●IBMの純正オプションとして用意されていたHiFD
今回は、前回予告した通り、もう1度HiFDについて取り上げる。前々回の記事で、筆者はHiFDについて、内蔵用デバイスとして販売されていない、と書いたのだが、読者から内蔵用デバイスとして売られている、という指摘を受けたのは、前回も書いた通りだ。HiFDを売っているのは日本IBMで、確かにhttp://www.jp.ibm.com/pc/option/koulilist/op97intk.htmlにID# 20L0543 「IBM HiFD 250MB 内蔵型ドライブ」として、28,000円という価格とともにリストされている(250MBは200MBの誤り)。不思議なことに、同社はノートPC用にSuperDiskをオプションとして提供しているのに、デスクトップPCのオプションとしては用意していない。ノートPCとデスクトップPCが、LAN等ではなく、メディアでデータ交換することは想定されていないのだろうか。
しかし、このページだけでは、いったいどのシステム用に用意されたオプションなのかはわからない。もう少し調べてみると、オプションの対応表があり、このIBM HiFDドライブがPC300PLならびにNetVista A40p用のオプションであることがわかった(この対応表では200MBと正しく表記されている)。PC300PL、NetVista A40pともに、ビジネス向けのクライアントPCであり、前者はVIAのApollo Pro133Aチップセット(Web上の情報では明記していないが、AGP 4X対応になっているので間違いないと思う)、後者はIntel 815Eチップセットを用いたシステムだ。
というわけで、今度はPC300PLのページからオプションを探してみると、HiFDはリストアップされていない。NetVista A40pについても同様で、本体の情報から素直に探すだけでは、HiFDドライブに行きつくことはできなかった。確かに、本体のページにすべてのオプションが列記されていると限らないとはいえ、これではHiFDドライブを買うのは、該当機種のオーナーといえど、容易ではない。本当に売っているの? と疑いたくもなったのだが、おそらく営業用と思われる製品発表レターが見つかった。これによると、内蔵用HiFDドライブは2000年2月16日に発表され、3月16日から出荷を開始したらしい(ちなみに、このレターによると、同じ日付で250MBタイプの内蔵型ZIPドライブの提供も開始されたようで、こちらの価格は32,000円となっている)。企業向けPCの純正オプションだけに、人知れず?(一般ユーザーに広く告知することなく)リリースされているのだろうか。
●IBMの保証が付いたSONY製HiFDドライブ
さっそく、編集部経由でこのドライブの貸出しを依頼したところ、ご厚意により試用する機会が得られた。編集部から届いたのは、いかにもOEMのストレージデバイスっぽい茶色い小型のダンボール箱だった。中にはベゼルのないHiFDドライブと、付属品が収められていた。PC300PL、NetVista A40pともに、フロッピードライブのベゼルがケース前面から露出するデザインではない。ドライブ背面のコネクタに、フロッピーインターフェイスとATAインターフェイス、両方が用意されている点は前々回用いた外付けドライブと同様だ、なお、ドライブ上のラベルには、ハッキリと製品保証を行なうのがIBMであることが明記されている。
送られてきたHiFDドライブ | 付属品 |
一方の付属品だが、いかにもIBMっぽいマニュアル、ドライバとユーティリティを収めたCD-ROM(こちらもIBMロゴ入り)、ソニー製のメディア1枚、フラットケーブル、そして取りつけネジが同梱されていた。もう1つ、このドライブがエンジニアリングサンプルであることを示す注意書きも入っていたのだが、これが借用したドライブのみのものなのか、販売されている製品にも入れられているのかはわからない(そういう意味では茶色い小型のダンボール箱というパッケージも、借用したドライブだけのものである可能性がある)。
●システムとの互換性をテスト
さて、今回のテストだが、メインテーマはシステムとの互換性である。前々回のテストでは、マザーボードのBIOSとの間で、シビアな互換性問題が発生、特にD815EEAではATAPIデバイスとして認識されない、という内蔵デバイスとしては致命的な問題が生じた。しかし、これは外付け用のドライブを無理に内蔵用に転用したからで、内蔵用のHiFDドライブなら問題がないのではないか、という疑問が残ったことによる。また、フロッピーインターフェイス経由での利用(1.44MB FDメディアの利用)も調子が悪かった。最初から内蔵用として出荷されているドライブなら、こうした問題が発生しない可能性がある。
外付けドライブではサポートされていなかった専用メディアのフォーマットがサポートされている |
