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元麻布春男の週刊PCホットライン

Rage 128 Pro搭載のALL-IN-WONDER 128 Proをテスト


●AIW128から細かな変更が加えられたAIW128Pro

 Windows 3.0の頃から、筆者の仕事マシンに欠かせないのが、TVチューナー機能だ。用いる技術はアナログオーバーレイがデジタルオーバーレイに変わったし、ビデオカードと独立したTVチューナーカードから、ビデオカードとTVチューナー一体型のカードに変わったけれど、この機能を欠かしたことはない。今もATI TechnologiesALL-IN-WONDER 128(AIW128)の16MB版を使っている。

 このAIW128の後継にあたるAll-IN-WONDER 128 Pro(AIW128Pro)が先週末あたりから秋葉原に出まわり始めた(今のところ流通しているのは、並行輸入らしいバルク品と英語版のパッケージ品)。AIW128のRage 128に換え、グラフィックスチップをRAGE Fury ProやRAGE Fury MAXXに使われているRage 128 Proに変更した新版だ。

右がRage 128 Pro
 筆者の手元にあったAIW128の16MB版とAIW128Proを並べてみると、新しいAIW128Proの基板が小さくなっていることが分かる。AIW128が16Mbit SDRAMを8個用いていたのに対し、AIW128Proでは64Mbit SDRAM(最大同期周波数143MHz)4個の構成に変更したことが、小型化に貢献している(SDRAMが×32bit構成のものであることから、メモリバスは128bit幅ではないかと思われる)。
 グラフィックスチップのヒートシンクは大型化しているものの、最近のグラフィックスチップに不可欠の冷却ファンは取りつけられておらず好ましい。Rage 128 Proの動作クロックについては、公式な発表はなされていないが、コアクロックが125MHz程度、メモリバスクロックが143MHz程度と思われる。なお、TV入出力チップとしてAIW128ProにはRage Theaterが使われているが、AIW128でも32MBにはこのチップが使われていた(AIW128 16MB版は出力にImpacTV2、入力にBt829を用いていた)。


ヒートシンクは大型化したが、冷却ファンはついていない Micronas MSP3430Gを搭載した

 AIW128Proのもう1つの違いは基板の裏にある。基板の小型化に伴い、裏面の部品点数が増えたAIW128Proだが、左上に、比較的大きなチップが1つ(Micronas MSP3430G)あることに気づく。MSP34x0Gシリーズは、TV音声の復号化(ステレオ音声処理、主/副音声処理、dbxノイズリダクション等)を行なうチップで、MSP3430Gは主にアメリカの放送に対応したものだ(AIW128でもフィリップス製の同様なチップが使われていた)。MSP34x0Gシリーズには、日本の放送に対応可能なもの(3420および3440)、1チップで全世界対応可能なもの(3450)が存在するが、こうしたチップを採用した日本向けのAIW128Proが登場するかどうかは不明だ。

 今回テストしたところでは、MSP3430Gを用いた並行輸入品であっても、日本のTV放送でちゃんと音が出ることは確認できた。ただし、AIW128同様、モノラル音声のみの対応であり、マニュアルにも日本ではモノラルのみの対応であることが明記されている。このマニュアルの記述とAIW128の前例からして、日本でのステレオ放送や音声多重放送に対応した日本向けAIW128Proの製品化は期待薄だろう。

 TV音声復号化チップが変わったことの副作用か、1つだけ困るのは、ATIのWebサイトに用意されているWindows 2000対応のベータ版ソフトウェア(ディスプレイドライバ、マルチメディアセンター、DVDプレイヤーの3点セットで計約30MB)が、AIW128Proでうまく動作しない(画面は表示されるが音が出ない)ことだ。もちろん、これはソフトウェアがベータ版であり、正式版では修正されることだろうが、AIW128では正常に音が出ているだけに残念に思う(逆に言うと、今すぐWindows 2000で利用したいユーザーは、在庫のAIW128を確保しておくことだ)。

 これら(および後述の性能)以外の点については、AIW128ProはAIW128とほとんど変らない。ブラケット部に用意されたビデオ入出力用のコネクタ、およびそこに接続するケーブル類は、すべて共通のものである。TVチューナーユニットの上に見える、オーディオの内部出力用コネクタが、ちゃんと用意されているのもこれまで通りだ(ピンアサインはマニュアルで明記されているため不自由はしないが、ケーブル等の入手性を考えると、そろそろMP3タイプのコネクタにしてもいいように思うが)。あれば嬉しい機能の1つなのだが、意外と内部オーディオ出力が可能なTVチューナーカードは少ない。

 添付されるソフトウェアも、AIW128とAIW128Proは共通であり、今回試用した並行輸入と思われるバルク品に付属していたCD-ROMは、ATIテクノロジーズジャパンが実施したドライバアップデートで配布されたもの(Ver630)と同一だった。ちなみに、このアップデートは、最新のCD-ROMを国内パッケージ品のユーザーには無償で、バルク品やOEM製品のユーザーにも有償で提供する、というものだが、有償といってもCD-ROMの返送用切手代(160円切手1枚)のみ。並行輸入やバルク品についてこうしたサポートを行なわないベンダが多いなか、高く評価できるサポート態勢と言って良い。それはともかく、添付ソフトのマルチメディアセンターは、機能的に強力というわけではないものの、TVを見る、DVD/VideoCDを見る、オーディオCDを再生する、といった機能がまとまり良く提供されており、最大のウリであるリアルタイムのMPEG-2キャプチャが比較的安定している点と合わせ、使いやすいツールだ。

