第52回 : IXY Digitalはデジタルらしい使い方を思い出させてくれる |
2週間にわたり書いてきた「自分のための出張用ノートPCを選ぶ」だが、自分用のノートPCを選ぶプロセスなどあまり気にもしてもらえないかな? と思いつつ書いていたのだが、様々な方から色々なメールをいただいた。結論はどうなった? シャープ、日立、エプソンダイレクト、ヒューレット・パッカードも土俵に乗せて欲しい。そんな声にはもう少し後(ボーナスシーズンは過ぎてしまうかもしれないが)にお応えしたい。ただ2点だけ、ここで補足しておきたいことがある。
まず「低消費電力で熱くないコンパクトなノートPCに期待している」という声が大変多いこと。プロセッサの消費電力が、バッテリー寿命だけではなくノートPCの設計に大きく影響することは、この連載でも何回か取り上げてきた。しかし、少なくとも来年以降になる0.13μmプロセスで作られるだろうCoppermineの後継コアになるまで、Pentium III搭載ノートPCで「熱くなくてコンパクトな」ノートPCは期待しない方がいい。
1.1V動作の低電圧版モバイルPentium IIIが今年後半に投入されるだろう、という話は前々回にお話ししたが、ベンダーからの情報によると、これがかなり高価で採用しにくいとのこと。バッテリー寿命も6セルバッテリーを採用する3.5時間程度の駆動が可能なノートPCが、4時間駆動になる程度の差しかないようだ。
また低電圧版のプロセッサに合わせて設計を行なうと、どうしても次のプロセッサに繋がらない。トレンドに合わせて高速化するためには、低電圧版ばかりを採用できないからだ。このことも以前に指摘したが、消費電力の上限を低く設定した低電圧版をシリーズ化し、それに合わせて製品設計を行なえるようにしない限り、筐体サイズにドラスティックな変化は期待できない。ソニーのVAIOノートC1などは小型化の面で頑張ってはいるが、筐体が熱くなりすぎるノートPCはいかがなものだろう? 熱発生を抑えるために、高熱になったときプロセッサ速度を落とさなければならないようであれば、そもそも高速プロセッサを採用する意味がない。
もうひとつ、ノートPCで採用しているグラフィックチップに関してだ。以前、非常に高いシェアを持っていたNeoMagicのチップが、最近の新機種に採用されていない理由は、同社がグラフィックチップ事業を事実上放棄したためだ。NM256AV+までのチップであれば、すでにドライバも充実しており技術情報も豊富なため大きな問題はでないと思うが、本来この春から夏にかけて出荷予定だった6MBビデオメモリと3D機能内蔵の新チップNM256XL+(ソニーVAIOノートSRシリーズに登載)に関しては多少の不安が残る。
将来のことは誰にもわからないが、新OSへの切り替えを含め、長期的に安定して使えるノートPCを選びたいならば、ATI TechnologiesやS3(こちらも今後はVIAになる)、Tridentなどのチップの方が安心できるのではないだろうか。複数のノートPCベンダーによると、NeoMagicのドライバ開発速度は極端に低下しているという。ノートPCのグラフィックチップは交換できないから、なるべくリスクは避けたいと個人的には思う。
■ カメラらしいフォルムのカメラ
デジタルカメラについては、この連載で過去に1回だけ話をしたことがある。その記事でも話しているのだが、僕は(小型になってからは)歴代のPowerShotシリーズを使ってきた。理由はコンパクトで手軽に使えるからだ。同じ理由で高機能モデルと共に小型モデルにも力を入れているFinePixシリーズにも注目してきた。元麻布氏が選んだFinePix 1700Zは、'99年末の僕にとっても非常に魅力的な機種のひとつだった。
デジタルカメラの魅力のひとつに速報性がある。僕がまだデジタルカメラ黎明期に、リコーのDC-1を大枚はたいて購入したのはそのためだ。しかしデジタルカメラの性能がアップした今、デジタルカメラは仕事のためにしかたなく購入する製品ではなく、普段持ち歩いて思いのままに場面を記録する、日常的な道具になっている。
