NVIDIAが年始早々に発売した55nmプロセスのハイエンドGPU。デュアルGPUビデオカードの「GeForce GTX 295」に続き、シングルGPUビデオカードの「GeForce GTX 285」も発表されている。前者については昨年、ファーストインプレッションをお届けしているが、ここでは両製品を揃えて、そのパフォーマンスをチェックしてみることにしたい。 ●プロセスだけでなくスペックも進化したGTX 285 まずは、GeForce GTX 295/285の仕様を簡単に整理しておきたい。表1は両製品と旧製品の仕様を比較したものだ。 【表1】GeForce GTX 295/285の主な仕様
GeForce GTX 295の特徴については、ファーストインプレッションの際にも紹介したが、基本的にはGeForce GTX 260の仕様をベースに、Streaming Processor(SP)を240基化したGPUを2個搭載したものとなる。消費電力は289Wで、6ピンと8ピンの電源端子を備えている。より詳しくはリンク先の記事を参照されたい。 GeForce GTX 285は本コラムでは初めて取り上げる製品となる。GeForce GTX 280に比べて化粧カバーが簡略されているものの、本体サイズなどは同一になっている(写真1~3)。すでに販売は開始されており、4万円台半ばが相場となっているようだ。旧GeForce GTX 280の登場時は6万円を超える価格だったことを考えると、シングルGPUの最上位モデルとしては、ほどほどに価格が抑えられている印象を受ける。
アーキテクチャ上の仕様はGeForce GTX 280と同じで、単純にプロセスシュリンクされたものと考えて良いだろう。SP240基、テクスチャユニット80基、ROP32基、512bitメモリインターフェイスを持つものとなる。 ただし、GPU、メモリともに動作クロックが大きく引き上げられており、この面でのパフォーマンス向上が期待出来るスペックとなった。ちなみに、表1に示したスペックはNVIDIAから提示されたリファレンス仕様であり、最終的なスペックはビデオカードベンダー側に委ねられているという。今後、より高いクロックで動作させた製品も登場するだろう。
動作クロックは向上したものの、消費電力は大きく引き下げられており、プロセスシュリンクの効果が出ているのだろう。この消費電力引き下げに伴い、電源端子の構成もGeForce GTX 280から変化し、GeForce GTX 280では8ピン+6ピンの接続が必須であったのに対し、GeForce GTX 285では6ピン×2の構成となった(写真4)。電源ユニットに対する要求が下がることは、導入も容易になる。 さて、早速ではあるが今回のテストについて説明しておきたい。テストに際しては、フェイスの「INSPIRE Ex i965SLI3/BD Premium」をテストシステムとして借用した(写真5~7)。主なシステム構成は表2の通り。 ビデオカードについては、一部のマルチビデオカードテストにおいて製品の混在があるので、テストに際して用意したものを以下に記しておく。このうち、ENGTX280 TOP/HTDP/1GとEAH4870X2 TOP/HTDI/2GについてはOCモデルとなるため、GAINWARDのExperToolやドライバを用いて定格クロックへ引き下げてテストを行なっている。 【表2】テスト環境
○GeForce GTX 295 ○GeForce GTX 285 ○GeForce GTX 280 ○GeForce GTX 260 ○Radeon HD 4870 X2 ●シングルビデオカード時の性能をチェック それでは、まずはGeForce GTX 295/285を単独で使用した場合のパフォーマンスをチェックしてみたい。比較対象はGeForce GTX 280と2-way SLIを構築したGeForce GTX 260、Radeon HD 4870 X2の3つとした。2-way SLIのGeForce GTX 260は少々イレギュラーに感じられるかも知れないが、GeForce GTX 295の仕様が近いので比較に用意したものだ。 「3DMark Vantage」(グラフ1~2)の結果は、GeForce GTX 295が飛び抜けて良い結果となった。Radeon HD 4870 X2を大きく引き離したのは好印象だし、GeForce GTX 260のSLI構成に対してはSP数の違いが影響したのだろう。GeForce GTX 285も、GeForce GTX 280から着実な伸びを示した。クロックアップの効果がはっきりと得られていることを確認できる。
ただ、Feature Testの結果からは違った傾向も浮かんでおり、SPによる演算を行なわせるPerlin NoiseのようなテストではRadeon HD 4870 X2に劣る結果となった。また、Stream OutやGPU Particlesのようにジオメトリシェーダが絡んだテストではマルチGPUが不利な傾向が表れている。Graphics ScoreにおけるGeForce GTX 295の強さは、ピクセルシェーダによる描画性能が良いことに起因するものといえる。 「3DMark06」(グラフ3~5)はRadeon HD 4870 X2の健闘が目立つ結果となった。とくにHDR/SM3.0テストで良好な結果を見せており、これは過去のテスト結果からも納得できるものである。 また、Feature Testの結果でも、ピクセルシェーダ周りはGeForce GTX 295の良さが目立つが、それ以外はそれほどでもなく、先のVantageの結果と併せてみても、GeForce GTX 295はピクセルシェーダの描画能力が抜きん出ているが、ほかの能力については付け入る隙もある製品という印象を受ける。
