第438回
「VAIO type P」チェックポイント7題



VAIO type P

 ソニーが発表した「VAIO type P」は、久々にソニーらしさというよりも、“バイオらしさ”が出たモバイルPCだ。そのスペックはすでに発表記事で紹介されているので、ここでは詳しく書かないが、ソニーなりにIntelのMobile Internet Device(MID)向けプラットフォームを料理した製品がVAIO type Pである。

 それはネットブックなどの低価格ミニノートPCではなく、Intel提唱のMIDとも異なる。MIDのコンパクトさとノートPCの汎用性の2つを1つにした新しい提案だ。特定用途に向けたデザインではなく、ノートPCの形態を維持したまま可能な限り携帯性を高めた製品だけに、用途はユーザー次第でさまざまに広がるだろう。

 筆者も発表前にしばらく試用したが、その間にチェックしてみたVAIO type Pの“気になるところ”を紹介していきたい。


●MIDベースのノートPCなら、かなり遅いんじゃないの?

WILLCOM D4

 日本で発売されているMIDの代表例はウィルコム「WILLCOM D4」だろう。ほかにもMIDプラットフォームを活用した製品として超小型ノートPCの形態を持つ富士通「LOOX U」もあるが、WILLCOM D4はVAIO type Pの店頭モデルと同じ1.33GHzのプロセッサを搭載している。

 搭載メモリはWILLCOM D4の2倍となる2GBなので、Windows Vista Home Basicならばスイスイ動くのでは? と想像する読者もいるかもしれない。しかし、D4は動作がかなり緩慢だった。遅すぎて全く使えないのでは? と考える方もいるに違いない。

 結論から言えばD4よりはかなり高速(単純にメモリ容量が2倍になっただけでなく、1.8インチHDDとSSDの差もあると思う)だが、それでも一般的なノートPCの基準からするとかなり遅い。もし、VAIO type Pの購入を検討しているのであれば、個人的なおすすめはVAIO・OWNER・MADEで選べる1.83GHzモデルだ。

 ネットブックでは1.60GHzのAtomでも十分に使い物になるが……という声もあるだろうが、ネットブックがCore 2 Duo向けに開発されたシステムチップの廉価版を使っているのに対して、MIDではシングルチップに各種機能をすべて詰め込んだコンパクトなチップセットが用いられる。

 “どの部分が”とまではわからないが、メモリアクセス、ディスクI/O、GPUなどさまざまな部分のシステムパフォーマンスの積み重ねが、パフォーマンス差を作ってしまっているのだろう。その分、待機消費電力などが大幅に下がっているので、バッテリ持続時間は長くなる。本機がこれだけ小さなバッテリ(7.4V、2,100mAh、ノートPC用として一般的な16550型セル2本分より小さな容量)しか搭載していないのに、公称4.5時間のバッテリ持続時間を実現しているのは、MIDを基礎としているからこそだ。

 正直に言えば、1.60GHz版までのVAIO type Pにはあまり大きな魅力を感じなかった。もちろん、姿形や軽さは魅力だが、それにしても遅過ぎると思っていたからだ。しかし、1.83GHzのZ540を搭載するモデルならば、決して高速ではないものの、そこそこ使えるという感触を持った。

 1.33GHz~1.6GHz~1.83GHzという流れでは、ちょうど1.6と1.83の間に、感覚的な早さ/遅さを分けるスレッショルド(分岐点)があるように思う。予算配分は、まず搭載プロセッサのアップグレードに優先的に割り当てよう。

●SSDとHDDの差は大きい?

 128GB SSDは別格としても、64GB SSDなのか、それとも標準モデルの採用する60GB HDD(1.8インチ・シングルプラッタ)にするべきかで悩む方も多いかもしれない。筆者が試用したのは128GB SSD版だったが、軽くHDD版にさわった感触から言えば、両者に大きな違いはない。

 もちろん、HDDが圧倒的に不得手なシチュエーション(ランダムリード・ライトなど)もあるので一概には比較できないが、MIDベースの製品ではシステムパフォーマンスの方にボトルネックがあることが多いことや、搭載メモリが2GBあることなどから、HDDとSSDのパフォーマンス差が出にくいのかもしれない。

 厳密にベンチマークを取れば差は出るだろうが、優先順位はさほど高くする必要はない。ただし消費電力に関しては、搭載バッテリが小さいだけに、わずかな差でも使い方次第で差が出る可能性はある。

●大容量バッテリは同時に購入した方がいいかな?

