AMDは1月8日、45nmプロセスで製造されるクアッドコアCPU「Phenom II X4」を発表した。この週末にもショップに並ぶ見込みだ。マイクロアーキテクチャのアップデートも行なわれた本製品のパフォーマンスをチェックしてみたい。 ●機能強化も盛り込まれた45nmプロセス「Deneb」 Intelから遅れること約1年、AMDも、ついに45nmプロセスで製造されるCPUをデスクトップPC市場に投入する。サーバー/ワークステーション向けには、すでに11月に「Shanghai」のコードネームを持つ45nm版Opteronが投入されているが、今回登場するのは「Deneb」のコードネームで呼ばれるデスクトップPC向けの製品である。 既報の通り、この新製品は「Phenom II」という新ブランドが冠せられた(図1)。また、これに併せてモデルナンバーも3桁の新しいルールが採用されている。この新しいモデルナンバーは、Core i7を意識したもののようにも受け取れるが、AMDによれば「たまたま」だという。 AMDは、初代Phenomリリース時に、AMD 790FXチップセット、Radeon HD 3800シリーズの組み合わせによって構成される「Spider」プラットフォームを提唱していた。今回、Phenom IIとAMD 790FX/GXチップセット、Radeon HD 4800シリーズを組み合わせた構成を「Dragon」プラットフォームを呼んでいる(図2)。
まず投入されるPhenom IIは2モデル。主な仕様は表1に示した通りで、初回から、これまでのPhenomを上回るクロックで登場する。表1で注目したい大きなポイントは、L3キャッシュが2MBから6MBへ増量された点だ。大幅な容量増となり、トランジスタ数も4億5,000万個から7億5,800万個へ増量されることになったが、45nm SOIプロセス化が功を奏し、ダイサイズは285平方mmから258平方mmへと縮小した。 【表1】Phenom II X4の主な仕様(※はCPU-Zの表示による)
TDPは125Wと高めになっているが、これは従来のPhenom最上位モデルであるPhenom X4 9950 Black Editionのマイナーチェンジ後と同じであるし、動作クロックが大幅にアップしていることを忘れてはならない。また、省電力機能もCool'n'Quiet 3.0へアップデートされ、P-Stateが追加されたほか、最低クロックが1GHzから800MHzへ引き下げられ、最低クロック時の動作電圧も下がった。こうした点も見逃せない特徴だ。 チップセット間インターフェイスは、Phenom同様にHyperTransport 3.0が利用される。ただし、Phenom X4 9950 Black Editionは上下2GHzへ引き上げられたのに対し、Phenom II X4 940 Black Editionは上下1.8GHzへ戻されている。 このほか、内部アーキテクチャの見直しによるIPC(クロック当たりの実行命令数)を改善したとされている。つまり、同一クロックでも前アーキテクチャ以上のパフォーマンスを発揮できるポテンシャルを持っているにも関わらず、より高いクロックのモデルを製品化してきた、ということになる。このあたりは後々チェックしてみたい。 メモリは、従来通りDDR2-1066に対応するが、内蔵されているメモリコントローラ自体はDDR3-1333にも対応できる。このDDR3対応版のPhenom IIは、新ソケットの「Socket AM3」とともに2009年第1四半期中に投入される予定で、この段階でマザーボードの新製品が登場することになるだろう。なお、Socket AM3を採用したCPUは、DDR2/3両対応コントローラが内蔵され、現在のSocket AM2/AM2+を利用したマザーボードでも利用可能となる予定だ(図3)。
今回のテストにあたっては、AMDから「Phenom II X4 940 Black Edition」を借用(写真1)。“Black Edition”の名が示す通り、倍率ロックが解除され、オーバークロック用途も意識した製品となる。 本製品のOPNは、従来のPhenomシリーズのルールと大きな違いはないようだが、AMDから提供された資料に示されていたPhenom II X4 920のOPNは、モデルナンバーを示す部分に「920X」という表記が使われている。これは推測であるが、従来OPNでは明確に分けられていなかったBlack Editionとノーマル版を区別し、“Z”がBlack Editionを示し、“X”が倍率固定のノーマル版を示しているのではないかと推測する。 CPU-Zの結果では、新しいCPUIDや、このPhenom II X4 940がC2リビジョンであることが見て取れる(画面1~3)。Cool'n'Quietによって最低動作クロックになった状態も示しているが、確かに800MHzまで下がっており、電圧は1.000Vを下回っていることが分かる。 ●同価格帯の製品でパフォーマンスを比較 それでは、ベンチマーク結果の紹介に移りたい。テスト環境および比較対象は表2、写真2~4の通り。ここでは、Phenom II X4 940 Black Editionと同じ3万円弱の価格のCPUを中心に比較する。Phenom X4 9950 Black Editionの結果は、先月行なったAthlon X2の記事から流用している。 Intel製品については、それぞれ上位モデルの倍率を変更して生成した“相当品”となる。Core i7-920相当品については、Core i7-965 Extreme Editionの倍率を20倍へ、Uncore部のクロックを2.133GHzへ、QPIのデータレートを4.8GT/secへ、それぞれ落としている。ただし、マザーボードの仕様により、倍率変更を加えたことで、Turbo Boostが無効化されている。Core 2 Quad Q9550は、C0ステッピングのCore 2 Extreme QX9770のFSBを333MHzへ、倍率を8.5倍へ、それぞれ落とした。 併せて、Phenom II X4 940 Black Editionの倍率を変更し、Phenom II X4 920相当としたもの、Phenom X4 9950 Black Editionと同一クロックとなる2.6GHzで動作させたもの、3.4GHzへのオーバークロックしたものの3つもテストした。 オーバークロックについて補足だが、CPUクーラーにはZalmanのCNPS9700を使用。倍率変更のみ、電圧変更なしという気軽なものだが、200MHz×17の3.4GHz動作で全ベンチマークテストを完走することができた。ちなみに、17.5倍の3.5GHzではSYSmark 2007の途中でストップしたためテストを取りやめている。 AMDでは、空冷で3.9GHzを超えるオーバークロックを実現できるとしており、電圧を上げるなどすれば、もう少し上を目指せる可能性は高い。だが、このような気楽な作業で1割以上のクロックアップを実現していることだけでも、まずまずの結果といえるだろう。 【表2】テスト環境
では、順に結果を見ていきたい。まずは、CPU性能をチェックするための、Sandra XIIのProcessor Arithmetic/Processor Multi-Media Benchmark(グラフ1)、PCMark05のCPU Test(グラフ2~3)である。 Sandraのテストにおいては、拡張命令が積極的に使われるうえに、Hyper-Threadingの効果も得られるCore i7-920の良さが目立つ結果となっている。Phenom II X4 940もCore 2 Quad Q9550に対して、まずまず健闘しているといったところ。 気に留めたいのは、Phenom II X4 940をPhenom X4 9950と同一クロックで動作させた場合に、ALUを用いた整数演算のパフォーマンスが明確に良くなっている点だ。これは、Shanghai発表時にもBarcelonaに対するアドバンテージとして示されていたもので、そのアピール通りの結果といえる。逆に浮動小数点演算については、今回の結果を見る限り、ほとんど手が入れられていない可能性が高い。 PCMark05のCPUテストについては、多少の得手不得手はあるものの、Phenom II X4 940、Core i7-920、Core 2 Quad Q9550の3製品が似たようなスコアを出している。また、Phenom X4 9950に対して、同一クロックへ落としたPhenom II X4は例外なく高いスコアを見せている。Phenom II X4 940/920は、IPC向上とクロックアップという2つの改良による効果がはっきりと得られている結果だ。
次は、メモリ周りの性能をチェックするために実施した、Sandra 2009のCache & Memory Benchmark(グラフ4)と、PCMark05のMemory Latency Test(グラフ5)の結果である。 まずL1/L2キャッシュの範囲内でのアクセス速度であるが、Phenom X4 9950と2.6GHz動作のPhenom II X4は多少のバラツキはあるものの、似たようなグラフのラインを描いている。また、レイテンシも綺麗に揃っており、このあたりの性能差はないと考えて良さそうである。 気になるのは増量されたL3キャッシュと、DDR3/DDR2両対応となった新しいメモリコントローラの性能である。Phenom X4 9950に比べて低い傾向を見て取ることができる。特にレイテンシの結果が著しく悪く、Phenom II X4は倍近いレイテンシになっている。だが、これはPCMark05のテストに起因する問題である可能性も高い。過去、CPUの新製品が登場直後にはスコアが悪かったが、数カ月して再テストすると、急激にスコアが伸びるということがあったからだ。 一方、Sandraに含まれるMemory Latency Benchmarkの結果を確認すると、64MBのランダムアクセス時、Phenom X4 9950で112ns、2.6GHz動作のPhenom II X4が92nsとむしろPhenom II X4の方が好結果である。同じく64MBのリニアアクセス時は両製品とも19nsという結果になっている。BIOSによるチューニングの余地はありそうであるが、現時点の結果としては目くじらを立てるほどのこともないだろう。
