第63回 : 意外に異なるバッテリーの容量対重量比。最新ノートの苦心の跡 |
使ってみて思ったのは、スペック以上に電池が保つこと(スペック表の1.3~1.5倍程度利用はできる)、液晶が驚くほど明るいこと(通常、ノートPC用パネルは100カンデラほどだが、145カンデラとのこと)、携帯電話/PHS用インターフェイスの対応幅が非常に広い(DoPaやドッチーモ、PacketOneにも利用できる)ことなどだ。
特にバッテリの長時間駆動はありがたい。が、ここで連載の中でも思っていた疑問が再び吹き出してきた。CD-ROMドライブと交換で利用できるベイ内蔵バッテリの容量は、なぜこれほど少ないのだろう? Let's Noteシリーズ用のものは、かなり大容量なのに……。
● 丸は四角よりも優秀
各社ともノートPCのバッテリ寿命を延ばすため、様々な工夫をしている。細かく省電力設定を行なえるユーティリティを付属させたり、プロセッサの新省電力機能に対応させたり、などである。が、液晶パネルのバックライトやハードディスク、プロセッサの消費電力が大きく占め、さらに省電力機能そのものが進化しきっている現在、液晶パネルのサイズや明るさが同じで、プロセッサも同じならば、どの製品でもバッテリ容量あたりの駆動時間に、それほど大きな差が出るわけではない。
また、独自に省電力機能を実装したとしても、アプリケーションの実行状況によって効果の出方が変わるため、我々はなかなかその実力を知ることもできない。カタログスペックも条件が各社で異なるため、相対的な評価には全く利用できないと考えるのが妥当だ。現在、JEIDAで統一的なバッテリ性能評価の基準を作る動きがあるそうだが、我々が統一基準でのバッテリ性能を目にするのは、まだ少し先のことにるだろう。
そんな時、唯一確実に相対評価を行なえるのが、バッテリ容量だ。バッテリのスペックは、電圧と1時間継続して供給可能な電流で表される。それぞれ単位はV(ボルト)とAh(アンペアアワー)だ。それぞれの数値を掛け合わせると、Wh(ワットアワー)となりバッテリの容量を示す数値になる。
もっとも、優秀なバッテリベンダーは、それほど数が多いわけではない。たいていは同じメーカーからバッテリセルを調達しており、同じ時期に出荷された製品は、重量あたりで同程度の容量を持っていると考えればいい。
ちなみに前述のFLORA 220FXはSバッテリが18.87Whで約160グラム。Lバッテリは2倍の容量で重さは300グラムだ。Sバッテリは3つのセルで構成されているので、1セルあたりの容量は6.29Wh、100グラムあたりの容量は12.58Whとなる。
もし、手元にノートPCのバッテリがあれば、同じように調べてみるといいだろう。たいていの場合、1セルあたり、あるいは重量あたりの容量は似たようなものになるはずだ。手元にあったコンパックPresario M300のバッテリを調べてみたが、4セル230グラムで23.68Wh、1セルあたり5.92Wh、100グラムあたりだと10.3Whと少し性能が低いが、これは昨年の初期型M300だからだろう。また、バッテリモジュールの筐体の重さも考慮すれば100グラムあたりの数値には多少の誤差がある。
しかし、これらの数値は全て丸形のバッテリセルのものである。バッテリセルは角形のものも製品化されており、丸形セルよりもバッテリの厚みを減らすことが可能になる。ベイ内蔵バッテリに使われているのはこのタイプで、FLORA 220FX用に使われているものは280グラムで22.2Wh。100グラムあたりの容量は約7.9Whとなり、丸形セルを用いたSバッテリと比較し、重量あたりで63%の性能でしかない。
同じように角形セルのベイ内蔵バッテリがオプションで設定されているLet's Note M1(昨年モデルでの数字)は、約460グラム 43.74Whで大容量な分だけグラムあたりの性能はいいが、やはり丸形セルにはかなわない(なお、容量の大きなバッテリの方がセル以外の重量負担割合が減るためグラムあたりの容量では有利)。
● デザインを選ぶのか、バッテリ性能を選ぶのか
つまり丸形セルを使った方が、重量とバッテリ性能のバランスでは圧倒的に有利ということになる。しかも、角形セルは需要の差から価格的にも高価だ。しかし角形の方がノートPCには収めやすい。一般的なノートPC向け丸形セルのバッテリモジュールは、カバーを合わせると20~21ミリ程度の高さが出てしまう。角形セルなら数ミリのバッテリも作れるのにだ。
ソニーのノートPC開発の方が話していたが、軽量化と低コスト化のためには丸形セルは必須だが薄く仕上げるのが難しくなる。VAIOノート505の初代モデルをデザインするとき、バッテリをどのように配置し、デザイン上の統一感を出すか苦労したと話してくれた。その結果生まれた液晶パネルのヒンジとバッテリを一体に見せる手法は、その後のノートPCで多く採用されたレイアウトだった。
今年のB5サブノートで最大のヒット作となったVAIOノートSRシリーズを見ると、さらに工夫の跡が見て取れる。本体からみっともなく出っ張ることなく、通常の2倍に相当する6セルのバッテリを(本体下部には少しはみ出るが)スッキリと収めた。いや、これはなかなかスゴイことではないかと思う。
一方、デザイン優先で角形バッテリを採用している例もある。同じソニーのVAIOノートZ505シリーズは、Mバッテリと名付けられた通常の3セルバッテリよりも重いにもかかわらず、20.4Whしか容量を稼げていない。一般的な3セルバッテリーより、僅かに多い程度の容量なのだ。
これをして角形バッテリを採用する機種がダメとは言わない。それによってもたらされるデザイン上のメリットもあるからだ。しかし、外出先で使う機会が多い、もしくは外出先で使って欲しい機種であれば、丸形バッテリを工夫して本体内に収める必要はあると思う。あとはユーザー自身の選択次第だ。
ところで、リチウムイオン系のバッテリには、三菱電機のPedionに採用されていたリチウムポリマーバッテリというものがある。このバッテリは形を自由に変形させることができる次世代バッテリで、そろそろ本格的に実用段階に入るようだ。コスト面の問題が解決されるようになれば、PCにも使われるようになるかもしれない。
比較的自由に変形できるため、筐体のちょっとした隙間にバッテリを少しづつ配置することが可能になり、ノートPCならず、様々な電子デバイスのデザインの自由度が大幅に向上すると期待されている。特に携帯電話などには使いやすいバッテリになるだろう。
しかし、重量あたりの性能では、やはり角形セルと同じく丸形セルにはかなわない。あるメーカー担当者に聞いたところ、重量当たりの性能は、最新のものでも丸形セルの60%にも満たないという。つまり、デザイン上の自由度が上がることでカッコいいノートPCはできるかもしれないが、重量が重くなる、もしくはバッテリ持続時間が短くなるといったデメリットが出てしまう。
創意工夫で丸形セルを詰め込むのか。それともデザイン重視の方針で開発を行なうのか。9月中にも登場するWindows Meにあわせ各社から新型ノートPCが発表される予定だが、バッテリ周りの処理を各社がどのように行なっているかにも注目してみるといいかもしれない。
[Text by 本田雅一]