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プロカメラマン山田久美夫の

キヤノン「IXY DIGITAL」超ファーストインプレッション



 キヤノンから、カードサイズの211画素2倍ズームモデル「IXY DIGITAL」が発表された。

 「うわ~、ちっちぇ~」というのが、本機を始めてみたときの、偽らざる印象。211万画素の光学2倍ズーム機が、カードサイズで実現できたとはまさに驚きだ。携帯性も抜群によく、使用感もなかなか軽快で、カメラとしての完成度も高い。価格も74,800円と、現行の200万画素ズーム機の中でもっとも手頃であり、今年後半の人気モデルになることは、ほぼ確実といえる。
 早速、実機が入手できたので、まずは、その実力を紹介しよう!


●感動的な小ささ!

 最近は各社ともデジタルカメラの小型化が図られているわけだが、それにしても、このモデルは、画期的に小さく、薄い。まさに、カードサイズであり、APSカメラの人気モデル「IXY320」そのものだ。

 また、外観デザインも、APSカメラの「IXY」と見分けがつかないほど似ており、とても高級感がある。なお、外装は従来のPowershot Sシリーズがジュラルミンだったのに対し、今回のモデルでは、APSのIXYと同じステンレス素材となっている。

 超小型サイズの本機だが、実際に手にしてみると、手の小さな私でさえ、掌にきちんと収まるほどコンパクト。もっとも、重さは約190gとサイズの割にあるため、若干重く感じる。だが、決して不満を感じるほどではなく、むしろ、モノとしての高級感や信頼感につながる感じだ。


●やや慣れが必要な操作性

 操作性は、従来のPowershotシリーズに似ているが、やや趣が異なる。特に、ボディーサイズが小さいため、操作部も小型化されており、ごちゃごちゃした印象がある。ごく短期間使った感じでは、やや操作しにくい印象を受けたが、これは慣れれば解決できるレベルといえそう。もっとも、操作ボタンが小さいのは、指の大きな人には厳しいものがありそうだ。


●専用形状で持ちと発熱が気になるバッテリー

 バッテリーは本機用に新開発された、薄型の充電式リチウムイオンバッテリー。メーカー側では液晶OFFで約270枚、液晶ONでは約85枚の撮影ができるとしている。正直なところ、その持ち具合はわからないが、連続的に撮影していると、結構ボディーが熱くなる。この発熱具合は若干気になるレベルだった。


●軽快な撮影感覚

 撮影感覚は、なかなか軽快。このサイズになると、APSのIXYのようにネックストラップをつけて、首から下げて歩きたくなる。実際にそのスタイルで持ち歩いてみたが、首に負担がかかることもなく、ごくごく気軽に持ち歩ける点に感心した。

 起動時間は約2秒ほどと、ズーム機としては十分に軽快なもの。次のシャッターが切れるまでの撮影間隔も、約2秒弱と高速で、ストレスのない撮影が楽しめる。また、シャッターボタンを押してから、実際に写るまでの時間差(シャッタータイムラグ)もきわめて短く、シャッターチャンスも掴みやすい。

 また、シャッターの半押し操作によるAFロックを無視して、シャッターを一気に押し切っても、ほぼ1秒未満で撮影できる。このあたりのスピード感はカメラメーカーならではのものだ。

 ズーミングも十分に高速。また、再生モード時に、ズームレバーの操作ひとつで、画像の一覧表示と拡大表示がシームレスにできる点にも好感が持てる。


●トレンドの1/2.7インチ211万画素CCD搭載

 CCDは、今年の200万画素系モデルのトレンドとなる、1/2.7インチタイプの211万画素タイプを採用している。本機の小ささは、この小型CCDによるところがかなり大きい。

 このCCDは、今春の1/1.8インチの334万画素CCDよりも、さらに画素密度を高めたもので、1画素あたり3ミクロン強という高集積度のもの。そのため、実効感度の低さやノイズの多さなどが懸念され、レンズ性能に関してもかなりの高解像度が要求される。

 すでに搭載されているソニー「DSC-S50」、「MVC-FD95」でも実感しているのだが、このCCDはかなり素性がいいようで、実感としては1/1.8インチの334万CCDを上回るほどの実力を備えているようだ。


●十分に高画質な写り

 都内での発表会後、本機で早速撮影してみた。

 残念ながら、いまにも雨が降りそうな天候だったため、撮影条件としてはかなり悪い部類に入る。そのため、この点を考慮して、実写画像を見ていただきたい。

■屋外撮影


■屋内撮影

 実写した印象では、解像力の点では従来からの1/2インチ211万画素の光学ズーム機と比べ、明らかに劣るような部分は感じられなかった。このあたりは、近日中に定点撮影できちんと比較するが、さほど心配はなさそうだ。

 また、本機は、レンズとCCDの性能をきちんと引き出すため、従来の、光学的な回折現象が起きやすい、角型の簡易絞り機能をやめ、円形絞りを採用している。これは解像度の面でも貢献しているわけだが、それ以上に、ピントの合った部分の背景のボケが乱れず、自然なボケ味が得られるといったメリットも大きい。今回の実写でも、マクロ時の背景のボケなどに、その効果が多少現れているようだが、もともと解像度を重視したレンズだけに、ボケ味が素直ではないのはやや残念だ。

 階調の再現性は、ごく標準的なもの。残念ながら明暗の再現域は広いとはいえないが、それでもごく一般的なシーンであれば、特に不満はないだろう。
 また、ワイド側で最短10cmまでのマクロ撮影ができるが、このときの画質もなかなか良好。メーカー保証外になるマクロ時のストロボ調光レベルも実用レベルだった。

