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元麻布春男の週刊PCホットライン

USB TVチューナ/MPEG-2キャプチャボックス
「SmartVision Pro USB」を試す


●PCIバス版の改良版「SmartVision Pro USB」

 NECから外付のTVチューナ/ビデオキャプチャボックス「SmartVision Pro for USB」が発売になった。MPEG-2対応のハードウェアエンコーダチップ(GloveSpan製)を内蔵するこのボックスは、本体との接続にUSBを用いる。NEC製のTVチューナつきビデオキャプチャ製品といえば、すでにPCIバスに対応したSmartVision Pro(PK-UG-X026)が存在するが、このSmartVision Pro for USB(PK-UP017)は多くの点で改良されたものになっている。

 PK-UG-X026は、ソフトウェアCODECによりリアルタイムで高品質なビデオキャプチャが可能な製品だが、実際には「MPEG-2相当」のCODECであり、キャプチャしたデータをほかの環境で再生することはできなかった。さらに付属するタイムシフト再生/ビデオキャプチャアプリケーション「Pure DIVA」は、単純に再生することしかできない(静止画としてフレームを切り出すこともできない)ため、キャプチャしたデータを静止画等の形で再利用することができず、見たら消すという使い方しかできなかったのは、大きな不満であった(別のCODECを利用することでデータの再利用は可能だったが、画質やファイルサイズの点で見劣りした)。また、PK-UG-X026はタイムシフト再生を行なうソフトウェア(Pure DIVA)の制約により、1,024×768ドットを超えるデスクトップ高解像度での利用ができない、Pentium III以外のプロセッサをサポートしないという問題もあった。

 こうした問題は、すべてPK-UP017では解消している。付属のソフトウェアは、デスクトップ上の任意の位置に、任意のサイズでビデオウィンドウを開くことができる上、その位置とサイズは次回起動時に記憶されている。デスクトップの解像度も、最大2,048×1,536ドット(筆者がテストに用いたビデオカードの上限)でも問題なく利用できることが確認できた。動作環境はWindows 98のみのサポートではあるものの、Pentium III以外のCPU、366MHz以上のCeleronや500MHz以上のAthlonおよびK6-2でも動作する(モバイルPentium IIおよびCeleronは400MHz以上)。キャプチャしたデータは.m2pという拡張子がつけられているが、DVDプレーヤー(筆者がいつもAll-In-Wonder 128でキャプチャしたデータの再生に用いているVaroDVD 2000)で再生することが可能だった。

 キャプチャしたデータの品質だが、ビデオに関しては、S-VHS並みかと言われると難しいが(解像度と色ニジミの少なさでは十分S-VHS並みかそれ以上だと思うが)、VHSの品質は超えているように思う。むしろ問題はオーディオの品質かもしれない。ニュースやスポーツなら問題ないと思うが、音楽番組の録画には厳しい音質に感じられる。本機の場合、ビデオやオーディオをキャプチャする設定が事実上6Mbpsに固定されているため、こうした部分を変更することができない。筆者は、こうしたパラメータがいじれなくても、ほとんど気にしないのだが、これを問題に思うユーザーもいることだろう。

編集部注:ビデオの画質は付属の画質調整ユーティリティで4段階に変更できますが、マニュアルや仕様書には記載されていない機能であり、仕様は明らかにされていません。また、将来的にサポートされつづけるかどうかも不明です。

PK-UP017でキャプチャしたデータをVaro DVD 2000の再生情報で見たところ。解像度は720×480ドット固定、フレームレートは29.97fps固定である。1時間のビデオに約2.8GBの容量が必要となる PK-UP017の設定項目。タイムシフト可能時間に0分は認められない。また、録画時の画質は、本来は標準画質と高画質を選べるようになっているようだが、筆者のテスト環境ではグレーアウトされ、選択することができなかった。ヘルプにはハードウェア環境によっては選択できないこともある、としか書かれていない


