NVIDIAのIONプラットフォームは、2008年の12月にNVIDIAから発表されたIntelのAtomプロセッサにNVIDIAのチップセットを組み合わせた製品だ。詳細に関しては過去の記事を参照してもらいたいが、NVIDIAのGPU統合型チップセッ「GeForce 9400M G」を用いることで、Atom PCでもCUDAやシェーダに対応したGPGPUのアプリケーションを利用可能にし、性能を上げようという製品だ。 今回、NVIDIAのIONプラットフォームのリファレンス環境を入手したので、Intel 945GC Expressを搭載した製品との比較を通して、そのパフォーマンスに迫っていきたい。なお、今回は機材を入手したタイミングの問題から、速報という形でいくつかの重要な結果のみをお伝えしたい。 ●大きな違いはメモリ、GPUの3D性能、HD動画のHWデコーダ、GPGPU対応 IONプラットフォームの詳細に関しては、ここでは繰り返さないが、比較対象として用意したIntel純正Mini-ITXマザーボード「D945CGLF2」(以下Intelプラットフォーム)との機能の違いについて紹介していこう。 表1は両者の違いを表にまとめたものだ。 【表1】IONプラットフォームとIntelプラットフォームの違い
こうして表にするとわかりやすいが、IONプラットフォームとIntelプラットフォームの性能面に大きな影響を与える違いは、大きく分けて2つある。1つはメインメモリの帯域幅で、もう1つは内蔵GPUの世代の違いだ。 メインメモリの帯域幅だが、IONプラットフォームがメインメモリにDDR3を採用しているのに対して、IntelプラットフォームはDDR2となっていることが大きな違いを生んでいる。前者がシングルチャネルで8.5GB/secの帯域幅を実現するのに対して、後者はで5.3GB/secとなっており、この点が性能に与えるインパクトは小さくないと考えることができる。 メモリ帯域幅が向上するメリットは2つある。1つはCPUがマルチスレッドで命令を実行しようとする場合、CPUからメモリへ大量のアクセスが発生するため、帯域幅が広いほど、CPUの持つ本来の性能を発揮しやすくなる。今回使用する2つのマザーボードとも、CPUはデュアルコアのAtom 330(1.6GHz)を搭載しており、Hyper-Threadingテクノロジを有効にすると、OSからは4つの論理コアがあるように見える。このため、マルチスレッドに対応したアプリケーションでの効果は決して小さくないと考えられる。 もう1つのメリットはGPUの性能に与える影響だ。両プラットフォームとも、チップセットに内蔵されたGPUは、ビデオメモリとしてメインメモリの一部をシェアし、メインメモリの帯域を消費することになる。もちろん、グラフィックスの基本性能は、GPU自体に大きく依存するが、メモリ帯域幅も3D描画性能に影響を及ぼすことになる。 2つ目の違いがもっとも大きいものだろう。GeForce 9400M Gに内蔵されているのは、いわゆるG8x/9x系のDirect3D 10世代のGPUで、ストリームプロセッサの数こそ16と多くはないが、立派な最新世代のGPUだ。これに対してIntel 945GCに内蔵されているGMA 950はDirect3D 9世代のGPUで、いわゆるシェーダ2.0に対応した固定機能のシェーダエンジンを搭載している。 両者の違いは、単なる3D技術の世代の差だけではない。例えば、GeForce 9400M GはGPGPU(GPUコンピューティング)と呼ばれる、汎用のアプリケーション演算にも対応している。NVIDIAはCUDAと呼ばれるGPGPU向けの開発環境を提供しているが、CUDAに対応したアプリケーションは、もちろんIONプラットフォームでも利用することができる。 さらに、GeForce 9400M GにはPureVideo HDと呼ばれる動画再生支援機能がある。GeForce 9400M Gに搭載されているのはVP2+と呼ばれる、MPEG-4 AVCとWMV HDのHD動画をハードウェアでデコードする機能で、CPUに負荷をかけず、これらのHD動画を再生することができる。特に、AtomはCPUの処理能力がCore 2 Duoなどに比べて充分ではないので、CPUだけでこれらの動画を再生するのはかなり厳しく、GPU側で動画をデコードすることができれば、システムの総合的な価値に大きく貢献する。
