Intelは、米国デラウェア州衡平法裁判所にNVIDIAのNehalem世代チップセットの差し止めを求めて提訴した。過去にもIntelは、VIA Technologiesなどのサードパーティチップセットベンダを提訴してきた歴史があるが、Nehalem世代のチップセットでも再びそれが繰り返されようとしている。そして、Intelがこの提訴を行なったということは、NVIDIAが真剣にNehalem世代チップセットに参入しようと考えていることの裏返しでもある。 ●争点はクロスライセンスの中にNehalem用チップセットが含まれるか否か NVIDIAのプレスリリースによれば、今回争点になっているのは、「IntelとNVIDIAが4年前に結んだクロスライセンスは、Intelが今後リリースする予定の、メモリコントローラが統合されたCPU向けには適用されるのか否か」という点だ。 IntelとNVIDIAのクロスライセンスの詳細は明らかにされていないが、NVIDIAの関係者は、この中にIntelのバスライセンスが含まれることを強調してきた。そうしたクロスライセンスに基づき、NVIDIAはIntel CPU向けのチップセットをリリースしてきた。 今回問題となっているのは、このNehalem用チップセットが何を意味するかだ。すでにNVIDIAはX58対抗のQPI(Quick Path Interconnect)対応チップセットは開発しないことを公言している。つまり、残されているのはLynnfiled/Clarkdale(デスクトップ)、Clarksfiled/Arrandale(ノートPC)向けのチップセットということになる。であれば、これらのCPUがチップセットと接続するためのバスであるDMI(Direct Media Interconnect)がクロスライセンスに含まれるのかどうかが争点となっている可能性が高い。 NVIDIAのこの点に対する認識は明確で、昨年のNVISIONで筆者がNVIDIAのGeForce製品担当シニアPRマネージャのBryan Del Rizzo氏に質問したところ「DMIはこのクロスライセンスに含まれる」という答えが返ってきた。とすると、今回のケースは次のいずれかだ。 1つはIntelも同じ認識であり、争点はQPIであるということ。もう1つはIntel側の認識は異なっており、DMIはクロスライセンスには含まれないと考えていることだ。なお、Intel日本法人によれば「提訴したのは事実だが、それ以上のコメントはない」(広報室)とのことだった。 ●x86プロセッサの価値を損なうNVIDIAのCUDAを危険視するIntel なぜIntelはNVIDIAを提訴するという方法をとったのだろうか。これは歴史を紐解けば、すぐにわかるだろう。Intelは過去にも同じような裁判をx86の知的所有権を巡り、AMDを提訴したことがある。つまり、Intelが競争上危険な会社に対して、裁判所に訴えるのは常套手段ということだ(もっともそれはIntelに限らず、米国の企業では当たり前の手段ではあるのも事実だが)。つまり逆に言えば、今のNVIDIAはIntelにとって危険な会社になりつつあるということでもある。 実際、IntelがNVIDIAを危険視しているという傍証はいくらでもある。例えば、あるIntel関連のイベントで、Nehalemのデモを行なった時、初日にはGeForce搭載ビデオカードが使われていたのだが、その日の夜にIntelの幹部がそれを見学したところ、翌日にはすべてのビデオカードがAMD(決してIntelの関係者はAMDとは言わずATIというのだが…)のRadeonに変更されていたことがあった。 IntelはなぜNVIDIAを危険視するのか。そう、CUDAだ。CUDAはNVIDIAが推進するGPGPUソリューションで、これまではx86 CPUが行なっていた処理の一部を、GPUで行なおうというものだ。確かに、動画編集や写真編集などは、x86プロセッサよりもGPUで行なった方が性能が高い。これにより、以前の記事でも触れたとおり、これまでCPUが100ドル以上でGPUが20ドルといった価格体系が、CPUが20ドルでGPUが100ドルになりかねない危険性が生まれてきたのだ。 ●NVIDIAのNehalem用統合型GPUはDMIとPCI Express x16の両接続か IntelがNVIDIAをNehalem世代のチップセットを製造できないことを確認するという提訴を行なったということは、Intelが、NVIDIAがDMIサポートのチップセットを計画していることをつかんでいることの表れでもある。 チップセット側に内蔵されているGPUが、CPUのメモリコントローラを経由してメインメモリにアクセスするには、DMIの帯域幅は充分ではない。従って、おそらくNVIDIAのDMI統合型チップセットは、CPUと接続されるのはDMIだけでなく、PCI Express x16経由でも接続されることになるのではないだろうか。つまり、CPUから見て、チップセットは外付けGPUとしても見えるということだ。これは、常にリフレッシュが入るので、省電力の観点では不利になるといういくつかの問題点を除けば、充分実現可能なソリューションだ。 しかし、いくつかの情報筋に確認してみたが、現時点でNVIDIAはNehalem用チップセットの計画をOEMメーカーに説明していないのだという。だが、NVIDIA自身「2009年以降もチップセットビジネスは続ける」と公言している以上、やはりそうした計画があると考えるのが妥当だろう。 ●長引けば長引くほどNVIDIAにとって不利な状況になる いずれにせよ、こうした裁判は結審するまで非常に時間がかかり、これはNVIDIAにとって不利だ。というのも、OEMメーカーは、NVIDIAのチップセットを選択すると、自分までもIntelから訴えられる可能性があると考えるからだ。NVIDIAももちろんそれを承知であるので、Intelに先駆けてこうした訴訟を起こされていることをプレスリリースの形で発表し、世論を味方につけるという作戦に出たのだろう。 落としどころは、NVIDIAがIntelに払うライセンス料を増額する、あるいは交換できる知的所有権があるのであれば、それと交換する形で和解するあたりだろう。ともあれ、NVIDIAとしてはいち早くこの問題を解決したいところだろう。 □関連記事 (2009年2月19日) [Reported by 笠原一輝]
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