●常にタイムシフトされたTV受信画像

 さて、ここまで見てきたところでは、PK-UP017は、筆者が常用する1,600×1200ドットのデスクトップ上で、任意の位置に任意のサイズでビデオウィンドウを開き、その気になればビデオをキャプチャすることができる、という筆者の希望に極めて近い製品であることになる。だが、実際には筆者の好みとは、少し違う性格の製品であるようだ。そう筆者が考える最大の理由は、PK-UP017ではTVの受信が常にタイムシフトされることにある。

 タイムシフトというのは、その名前の通り、時間をずらしてTVを見る機能を指す。たとえば、TV番組を途中で止めて席をたち、戻ってきてから続きを見る、あるいは、見逃した場面をもう1度さかのぼって見る、といった機能だ。確かにタイムシフトは便利なのだが、これを実現するために、ある副作用が生じる。本機は、タイムシフトを可能にするため、常にハードディスクに対してビデオデータを書き込んでいるのである(システムモニタによると、初期設定の5分間のタイムシフトで800KB/sec弱)。PK-UP017は、ハードウェアエンコーダを用いているため、MPEG-2によるビデオキャプチャにCPUはほとんど必要としないハズだが、それでも付属のソフトを立ち上げるとシステムが重くなるのは、このハードディスクへの書き込みのせいだ。最近のハードディスクは高速化したため、これくらいの帯域は問題ないが、それでも全く影響を感じないわけにはいかない。チャンネルの切り替えが緩慢だったり、ソフトウェアの起動に時間がかかるのも、理由は同じである。

 これを回避するには、タイムシフトを解除すれば良いわけだが、残念ながら本機ではそれは許されない。設定項目には、タイムシフト量を変更するオプションが用意されているものの、設定可能なのは1分間~90分間の間で、0分間というオプションは認められないのである。タイムシフトをしないというオプションを用意し、タイムシフトの解除を許していては、肝心な時にタイムシフトが使えない、という親心(理屈)はよくわかるのだが、TVを見るでもなく表示しつつ原稿を書く、という筆者のスタイルには辛い。


●“ながら視聴”には向かないが良い製品

 というわけで、筆者はAll-In-Wonder 128をこのPK-UP017で置きかえることはないと思うが、だからといってPK-UP017が製品として良くない、ということでは決してない。単に筆者の使い方とPK-UP017の製品コンセプトが合致しないだけのことだ。筆者のような「ながら」視聴ではなく、ちゃんと(?)TVを見ることが目的なら、PK-UP017はかなり良い製品だと思う(ながらの場合、ほかに利用しているアプリケーションによってはフレーム落ちする可能性が出てくる)。USB接続であるため、ノートPCやPCIスロットを持たないスリムタイプのPCにも対応可能な点も望ましい(ノートPC用にはポータブルなアンテナをどうするか、という問題がありそうだが)。製品の全体的な仕上がりで比べても、PK-UG-X026から大きく進歩している。ビデオやオーディオのキャプチャ条件が固定されていること、タイムシフト量をゼロにできないことも、初心者向けに絶対に失敗させない、ということが製品コンセプトなのだとしたら、許される範囲だろう(もちろん、それを認めた上で、買う買わないはまた別の話だが)。

 ところで、前回の記事において、筆者はHiFDドライブについて、内蔵デバイスとして売られていない、と記述した。これに対し読者の方から、日本IBMがオプションとして提供しているむねの指摘をいただいた。ここに訂正するとともに、お詫びしたい。また、せっかく教えていただいたのだから、このドライブを手配して、次回はもう1度テストしたいと思っている。


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【8月18日】【Hothot】USB接続でノートにも最適、TVチューナ内蔵MPEG-2キャプチャユニット
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【8月7日】NEC、USBのみで接続できるMPEG-2 TVキャプチャユニット
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【3月22日】【元麻布】期待のMPEG-2録画カード「SmartVision Pro」を試す
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000322/hot85.htm

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(2000年9月6日)

[Text by 元麻布春男]


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