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Crusoeの2001年までのロードマップが判明
~絵で見るCrusoe その2~

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●Crusoeロードマップ図

 米Transmetaは、Crusoeファミリを今後もどんどん発展させる。先週のコラムでも紹介した通り、ノートPC向けのTM5xxxファミリは性能を引き上げる。Crusoe TM5400のハイパフォーマンス版「Crusoe TM5600」と、次世代CPU「Crusoe TM5800」が準備されている。TM5800では、1GHzを超えると見られている。

 ここで重要なのは、Transmetaが「消費電力を最低限でも現状維持しながら性能向上を目指す」(Transmeta日本代表、和田信氏)としていることだ。これは、現在の米Intelのように、ノートPCメーカーに対応できる消費電力(熱設計基準)を引き上げさせることで高性能化を図る方向と大きく異なっている。Crusoeでは、ノートPCメーカーが、TM5400用に設計したノートPCの筺体/冷却機構に、TM5600やTM5800を載せることができる。

 一方、インターネット機器向けのCrusoe TM3xxxファミリは、性能向上とともに多様化へ向かうようだ。まず、性能アップ版のTM3300とTM3400が今後計画されている。業界関係者からの情報によると、TM3300/TM3400では、クロックが上がるだけでなく、キャッシュも強化されるという。また、ソフトモデムやソフトMPEG-4デコードなども可能になる。TM5xxxシリーズにしか登載されていなかった画期的な省電力技術LongRunも、TM3300からは加わるようだ。

 さらに、将来は、2Dグラフィックス機能を統合するプロジェクトも企画されているという。Crusoeは、ノースブリッジ機能(DRAMインターフェイスとPCIバス)をすでに統合しているため、グラフィックス機能も統合されるなら、あとはメモリとI/O周りさえあればインターネット端末ができてしまうことになる。

 ちなみに、TM3200は発表時にはTM3120だったのが、最近になって名前が変わった。これは、じつは他の企業が『3120』で商標をとっていたためだ。名前に固執するより、いっそのこと製品名を変えてしまえとなったようだ。


●Crusoeの市場ターゲット図

 Transmetaは、TM5xxxとTM3xxxの2つのファミリで、ふたつの市場を狙う。

 TM5xxxファミリは、軽量薄型ノートPCで、1.5kg程度までのサブノート/ミニノートや、CD/DVD-ROMドライブを備えた2kg程度のノートを想定しているという。従って、TM5xxxファミリは、x86モバイルCPUのパフォーマンスアップに追従することになる。

 一方、TM3xxxは、図のように、1kg以下のWebPADやハンドヘルド機器をターゲットとしている。いずれもディスク装置を持たないデバイスで、フラッシュメモリをストレージに使うことを前提とする。Transmetaは、こうしたCrusoe機器向けに、ディスクレス環境に最適化したMobile Linuxを、OEMに供給する。Transmetaは、よく知られているようにLinuxの開発者ライナス・トーバルズ氏を擁している。

 この市場でのCrusoeの利点はx86互換性で、GUIベースのWebブラウジングの世界で、x86のプラグインを使えることを武器にする。つまり、x86互換でPCと同じWebアクセス環境を実現できることで、StrongARM、SH、MIPSといった組み込みRISCプロセッサと差別化するというわけだ。TM3xxxシリーズの価格は組み込みRISCと比べると高いが、x86互換性を武器に直接の競合を避ける戦略だ。


●Crusoe TM5400のブロック図

 右は、現在製品化されているCrusoe TM5400のブロックダイアグラム図だ。これを見ると、Crusoeが極めてシンプルなCPUであることがよくわかる。

 Crusoeでは、「コードモーフィングソフトウェア(CMS:Code Morphing Software)」が、x86命令をCrusoeのネイティブのVLIW命令に変換(トランスレート)し、命令のスケジューリングまで行なってしまう。このCMSの機能は、Pentium IIIやAthlonが持っているデコーダハードウェアやスケジューラハードウェアと基本は同じだ。Crusoeは、それをソフト化してしまった分だけ、CPU自体のハードウェアがシンプルになっている。