続いては、実際のアプリケーションを用いた、SYSmark 2007 Preview(グラフ6)、PCMark Vantage(グラフ7)、CineBench R10(グラフ8)、動画エンコードテスト(グラフ9)の結果である。なお、Core i7-920環境でPCMark Vantageで必ずフリーズしてしまうというトラブルが発生しており、一部テストを実施できていない。 全般にCore i7-920のスコアが高い傾向にあるが、Phenom II X4 940とCore 2 Quad Q9550との比較であれば、かなり拮抗したスコアになっている。Phenom II X4の両製品は、Phenom X4 9950からのスコアの伸びも非常に大きい。 これまで動画エンコードでは無類の強さを見せてきたCore 2だが、同価格帯のCore 2 Quad Q9550に対して、速度が同等かやや上回るケースが多いというのは非常に興味深い結果である。
次に3D関連のベンチマークである。3DMark 06/VantageのCPU Test(グラフ10)、3DMark VantageのGraphics Test(グラフ11)、3DMark06のSM2.0 TestとHDR/SM3.0 Test(グラフ12)、Crysis(グラフ13)、LOST PLANET COLONIES(グラフ14)の結果を示している。 スコアのバラツキが気になるものの、CPUに依存する処理が多いベンチマークでは、全般にCore両製品の良さが目立つ傾向にある。 ただ、3DMark両製品のグラフィック関連テストや、LOST PLANET COLONIESのAREA2のようにグラフィック処理が中心となるようなシーンで、Core両製品と拮抗したスコアを出しており、Phenom II X4 940のゲームに対する適応性はまずまずといえる。 最後に消費電力の測定結果である(グラフ15)。アイドル時はやや高めの数値が出ており、Core 2 Quad Q9550がよい結果を見せているが、Cool'n'Quiet 3.0の効果もあってかPhenom X4 9950よりは抑えられている。 ピーク時の消費電力はかなり抑制されている。TDPは125Wと高めの値が設定されているものの、実際の消費電力はそれほどでもないことが分かる。Phenom X4 9950はおろか、Core両製品に対して同等以下の消費電力に抑制されており優秀な結果といって良いだろう。
●3万円弱のCPU製品は激戦の市場に Phenom II X4は、従来のPhenomに比べて、飛躍的なパフォーマンスアップを見せている。マイクロアーキテクチャの改良によるIPCの向上、プロセス技術の変更によるクロックアップという、2つの要素が効果を見せたことになる。 さらに、消費電力はほどよく抑えられており、性能の向上と消費電力の低下という、難しい課題を克服した製品になっている。従来のPhenomから確かな進化を遂げており、名実ともに、新ブランドを冠する価値がある製品だと感じられる。 ちなみに、本稿では3万円弱のCPUで比較を行なったが、Phenom II X4 940 Black Editionの価格は275ドル、Phenom II X4 920は235ドルが予定されている。 アプリケーションや3D関連のベンチマークでは、Core 2 Quad Q9550と拮抗した性能を出しているし、それよりも少し高い性能を見せたCore i7-920は、DDR3が必須という条件が付くため、コスト面は不利だ。Phenom II X4は、これまで苦戦が続いていた状況を一気に挽回できるだけの力を持ったCPUだろう。 一方で、DDR3に対応したSocket AM3が気にかかる人もいるだろう。こちらのパフォーマンスは未知数であるが、普通に考えれば性能面では今回の製品を上回る可能性は高い。だが、DDR2 SDRAMにはまだまだ価格面のメリットがあるほか、Socket AM2+はマザーボードの選択肢も多く、DragonプラットフォームにこだわらなければAMD 780Gなどの安価な製品という手もある。まずは、現行のプラットフォームで、このようなパフォーマンスを出せたことに大きな意味があると思う。 □関連記事 (2009年1月8日) [Text by 多和田新也]
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