AMDは2月9日、かねてより第1四半期中の投入を予告していた「Socket AM3」版のPhenom IIを発表した。DDR2対応Phenom IIの登場からほぼ1カ月となるが、早くもDDR3版が登場することになった。この製品は、DDR3 SDRAMを利用するAMDのデスクトップ向けプラットフォームが誕生したことも意味する。この環境のパフォーマンスをチェックしてみたい。 ●日本では2製品を投入予定、いずれも1万円台の製品 今回発売されるSocket AM3は、Phenom IIのDDR3 SDRAM対応版という解釈で大きく相違はない。いわゆるDenebコアを採用したPhenom IIでDDR2/DDR3両対応コントローラが内蔵されており、今回の製品は物理面でDDR3対応が果たされた格好だ。 Socket AM3は従来のSocket AM2+に対して後方互換性を持つ(図1)。つまり、Socket AM3用CPUを、既存のSocket AM2+に装着して利用することが可能となっている。逆にSocket AM2+のPhenom IIをSocket AM3マザーに装着して利用することはできない。
なお、Socket AM3対応マザーとは基本的にDDR3対応製品を指す言葉として定着するだろう。今回のテストに使うASUSTeK製品のほか、GIGABYTE、MSI、Jetwayといったマザーボードメーカー各社から登場する予定になっている。 Socket AM3に対応するマザーのチップセット自体は従来のAMD 7シリーズなどが利用される。これは、CPUとチップセットのシステムバスが従来どおりHyperTransport 3.0なので変更の必要がないからである。 Socket AM3自体の形状であるが、Socket AM2/AM2+の940ピンから2ピン減らされた、938ピンのものとなる(写真1、2)。ソケット側は中央部に仕切りのような突起が設けられている以外は大きな違いはない。CPU側のピンは写真2でいうところの右上と左下にあるガイド部のピンが1ピンずつ減らされる格好となっている。
さて、今回一般販売されるSocket AM3版Phenom IIは全部で2製品。主な仕様は表1に示した通り。クアッドコア製品はPhenom II X4 810、トライコア製品がPhenom II X3 720 Black Editionが販売され、価格はそれぞれ、17,980円、14,980円が予定されている。 【表1】Socket AM3版Phenom IIの主な仕様
注意したいのは、ブランド自体に変更ないためSocket AM2+版との違いが分かりにくい点。OPNでは、コア数を示す4もしくは3の数字の前にある「K」の文字がSocket AM3を表すコードとなる。Socket AM2+版はここが「J」なので、この違いを覚えておくと間違いがないだろう。 クアッドコアのPhenom II X4 810は、すでに発売されているPhenom II X4 940/920からクロックが下げられただけでなく、キャッシュも減量された仕様となる。代わりに、HT Linkが上下各2GHzへ引き上げられている。これは今回登場したSocket AM3全製品共通の仕様だ。 TDPは95W。Phenom II X4 920に比べて最大コア電圧が引き下げられており、クロック、キャッシュ、TDPともども、1つ下のセグメントに向けた製品であることは疑いようのない製品だ。面白いのは、Phenom II X3 720 Black Editionの最低コア電圧が低く設定されている点。トライコアとはいえ素行の良い選別品が使われている可能性は高そうだ。 なお、今回テストするのは、AMDより借用した「Phenom II X4 810」と「Phenom II X3 720 Black Edition」の2製品(写真3、4)。CPU-Zの結果からは、いずれも仕様通りに動作していることや、従来のPhenom IIと同じC2リビジョンのコアが使われていることを確認できる(画面1、2)。
●DDR2からDDR3への変更に伴う性能変化は? それでは、このSocket AM3版Phenom IIのパフォーマンスをチェックしてみたい。テスト環境は表2に示したとおり。テストに用いたマザーボードは写真5~7のとおりである。 【表2】テスト環境
ここでは、Socket AM3版Phenom IIの2製品を、Socket AM3マザー、Socket AM2+マザーにそれぞれ装着し、メモリの違いによる性能変化を中心にチェックしてみたい。なお、AMD 790GXの内蔵グラフィックはいずれもBIOSで無効にし、フレームバッファをメインメモリ上に展開しないようにしている。 併せて、価格帯で競合するIntelのCPUとして、Core 2 Quad Q8300、Core 2 Duo E7500の各製品との性能差もチェックしていきたい。
