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後藤弘茂のWeekly海外ニュース

Athlon 1GHzの本命は5月頃登場のThunderbirdか


● Athlon 1GHzはとても“ホット”なCPU

 衝撃的なAthlon 1GHzデビュー。今回、AMDはこの1GHz化を、電源電圧を引き上げることで実現した。これは、電圧を引き上げれば高クロック動作が比較的容易になる(逆を言えば電圧を上げないと難しい)からだ。Athlon 900MHz~1GHzの電圧は、従来の0.18μm版Athlon 800/850MHz版の1.7V(Typical)から1.8Vに引き上げられている。Athlonは、すでに850MHzまでを量産出荷していたため、現時点でも、電圧を上げれば1GHzで動作するチップが少数は採れていると見られる。それを選別して、1GHz品として製品化してきたと思われる。

 それなら、さっさと電圧を上げて1GHzをやればよかったと思うかもしれないが、そう簡単にいかない理由がある。電圧を上げたことで、ただでさえ多いAthlonの消費電力はますます増大してしまった。Athlonのデータシートによると、1GHz版の消費電力は1GHz版で60W(Typical Thermal Power)で、ワーストケースでは65W(Maximum Thermal Power)という途方もない数字になっている。

 これは、熱い熱いと言われた0.25μm版Athlon 650MHzの48W(Typical Thermal Power)も大きく超える。この電熱器に近いプロセッサを、Gatewayのマシンは200Wの本体電源でまかなっており、どう見ても無理がある。これは電源を強化すれば済む問題なので自作派は問題ないが、メーカー製マシンは従来のラインナップの筺体では電源が不足する。そのため、今後、PCメーカーはGHzプロセッサ時代に本格的に突入するにあたって、高クロックCPU搭載モデルの電源を強化する必要があるだろう。

 というのは、第2四半期中に登場すると見られるオンダイ(On-Die)2次キャッシュの次世代Athlon(Thunderbird:サンダーバード)も、やはり高消費電力になるからだ。AMDがOEMメーカーなどに示した熱設計のガイドラインでは、年内に出荷されるThunderbirdの熱設計として、やはり60W近くが設定されているという。ホットなCPUだけに、非常にホットだ。


● Athlon 1GHzの出荷量はどれだけ?

 Athlon 1GHzは、出荷個数も当面はかなり限定されるはずだ。Pentium IIIよりも高クロック化が容易と見られているAthlonでは、Intelの1GHzのように限定生産とまではならないが、それでも数はかなり限られるだろう。もし大量に採れているなら、もっと前に発表しているはずだからだ。

 日本AMD取締役の吉沢俊介氏によると、今年第2四半期に出荷するAthlonのうち、「900MHz以上が数十万個、このうち多くが1GHzになる」という。PC業界関係者からの情報によると、AMDが予定している第2四半期のAthlonコアCPUの出荷個数は200~250万個だと言われる。もし、900MHz以上のAthlonが50万個採れるとしたら全体の4分の1程度、20万個だとしたら10%程度ということになる。AMDはもともと4月までにAthlon 900MHzを投入する予定でいたので、第2四半期にAthlonの900MHz品が10%以上採れるようになったとしても不思議はない。

 ただし、通常、プロセッサは高クロック品になればなるほど採れにくくなるので、900MHz以上品の中での1GHz品の割合は限られるだろう。1GHz品は、少なければ数万個程度かもしれないし、特に出だしは数が限られるはずだ。もっとも、それでもPentium III 1GHzよりは、ずっと多くの数が出荷される可能性が高い。


● 1GHzの本命はThunderbirdか

 日本AMDによるとAthlon 1GHzは、「3月中はCompaqとGatewayに必要数を出す。他のパソコンメーカーへの出荷は4月から」(吉沢氏)という。秋葉原でも、4月からはAthlon 1GHzが買える「可能性はある」という。

 つまり、AMDは4月末までに1GHz品の採れる量がある程度改善されると踏んでいるわけだ。それはどうしてか? もちろんラーニングカーブ(学習曲線)が上がり高クロック品の歩留まりが上昇するというのもあるだろうが、Thunderbirdの登場がカギとなるのかもしれない。

