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第78回 :イントラネットサービスをモバイルサービス |
● SOHO向けイントラネットサービスのモバイル度
そうしたメールに混じって「本田さんの言うネットサービスならば、SOHO向けイントラネットサービスが使えるんじゃないの?」といった趣旨のメールも受け取った。具体的にはサイボウズのOffice 4をはじめとするSOHO向けASPを使うことで、スケジュールや電話帳などの情報をサーバー上に置き、サイボウズシンクやサイボウズケータイ for iモードを用いて、それを参照すればいいのでは? というわけだ。
確かにサイボウズOfficeのようにWebブラウザを主たるクライアントに想定し、HTMLでサービスを提供することを念頭においたサービスを利用するのも、今現在の解決策としては悪くない。問題はリポジトリサービスではなく、あくまでアプリケーションサービスであることだろう。インターネット上の倉庫としての使い方はできるが、他サービスとの相互運用性の問題や、将来サービスを変更したいときに面倒だ。
ここではサイボウズの製品を取り上げたが、こうしたASPモデルのイントラネットサービスは総じてモバイルへの対応度が高く、携帯電話へのサービス提供やPDAとの同期は多くのサービスで提供されている。
ただ、これを個人的なモバイルサービスとして利用するにはちょっと問題がある。我が家の場合は専用線であるOCNエコノミーを利用しているし、一般家庭でもフレッツISDNなどを用いればASPも利用できないわけじゃない。
しかし、帯域幅の狭い回線を通じて日常的なアプリケーションを使うのは、まだ少し抵抗がある。ネットサービスを使うことには抵抗はないのだが、フロントエンドで使う道具は、せっかくPCを使うのだからネイティブのアプリケーションであってほしい。また、サイボウズOfficeは企業向けのサービスとしては十分に低価格だが、個人で、それもモバイルのためだけに使うには価格も少し高め (79,800円) だ。
● 25MBのスペースが無料のイントラネッツ
そこで機能的にはやや劣るものの、モバイル用途では十分な機能を無料提供しているイントラネッツを評価してみた。データサイズ25MBまで無料で利用できるため、個人的な利用においてアドレス帳やスケジューラなどのデータで容量不足を起こすことはまずないだろう。ファイル共有用フォルダに巨大なファイルを置くというなら話は別だが、その場合は別料金でディスクスペースを購入することもできる。
イントラネッツは米国のASPであるintranets.comの日本法人で、広告収入で運営される無料グループウェアASPを中心に、サービスを他社ブランドで提供するOEMビジネスを展開している。
機能はテーマごとに複数掲示板を作ることが可能な会議室機能、ホーム画面に表示される伝言版(簡易掲示板)機能、スケジューラ機能、メンバーリスト、連絡先管理、ファイル共有といったところ。機能的に特に優れているというわけではないが、とにかく動作が軽いという印象がある。
携帯電話はiモードのみの対応だが、スケジューラと連絡先にiモードブラウザからアクセス可能。連絡先データからiモードのリンク機能で直接電話をかけたりメールを送信することもできる。
登録はとても簡単なので、とりあえず使ってみるのがいいだろう。もともとはグループウェアとして開発されているため、一人だと使わない機能もあるかもしれないが、レスポンスは良好でストレスなく利用できるのには驚いた。もっとも、この軽さがシステム的なものなのか、単にユーザーが少ないからなのかは不明なのだが。
通常のメールアドレスと携帯電話のアドレス、両方を登録しておき、スケジュールのお知らせメールをどちらのアドレスに送るか選ぶこともできる(その他のメールアドレスを指定することも可能)など、なかなか気が利いたところもある。加えて米国版ではPalmとの同期機能をβテスト中で、日本でのサービスも検討されている。米国でのテストが終了すれば、それを元にした日本語版のテストも開始される予定とのことだ。
ただし、現在使っているデータをイントラネッツにインポートすることはできない。あくまで最初からデータを入力する必要がある。もしかすると、Palmとの同期が可能になればPalmを橋渡し役にしてPalm DesktopやOutlookなどのデータを移動させることも可能かもしれないが、いずれにしても正面からの方法でデータを移行する方法はなさそうだ。
● ASPの悩み
イントラネッツそのものは、とても優秀なASPだが、アプリケーションを丸ごとHTMLブラウザ経由でサービスするというやり方には、それなりの悩みがある。その悩みのせいで、僕はイントラネッツを利用していないのだが、次の条件に当てはまる人は試してみる価値がある。
この連載でさんざんXMLについて話しておきながら、またここで引用するのもなんだが、アドレス帳やスケジューラーなどPIMツールで扱う可能性がある情報をやり取りするためのXML標準を定め、各デバイスごとに操作性や画面表示などを開発できる環境を整える必要がある。これらPIMデータをやり取りするためのXMLスキームや通信手順が、まったく提案されていないわけではない。しかし、まだまだデファクトスタンダードに向けて強くドライブがかかるという状況でもない。
一般にASPと呼ばれているものと、昨今話題になることの多いXMLベースのネットサービスの違いは、そうした個々のデバイスに対する実装方法の違いだと思う。本来的な意味で差はないはずだし、Webブラウザから見る上での差異はない。違いがあるのは、データベースそのものを交換できるのか? ということだ。
これができるようにならなければ、相互運用性の問題を解決することはできないだろう。
[Text by 本田雅一]