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元麻布春男の週刊PCホットライン

FD互換ストレージデバイスを比較する(後編)


●SuperDisk/HiFD/it Driveを比較

 前回予告した通り、今回はSuperDiskドライブ、HiFDドライブ、it Driveの3種の比較を行なうことにしたい。最初に評価用に用意した環境は、表1の通り。現在筆者の主力テストマシンであるIntel D815EEAを中心にしたシステムだ。いつもはこのシステムにはAドライブとして第2世代のSuperDiskドライブであるLKM-F934を接続しているのだが、今回はこれをHiFDやit Driveに替えてみようというわけである。現時点で内蔵用のHiFDドライブは市販されていないため、前回述べた通り、市販されている外付けパラレルタイプから、ドライブユニットを取り出して用いようという目論見だ。

【表1:最初の評価用システム】
マザーボードIntel D815EEA
チップセットi815E
BIOSPhoenix Technologies
CPUPentium III 600EB
メモリ128MB PC133 SDRAM
ネットワークカード3Com 3C905-TX
サウンドカードLabway Xwave6000
グラフィックスカードLeadtek WinFast GeForce2GTS
OSWindows 98 Second Edition


●デュアルインターフェイスを必要とする外付けHiFDユニット

ケースを開いた外付けHiFDユニット。上にフロッピーインターフェイス用、下側にATAPI用のコネクタがそれぞれ用意されている。もちろん、フロッピーインターフェイスにはドライブセレクト、ATAPIにはMaster/Slave/Cable Select設定のジャンパがそれぞれ用意されている
 というわけで、まず外付けのHiFDユニットを分解することにした。中から現われたソニー製のドライブは、外付け用に一部モディファイされたもの。一般的なPC内蔵型とは異なるフロントベゼルが採用されている。イジェクトボタンやアクセスランプ、HiFDメディアの検出を示すLEDなどを別基板に引き出すための改修も施されている。それより注目なのは、HiFDドライブのインターフェイスだ。40ピンのATAPIと、34ピンのフロッピーインターフェイスの両方をサポートしているおり、HiFDメディア検出時はATAPI、フロッピーディスク検出時はフロッピーインターフェイスを使う、という仕様だと思われる。

 この仕様は、'97年にCOMDEXで最初にHiFDがデビューした時のままなのだが、当時からこのインターフェイスには問題が指摘されていた。それは、物理的には1つのドライブでありながら、用いるメディアによりドライブレターがかわってしまう、ということである。つまり、フロッピーはA、HiFDはE(CD-ROMの後の一番最初の空きドライブレター)という風に使い分けなければならない。これがEase of Useの観点から望ましくないのは、以前DVD-RAMを取り上げた際に触れたMicrosoftのWhite Paperにもある通り。フロッピーインターフェイスがレガシーインターフェイスとして、次に削除される対象になっていることも含め、この仕様では内蔵用としてドライブを出荷することは難しい。

 ただし、現実に市販されている外付けパラレルタイプの製品は、フロッピーインターフェイスやATAPIのデバイスとしてシステムに認識されるわけではないので、この問題は生じない。単に一番最初の空きドライブレターに、フロッピーと互換性を持つリムーバブルディスクとして認識されるだけのことだ。とはいえ、発表から2年以上が経過し、その間にSuperDiskや内蔵ZIPにより、BIOSのARMD(ATAPI Removal Media Device)対応が進んでいるにもかかわらず、ドライブの仕様がかわっていない、というのはどんなものだろう。SuperDiskはもちろんのこと、it DriveもATAPIのみを利用したドライブである。


●SuperDisk以外はうまく動作しないIntel D815EEA

 ちょっと古臭い仕様にショックを受けつつ(?)も、さっそく評価用システムにそれぞれのドライブを接続してみた。ところが、ここで問題が多発した。SuperDiskは、マザーボードが正式に対応していることもあって、全く問題ないのだが、HiFDとit Driveはうまく動作しなかったのである。中でもHiFDはD815EEAのBIOSに全く認識されず、内蔵デバイスとしての評価ができなかった。だが、デバイスとして全く認識されなかったわけではない。IntelのBus Master Driver 6.0に付属するコンパニオンユーティリティでは、ちゃんとSONY HiFD SFD200として認識されたのである。

 一方it Driveは、とりあえずBIOSでは認識されたものの、BIOSによる初期化に問題があるようで、メディア(専用メディアであるかフロッピーであるかを問わず)をドライブに挿入した状態では、ドライブが正しく認識されない、という現象が見られた。つまり、これではフロッピーやitディスケットからのシステム起動ができない。ところが、ドライブにメディアを入れずに起動すれば、とりあえずメディアに対する読み書きは可能だし、ウォームブートであればフロッピーからのシステム起動さえ可能なことが分かった。ほかにitディスケットを正規の容量でフォーマットできず、なぜかSuperDiskとして120MBの容量でしかフォーマットできない、という問題も生じた。