 AMDは、OEMメーカーにThunderbirdの量産開始を5月と伝えたという。AMDは、もともとこのThunderbirdで1GHzを達成するつもりだった。このことから、Thunderbirdは2次キャッシュSRAMが統合されているだけでなく、高クロック化(CPUコアのクリティカルパスをつぶすなど)が図られている可能性が高いと思われる。つまり、Thunderbirdが登場すると、より1GHz品が採れるようになると推測できる。それが、4月末か5月というスケジュールになっている可能性はある。そうすると、PCメーカーが1GHz Athlonマシンに本腰を入れ始めるのはThunderbirdが出てからになるかもしれない。


● AMDはThunderbirdへの移行を急ぐ

 AMD関係者は、昨年まではThunderbirdはFab 25(アルミ配線0.18μmプロセス)だと言っていた。つまり、Fab 30(銅配線0.18μmプロセス)ではないと説明していた。しかし、現在は「Thunderbirdのプロセス技術については発表していない」としており、Thunderbirdがアルミか銅かは、不鮮明になっている。だが、5月から登場するThunderbirdのほとんどは、おそらくFab 25の製品になるだろう。

 というのは、AMDはAthlonを、一気にThunderbirdに移行させてしまうつもりだからだ。あるOEMメーカーからの情報によると、AMDは第2四半期中に現行のAthlon(K75コア)を、すべてThunderbirdに置き換えてしまうと説明したという。それだけの生産量を一気に確保するとなると、おそらくFab 25で生産しなければ難しいだろう。

 また、AMD自身も、銅配線のプロセッサのスケジュールについて「第2四半期の終わりに最初の売り上げを達成することが目標」(吉沢氏)と言っている。これは、つまり、顧客であるPCメーカーに最初に出荷されるのが第2四半期の終わりになるということだ。ここでAMDは、第2四半期中にエンドユーザーの元に届く(Thunderbirdはそうなる)とも、AMDの売り上げの大半を稼ぎ出す(Athlon全品ならそうなる)とも言っていない。そこから推測できるのは、銅配線版Athlonがまとまった量出荷されるようになるのは、Thunderbirdの登場より少しあとになるだろうということだ。


●Fab 30の量産品の出荷が本格化するのは第3四半期

 こうした銅配線Athlonのスケジュールは、CeBITなどで明らかになったAMDのFab 30のロードマップからも明らかだ。

 AMDはFab 30で、まず、0.22ミクロン銅配線プロセスであるHiP5Lテクノロジを導入、'99年2月から試験的な運用に入った。HiP5LではK6をラインに流し、'99年8月からはプレプロダクションに入った。このプレプロダクションは銅配線のイールド向上のためのもので、実際には製造に入らずに、その経験を'99年8月から稼働させ始めた0.18μm銅配線のHiP6Lテクノロジに反映させた。11月に発表した銅配線版Athlonの最初のコアは、このHiP6Lの試験運用で製造されたものだ。

 そして、今年1月からは、HiP6Lのプレプロダクションモードに入り、イールドのラーニングカーブの上昇を図っている。HiP6Lで量産ベースでウエーハを投入するのは第2四半期からだ。そのため、第2四半期に大量にFab 30から製品を出荷することはできない。半導体では製造にタイムラグがあるため、第2四半期にウエーハ投入しても、後工程も終わって最終製品として出回るタイミングは、大半のチップが第3四半期からになる。

 銅配線版Athlonが第3四半期から登場するとして、そのコアがどのAthlonになるのかもじつはまだ不鮮明だ。一部報道ではThunderbirdコアとなっており、この時期に登場することを考えるとその可能性は高い。ただし、Fab 25とFab 30では同じ0.18ミクロンルールでもプロセス技術が違うため、同じThunderbirdでも物理設計は異なるはずだ。HiP6Lに最適化がある程度されていれば、より高クロック品が採れるようになっている可能性はある。その場合は、1GHz品がさらに採れるようになり、オーバー1GHzも出荷できるようになるかもしれない。


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(2000年3月8日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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