組み合せたシステムの構成は表の通り。前々回に用いた評価システム2と3に加え、Apollo Pro 133Aベースの評価システム1を加えてある。評価システム3は、前回全くHiFDドライブ認識しなかったD815EEAベースのシステムだが、今回はBIOSを最新版に更新しての再チャレンジだ(ほかの2枚のマザーボードもBIOSは本稿執筆時点での最新版である)。これらのシステムに、それぞれのチップセットベンダが提供する最新のIDEドライバをインストールし、さらに本ドライブ付属のドライバ/ユーティリティをインストールした状態でテストを行なった。ユーティリティは、フォーマットユーティリティのほか、アニメーション付きのイジェクトユーティリティ(オプションでシャットダウン時に自動イジェクトするとのことだったが、今回はこの機能が動作することを確認できなかった)が付属しており、外付けドライブではサポートされていなかった専用メディアのフォーマットがサポートされている。
評価システム1 | 評価システム2 | 評価システム3 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
マザーボード | Soltek SL-67KV | Microstar K7Pro | Intel D815EEA | |||
BIOS | AWARD | AMI | AMI | |||
バージョン | Rev F7 | V1.6 | P05 | |||
チップセット | VIA Apollo Pro 133A | AMD-751/756 | Intel i815E (ICH2) | |||
CPU | Pentium III 600E MHz | Athlon 600MHz | Pentium III 600EB MHz | |||
メモリ | 128MB PC133 SDRAM | 128MB PC100 SDRAM | 128MB PC133 SDRAM | |||
IDEドライバ | VIA 4in1 4.25 | AMD Bus Master 1.32 | Intel Bus Master 6.0 | |||
LANカード | Intel PRO/100+ | 3Com 3C905B-TX | 3Com 3C905-TX | |||
グラフィックスカード | ELSA ERAZOR X2 | ELSA ERAZOR X2 | ELSA ERAZOR X2 | |||
サウンドカード | X-Wave6000 (YMF744) | X-Wave6000 (YMF744) | X-Wave6000 (YMF744) | |||
システムBIOSによる認識 | ○(AUTOでPIO4) | ○(AUTOでPIO4) | ○ *2 | |||
WindowsでDMAモードに設定 | ○(モード不明) | 不明 | ○(MultiWord DMA 2) | |||
1.44MB Media | ||||||
メディアフォーマット(通常のフォーマット) | 1分54秒 | 1分54秒 | 1分52秒 | |||
システムの起動(Realモード) | OK | OK | OK | |||
driver12.cabのコピー(1,451,008bytes) | 58秒 | 1分1秒 | 59秒 | |||
上テストによるデータ転送速度 | 24.4KB/sec | 23.2KB/sec | 24.0KB/sec | |||
専用メディア | ||||||
メディアフォーマット(通常のフォーマット) | 約12分 | 約9分 | 約8分50秒 | |||
システムの起動(Realモード) | 不可 *1 | OK | OK *3 | |||
63個のcabファイルコピー(計111,769,632bytes) | 5分6秒 | 4分26秒 | 4分31秒 | |||
上テストによるデータ転送速度 | 356.7KB/sec | 410.3KB/sec | 402.8KB/sec |
●前々回に比べ、格段に互換性が向上
さてテスト結果だが、前々回に比べれば格段に互換性が向上した。少なくともすべてのシステムがHiFDのAドライブからシステムブートが可能だ。Aドライブによるテスト(フォーマット及び書き込み)の結果も、マザーボードを問わず安定している(フロッピーコントローラを用いる以上、同じベンチマーク結果が出ていることが問題のない証拠)。前述の通りHiFDはフロッピーインターフェイスとATAインターフェイスの両方を持っており、既存のフロッピーメディアのアクセスにはフロッピーインターフェイス経由で、専用の200MBメディアに対してはATAインターフェイス経由でアクセスを行なう。Aドライブというのは、既存のフロッピーメディアのアクセスに用いられるドライブレターだ。