 ひとまず標準バッテリで使ってみて様子を見るのが常道だろう。本機のACアダプタはとても小さいので、持ち歩いてもあまり苦ではないから、自分なりの利用スタイルが確立した時点で決めればいい。

 とはいえ、出先で長時間使うことが多いと自覚のある方は、大容量バッテリを用意しておいた方が良さそうだ。というのも、筆者の利用シーンでは、標準バッテリで4時間以上も使えることはなかったからだ。

 どんなにがんばっても(マメにワイヤレススイッチをOFFにしたり、バックライトを極端に暗くしてみたり)、2時間40~50分程度のバッテリ持続時間だった。それでもバッテリ容量の小ささを考えると、かなり頑張っている方だとは思うが、この話にはまだ続きがある。

 まず無線LAN、あるいはWANをONにすると、軽く20分ぐらいは駆動時間が短くなる。さらに最低輝度から4ポイント輝度を上げると、さらに30分短くなり、トータルで50分短くなるから、普通にノートPCライクに使っていると2時間程度がバッテリ持続時間と考えていた方がいいと思う。

 ちょいと出先でインターネットにアクセスし、メールやWebなどを使う程度ならば、それでも十分。もし筆者が購入するなら標準バッテリを主に使うだろうが、もっと長時間の運用を考えるならば大容量バッテリを使うか、あるいは予備に標準バッテリをもう1本持ち歩くことを考えた方がいい。

●大容量バッテリが欲しいけど、ちょっとかっこ悪く見えません?

 人に見せびらかすのであれば、標準バッテリの方がいいのは明白なので、かっこ悪いか? というと、確かにかっこ悪い。見た目を気にするならば、大容量バッテリは買ってはいけない。

 だが、使いやすさの点では意外に悪くない印象だ。大容量バッテリを装着するとキーボードが手前に傾斜するため、膝の上で使う場合でも、机の上で使う場合でも、標準の時よりもずっとキーボードが打ちやすくなる。

●ものすごく高解像度だけど、液晶ディスプレイの視認性は?

 まず光沢感のある表面仕上げだが、これは液晶面全体をパネルで覆うようになっている。このパネルは低反射コートが施されているようだ。加えて縦方向のサイズが小さいので、角度を調整すれば光源を避けられるため、さほど見辛いと感じるシーンはなかった。

 しかし、8型ウルトラワイドで1,600×768ピクセルという解像度は、通常のフォントサイズだとかなり小さい。Windows Vistaのフォントサイズを96dpiから120dpiに変更しても、なお小さめだ。液晶パネルの画素ピッチは0.144mmだから、それも当然といったところだろう。

 120dpiにした上で、さらにInternet Explorerの表示倍率を125%にすると、ちょうどWebページが見やすいサイズになる(もちろん、個人差はあるだろう)。もっと情報量が欲しい場合は表示倍率を100%に戻し、ウィンドウ整列ボタンを押してブラウザウィンドウを2つ並べて使うと使いやすい。

 かつては120dpiモードにすると表示が破綻するアプリケーションが大半だったが、マイクロソフトOfficeやWindows Vistaの標準アプリケーションなどでは、全く問題は起きない。一部、VAIO専用ソフトで表示が崩れるものがあったが、操作が不能になるといった致命的な問題はなかった。

●キーボードの打ちやすさは?