●IONプラットフォームにアドバンテージ それでは検証結果を見てみよう。なお、両プラットフォームとも、メモリは2GB、HDDはSeagate ST9200420AS(2.5インチ/7,200回転/分)、OSはWindows Vista ServicePack 1(英語版)に揃えた。
まず、グラフ1の3Dだが、今回はFutureMarkの3DMark06 v1.1.0を利用した。最新版の3DMark Vantageではなく3DMark06を利用したのは3DMark VantageがDirect3D 10のハードウェアがないと動作しないからだ。 結果は見てわかる通り、IONプラットフォームが圧倒的に大差をつけた。SXGA(1,280x1,080ドット)で見ると、実に10倍近いスコアになっており、段違いといっても過言ではないだろう。また、Intelプラットフォームの方は、WUXGA(1,920×1,200ドット)の解像度では正しく動作しなかった。
コンポーネントレベルの結果がわかるPCMark05 v1.2.0では、HDDこそIntelプラットフォームの方が上回ったものの、その他の結果に関してはすべてIONプラットフォームが上回っている。特に、グラフィックス周りは3倍以上と大きな差をつけている。PCMark05のグラフィックステストで3DMark06ほど差がつかないのは、3Dだけでなく、差の出にくい2Dのテストも含まれているためだ。
グラフ3は1,440x1,080ドット/5MbpsのMPEG-4 AVCの動画を1分間近く再生した時のCPU負荷率だ。ハードウェアデコーダを持たないIntelプラットフォームの場合には、CPU負荷は40~70%の間を行ったり来たりしており、平均で60%近いCPU利用率となっている。D945GCLF2はデュアルコアのAtom 330が搭載されているため、平均60%の負荷で再生できているが、これがシングルコアであれば、おそらくコマ落ちが発生し、とても視聴に耐えられないだろう。 これに対してハードウェアデコーダを持つIONプラットフォームは、ほとんどの時間で10%を切るCPU利用率となっており、平均では8%という低負荷で再生できている。 最後にCUDAに対応したエンコーダソフトでエンコードにかかかった時間を紹介しておきたい。MPEG-2/8Mbps/6,312フレームの動画をMPEG-4 AVC(2Mbps)にエンコードしたところ、TMPGenc+CPUで行なった場合には16分21秒かかったものが、CUDA対応のBadaboomでは約半分の8分37秒で済んだ。エンコードツールも異なるので、プラットフォーム感の直接の比較にはならないが、作業時間がおよそ半分というのは大きな意味を持つだろう。 ●低価格PCに新しい選択肢をもたらすIONプラットフォーム AtomとNVIDIAのチップセットを組み合わせたIONプラットフォームは、ベンチマーク結果からわかるように、処理能力があまり高くないAtomにとって厳しいマルチメディア関連の処理をGPUで補うことができている。考えてみれば、現在CPUに高い処理能力が求められるのは、エンコードや、写真処理など。これらは、すでにNVIDIAが何度もデモなどしているように、GPUがCPUに代わって処理できる。今後、高いCPUを買わないでも、低価格CPU+高機能GPUの組み合わせで充分だと考えるユーザーが増えていっても何の不思議もない。 もっとも、IONプラットフォームにも課題はある。1つにはアプリケーションが増えつつあるといっても、まだまだ充分ではないこと。現在あるアプリケーションのほとんどはエンコード用で、Photoshopなどの編集ソフトウェアは一部機能だけの対応に留まっている。今後、対応アプリケーションを増やし、ユーザーの認知度を上げていく必要があるだろう。本誌の読者はともかく、一般のユーザーがCUDAのメリットを理解しているかと言われれば、それはまだまだというのが現状だからだ。 また、未だにNVIDIAは採用PCメーカーを明らかにしていないし、予想価格なども明らかになっていないことも気になる。この記事でも指摘した通り、IntelのAtomの価格戦に、どのように対抗していくのかを明らかにしておらず、ビジネス面でも課題は少なくない。 しかしながら、仮にIONプラットフォームが、Mini-ITXマザーボードとして、あるいは低価格ノートPCとして市場に登場することになれば、ユーザーに新しい選択肢と価値を提供することになることは間違いなく、具体的な製品の登場に期待したいところだ。 □関連記事 (2009年2月4日) [Reported by 笠原一輝]
【PC Watchホームページ】
|