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後藤弘茂のWeekly海外ニュース

1GHz一番乗りでIntelとAMDが壮絶なつばぜり合い--この1週間の舞台裏

●本来、AMDはThunderbirdで1GHzを計画

 この1週間、CPU業界は1GHz発表日の情報で揺れに揺れた。IntelとAMDが、相手より先に発表しようとラストミニッツの攻防を激しく繰り広げたためだ。その結果、1GHz発表日は2転3転して、その度に繰り上がった。緊迫の1週間を振り返ってみたい。

 まず、ここまでの経緯を推測も交えてまとめると、およそ次のようになる。

 今年2月前半の段階では、AMDは次世代の2次キャッシュ統合版Athlon(Thunderbird:サンダーバード)で1GHzを実現する予定だった。これは、AMDのOEMメーカーなどからの信頼性の高い情報があり、ほぼ確実だ。この時点のスケジュールでは、AMDは5月にThunderbirdを出荷開始、6月にThunderbirdで1GHz Athlonを出荷することになっていた。Thunderbird 1GHzは、最初は限られた量しか採れず、9月頃までに生産量が増えて来るというペースだった。ちなみに、この時点でIntelのPentium III 1GHzの出荷は8月下旬に行なわれる同社の技術カンファレンス「Intel Developer Forum(IDF)」の前後だと見られていた。つまり、AMDはたっぷり1四半期先行していたわけだ。

 ところが、Intelは2月中旬に行なわれたIDFで、Pentium III 1GHzを限定生産で近いうちに出荷することを明らかにした。この時点で、Intelはすでに限定生産版Pentium III 1GHzの発表を3月中か、それ以降であってもそう遠くない日付に設定していたようだ。

●AMDは現行のAthlonで1GHz達成へ計画を変更

 そして、AMDも、IDF前後にIntelのこの計画をつかんだ可能性が高い。というのは、IDF前後で、AMDはAthlon 1GHzを、それまで計画していたThunderbirdから現行のAthlon(k75)に切り替えた形跡があるからだ。例えば、IDFの際に行なわれたAMDのミーティングに、PC Watchでも執筆しているライターの笠原一輝氏が出席した際には、1GHzを最初に達成するのはThunderbirdになるかどうかわからないと答えたという。それ以前の段階では、「AMD、Athlon用AMD-760/770など2000年のチップセット計画を公開」にあるように、AMDは1GHzのAthlonについて「おそらく」、「Thunderbirdコアをベースにしたものになる」と言っていた。つまり、2週間ほどの間にニュアンスが変わってしまったのだ。

 AMDが現行Athlonで1GHzを達成する戦略に切り替えたのは、考えてみれば当然の話だ。4~5月頃に登場するThunderbirdを待っていては、Intelの限定版1GHz発表の前に発表することができないからだ。Intelの1GHz先行発表に対抗する手段はただひとつ、現行Athlonのクロックを1GHzに引き上げることだ。AMDの対応の早さからすると、同社はこうした事態を予期して、オプションとしてそれ以前から現行Athlonでの1GHzを検討していた可能性もある。

 この時点で、AMDがAthlon 1GHzの発表日をいつに設定したかについては、情報が錯綜していて、正確なところはわかっていない。というか、もっともありうるのは、明確な発表日を決めずに、Intelが発表日を決めたらその前に突っ込もうと狙っていたという可能性だ。

●先週後半にいきなりIntelが発表日を繰り上げ

 じつは本コラムは2月末の時点で、こうした事情がつかめていなかった。情報収集が追いついていなかったのだ。そのため、先週月曜2月28日にアップした記事「1GHzプロセッサは6月までに登場--AMDとIntelのクロック戦争がついに最終局面に」では、Intelの1GHzは5月ごろで、AMDもThunderbirdベースだとのんびりした予測をしてしまっていた。じつは、この記事のAMDに関する情報源はAMDのOEMメーカーで、そのメーカーがIDF以降にAMDから得た情報をベースにしている。それが、6月1GHzという元の計画のままだったわけで、ここからも、AMD側の情報が行き渡っていなかったことがわかる。

