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元麻布春男の週刊PCホットライン

究極の選択? 5月にマザーボードを選ぶ


 5月の上旬、Intelが発表したMTHのリコールは、筆者にもちょっとした影響を与えた。当時、主力実験マシンにそのMTHを用いたIntelのマザーボード、CC820を用いていたからだ。CC820を使っていた理由は色々あるのだが、端的に言えばそれまで使っていたSE440BX2に対して、

1. AGP4Xモードに対応
2. Ultra ATA/66に対応
3. 133MHzのFSBに対応

という3つのメリットが、MTHによる性能低下というデメリットを上回ると判断したことによる。加えて、Coppermineに対応するにはSE440BX2を新しいリビジョンのものに買いなおさなければならない、という事情もあった。ならばいっそ……というわけでCC820を買ったのである。
 だが、当の開発元であるIntelから、「最悪の場合データが破壊されることがある」と言われてしまっては、CC820を実験マシン用に使い続けるわけにはいかない。データが壊れる可能性のあるシステムで採ったベンチマーク結果に、どれほどの意味があろうか。CC820は引退させるとして、後釜を何にするかということに頭を悩ませることになった。

● SE440BX2とSL-67KVでは実験マシンに用いるのは辛い

 最初考えたのは、それまで使っていたSE440BX2に戻す、ということだ。これならお金はかからない。しかし、すでに市販のハードディスクの内部データ転送速度は400Mbpsを超え、440BXのSouth BridgeであるPIIX4eがサポートするUltra DMA/33のデータ転送レートを上回っている。市場に投入される新しいビデオカードは、みなAGP4Xモード対応をうたうものばかりになりつつある。AGP2XモードとAGP4Xモードで、実際にベンチマークテスト結果がどれくらい違うかは別にして、特定のビデオカードのベンチマーク結果が悪いのはAGP2Xモードだからではないか、みたいな議論の余地を残すのはやはり好ましくない。

 もう1つ手持ちのマザーボードで利用可能だったのはVIA TechnologiesのApollo Pro 133Aを用いたSoltekのSL-67KVだ。これなら上に挙げた3つの条件をすべて満たす。だが、サードパーティ製チップセットは、エンジニアリングサンプルレベルのハードウェア(および添付されているベータ版のデバイスドライバ)との互換性、Windows NT/2000のサポートの2つに難点がある(つい最近、ようやくWindows 2000対応のAGPドライバ Ver 4.03がリリースされたが)。
 特に困るのは、今回はこれで行こう、と決断してApollo Pro 133Aのマザーボードでベンチマークテストを採り始めたはいいが、何番目かのビデオカードが動作しないことが判明。急遽、他のマザーボードで全部のデータ取り直さなければならないといった事態に陥ることだ。すべてが製品版のテストであれば、こうした事態はあまり考えなくて済む。それくらい互換性も上がっているし、他のベンダも無視できないくらいVIA Technologies製チップセットの市場シェアが高まっているのだが、評価製品にサンプルが混じっていると、結構危ない。

 やはり、SE440BX2とSL-67KVでは実験マシンに用いるのは辛いと考えたわけだが、5月というタイミングは、マザーボードを買うのに決して良いタイミングではなかった。というより、事実上選択肢は1つしかなかった。そう、i820を使いながらもMTHを搭載しないマザーボードだ。Intel純正であればVC820ということになる(筆者は実験マシンは極力Intel純正のマザーボードにしたいと考えている)。Intel純正チップセットのうちAGP4Xモードに対応した拡張スロットをサポート可能なチップセットは、当時これしかなかったのである。

● メモリに払える金額は?

 それではなぜ筆者はそもそもVC820ではなく、わざわざMTHを使ったCC820を購入していたのか。言うまでもなく、RIMMの価格が非常に高かったからだ。筆者がCC820を購入した時点で、128MBのPC800 RIMMの価格は8~9万円というところ。PC1台が7~8万円で買える時代に、メモリに払える金額ではない。

 PCの価格というのは、この数年劇的に低下した。それに伴い、PCを構成する様々なコンポーネントの価格も低下している。メモリも間違いなく低下したものの1つなわけだが、今も昔も、メモリに払える金額という枠があるような気がしている。別にこれという根拠や資料があるわけではないのだが、その時々でメモリに割く予算というのは、案外と一定な気がするのだ。たとえば、Windows 3.1の時代、16MBのDIMMを2本買うと5万円くらいだった気がするし、Windows 95になって32MBのSIMMを2本買っても同じようなものだったような気がしているのである。
 これば、正確な記憶やデータに基づいたものではないので、無視してもらって結構なのだが、とにかくメモリに(システムに搭載される全メモリ容量に対して)抵抗なく支払える金額というのはせいぜい4~5万円なのだと思う。今は、PCが劇的に低価格していることを考えると、2~3万円なのかもしれない。そう思うと、8~9万円もRIMMに支払ってなどいられない。これがVC820ではなくCC820を購入した理由だった(加えて、一時期借用していた初期版のVC820が、不安定だったということも、VC820に抵抗があった理由の1つだ)。

 だが、この時点でもはや選択の余地はない。VC820を買うか、買わないのか、2つに1つだったのである。CC820はVC820と128MB RIMMに交換してくれるということなのだが、そんなのを待っていては、いつになるかわかったものではない。ちなみに今も筆者の手元にはCC820が残っている。結局、筆者はVC820の購入に踏み切った。その最大の理由は、たまたま秋葉原に128MBのPC800 RIMMが39,800円で売っていたからだ(このニュースをAKIBA PC Hotline!等で見て覚えている人もいるかもしれない。ちなみにKingston Technology製のRIMMだった)。ハッキリ言って、この値段でも高いと思うし、通常の業務用マシンなら絶対に買わない金額だが、実験マシンならやむを得ないか、という金額に感じられたのである。

● i815/i815Eは救世主になるのか?

 こうして導入したVC820だが、製品になってずいぶん安定したなぁというのが、正直なところだ。CC820は、なぜかEthernetカードとの相性問題に苦しんだ(あまり他の人からは聞かないのだが、Intelの82558ベースのEthernetカードだとWindows 98のインストールが不安定で、3Comにするとうまくいく、など)のだが、VC820に関しては、組み合わせるEthernetカードを82559ベースのものにしたこともあって、今のところそうした問題には遭遇していない。

 だが、VC820を一般に薦められるかというと、答えはノーだ。RIMMの価格はこれでも当初の半額以下になっているわけだが、正直言ってもう半額になってほしいと思う。PC100/PC133 SDRAMに比べればそれでもなお割高ではあるものの、128MBで2万円なら「まぁしょうがないかな」というのが筆者の感覚である(これでもバリューPCセグメントにはRIMMは使えないだろうが)。

 このように、5月にマザーボードを選ぶというのは、半ば究極の選択であった。が、今月に入ってようやく変化の兆しが見られた。ご存知のようにIntelがi815/i815Eチップセットをリリースしたのである。果たして、i815/i815Eは救世主になり得るのか。オンダイのL2キャッシュを持ったThunderbird/Spitfire同様、注目の新製品と言えるだろう。

□関連記事
【5月10日】米Intel、Memory Translator Hub(MTH)の欠陥を確認
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000510/intel.htm
【5月29日】インテルも、MTH搭載820マザーボードを無償交換
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000529/intel.htm
【6月20日】Intel、PC133/AGP 4X対応の新チップセット815/815E正式発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000620/intel1.htm

(2000年6月22日)

[Text by 元麻布春男]


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