●性能に特筆すべき点はない

 問題の性能だが、AIW128を上回るのは当然であるものの、他社製品と比べて傑出した点はあまりない。今回比較に用意したのは、NVIDIAのGeForce 2 GTSベースのカード(LeadTek WinFast GeForce 2 GTS)とDiamond MultimediaのViper II Z200(Savage 2000)の2つ。前者は、現時点で最新・最強の3Dグラフィックスアクセラレータ、後者はおそらく現時点で最も動画再生機能/性能が優れたグラフィックスチップだ。

 ベンチマークテストの結果は表にまとめておいたが、3Dグラフィックス(3DMark 2000)、動画再生(Video 2000)のいずれのベンチマークテストにおいても、AIW128を上回るものの、他社のチップにはかなわない、という結果になった(Video 2000のテストにはDVDプレイヤーが必要だが、それぞれのカード製品にバンドルされているものを用いた)。Rage 128 ProはRage 128より改良されている(特にフルカラーモード)とはいえ、3Dアクションゲーム命のユーザーが選ぶグラフィックスチップではない(そういうユーザー向けの製品が、Rage 128 Proを2チップ用いたRAGE Fury MAXXなのだろうが、GeForce 2 GTS相手では分が悪いだろう)。

【3Dark 2000】(1,024×768 85Hz)
ビデオカードビデオチップ
メモリ
16bit Color32bit Color
All In Wonder 128Rage 128 GL
16MB SDRAM
1,746 1,091
All In Wonder 128 ProRage 128 Pro
32MB SDRAM
2,293 1,831
WinFast GeForce2GTSGeForce 2 GTS
32MB DDR SDRAM
5,580 4,257
Viper IISavage 2000
32MB SDRAM
3,133 1,901

【Video 2000】
ビデオカードDVDプレーヤーVideo 2000
All In Wonder 128ATI DVD Player 6.22,500
All In Wonder 128 ProATI DVD Player 6.22,526
WinFast GeForce2GTSWinFast DVD
(WinDVD OEM)
2,505
Viper IIZoran SoftDVD2,690

【テストシステム】
マザーボード:Intel VC820
CPU:Pentium III 600EB MHz
メモリ:128MB PC800 RDRAM
サウンド:Labway X-Wave 6000(YMF744)
Ethernet:EtherExpress Management Adapter(i82559)

 また、これまで高く評価されてきた動画再生機能/性能だが、Rage 128とRage 128 Proで大きな改良はなかったようだ。Rage 128 ProがAGP 4Xモードに対応したことで(かわりにPCIのサポートがなくなった)、Rage 128に比べデータ転送レートが若干向上しており、わずかにスコアを押し上げ、その結果GeForce 2 GTSをかわすことに成功しているが、Savage 2000には及ばない。3Dグラフィックス性能、動画再生性能とも、すでに発表されている次世代チップ、Radeon 256に期待、というところだろうか。

●安価な16MB版、Radeon 256搭載機に期待

 そこで問題なのは、新しいグラフィックスチップが提供されてから、ALL-IN-WONDERシリーズがリリースされるまでのタイムラグだ。たとえばAIW128Proに使われているRage 128 Proだが、このチップを用いた最初のカード製品は、すでに昨年末に登場している。それからAIW128Proの提供まで半年を要するというのは、ちょっと時間がかかり過ぎているように思う。このところグラフィックスチップの更新サイクルは半年に短縮されている。ALL-IN-WONDERシリーズの提供まで半年かかってしまうと、次の世代のグラフィックスチップが出てきてしまう(これがまさに今回のAIW128Proの状況なのだが)。Radeon 256ベースのALL-IN-WONDER(まだ発表もされていないが)は、ノーマルなグラフィックスカードに遅れても1カ月程度でのリリースを望みたい。

 もちろん、グラフィックスカードを選ぶ基準は、3Dグラフィックス性能だけではない(もしそうだったとしたら、筆者もAIW128を仕事マシンに使ってなどいないだろう)。だが、3Dグラフィックス性能など関係ない、と言い切ってしまうと、AIW128とAIW128Proに差はあるのか、という話になってしまう。AIW128のオーナーにとって、3Dグラフィックス性能の改善以外にAIW128Proのメリットはほとんどない(せめてTVのステレオ放送や音声多重放送への対応、あるいはEPGへの対応といった改善があれば良かったのだが)。

 AIW128Proは、AIW128の後継製品として、極めてストレートな製品である。価格も32MB版では、AIW128と大きく変らないようだ。価格が据え置きで性能が向上しているのだから何も文句はないように思える。TVチューナー機能が欲しいというユーザー、ビデオ編集ではなくPCを用いたビデオ録画をしたいというユーザーなら、本製品を購入して後悔することは少ないだろう(AGPスロットを持つマシンのオーナーで、今のところWindows 98のユーザーという条件が必要になるが)。上述したように、サポートという点でも不安は少ない。

 AIW128Proで唯一残念なのは、安価な16MB版がなくなってしまうことだ。これまでわが国では、TVチューナーカードあるいはTVチューナー機能を備えたグラフィックスカードは売れない、というのが相場だった。それを覆し、AIW128が売れた理由の1つは、1万5千円~2万円そこそこの価格で購入できた16MBがあったからだろう。まだ日本語版の価格は分からないが、現在売られている並行輸入品の価格(約3万円)は初めてのユーザーが買うには、ちょっと敷居が高いかもしれない。

(2000年6月7日)

[Text by 元麻布春男]


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