「Call of Duty:World at War」(グラフ6)はマルチGPU構成が非常に良いスコアを出している。GeForce GTX 295とRadeon HD 4870 X2の比較では前者が安定して上回るスコアを発揮しており好結果といえる。
「COMPANY of HEROES OPPOSING FRONTS」(グラフ7)はNVIDIA勢の強さが目立つ結果となった。とくに、シングルGPUのGeForce GTX 285が、高解像度でもRadeon HD 4870 X2を上回る結果を出すというのはインパクトある結果といえるだろう。GeForce GTX 280では、勝ちきれない部分があることを考えると本製品でクロックアップしたことの有効性を感じさせる。
「Crysis Warhead」(グラフ8)は、シングルビデオカードという視点で見るとGeForce GTX 295が飛び抜けて良い結果となった。一方、Radeon HD 4870 X2はシングルGPU製品のGeForce GTX 285/280と拮抗しているものとなっているが、高負荷ではさすがに地力を見せており、これはGeForce GTX 285でも敵わない。GeForce GTX 285はそれでも低負荷条件でRadeon HD 4870 X2を上回るシーンがあり、負荷の重い本アプリケーションにおける実用面を考えれば悪くない結果だ。
「Enemy Territory: Quake Wars」(グラフ9)はSLI絡みの構成が大きく落ち込む結果となった。一方でRadeon HD 4870 X2は非常に良い結果を出しているわけで、決してアプリケーションがマルチGPUに最適化されていないわけでもなさそうである。結果としてGeForce GTX 285がGeForce GTX 295を上回る結果となっているわけであるが、それでもRadeon HD 4870 X2の安定感が光る。
「Far Cry 2」(グラフ10)はマルチGPU環境の良さが光る結果であるが、とくにGeForce GTX 295が高いスコアをマークした。1,920×1,200ドットで差が逆転する結果もあるが、大局的に見てGeForce GTX 295に軍配を上げていいだろう。
「Half-Life 2: Episode Two」(グラフ11)は、高解像度でも負荷が低いものとなっているが、Radeon HD 4870 X2の良さが光る結果だ。旧ATIから得意としてきたSource Engineのアプリケーションだけに、こうした結果も納得できるものである。GeForce GTX 285も低解像度では余力ある結果になっているものの、高解像度ではシングルGPU製品の限界を見せている結果になっている。
「Left 4 Dead」(グラフ12)もHalf-life 2と同じSource Engineを使ったアプリケーションであるが、こちらはHalf-life 2ほどRadeon HD 4870 X2が強さを発揮していない結果である。とはいえ、GeForce GTX 295が好結果を残すアプリケーションが多いことを考えると、Source EngineはGeForce GTX 295が勝ちきれないエンジンという見方もできると思う。
「LOST PLANET COLONIES」(グラフ13)は以前からNVIDIA製品が得意とする傾向にある。GeForce GTX 295の結果は抜きん出ているほか、GeForce GTX 285もフィルタなどを適用しなければRadeon HD 4870 X2に迫る性能を見せている。GeForce GTX 280からのスコアの伸びも大きく、同製品が好印象を残す結果を見せたアプリケーションの代表例になっている。
「S.T.A.L.K.E.R.:Clear Sky」(グラフ14)はRadeon HD 4870 X2が優れた結果を収めた。このアプリケーションは全般にGeForce勢はやや奮わない傾向にある。ちょっと気になるのはGeForce GTX 280が著しくスコアを落としている点で、後述するSLIなどでは目立った落ち込みはないため、これはドライバの問題ではないかと考えている。
「Unreal Tournament 3」(グラフ15)は、アンチエイリアスと異方性フィルタを適用したときのRadeon HD 4870 X2の性能が良いことが目立っている。GeForce勢はフィルタ適用時の性能の落ち込みが大きい。負荷が軽いアプリケーションだけにクオリティを向上させようと試みたときの性能低下が大きめなのは惜しい結果である。
「World in Conflict」(グラフ16)はGeForce勢にとって、まずまずの結果になった。とくに低負荷でGeForce GTX 285/280を含めて良好な結果を見せており、低負荷ではCPUへの負担が大きくなりがちなアプリケーションの性格を考えると、ドライバの最適化がうまくいっているのだろう。ただ、負荷が高まるとGeForce GTX 295であってもRadeon HD 4870 X2に差を詰められる傾向にあるのに加え、やはりGeForce GTX 285もスコアを大きく落とす結果となった。