Intel Ultra ATA Companion

SuperDisk
HiFD
it Drive


●評価機を変更してベンチマークを測定

 以上のことから筆者が下した結論は、D815EEAのBIOSは、汎用のARMDには対応しておらず、事実上SuperDisk専用のサポートになっているのではないか、ということだ。ドライブ側に全く問題がないとは言えないが、BIOSのサポートに問題があるのは明らかである。そこで、全く異なるテストプラットフォームを用意することにした。それが表2に示したAthlonベースの代替評価用システムだ。チップセットからBIOSまで、あえて最初のシステムとは全くの別物にしてみた。

【表2:代替の評価用システム】
マザーボードMicroStar K7Pro
チップセットAMD-750
BIOSAMI
CPUAthlon 600MHz (K75)
メモリ128MB PC100 SDRAM
ネットワークカード3Com 3C905-TX
サウンドカードLabway Xwave6000
グラフィックスカードLeadtek WinFast GeForce2GTS
OSWindows 98 Second Edition

 このシステムに変更したところ、完全ではないものの、HiFDドライブ、it DriveともにBIOSが認識し、Windows 98上で利用可能になった。テスト項目と結果は表3の通り。基本的には書き込みによるベンチマークとシステム起動が可能かどうかの確認を行なっている。ここでもHiFDはシステムの起動ができなかったが、やはり内蔵用として市販されていないだけに、そういう仕様なのだと理解するしかあるまい。また、なぜかフロッピーディスクに書きこもうとすると、「ディスクがいっぱいです」というエラーメッセージが出て書きこめないのに、メディアフォーマットや読み出し、ファイルの削除はできる、という奇妙な現象も見られた。

 それに比べれば、専用メディアでの利用は問題が少なかった。メディアの物理フォーマットをさせないのはおそらく仕様だろう。なぜかWindows 98 Second Edition標準のデバイスドライバで、DMAモードに設定できないという問題(上述のコンパニオンユーティリティによれば、Ultra DMAモード2までサポートしていることになっている)があったものの、PIOモードでなら利用することができた。ただ、このせいか、専用メディアによる約110MBのファイルコピー(Windows 98 Second Editionのcabファイルのコピー)テストの成績は、スペックほど高速ではなかった。

【表3:ベンチマーク結果
LKM-F934(第2世代SuperDisk)it DriveHiFD(ATAPI)
1.44MB Media
メディアフォーマット(通常のフォーマット)46秒2分5秒1分56秒 *1
システムの起動(Realモード)不可
driver12.cabのコピー(1451008bytes)46秒1分41秒不可 *2
上テストによるデータ転送速度30.8KB/sec14.0KB/secN/A
専用メディア
メディアフォーマット(通常のフォーマット)10分34秒5分58秒 *3物理フォーマット不可 *4
システムの起動(Realモード)不可
63個のcabファイルコピー
(計111,769,632bytes)
5分37秒5分51秒5分1秒
(PIOモード) *5
上テストによるデータ転送速度323.9KB/sec311.0KB/sec362.6KB/sec
専用メディア容量
(フォーマット後)
120.3MB137MB191MB
同メディア価格780円1,980円1,579円
メディアのバイト単価6.48円/MB14.45円/MB8.27円/MB
*1 この後,数秒アクセスランプが点灯していた
*2 「ディスクがいっぱいです」というメッセージが表示される
*3 120MBとしてフォーマットされてしまった
*4 クイックフォーマット不可で通常のフォーマットのみ可(パラレルI/F時はクイックフォーマット可)
*5 Windows 98 SE標準のドライバでDMAモードに設定できず,AMD Bus Master Driverを組みこんだところドライブのアイコンが消えてしまった

 実は、パラレルインターフェイスを用いた外付けユニットとしても同じテストを行なったのだが、そちらの方が高速(4分25秒)だったのである。その理由はハッキリとは分からないが、パラレルインターフェイスでは、ドライブがUltra DMAモードで動作している可能性がある。なお、AMD製のBus Master IDEドライバも組みこんでみたのだが、それまでFドライブとして使えていたHiFDのアイコンが消え、全く利用できなくなってしまった。

 it Driveは、システムを変更することで、かなり調子が良くなった。コールドスタートであっても、フロッピーやitディスケットからシステムを起動することができるのはもちろん、全般に動作が安定した。唯一、メディアを120MBのSuperDiskメディアとしてしかフォーマットできない問題は残ったのだが、HiFDよりもストレートに使える。しかし、使えるようになってみると、メカニカル方式のメディアローディング(けっこう重たい)およびイジェクトが気になってきた。メカニカルイジェクトが安っぽいのはしようがないとしても、まれにメディアロード時にうまくメディアが認識されないことがあったのである。コスト削減でやむを得ないのかもしれないが、ちょっと残念だ。また、AMD製のBus Master IDEドライバを組み込むと、それまでAドライブとして認識されていたit Driveが、Aの3.5インチFDと、Fのリムーバブルディスクの2つに分かれて認識されるようになってしまった。なかなかデリケートなデバイスである。