デジタルカメラの高画素化も結構な話だし、性能的に問題ないのであれば高画素の方がいい。しかしそれ以上に、フィルムの事を気にせず、サクサクと撮影してまわるような使い方を、手軽にできるカメラが欲しいと思うのだ。現在お店でよく売れているデジタルカメラは、どちらかというと機能に囚われた製品が多い。それもひとつの方向性ではあるが、もう一方では携帯性に優れ、サッと取り出して撮影できる手軽な道具であってほしい。
そんな思いをずっと持ってきた中で、PowerShotを使い続けてきた理由はコンパクトでフラットなきょう体と、カメラの定番とも言うべきフォルムを備えていることだった。FinePixはコンパクトだが、特殊な形状をしている。あまりロジカルな話ではなくて恐縮だが、カメラらしく自然に使えるからPowerShotに魅力を感じていたのだ。
■ 銀塩コンパクトに追いついた使用感
もっとも、PowerShotが万人にお勧めできる製品かというと、残念ながらそうではない。他のデジタルカメラがそうであるように、欠点も数多く存在する。高速化されたとは言え、他社と比較するとイマイチな操作レスポンスやオートフォーカス速度といった点は、最新のSシリーズでも残っている。そんな不満があっても、多少は我慢できるほどに、他の部分に魅力を見いだしていたからだ。
しかし「他に換えがたいから」使っていたPowerShotシリーズと異なり、IXY DIGITALは文句ナシに常用したいデジタルカメラになっている。劇的なサイズの小ささは、文章にする必要もないほどハッキリとしたアドバンテージを持つ。オプションのネックチェーンストラップを使って首から提げても、全然気にならない。
次に快速であること。電源投入後、1秒ほどで撮影可能な状態になる上、これまではシャッター半押しでオートフォーカス完了させてから撮影しないとタイムラグが大きく使いにくかったのだが、IXY DIGITALは違和感がない程度にまで高速化された。撮影画像の再生も高速で、非常に気持ちイイ。ほぼ完全にフラットで190gと軽量な金属製ボディは高級感もあり、“お仕事のため”ではなく、個人的に所有することが嬉しいと思うほどに仕上がっている。
日常的に持ち歩き、手軽に写真を撮りまくりたい、という個人的欲望をほぼ満足させてくれる機種だ。これは絶対売れる。なんて事は、本物を見た全員が考えているはずだ。その上、低価格なのだから、やっと(取材などの仕事用やデジモノ好きなマニアではなく)普通の人に本当に気兼ねなく勧められる機種が出てきたなぁという印象だ。
「デジタルカメラだからなぁ」と、どこかあきらめながら使っていた使用感が、IXY DIGITALではデジタルカメラであることを意識しない程度に軽快な操作感にまでなったことは大きい。画素数が不満? 普通のスナップ写真を六切り近くまで引き延ばすことがそれほどあるだろうか。キャビネ程度までなら200万画素でも充分だし、PCで画像を管理するのがメインなら、多すぎる画素も時として邪魔なことも知っておくべきだろう。
もちろん不満がないわけじゃない。もっとも大きな不満は感度がISO100固定であること。ISO100時の画質はノイズレベルを含めて大きな不満はない。しかし荒れた画像になろうとも、ISO200やISO400相当のモードを備えるべきだと思う。おそらく銀塩コンパクトカメラを使っている人の多くが、ISO400のフィルムを使っていることだろう(レンズの明るさが違うので単純比較はできないが)。デジタルカメラはフィルムを交換するわけにはいかないのだから。手ブレでまともに撮影できないよりは、画像が荒れる方が、まだマシだ。
ただ、そんな不満は「気軽に撮って、気軽に捨てられる」デジタルカメラらしい使い方を後押ししてくれる軽量コンパクトかつ快速なIXY DIGITALならば、忘れていられる。お仕事用となると欲しい機能はたくさんあるが、そんなことは気にせず楽しめる。IXY DIGITALはそんな一台として、毎日の僕のポケットに入ることになりそうだ。
□「IXY DIGITAL」製品情報
http://www.canon-sales.co.jp/ixy-d/flash/ixy.html
[Text by 本田雅一]