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後藤弘茂のWeekly海外ニュース

Rambusの目的は次々世代DRAM技術を握ること


●Rambusの目的はDDR SDRAMで食うことではない

 Rambusは、たとえDirect Rambus DRAM(RDRAM)が普及しなくても、経済的に困ることはないだろう。Rambusは、SDRAM/DDR SDRAMに対する同社の知的所有権を、東芝と日立製作所に認めさせ、ライセンス契約を結ぶことに成功した。東芝と日立は、RDRAMだけでなく、SDRAM/DDR SDRAMについても、今後はRambusにライセンス使用料を支払うことになる。この流れで、すべてのDRAMベンダーが、SDRAM/DDR SDRAMでライセンス料をRambusに支払うなら、それだけで小所帯のRambusは十分な収入を得ることができるだろう。もし、SDRAMに対するライセンス料が1~2%程度、DDR SDRAMに対するライセンス料が3~5%程度だったとすると、それだけで年間数百億円の収入が見込めるからだ。

 Rambusの持つ特許は、非常に基本的な高速DRAM技術の特許であり、現在のSDRAM/DDR SDRAMでは避けることはできないと見られている。訴訟を起こしていたのは日立に対してだけだが、RambusはすでにDRAMベンダーにSDRAM/DDR SDRAMに関する知的所有権を主張する文書を送っているそうだ。ほかのDRAMメーカーが日立同様にRambusに訴えられた場合、日立と東芝の先例があると対抗することはなかなか難しいだろう。

 だが、Rambusの目的は、SDRAM/DDR SDRAMで食ってゆくことではない。「当社のミッションはあくまでもRDRAMを普及させること」とラムバス社長の直野典彦氏は説明する。RambusのようなIP企業は、技術開発力を失ったらおしまいなので、自社アーキテクチャの普及を最重要と見るのは本音だろう。つまり、特許闘争は、RDRAMに対抗する構図になっているDDR SDRAMの競争力を削ぎ、DRAMベンダーがRDRAMへ注力するように圧力をかけることが最大の目的だと思われる。その意味では、Rambusは今回のライセンス契約で、RDRAM普及にポイントを稼いだと言える。


●DDR SDRAMを殺さないロイヤリティを

 直野氏によると、今回のライセンス契約では、DDR SDRAMに対するロイヤリティはRDRAMに対するロイヤリティよりも高くしたという。「RDRAMを普及させる会社なのだから、対抗技術を利することは、株主に対する責任上もできない」(直野氏)ためで、RDRAMの立場からすれば当然と言える。

 ただし、ロイヤリティは、一部で伝えられていたような、DDR SDRAMを事実上製造できないほどの高率ではない。「何%かは言えないが、DDR SDRAMが死ねばいいというような設定はしていない。15%という報道はウソだ」と直野氏は断言する。

 つまり、DDR SDRAMは競争上のハンディキャップは負ったものの、完全に封じられてしまったわけではない。Rambusも、そこまでDRAMベンダーと極端な対決をするつもりはないということだろう。Intelも、サーバーではDDR SDRAMを持ってくるつもりでおり、極端なことをするとIntelとの対立も招きかねない。

 だが、今回の日立の件で、DRAMベンダーは、DDR SDRAMに注力してRDRAMを無視することは難しくなった。RDRAMのライセンスを受けながら生産していなかった日立が訴えられたことは、ほかのDRAMベンダーにRDRAMに本気になるようにという圧力になっていると思われる。実際、「Rambusに訴えられるのが怖いから……」という話は、このところよく聞く。

 だが、Rambusが今回のような動きに出たのは、RDRAMのためだけとは思えない。ポストRDRAMの戦いを有利に進めるための動きでもある。


●Rambusにとって優等生の東芝と素行不良の日立

 今回の件では、契約したのが東芝と日立というのが、なんとも絶妙だ。というのは、Rambusにとって、東芝は最優等生で、日立は最も素行の悪い生徒だからだ。

 東芝は、Rambusにとっては理想的なライセンシだった。古くからRambus仕様のDRAMを製造してきただけでなく、RDRAMも一貫して支持してきた。同社は、PC向けにはあまりRDRAMを出していないが、プレイステーション2というRDRAMのクライアントを抱えており、かなりの量を生産し続けている。その一方で、DDR SDRAMに対してはいちばん冷淡だ。