 だが、先週月曜に記事をアップしたあとで、複数の情報筋からIntelの1GHz発表は3月中ではないかという指摘が入ってきた。米国のWeb系メディアに、今月中にIntelが1GHz発表というリーク記事ががんがん出始めたのも先週月曜からだ。ただし、この時点では、まだIntelは発表が3月下旬になるとOEMに説明していた可能性が高い。というのも3月8日だという情報は、どこからも入ってこなかったからだ。

 ところが、このスケジュールも、先週の木曜(3月2日)に一気にひっくり返る。米メディアに、Intelの発表日が3月8日に早まったという情報が一斉に登場。慌てて翌3月3日金曜日に調べ始めたところ、すぐに複数の確実性の高い情報筋から3月8日だという情報が入ってきた。そこで、入手できる情報だけでとりあえず、先週3月3日の号外「IntelがPentium III 1GHzを来週3月8日に発表へ」を出したというわけだ。

 Intelが予定を繰り上げた理由は、じつはよくわかっていない。AMDがIntelの前に発表するスケジュールを組んだからという、まことしやかなウワサもささやかれているが、真相はまだ不明だ。Intelはもともと3月8日近辺に発表する予定だったが、外部にはフェイントをかけるために、それよりも遅い日付を意図的にリークしたという可能性すらある。

●待ちかまえていたAMD

 Intelの情報は、OEMメーカーに伝わった瞬間に外部に漏れ始める。Intelもそれがわかっているから、最重要の情報はぎりぎりまで出さないようにしている。このぎりぎりは、今は1週間程度になっているらしい。しかし、Intelの場合、責任もあるため、どうしても事前にOEMメーカーに通知しなければならない。つまり、抜き打ち発表ができないわけで、これはIntelにとって足かせとなっている。

 そして、AMDも、Intelのその足かせを知っている。Intelが発表日を3月8日に決定したという情報がOEMに流れ始めると、AMDはすぐさまその直前の米国3月6日(日本3月7日)に発表日を設定。3月5日の日曜日にはWebサイトに予告をアップした。さらに、東部時間で3月6日午前0時にはリリースやデータシートなどをアップロードするという迅速な対応を見せた。この動きを見ると、Intelの発表日に合わせて慌てて発表日を繰り上げたように見える。

 しかし、日本での発表会を見る限り、AMDがあたふたと発表を用意したという印象は伝わってこない。実際のチップもデモ機もあるし、Gatewayは日米で同時発売するし(発表日の朝、すでにWebで売れた実績を報告)と、どちらかというと、AMDにしては準備を整えていた雰囲気だ。

 どうやらこれは、AMDがIntelの動きに慌てて対応したというより、Intelの動きを準備を整えて待ちかまえていたと考えるのが正解のようだ。つまり、Intelが発表日を決めたら必ず事前にわかるので、その段階でIntelの発表日の前に発表を突っ込めるように1GHz発表を準備しておいたという可能性が高い。そうすれば、Intelの前に必ず発表できるし、AMDとしても最大限に準備の時間を稼げるというわけだ。

 そして、今回は、明らかにAMDの作戦勝ちだった。AMDは、Gatewayを巻き込み、実際に販売される1GHzマシンまで見せて、1GHzの具体性をアピールした。つまり、AMDでは1GHzがリアルであるという印象をつけることに専念、1GHz一番乗りが虚像ではなく、実体を持っていることを印象づけることに成功した。AMD以上に無理をして1GHzを発表するIntelの弱点が、具体性にあることをよくわかった上での戦術だ。

 さて、Intelは、極端に出荷量が限られると思われるPentium III 1GHzプロセッサで、どうやって反撃するのだろうか。


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(2000年3月7日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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