●マルチビデオカード構成における性能をチェック 続いては、マルチビデオカード環境を構築した場合のパフォーマンスを見てみることにしたい。ここでは描画負荷が低い条件のテストはビデオカードがボトルネックになりにくくなるため、フィルタを適用した場合のみテストしている。ただし、S.T.A.L.K.E.R.:Clear SkyのみはEnhanced Full Dynamic Lighting DX10を選択した際にアンチエイリアスがうまく適用されないので、フィルタなしの条件でテストしている。 結果は以下のグラフに示すが、ビデオカードの違いによるおおまかな傾向の違いは先述した通りなので、ここでは特徴的な点をまとめておくことにしたい。 まず、GeForce GTX 295のQuad SLI構成であるが、かなりよろしくない結果となってしまった。この環境が優れた結果を見せたのは3DMark両バージョン、LOST PLANET、S.T.A.L.K.E.R.となる。これらの性能はまずまずなのだが、問題は、ほかのアプリケーションでのスコアの落ち込みが大きすぎることだ。 こうした環境では負荷が高くならないと良さが見えてこないことも多いのだが、2,560×1,600ドットクラスのディスプレイを使ったとしても、GeForce GTX 285の3-way SLIなどを上回ると思われないほどの差がついてしまっているアプリケーションが多い。先述のシングルビデオカードの結果からも、Quad SLIを組んだGeForce GTX 295のハードウェアとしてのポテンシャルは高いはずで、ドライバの最適化で改善が見込めるのであれば積極的な対応を望みたい。 一方、GeForce GTX 285の3-wayおよび2-way SLIについてだが、こちらはまずまず良好な結果を見せている。3-way SLIと2-way SLIの差についても、明らかにSLI環境で伸びないET:Quake Warsと、スコアの頭打ち傾向が見られるSource Engineの2タイトルを除けば、3-way SLIが順当に性能を伸ばしている。 現実的には2-way SLIでも十分で、この環境でもRadeon HD 4870 X2やGeForce GTX 295のQuad環境を上回るシーンが多く、ハイエンドユーザーならば導入価値を感じるのではないだろうか。 ●55nmプロセスの効果が見られる消費電力 最後に消費電力の測定結果を、まとめて紹介しておきたい。GeForce GTX 295/285は55nmプロセスによる消費電力減少も大きな特徴としてアピールされているが、それに違わぬ好結果を見せた。 GeForce GTX 295であれば、GeForce GTX 260のSLI構成を下回る点は大きなポイントだろう。同一クロックだがSPがリッチになっており、実際、性能はGeForce GTX 295の方が優れている。にも関わらず消費電力は低下しているわけだ。 GeForce GTX 285はもっと分かりやすい。GeForce GTX 280と同設計でクロックが増しているにも関わらず消費電力はより低く収まっている。当然、2-way、3-wayで差は広がる一方であり、性能と消費電力のバランスの面で魅力が高まった製品といえる。
●両製品は対象となるユーザーが異なる 以上の通り結果を見てくると、今回発売された両製品は、ハイエンドセグメントに位置付けられる製品として、パフォーマンス、消費電力の両面で魅力ある製品になっている。 とくに、GeForce GTX 295の存在はNVIDIAにとって大きいだろう。Radeon HD 4870 X2の登場以降、シングルビデオカードのパフォーマンスリーダーの座を明け渡したうえ、その下のセグメントもRadeon HD 4000シリーズに対して苦戦している。最近のNVIDIAとしては珍しく、最新プロセス投入をフラッグシップに持ってきたのも、本製品でパフォーマンスリーダーの座を奪い返すことが目的だったことは明白だ。それは成功したといっていいだろう。 価格面でも、旧GeForce GTX 280と似た価格帯に投入されており、GeForce GTX 280クラスを望むようなユーザーにとって、その置き換えにできる製品になっている。 一方、GeForce GTX 285は立場が微妙だ。確かにGeForce GTX 280からのパフォーマンスアップは安定したものになっており、消費電力も下がっているわけだが、果たしてGeForce GTX 280クラスから買い換えるかというと、4万円台半ばのコストを支払うまでのインパクトはないように思う。 むしろ、この製品はGeForce 8800/9800 GTXクラスのセミハイエンドクラスを使っているユーザーのアップグレードパスとして向いているのではないかと筆者は思う。GeForce 9800 GTXクラスの製品は今でこそ2万円を切る価格になってしまったが、元々は4万円台で発売された製品だし、電源の面でも6ピン×2端子という同じ構成になっている。2万円前後に価格が下がってから購入したユーザーにはコスト面で躊躇する向きもあるとは思うが、飛躍的な性能向上を狙って投資する価値はあるのではないだろうか。 マルチビデオカードに関してはGeForce GTX 295のQuad SLIが今ひとつな結果である。ビデオカードが2枚で済んだり消費電力が3-way SLIよりも抑制されるのは魅力だが、そうしたメリットもかすむほど性能が伸びない。とことん性能を追求していきたいユーザーにとってはGeForce GTX 285の3-way SLIの方が、現状では妥当な選択といえる。 □関連記事 (2009年1月27日) [Text by 多和田新也]
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