 それに対して日立は、Rambusにとっていちばん気にくわないライセンシだ。RDRAMのライセンス契約を結んでいるのに、RDRAMを生産せず、DDR SDRAMの旗振り役をやってきたからだ。

 今回のライセンス料は明らかになっていないが、訴訟になった日立の方が、すんなり認めた東芝よりライセンス料が高い可能性がある。その場合、ほかのDRAMベンダーにとっては大きな圧力になる。つまり、「優等生はすんなり言うことをきいたのでほめられたけど、不良生徒は言うことを聞かなかったので罰せられました」という明確な例になるからだ。

 日立は、ほかのDRAMベンダーを牽制するにも最適な相手だ。例えば、RDRAMを生産しないでDDR SDRAMの旗を振っているという意味ではMicron Technologyも同じだが、業界最大手のMicronより日立の方が明らかに扱いやすそうに見える。それから、日立を訴えたことで、Intelを中心に進められている次世代(2003年以降の)DRAM規格の策定団体ADT(Advanced DRAM Technology)にも圧力をかけることができる。

●ADTとRambus訴訟の関係

 ADTは、IntelとMicron、Samsung Electronics、Infineon Technologies、Hyndai Electronics、それにNECで結成されている。つまり、Rambusは、Intelから次々世代のメモリ規格策定の作業ではじかれてしまった格好になっている。Rambusのロイヤリティや技術的な拘束を嫌うDRAMベンダーの“Rambusはずし”が、実現したわけだ。

 しかも、ADTには見ての通り、MicronとHyndaiというDDR SDRAMの強力な推進メンバーが入っており、SamsungやInfineon、NECもDDR SDRAMに片足を突っ込んでいる。このままだと、ADT規格のDRAMは、Rambusの技術が取り入れられないものになってしまう可能性が高い。そうすると、RDRAMも、ADTのDRAMが登場するまでのものになってしまうわけだ。

 ここで、Rambusの訴訟をADTの絡みで見てみると面白いことがわかる。Rambusが日立を訴えた時点で、DDR SDRAM積極派でADTに入っていなかったのは日立だけだった。つまり、もっともデンジャラスな相手であるIntelを刺激せずに、DDR SDRAMを攻撃するのに最適な相手が日立だったわけだ。しかも、日立はNECとDRAMの開発と販売を統合する予定であり、日立に対する訴訟はそのままADTメンバーであるNECへの圧力ともなる。こうした思惑があったかどうかはもちろん定かではないが、Rambusが日立を訴えたのが、ADT結成の翌日だったのは、たんなる偶然とは思えない。

 おそらく、Rambusの目的は、ADTの次世代DRAMの策定作業に、最終的にRambusの技術を反映させることだと思われる。そのためにも、DDR SDRAMに含まれるDRAM高速化技術が、Rambusの知的所有権であると各社に認めさせることは重要だ。Rambusの持つ特許は、非常に基本的な特許なので、DDR SDRAMで認められるなら、ADTの次世代DRAMの技術でも認められる可能性が高いからだ。それなら、Rambusは、高速DRAM技術に関する知的所有権を交渉のカードとして、ADTへの参加を迫ることができるかもしれない。

 ちなみに、Rambusは、多値化によりピン当たり1.6Gbit/秒と、RDRAMの2倍の転送レートを実現する「Quad Rambus Signaling Level(QRSL)」技術を発表、次世代DRAMテクノロジ競争にすでに名乗りを上げている。

□関連記事
【6月23日】日立、Rambusと和解。DDR SDRAMには割高のロイヤリティ http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000623/rambus.htm
【6月19日】東芝、Rambusとライセンス契約を締結
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000619/rambus.htm
【3月28日】日立、米Rambusを反訴。損害賠償も請求
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000328/hitachi.htm
【1月19日】米Rambus、RDRAMに関する特許違反で日立を提訴
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000119/rambus.htm

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(2000年7月10日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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