専用メディアを用いたテストの方も、まずまずの結果が得られた。評価システム1を除き、HiFDの200MBメディアからシステムを起動することが可能であった。評価システム2と3については、システム起動が可能だったほか、メディアのフォーマットや書き込みテストの結果も、ほぼ同等のものとなっており、安定して動作していることがうかがえる。だが、決して問題が皆無ではないことも明らかである。そして、その問題は、やっぱりBIOSにあるようだ。
専用メディアからのシステム起動ができなかった評価システム1の問題が、BIOSにあることは間違いない。通常の読み書きは、若干ほかのシステムより遅かったといえ問題なくできたし、何よりIBMはApollo Pro 133Aを用いたシステムを、HiFDの対応システムとして販売しているのである。
●互換性は高いがおかしな部分も多い
評価システム2と3は、一見、すべて順調に見えるが、実はちょっと怪しい部分がある。たとえば、システムBIOSで、HiFDドライブはPIOモード4のデバイスとして認識される。評価システム2は、前々回のテストではUltra DMAモード2(Ultra DMA/33)をサポートしていたが、今回のテストでHiFDがUltra DMAモードで動作しているという確証が得られなかった。評価システム1はBIOSの認識でPIOモード4、WindowsではDMAのチェックボックスは付けられるものの、動作モードは不明、評価システム2はBIOSがPIOモード4で(BIOSはUltra DMAモードの検出を行なうがN/Aのまま)、Windowsでは不明(AMDのバスマスタドライバにはDMAのチェックボックスがない)、評価システム3にいたっては、起動時にSONY HiFDを認識しているものの、BIOS SETUPではデバイスはNot Installedのままだったのである(Windows上はMulti Word DMAモード2)。
ところが、評価システム3のBIOS SETUPを良く見てみると、Not Installedであるにもかかわらず、デバイスタイプの設定が生きている。デバイスがインストールされていないのに、そのタイプもなかろう、と思ったのだが、どうやらNot Installedというのは、BIOSがデバイスの情報をうまく取得できなかったことを示しているようだ(今回、ここには示していないが、Dr Hardware 2000やSandraといったダイアグノスツールも用いたのだが、こうしたツールでもデバイスの情報が取得できない、というエラーが良く見られた)。しかも、デバイスタイプをAUTOにしておくと、専用メディアからのブートは不可能で、デバイスタイプをARMD-FDDにセットしておく必要があった。
というわけで、さすがに内蔵用として売られているだけに、今回のHiFDドライブはかなりのレベルで動作した。が、完璧な動作にはBIOSの対応が必要なことに変りはない。おそらく対応したBIOSを搭載していると思われるPC300PLやNetVista A40pでは完璧に動作するのだろうが、現時点でHiFDが大半のシステムで問題なく動作するとは言いにくい。
もちろん、BIOSの対応は、デバイスが市場に出ない限り進みはしない。そういう意味では、とりあえず内蔵デバイスが買えることの意義は大きいように思うのだが、売り方としてあまりに露出が少ない点が気にかかる。SuperDiskもデビュー時は、BIOSの対応に起因する問題が多発したが、O.R. Technologyが果敢に? 内蔵デバイスを外販した結果、BIOSの対応は進んだ。今も、内蔵SuperDiskがどれだけ普及しているかはともかくとして(一番売れているのはiMac用のUSBストレージとしてのSuperDiskだろうが)、ほとんどのマザーボードがSuperDiskに対応している。IBMの純正オプションのみ、それもWebサイトを隅から隅まで探さなければ見つからないような状態では、どこまでBIOSサポートが進むか不安になる。
もう1つ気になるのは、結局HiFDがフロッピーインターフェイスとATAインターフェイスの両方を必要とする仕様のままであることだ。既存メディアのアクセスをフロッピーインターフェイス経由で行なうことは、互換性を重視してのことだったと思うのだが、そのフロッピーインターフェイスがレガシーとして駆逐されるターゲットになっている現状を考えると、インターフェイスをATAに一本化する必要があるだろう。どうせBIOSの対応は必要になるし、SuperDiskやATAPI ZIPによりBIOSサポートの下地はできている。ATAに一本化すれば、既製品のブリッジチップ(ATAをUSBに変換するチップ)を用いて、簡単に外付ユニットを構成することも可能だ。そして何より、1台の物理ドライブが、挿入したメディアによってドライブレターが変る、というわかりにくさを追放できる。たとえば、容量をさらに拡大したHiFDをリリースする予定があるのであれば、その時はインターフェイスはATA一本にするべきだと思う。これは、データ転送レートが倍になるとか、ならないとかいうことより重要だと筆者は考える。
(2000年9月13日)
[Text by 元麻布春男]