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第69回 : フィール・エッジに見るPHSの可能性



 先週は多くのメールをいただいたのだが、忙しさにかまけて返事を書いていない。いろいろと情報をくださった読者に、この場でお詫びしておきたい。来週ぐらいには、もう少し自由な時間ができているはずだ。
 いただいたメールの中には、いくつかNTTドコモのNM502i(ノキア製IrCOM対応のiモード端末)とIrMail、NoM502iというPalm OS用ソフトウェアを用いることで、Palmと携帯電話の連携を取ることが可能であるというものがいくつかあった。
 IrCOMはIrDAで策定されたシリアル通信を赤外線で行なうためのプロトコルで、通常のシリアル通信の物理接続を赤外線に置き換えることができる。Palm OS 3.5にはIrCOMを通じて通信装置を接続する機能が付加されていた。IrMailを用いればiモードメールのPalmへの読み出し、Palmで作成した送信メールのiモード端末への転送(そのままiモードメールとして送信できる)を行なうことができる。また、NoM502iを使えばPalmの電話帳をNM502iの電話帳に転送できるそうだ。

 ところで先週の話。僕は溜めすぎた仕事のため、プレサリオシリーズ5機種を一新しTOKIOも来場したコンパックの発表会に伺えなかったほか、いくつかの発表会巡りをサボってしまった。それらサボってしまった発表会の中でも、もっとも悔やんでいるのがDDIポケットのフィール・エッジ発表会。
 実は発表が行なわれる前に、だいたいの話 (サンヨーの端末の形がau向け次世代品とそっくりとか、カラー化、カメラなど) は聞いてはいたのだが、予想を超える充実した内容だっただけに、伺えなかったことを後悔している。


● 進化型PHSプラットフォームを作るDDIポケット

 DDIポケットがエッジを始めたころから一貫して目指しているのが、PHSを進化させた新しいプラットフォームを自分たちで作ろうとしていることだ。NTTドコモが自社サービス向け端末のプラットフォーム仕様を出し、メーカーがそれに基づいて開発を行なってるのと同じように、共通仕様を協議しあいながら作り込んだ結果がエッジ、フィール・エッジへと反映されている。
 以前のDDIポケットへのインタビュー記事 (高品質のインフラ作りで携帯電話に負けているとは思わない) でも書いたが、DDIポケットはサービスのクオリティそのものには、携帯電話にも負けない品質があるとの自負を持っているものの、“所詮PHS”といったイメージを払拭することが難しいと考えていた。それがエッジのヒットにより、ちゃんとお金をかけて設計された端末を端末メーカーと協力して開発できるようになったのだ。彼らは企業努力の成果として、最大限のものを引き出したと思う。

 フィール・エッジが、果たしてどれほどオモシロイものに仕上がっているかは、単に端末やサービスの仕様を見ただけではわからないところもあるため、追って端末を入手次第、ここで紹介しようと思う。
 僕がエッジに期待しているのは、デジタルカメラやオーディオ機能、カラー液晶とそれを利用したコンテンツサービスよりも、簡易情報端末として携帯電話を越えることができるのか? という点だ。フィール・エッジは、もちろん若年層をターゲットに“楽しさ”を全面に出したものだが、使い方を変えれば僕のように仕事に使いたいと思っている人にも、なかなか魅力的なものに発展する可能性を持っているからだ。


● PHSのシステム的な問題とメール機能

 フィール・エッジで、僕がもっとも魅力的に感じるのは1通あたり1万字までのメールを受信可能という点だ。これだけあれば、添付ファイルが必要な時以外は、どんなメールでもその内容を把握することができる。パケット通信で、1通あたり1万字のメールが大量に届くと迷惑な話だが、64Kbpsの回線交換でメールが届くフィール・エッジなら、1万字のメールでも5,000字のメールでも、かかるお金に大差はない。
 ただ、常に端末にメールが自動受信されるプッシュ型のメール端末として利用する場合には、iモードやPacketOneなどのパケット通信によるメール機能よりも高くついてしまうのが難点だ。

 PHSはバックボーンになる通信回線にNTTのISDNを用い、ISDNへの接続を無線で行なうのが基本のシステムだ。エッジではISDNのDチャンネル(9,600bpsのパケット通信チャンネル)を用いることでメール着信の通知を行なっているが、その後追加されたメール自動受信のサービスはメール着信の通知後に回線交換接続を行なってからメールをダウンロードする。
 このため、メール着信の通知は安価にサービスできるのだが(1回10円で11回目以降は無料。つまり月最大100円)、プッシュ型のメールサービスを利用してしまうと不経済になる。通常利用しているメールを転送し、それを自動的に端末にダウンロードするといった使い方をすると、毎回、回線交換の発呼が発生し、かなり高い通信料金になってしまうわけだ。

 フィール・エッジでは、メールのダウンロードも64Kbpsで行なえるので、複数の長文メールをダウンロードする際には、パケット通信よりも安価になるのだが、プッシュ型だと高価になってしまうわけで、非常に悩ましいところではある。メールが届く頻度によって、便利さと価格のバランスを取る必要があるだろう。現実的には、着信通知だけを利用して、読むタイミングで手動受信するのがいいと思う。
 こうした料金設定的に悩ましい部分というのは、バックボーンにISDNを利用しているのが原因。バックボーンのネットワークを別のものにできればいいのに……と思う。PHS事業に関する法的な改正も含め、今後の方向性を考えるべき段階なのかもしれない。たとえば、DDIポケットのPHSなら、KDDIの携帯電話と同じネットワーク上に異なるサービスとして実装してもいいのではないだろうか。

● 回線交換とパケット通信が必要に応じて切り替わる

 DDIポケットへのインタビューで、将来のエッジは回線交換とパケット通信が必要に応じて切り替わるようにしたい、という話を書いたことがある。いったい、どうやるの? という質問を受けていたのだが、まだ答えていなかった。

 しかし、メール着信通知機能がどのようにして動いているかを説明した今なら、その仕組みも理解できるだろう。そう。ISDNのDチャンネルを使ったパケット通信を行ない、必要に応じてBチャンネルの回線交換で接続と切断を行なうことで、擬似的に常時高速に接続しているように見せかけるわけだ。
 現在の料金体系で考えると、通信量が少なく無通信時間が長くなる場合にはパケット通信の方が安くなり、連続で大量の通信を行ない常にデータが転送されている場合には64Kbps回線交換の方が安くなる。たとえば仮に1分間継続して64Kbpsでデータを受信すると、3万パケット分のデータを受信することができる(128バイト/パケットの場合)。パケット単価が0.1円まで下がったとしても、3,000円。0.3円なら9,000円もかかる計算だが、エッジの回線交換接続なら20円(料金プランによっては10円)で済む。

 米国でAT&Tワイヤレスが行なった講演では、3G携帯電話で帯域が広がってもビットあたりのコストは半分にしかならないというから、企業努力や利用者の拡大などの要素を加味しても、通信時間あたりのコストパフォーマンスという点でPHSの優位性は簡単に揺らぎそうにない。
 あとは、データ通信に限って30秒単位で課金している現在の料金システム(ポケットMAL経由の場合。エッジでコンテンツやメールにアクセスする際もこの料金が適用される)に変更を加え、数秒単位で課金できるようになれば、必要に応じて接続方法を切り替える方法も生きてくる。
 パケット通信サービスの開始は来年。128Kbpsのサービスも開始されるようだが、今回発表されたサービス内容や端末機能を見ると、期待を裏切らないものになりそうだ。

[Text by 本田雅一]


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