では、順に結果を見ていく。まずはCPUベンチマークである。テストはSandra XIIのProcessor Arithmetic/Processor Multi-Media Benchmark(グラフ1)、PCMark05のCPU Test(グラフ2~3)だ。 当然のことではあるが、ここではメモリ種別の違いによる明確な差は出ていない。多少大きなデータを扱うことがあるPCMark05のCPUテストでは、ほんのわずかながらDDR3環境のほうが良い結果を出す傾向にあるが、これだけ明確な違いを断言できるほどの違いとはいえない。 Phenom II X4 810とCore 2 Quad Q8300ではわりと近いスコアを示す。Phenom II X3 720 BEとCore 2 Duo E7500の比較では、PCMark05のシングルタスクテストでは若干後者が優位なスコアを出しているものの、マルチスレッドテストとなるSandraやマルチタスクのPCMark05においてはトライコアの優位性がある結果となった。
次はメモリ周りのテストである。ここは今回のテストでも重要な部分であるため、普段よりもデータを多めに提示したい。紹介するのは、メモリアクセスの実効速度をチェックするSandra 2009のCache & Memory Benchmark(グラフ4)と、PCMark05のMemory Test(グラフ5)、メモリのレイテンシをチェックするSandraのMemory Latency Benchmark(表3)、PCMark05のMemory Latency Test(グラフ6)である。
【表3】Sandra Memory Latency Benchmark詳細
まず、キャッシュメモリ周りについて簡単に触れておくが、基本的には妥当な結果が出ている。マザーボードの違いによる差が小さく、Phenom II X4 810よりもクロックが高いPhenom II X3 720 BEのほうが高速な傾向である。SandraのCache & Memory Benchmarkではコア数によりPhenom II両製品の序列が逆になっているが、これはコア数によるもの。過去の結果からコア数に対してわりとリニアにスコアを伸ばす傾向があることを考えると、コア数差がなければ逆転する数値差といえる。また、PCMark05のReadはスコアのバラツキが大きく参考にしづらいが、Writeの結果でははっきりPhenom II X3 720 BEのほうが高速であることを示している。 続いてはメインメモリのアクセス速度とレイテンシである。アクセス速度に関しては、Sandra、PCMark05ともDDR2環境よりもDDR3環境のほうが高速な傾向が出ている。この点においてはDDR3化の効果をはっきり見て取ることができる。 一方のレイテンシであるが、これはSandraとPCMark05で分かれる結果となった。SandraではDDR3のほうが良く、PCMark05ではDDR2のほうが倍近く良い結果だ。ちなみに表3で示したClocksはCPUの周波数に対する所要クロック数を表している。DDR2-800のCL5とDDR3-1333のCL9では、レイテンシの実時間は前者のほうが高速だ。よって、Sandraの結果はDDR3が想像以上に良い性能を見せた結果といえる。かといってPCMark05はDDR2がいくらなんでも良すぎる印象も受け、ちょっと判断に苦しむ結果になっている。 PCMark05のMemory Latencyにおいては、チップセット側にメモリコントローラを内蔵しているIntel環境より若干良い傾向を見せており、それほど悪い印象を受ける結果とはいえない。アクセス速度の結果もまずまずで、まだまだチューニングの余地はあるだろうが、メモリ周りのアクセス速度は着実に高速化したといえるだろう。 次にアプリケーション関連のベンチマーク結果である。テストはSYSmark 2007 Preview(グラフ7)、PCMark Vantage(グラフ8)、CineBench R10(グラフ9)、動画エンコードテスト(グラフ10)だ。 SYSmark2007やPCMark Vantageの結果では、ProductivityとGaming/3Dといったデータ処理の多い種類のテストでDDR3環境が良い結果を出す傾向にある。また、PCMark VantageではMemoriesテストでも好結果を見せているが、これは写真処理の高速化によるもの。こうしたジャンルでも効果を期待できそうだ。 