●完全に動作したのはSuperDiskのみ

 3種のドライブを比較してみると、やはり最先発のSuperDiskの安定ぶりが目立つ。とにかく、こう動いて欲しい、というこちらの希望通りに、完璧に動作したのはSuperDiskだけだった。AMD製のBus Master IDEドライバを組みこんでも、SuperDiskはちゃんと動作した(ただし、ベンチマークテスト的には若干性能が低下した)。性能的にも、フロッピーディスクを使う分には、最も高性能である。これはスペックから予想される通りだ(フロッピーディスクを高回転させることによるメディア寿命の問題は気になるところだが、今のところ筆者の手元でこれが原因と思われるトラブルは生じていない)。

 専用メディアによるテストでは、表にはないパラレルインターフェイスを用いたHiFDが最も高速だった(ちなみにパラレルポートは可能な限りEPPモードに設定しておくことをお勧めする)が、すでに述べたように外付けのパラレルでは筆者は魅力を感じない。しかし、現在外付けユニットに使われているドライブは、そのままでは内蔵ドライブとしては不向きな仕様のようだ。商品としてはパラレルインターフェイスを用いて接続するようにデザインされているのであり、今回の実験のような用法はメーカーの想定範囲外の利用であるため(もちろん保証範囲外でもある)、当然と言えば当然なのだが、ポテンシャルはあるだけに、正式に内蔵ドライブとしての使用をサポートしたドライブ(もちろんインターフェイスはATAPI一本)のリリースが待たれるところだ。


●メディアのByte単価を考慮すると最も高性能なのはSuperDisk

 というわけで、結局専用メディアを用いたテストでも、現時点で最も性能が高いのはSuperDiskという結論になった。it Driveとの性能差は決して大きくないのだが、メディアのByte単価まで合わせれば、文句なしにSuperDiskの勝ちだろう。IntelやMicrosoftは、フロッピードライブの後継にCD-RWドライブを考えており、いつまでこのクラスのリムーバブルディスクに市場性があるかは分からない。それでも、3種類の中から1つを選ぶとしたら、SuperDisk以外に選択肢がないこともまた事実だ。

 このような結果となった最大の理由は、SuperDisk以外のドライブは、内蔵デバイスとしてリリースされてから日が浅かったり(it Drive)、そもそも内蔵デバイスとしてリリースされていない(HiFD)ため、BIOSのサポートやデバイスドライバのサポートが十分でないことにある。SuperDiskにしても、今でこそ安定しているものの、内蔵用ベアドライブが売られ始めたころは、互換性問題や動作の不安定さが珍しくなかった。こうした問題を解決するのは、時間であり、市場での実績なのである。3種の中で最もスピンドル回転数が高く、高性能が期待できるHiFDだが、内蔵用のドライブを市場に投入しない限り、BIOSやドライバの問題は改善しない。もし、HiFDをPCの標準的なストレージデバイスにしたいと考えているのであれば、形はともあれ、内蔵用のドライブを市場に投入するべきだろう。すでに内蔵用ドライブが入手できるということだけでも、it Driveの方が先行している、という見方もできるのである。

 また、今回の実験で、はからずも互換性というものの正体を、若干覗き見ることができたようにも思う。HiFDはインターフェイスが特殊だが、SuperDiskも、it Driveも、基本的にはATAPIのリムーバブルデバイスであり、BIOSはATA/ATAPIの規格に準拠していれば、どちらのデバイスもそのままサポートできそうに思える。しかし、実際にはSuperDiskがちゃんとサポートされているからといって、it Driveがうまく動くとは限らないことが分かった。

 最近、PC用に登場してくる新しい規格、たとえばUSBやAGPでは、規格とは別に必ずプラグフェストと呼ばれるイベントが開催される。これは、ある規格に準拠した製品を販売する予定のベンダが、それぞれ自社の製品を持ち寄り、実際の製品を用いて他社製品との相互接続性を検証するイベントだ。今回の体験で、筆者もプラグフェストの重要性を体感できたような気がする。

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(2000年8月30日)

[Text by 元麻布春男]


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