●秋葉原で、HiFDドライブがバーゲンに
実験に用いた3種類のドライブと、それぞれの専用大容量メディア。左からSuperDisk、it Drive、HiFD |
「外付のパラレル」のどこがそんなに悪いのか。そもそも外付である、というのが厄介だ。一般的にPCの世界では、ストレージデバイスは内蔵が基本である(この辺、PC-9801シリーズやMacintoshとはちょっと異なる)。ウソだと思うなら、米国のWebショップを調べてみればいい。PCとMacintoshの両方を扱うような大手は別として、ローカルで商売しているような小規模のPCショップでは、ほとんど外付ストレージを扱っていないことがわかるハズだ。PCの世界では外付のストレージというのは、かなり異例の(あるいはテンポラリな)ニッチデバイスということを意味する。
また、特にHiFDのようなフロッピーディスクとの互換性を売り物にするデバイスの場合、外付のパラレルでは、フロッピーディスクからのシステム起動をサポートできない。これでは、フロッピードライブの100%上位互換にはなり得ない。つまり、せっかくHiFDドライブを購入しても、システムの既存のフロッピードライブを置きかえるわけにはいかないのである。
システムに既存のフロッピードライブを置きかえることができない、ということは、同時に外付ストレージがフロッピードライブ互換である必然性がない、ということでもある。フロッピーディスクを読み書きしたければ、既存のフロッピードライブを使えばそれで済む。わざわざ外付のリムーバブルストレージでフロッピーディスクを読み書きする必要はない。あえて外付ストレージを加えるとしたら、それこそZIPのような、フロッピーとの互換性を断ち切る代りに高性能を実現したデバイスで構わないのである。外付HiFDドライブが外付ZIPドライブより安いのならともかく、そうでないのでは購入する理由がなくなってしまう。
外付というだけでも不利なところにきて、そのインターフェイスがパラレルというのは、大きなマイナスだ。実際の性能はともかく、パラレルには「遅い」というイメージがある。もちろん、パラレルインターフェイスは、決して高速とは言い難いのだが、このクラスのデバイスで本当にパラレルインターフェイスがボトルネックになるほど遅いかというと、実はそんなこともない。それでも「遅い」というイメージが消費意欲を減退させることも間違いないのである。
●レガシーインターフェイスであるパラレルのデメリット
もう1つパラレルインターフェイスのマイナスは、それがレガシーインターフェイスであることだ。今は、まだすべてのPCに標準的にフロッピードライブが添付されているが、そう遠くない将来、フロッピードライブを持たない「レガシーフリー」PCが登場してくる。この時、フロッピーディスクからのシステム起動も、レガシーとして切り捨てられるため、フロッピードライブがシステム起動をサポートしない外付デバイスでも良くなるのだが、同時にパラレルポートもなくなってしまう。外付のパラレルでは、この事態に対応できない。
現在、一足先にフロッピードライブを取り払ってしまったiMacユーザーも、かなりの割合で外付のフロッピードライブを所有しているようだ。フロッピーはこれまで広く用いられてきただけに、急になくなっては困るユーザーも多いということの現われだが、インターフェイスは当然ながらUSBである。HiFDも、パラレルではなくUSBなら、PC向けとして将来が展望できた上、iMacユーザーに売ることもできたハズだ(実際、直接の競合デバイスであるSuperDiskは、この市場で一定の成功を収めている)。
というわけで、「外付のパラレル」であるHiFDドライブにはほとんど興味のなかった筆者なのだが、ここまで価格が安くなったら、ちょっと試してみたくなった。もちろん、急に外付けデバイスとしてのHiFDに興味がわいたわけではない。バラしてATAPIに直結できないか、実験してみたくなったのである(念のために断っておくが、これはメーカーの保証外の行為であり、各自の責任において行なっていただきたい)。筆者は、フロッピーディスクとの互換性を持つデバイスであるSuperDisk(もちろん内蔵ATAPI)の愛用者だが、果たしてHiFDはSuperDiskと比べてどうなのか、確かめてみようというわけだ。そのついで、というわけではないが、もう1つCaleb Technologyのit DRIVEを加えた3つを比較してみることにした。