 これも視認性と同じで個人差はあるだろうが、タッチそのものは底突き感はあるもののしっかりとした剛性感がある。ストロークの浅さはあるが、適度なクリック感が演出されているので、タイプ中に不安感は感じない。

 縦方向に詰まったキーピッチに見えるが、実測してみると横が16.5mmに対して縦は15.5mmある。キートップ同士の隙間が横よりも縦が広いため、パッと見にはかなり横長に見えるものの、実際にはさほど問題になるほどの変形ピッチではない。このサイズのノートPCとしては、かなり優秀なキータッチの製品といえるだろう。

 ただキーボードは良いのだが、スティック型のポインティングデバイスは、少々過敏過ぎるように思う。動きそのものは調整が可能だが、スティックをタップする操作がとても敏感で、まったくタップした意識がないのにクリックされているということが多々あった。

 設定でタップ感度を最低にしたが、それでもなお同様の現象に悩まされ、結局、この機能(ThinkPadで言うところのプレスセレクト)を切ってしまった。ドライバのチューニングだけで直る問題なので、製品版では修正されている可能性もあるが、もしそのままの設定で発売するのであれば、後からでも感度設定の幅を広くしたドライバを配布して欲しい。

●WANモデルで他社のSIMカードは使える?

 VAIO type PのWANモデルには、NTTドコモから供給されているWANカードが使われており、多くの人が予想するとおり、他社のSIMカードは利用することができない。しかし、言い換えればNTTドコモの発行しているSIMカードならば利用可能だ。

 具体的な方法は書かないが、NTTドコモのネットワークを使うMVNO(仮想モバイルネットワーク事業者)のSIMカードを挿入し、モデム初期化コマンドに必要な設定を行なうとダイヤルアップが可能だった。

 ただし、その場合はダイヤルアップが完了するまでに30秒ほど待たされる(コンピュータを登録中のまま先にしばらく進まなくなる)。理由はわからないが、他社のWANモデルでも同様の現象があるので、VAIO type Pの問題というわけではないようだ。

 ということで、ソフトバンクやauのSIMカードは利用できないが、NTTドコモの3Gネットワークを利用している事業者のSIMカードなら、若干の問題を除いて利用できる。ただし、正規の使い方ではないため、後に使えなくなっても文句は言えない。リスクを考えれば、やはり普通に契約するのが良いとは思う。

●そのほか

 筆者自身はこだわっていないのだが、開発者はフルHDのWMVファイルを再生可能にすることにこだわったのだとか。1080pのWMVファイルをコマ落ちなく再生させるため、ドライバ周りやシステムのチューニングを施しているという。もちろん、YouTube HDぐらいの動画ならば問題なく再生する。

 またクロスメディアバーボタンを押しながらコールドスタートさせるとインスタントモードとなる。これはWindowsではなく、コンパクトにビルドしたLinuxをOSに、クロスメディアバーで作ったユーザーインターフェイスをかぶせたもの。Webブラウザ(Firefoxがインストールされている)やSkype、IMなどを使ったり、音楽やビデオ、写真を見るだけならば、とても便利なモードだ。

 基本的な操作方法はPSPやPS3などでおなじみのもので、矢印キーとEnter、Escだけで扱えるので、立ったまま操作しやすいのも利点だろう。確かに起動もあっという間に終わるので、こちらをメインに使ってもいいという人もいるかもしれない(ただし、メールや文章を書く機能はない)。

 しかし、この機能には制約があり、まずWANやGPS、Bluetoothといった機能は使うことができない。ネットワーク接続は有線LAN、無線LANの2択だ。さらにバッテリ消費の面でもWindows Vistaの方が優秀で、インスタントモードでは多少、駆動時間が短くなるそうだ。インスタントモードで利用可能な機能は、何らかのアップデートで追加が可能となるかもしれない。今後の改良に期待したい。


 もっとも、これだけ文句を書いていながら、実はかなりVAIO type Pを気に入ってしまった。パフォーマンス面では制約の多い本機だが、メモ代わりや電子メール、Webアクセスなどで不足は感じない。一方でキーボードは打ちやすく、ディスプレイも表示サイズを大きくすればいい。

 ストレスなくキーボードが使えるMIDベースの製品は、これまでありそうで無かったものだけに、携帯専用マシンとして個人的にも検討したい1台だ。

□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□製品情報
http://www.vaio.sony.co.jp/P/
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【1月8日】【Hothot】ソニー「VAIO type P」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2009/0108/hotrev395.htm
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(2009年1月9日)

[Text by 本田雅一]


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