このほかCineBench R10でも一定の効果を見せているほか、動画エンコードも動画形式にはよるものの、CPU負荷が軽めの状況においてメモリ高速化の効果がはっきり出ている。 いずれも、それほど大きな数字差なく、逆にDDR2のほうが明確に高いスコアを出す結果もある点は惜しいところであるが、Intelが初めてDDR3を導入したIntel P35の際と比べてもスコアが伸びているところの伸びの大きさは決して低いものではない。初期製品としてはまずまずパフォーマンスが伸びているといっていい。 一方、Intelの比較対象との性能差であるが、Phenom II X4 810とCore 2 Quad Q8300とは、全般にPCMark Vantageと動画エンコードで前者、SYSmark2007とCineBench R10で後者が良い結果を見せる傾向にあり、アプリケーションによって差が上下するレベル。その差も大きいものではなく、似たような性能を持った製品同士といえる。 Phenom II X3 720 BEとCore 2 Duo E7500の比較では、後者がクロックの高さで押し切ったと思われるシーンはあるものの、全般にPhenom II X3 720 BEがコア数の高さを活かして好結果を見せる場面が多い。また、Phenom II X3 720 BEに関しては、Phenom II X4 810より高いクロックを与えられていることもあって、性能面でも上回るシーンが見られる。
次は3D関連のベンチマークである。テストは、3DMark 06/VantageのCPU Test(グラフ11)、3DMark VantageのGraphics Test(グラフ12)、3DMark06のSM2.0 TestとHDR/SM3.0 Test(グラフ13)、Crysis(グラフ14)、LOST PLANET COLONIES(グラフ15)だ。 先のSYSmark2007、PCMark Vantageでもうかがえたように、こちらもDDR3の効果がわりと大きく出ている。ゲームについても、Socket AM3を導入する大きな動機になり得るジャンルだろう。
最後に消費電力の測定結果(グラフ16)だ。アイドル時はまったく差がないものの、負荷をかけた状態ではDDR3環境で消費電力が低い傾向が見られる。マザーボードの差があるため、この程度の差ではなにも断言できないというのが正直なところ。ただ、DDR2 SDRAMの1.8Vに対し、DDR3 SDRAMは1.5Vで動作するのも特徴の1つではある。この効果が得られている可能性はある。 Intelの比較対象に比べると、今回のPhenom II両製品はいずれも消費電力が高めの傾向にある。この点ではCore 2の素行の良さを感じさせる結果となっている。
●DDR3の効果はまずまず、上位モデル投入が期待される 以上のとおり結果を見てきたが、一部でDDR2環境を下回る結果が出てしまってはいるものの、おおむねDDR3化によって性能の底上げが実現できている。今後のBIOSチューニング次第で、さらに性能向上が安定する可能性もあるだろう。 今回テストした製品の国内価格はPhenom II X4 810が17,980円、Phenom II X3 720 BEが14,980円とされている。とくに後者は、Phenom II X4 810より安価なうえ、高クロックの恩恵で性能を上回るシーンもある。オーバークロック向け製品であることも加味して、非常に面白い製品になっている。 ただ、根本的に引っかかる部分はある。今回の結果を見る限り、アプリケーションの性能向上は大きいところでも1割程度である。この差のためにDDR3を購入するユーザーが選択する製品か、という点に疑問を抱いてしまうのだ。上位モデルが投入されていれば印象も違ったとは思うのだが、現時点ではプラットフォームとCPUの対象ユーザーがちぐはぐであるように思う。Socket AM3が本格的に普及するのは、やはり上位モデルを待ってのことになるのではないだろうか。 ただ、これはあくまでAMDの戦略に対する疑問であって、今回出た製品そのものは、まずまずのコストパフォーマンスを持った魅力ある製品だと思う。価格帯を考えるとDDR2環境であるSocket AM2+マザーと組み合わせるのが妥当ではないかという判断が、上記コメントにつながったまでのことである。もちろん、従来のPhenomを使っていたユーザーの手頃な価格帯のアップグレードパスとしても活躍できる製品だ。 □関連記事 (2009年2月9日) [Text by 多和田新也]
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