●SuperDisk、HiFD、it Driveの概要
まずは、実際のドライブをテストする前に、3種類のデバイスについて、簡単に見ておこう。一番最初に製品化されたSuperDiskだが、レーザーサーボを用いた専用メディアの容量は120MB(実容量。現在、第2世代のドライブが流通しているが、第1世代のドライブが720rpmのスピンドルだったのに対し、1,440rpmと倍速のドライブになっている。倍速の効果は専用120MBメディアだけでなく、1.44MBのフロッピーディスクでも発揮されるため、最も高速なフロッピードライブ、ということもできる。専用メディア使用時も、フロッピーディスク使用時も、インターフェイスはATAPIを用いる。
現在ドライブを製造しているのは松下寿電子工業だけだと思うが、第1世代時は同社に加え三菱電機もドライブを製造していた。メディアは開発メーカーである3Mに加え日立マクセルも参入しており、比較的メディア価格も安い。商品としては、多くのベンダから外付ドライブが市販されているほか、秋葉原等では内蔵用のベアドライブを容易に入手することが可能だ。もちろん筆者が購入しているのはこのベアドライブで、価格は9,000円前後というところだろうか。
HiFDは、ソニーと富士写真フィルムが共同開発した大容量フロッピーディスク規格。このクラス最大の200MB(正確には191MB)という大容量を誇る。メディアはソニーと富士写真フィルムの2社、ドライブはソニーが供給するが、現在市販されているのは富士写真フィルムブランドの外付タイプのみで、内蔵用のベアドライブは流通していない。
HiFDの特徴は、専用メディアに検出用の穴を設けることで、専用メディア使用時には3,600rpmという高スピンドル回転数を実現したことだ(フロッピーディスク使用時は互換性重視の300rpm)。この高スピンドル回転数を実現するため、HiFDは浮上型のヘッドを採用したのだが、先行発売した米国でヘッドクラッシュする(回転中のメディアにヘッドが接触する)問題が発生、リコールが生じてしまった(国内販売されているのは、この問題を修正したもの)。ヘッドとメディアを非接触にすることで、高回転による高性能とメディアの耐久性および信頼性を両立させようという狙いだが、ヘッドを浮かせなければクラッシュすることもないわけで、このあたり痛し痒しな面もある(ほかの2種は接触型ヘッドのため、スピンドル回転数が低いかわりにクラッシュの心配もない)。なお、SuperDiskとitディスケット(it Drive用の144MBメディア)が通常のフロッピードライブに挿入可能なのに対し、HiFDメディアはフロッピードライブへの誤挿入防止対策が施されている。
残るit Driveは米国のCaleb Technologyが販売するフロッピーディスク互換のリムーバブルストレージだ。専用メディアであるitディスケットの容量は公称144MBだが、実際には137MBで、SuperDiskとの差はそれほど大きくない。現時点で流通しているのは、ドライブ、メディア共にCalebブランドのみで、サードパーティはないものと思われる。ドライブのインターフェイスはATAPIだが、カタログ等によるとUSB、PCMCIA、パラレルに対応した外付ユニットもあるようだ。スピンドル回転数はitディスケット使用時が1,000rpm、フロッピーディスク使用時が600rpmと最も遅く、メディアのイジェクトもメカニカル方式(ほかの2種はソフトウェアイジェクト可能なオートイジェクト)だが、その分ドライブ価格が安く、今回用いたベアドライブの実売価格はメディア1枚付で5,980円に過ぎない。
というところで、紙数も尽きてしまった。実際のテストについては、また次回に。
(2000年8月23日)
[Text by 元麻布春男]