 このほか、レンズの小型化で懸念された、周辺部の画質低下も少なく、直線の歪みもコンパクトなズームレンズとしては十分なレベルといえる。

 むしろ気になったのが、オートホワイトバランス。これはキヤノンの歴代モデルに共通した欠点だが、あまりインテリジェントではなく、色補正が必要のないシーンでも、画面内が同系色になるケースでは強制的に補正してしまい、不自然な色調になるケースもあった。もちろん、マニュアル設定もできるが操作はやや面倒だ。このあたりは同社の今後の課題といえそうだ。

 本機の画質は、200万画素機としては十分なレベルの画質を実現しており、ネット上はもちろん、ハガキ大にプリントして楽しむといった、一般的な用途には十分過ぎるほどの実力といえる。
 解像度の面では334万画素系モデルに一歩譲るわけだが、気軽に持ち歩け、いつでも撮れるといった、写真を撮る道具としての圧倒的な強みを考えると、画質はこのレベルでも十分な気がする。

【編集部注】
撮影した本体は製品版で、特に指定のない画像はスーパーファイン(高画質)、ラージ(1,600×1,200ピクセル)、ホワイトバランスと露出はオートで撮影しています


●若干ブレやすい点に注意

 CCDの高密度化で懸念されたCCDの実効感度はISO100となっている。数値的には今春の334万画素機と同等だが、レンズがF2.8-4.0とやや暗めだ。そのため、天候が悪かったり、屋内などで自然光で撮影しようとすると、意外なほどスローシャッターになり、カメラブレを起こすケースが多い。

 特に本機は、ボディがかなり小さいため、カメラを持ったときのホールド感(安定度)という点では、やや難点もある。また、カメラが軽量なため、シャッターボタンを強めに押すと、カメラが動いてしまい、ブレを生じるケースもある。

 実際に今日の悪天候の中で撮影してみると、意外にブレているカットが多かった。もちろん、ごく微妙なブレなので、普通の人にはブレているように見えず、画像のピントが甘く見えることが多いので見逃しがしがちだ。だが、本機の画質性能をフルに生かすためには、極力ブレを軽減できるよう、カメラをしっかりと構え、静かにシャッターボタンを押すといった、基本的な撮影スタイルを守る必要がある。

 本機はスタイリングとイメージから、片手で撮影する人が多くなりそうだが、カッコはいいが、きわめてブレやすいため、本来の高画質を生かせない可能性がある。十分な注意が必要だ。


●やや癖のある3点式オートフォーカス機能

 今回の実写で気になったのは、本機が新搭載した3点測距式のオートフォーカス機能だ。これは中央とその左右の3点を測距し、独自のアルゴリズムで最適と思われる測距点を使ったピント合わせを行なう機能。

 コンパクトカメラですでに実績のある機能であり、ごく一般的な撮影シーンでは、カメラ任せでOKだ。ただ、中央の一点測距式のつもりで、AFロックし撮影すると、思わぬところ(大抵のケースではやや近い距離)にピントが合ってしまうケースがあった。

 本機のコンセプトとしては、ごく普通のユーザーがスナップ的に使うことを前提としているので、この方式で正解だと思うが、できれば従来のような中央一点式に切り替えができるようになっていれば、より便利だったと思う。


●正確なフレーミングができる視野率100%の液晶モニター

 カメラメーカーらしい、こだわりを感じる部分として、液晶モニターの視野率100%を実現している点だ。これは、実際に写る範囲が100%、液晶モニターで確認できるもの。

 当たり前のように感じるかもしれないが、これをきちんと実現しているメーカーは意外なほど少ない。だが、実際にトリミングをせずに画像を利用するケースが多い人にとっては、このスペックは欠くことのできない大きな魅力といえる。

 実際に撮影してみても、自分が思ったとおりのフレーミングで画像が記録されており、とても心地いい。もちろん、デジタルデータなので、PC上で簡単にトリミングできるわけだが、写真の世界では撮影後のトリミングをタブー視するケースもあり、本機にもそのような伝統が息づいているわけだ。


●常用デジタルカメラの決定版か!?

 「IXY DIGITAL」には、まだ大きな特徴がある。それは、通常のデジタルカメラに必ずあるべき「型番」がないことだ。

 これは、APSカメラの「IXY」が定番になったのと同じく、本機は生まれながらにして、このカテゴリーの“定番”になるという、同社の自信の表れと感じられる。
 とにかく、このサイズで、これほど高品位で、軽快で、画質も安定している機種は、現在ほかに見当たらない。しかも、価格設定は、現行の200万画素ズーム機の、どの機種よりも安価な74,800円というきわめて大胆な設定だ。

 もちろん、電池の持ちや操作性など、いくつか気になる点はあるが、それらはさほど致命的な欠点ではなく、むしろ、それらを補って余りあるだけの魅力を備えたモデルが、この「IXY DIGITAL」といえそうだ。

 「IXY DIGITAL」の登場で、今後、ライバルメーカーがどこまで本機に迫る魅力を備えたモデルで追撃してくるか、大いに楽しみだ。どうも、デジタルカメラというと、高画素機に目を奪われがちだが、このクラスの手頃なモデルがもっともっと激戦になり、より洗練されたモノへと進化してゆくことを、大いに期待したい。


□キヤノンのホームページ
http://www.canon.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.canon-sales.co.jp/pressrelease/2000-05/pr_ixyd.html
□製品情報
http://www.canon.co.jp/Imaging/IXY/IXY.html
□関連記事
【5月17日】キヤノン、クレジットカードサイズの「IXY DIGITAL」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000517/canon1.htm

(2000年5月17日)


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[Reported by 山田久美夫]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp