? と考えているからだ。

 Intelが10月24日に発表したIntel 815EMのように、今後はモバイル向けチップセットにもグラフィックス機能を内蔵させたものが主流になると思う。コスト面で有利なことはもちろん、PCを小型・薄型化しやすいというメリットも考えられる。逆にグラフィックス統合チップセットでは力不足なハイエンドのノートPCや、デスクトップPCと同様の使い方が想定される家庭向けフルサイズノートPCでは、デスクトップPCに近いパフォーマンスをアピールした方が差別化を行ないやすい。

 もちろん、ここにビデオメモリ内蔵型チップを持ってくることもできるが、たとえば3D機能ひとつ取っても中途半端になってしまう。パフォーマンス面は別としても内蔵するビデオメモリが8MB程度では、近年の3Dグラフィックスアプリケーションを動作させるには力不足なことも少なくない。外部メモリ増設も可能だが、それをするならばGeForce2 GOぐらいの機能は欲しい。
 将来、半導体の集積度が上がれば話は変わってくるかもしれないが、当面の間はハイエンドの単体ビデオチップとミッドレンジ以下を対象にしたグラフィックス統合チップセットの2ラインに収斂すると思う。


● 次世代Crusoeの鍵はCMSの進化

 さて、もう一つの話題は2002年を目標に開発が進められている次世代Crusoeだ。TM6x00シリーズという名称が予定されている次世代のPC向けCrusoeだが、実は以前から情報はあったものの、それを公開していいものかどうか、今ひとつわからなかった。海外サイトで簡単な記事が掲載されたことで「これは書いてもいいの?」と、Transmeta関係者に話を聞いてみると概略に関してはOKとのコメントをもらった。

 TM6x00シリーズは、CrusoeのVLIWプロセッサコアを128bitから256bitに拡張したもの。VLIWは複数の並列実行可能なオペレーションを長いひとつの命令にあらかじめ連結しておくことで、プロセッサ内部で複雑なことをしなくても高い並列度を実現できるのが特徴。Crusoeの場合、1オペレーションは32bitで表現されるため、現行Crusoeでは4オペレーション、次世代Crusoeでは8オペレーションを1命令に入れることができる。
 したがって理想的にプログラムが最適化されるならば、次世代Crusoeのピーク性能は2倍に向上することになる。VLIWではアーキテクチャを変更すると、互換性を保つことができなくなる (命令そのものが変化するため) が、最初からエミュレーションすることが前提のCrusoeでは問題ではない。しかし、Crusoeには別の問題が発生する。
 一般的なVLIWプロセッサでは、コンパイラが並列実行できるコードをあらかじめ組み合わせておく。コンパイラの品質が十分高ければ、128bitから256bitに変更することで、2倍近い性能にすることも可能だろう。ところがCrusoeはx86命令から内部命令にリアルタイムで変換しながら動作しなければならない。

 エミュレーションを担当するCMS (Code Morphing Software) は、x86コードを繰り返し実行するたびに少しづつ最適化を行なうが、並列度が2倍ともなると、最適化の複雑度は加速度的に高くなることが予想されるため、本当に256bitを活かせるのかという疑問の声もある。

 さらに命令長が2倍になることで、メモリ帯域も2倍、キャッシュメモリも2倍なければ、その機能を活かせないことも考えられる。Transmetaがターゲットとする2002年までには、これら問題も解決する可能性があるが、その鍵は命令長が伸びたことを活かすためにどのような命令を追加するのかというアーキテクチャ面と、CMSがどこまで進化できるかになると思う。


● 冷却技術まで提供するところがIntelの凄み

Pentium 4 1.5GHz搭載コンセプトPC
 本日発表されたIntelのPentium 4は、残念ながらしばらくの間は、コストパフォーマンスの点で満足のいく結果を出せそうにない。クロック周波数が2GHzを越えてこなければ、そしてメモリアーキテクチャを含め、PC全体のコストダウンが行なわれなければ、普及するのは難しいだろう。

 しかし、IntelはPentium 4を来年の後半、現在のPentium IIIが狙っているミッドレンジ層に近いところまでターゲットを広げたいと考えている。そのために鍵となるのはコストだが、もう一つは (特に日本では) 小型化にあると思う。消費電力の大きなPentium 4では、冷却システムをかなり大げさにしなければならないはずだからだ。

 現時点でのPentium 4は最高1.5GHzだが、これではAthlonどころかPentium III 1GHzにも性能面で負けるケースが出てくる。だからこそ高クロックに耐えられる設計で2GHz以上にフォーカスを当てるわけだが、そうなると現在よりもさらに冷却が厳しくなってくる。

 来年後半、0.13μmプロセスになることを考えたとしてもなお、小型のデスクトップPCに搭載するには厳しいかもしれない。しかし、それを何とかするための基礎的な技術を開発し、PCベンダーに提供できるところがIntelの凄味だ。

 IntelはCOMDEX/Fallでヒューレット・パッカードと共同開発したPentium 4 1.5GHz搭載コンセプトPCを展示した。このPCは電源アダプタを筐体外に置くタイプで、省スペースデスクトップPCとして十分な競争力を感じさせるコンパクトさ。しかも、冷却ファンはグラフィックチップのRADEON用と、あとは空気排出用のファンだけで、プロセッサにはパッシブヒートシンクしか取り付けられていない。前面から導入した空気を背面から排出するだけのエアフロー制御だけでPentium 4マシンが動いているのだ。

 電源が内蔵されていないとは言え、大食らいのPentium 4とIntel 850チップセットの熱をうまく処理しているのだから大したモノだ。Intelはこうしたコンセプトモデルを開発し、PCベンダー向けの技術サポート部隊が惜しげもなくその技術を提供・支援する。ここにIntelの強みがある。

 IntelはノートPC向けプロセッサを筐体サイズで分けながら、実際のプロセッサは筐体サイズの決定には何ら関係のない平均消費電力別に分類し、ロードマップを説明している。これは少し前から個人的に、Intelプレゼン最大の謎だと思っていたのだが、彼らには自信があるのかもしれない。先々にクロック周波数をアップさせて少々TDPがオーバーしても、冷却技術を進歩させ、それをPCベンダーに提供し続けることでTDPの上昇分をカバーできると。

[Text by 本田雅一]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当pc-watch-info@impress.co.jp