 実際に、Crusoe TM5400のブロックダイアグラム図には、x86デコーダやスケジューリング機構といった、CPU上で大きな面積を取る機構が見あたらない。演算ユニットは、整数演算ユニットが2つ、浮動小数点演算/メディアユニットが1つ、ロードストアユニットが1つ、ブランチユニットが1つで、ほぼPentium IIIと同程度だ。つまり、Crusoeではデコーダやスケジューリング回路の分だけ、CPUのトランジスタ数が少ないことになる。

 トランジスタ数が少ないCrusoeでは、その分、ダイサイズ(半導体本体の面積)も小さい。Crusoe TM5400のダイは73平方mmで、100平方mm以上ある0.18μm版Pentium III(Coppermine:カッパーマイン)やキャッシュ統合版Athlon(Thunderbird:サンダーバード)と比べて30%ほど小さい。それなのに、チップセットのノースブリッジの機能までCPUに統合している。つまり、CPUコアのサイズはさらに小さいことになる。また、Crusoe TM5400は、Coppermine/Thunderbirdと同じ256KBの2次キャッシュを内蔵(On-Die)している。

 このように、シンプルな構造で、トランジスタ数が少ないため、Crusoeは消費電力が小さい。また、CPUハードウェアが単純になるため、設計とデバッグと高クロックへのチューンが簡単になり、Transmetaのような小さな会社が短い期間で開発ができる。CPUが小さく1枚のウエーハから大量に採れるので、IBMのようなコストの高いファウンダリ(受注生産半導体メーカー)に製造を依頼しても割があう。


●CrusoeノートPCのシステム構成

 右はCrusoe TM5xxxファミリを搭載したノートPCのシステム構成例だ。特徴的なのは、DRAMインターフェイスをSDRAMとDDRメモリの2系統(64ビットづつ)備えている点だ。以前の説明では、DDRメモリをメインメモリとしてDRAMチップをマザーボードに直付けし、SDRAMはSO-DIMMなどによる増設用とするということだった。しかし、先週のコラムでも説明した通り、現在は増設もDDRメモリのSO-DIMMを使うという方向へと向かっている。ただし、DDRメモリの立ち上がりによっては、初期の段階ではSDRAMで増設するかSDRAMオンリーの構成というシステムもありうるだろう。

 DRAMコントローラを統合するCrusoeの利点は、伝統的なx86互換MPUよりもDRAMアクセスのレイテンシが短いことだ。CPUが直接DRAMにアクセスするため、他のx86互換MPUのように、システムバス経由でチップセットにアクセスして、それからDRAMにアクセスするようなロス(余計なディレイ)がない。また、システムバスの帯域がボトルネックになる心配もない。原理的にはCrusoeのメモリ性能は、帯域だけでなくアクセス性能も高い。


●Crusoeの基本スペック

 TM5400TM3120
動作周波数500-700MHz333/366/400MHz
L1キャッシュ
命令64KB
8Wayセットアソシエイティブ
データ64KB32KB
8Wayセットアソシエイティブ
L2キャッシュ256KB×
4Wayセットアソシエイティブ×
パイプライン
整数演算7段
浮動小数点演算10段
MMXサポート
SSE××
ノースブリッジ統合
メインメモリDDR SDRAMSDRAM
クロック100~167MHz66~133MHz
インターフェイス幅64bit
サポート容量64/128/256Mbit
メモリ帯域2.61GB/sec1.04GB/sec
アップグレードメモリSDRAM×
クロック66~133MHz×
インターフェイス幅64bit×
サポート容量64/128/256Mbit×
メモリ帯域1.04GB/sec×
I/OPCI 2.1
パッケージ474ピンBGA
SMMサポート
電圧1.1~1.625V1.5V
LongRunサポート×
消費電力
DVD再生時1.8W2.9W
MP3再生時1.0W1.4W
ノーマル5.5~1.5W3.5W
Auto Halt0.9W0.9W
QuickStart0.3W0.4W
DeepSleep30mW15mW
製造メーカーIBM
プロセステクノロジ0.18μm0.22μm
ダイサイズ73平方mm77平方mm
サンプル出荷中出荷中
量産出荷2000年中盤出荷中

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【海外】年内にもCrusoe搭載ノートが登場 ~絵で見るCrusoe TM5400~
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000629/kaigai01.htm

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(2000年7月3日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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