大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

新春恒例企画:2009年は「W」の1年!?




 2008年後半からの経済環境の悪化は、凄まじいものだった。

 電機メーカーの相次ぐ下方修正の発表、PCや薄型TVの出荷見通しの減少など、現状の厳しさだけでなく、先行きに対しても不安が先行する内容となっていたことが見逃せない。

 頂いた年賀状にも、その厳しさが反映され、自身の行動を戒めるような言葉が多く見られたのが印象深い。また、年末年始のTV番組も、華やかな特番の合間を縫って報道されるニュースでは、派遣社員の厳しい現状が伝えられるなど、世の中全体が、正月だからといって、無邪気に笑って過ごすことができない状況にあることを感じざるを得ない。

 2009年も、厳しい経済環境のなかでスタートを迎えることになったPC産業やデジタル家電産業。果たして、今年はどんな1年になるのだろうか。

 明るい話題を探しながら、今年も、新年恒例の言葉遊びで1年を占ってみよう。

 2009年のキーワードは、一文字だけにしてみた。

 それは、「W」

 2009年は「W」の1年になるといえそうだ。

●やはりWindows 7の年

Windows 7では、「ジャンプリスト」など操作面での機能が強化される

 2009年という観点から、Wという頭文字から始まるプロダクトとして、多くの人が想像するのが、「Windows 7」であろう。

 年内の発売が確実視されているWindows 7は、PC業界にとっては、需要回復の起爆剤になるものと大きな期待が集まっている。

 Windows 7の細かい機能についてはここでは割愛するが、Microsoftにとっては、Windows Vistaの出足で躓いた失敗を二度と繰り返さないことが最大のテーマ。その反省を踏まえて、早い段階から業界全体を巻き込んだパートナーとの共同戦線を開始している。

 2008年11月に米ロサンゼルスで開催したWinHEC 2008に続いて、12月には日本で、WinHEC 2008 Tokyoを開催。ハードウェアパートナーを対象に、Windows 7の機能などについて積極的に説明してみせたのもその表れだ。

 「Windows Vistaのときには、発売のタイミングもあり、パートナーとの最終的な摺り合せをする時間がなく、それが互換性などの問題を大きくした。Windows 7では、開発の早い段階からパートナーとの話し合いの時間を持ち、より強いパートナーとの関係構築を進めたい」と、同社では語る。

 複雑だったVistaにおけるロゴプログラムを一新し、Windows 7では、その内容を簡素化。さらに、PCメーカーなどに限定していたVelocityプログラムを、周辺機器開発などのハードメーカーや、アプリケーションソフトを開発するソフトメーカーにも広げるといった施策もすでに発表している。

 今年前半で、周到な準備ができるかどうかがWindows 7の立ち上がりに影響するのは明らか。ひいてはPC業界全体の動向にも影響を及ぼすことになる。

 一部では、6月3日にも正式にWindows 7が発表されるのではないか、との報道も出ているが、これが正しければ、その日は水曜日。Wednesdayと、こちらもWで始まることになる。

●Windows XPも健在

ネットブックは、2009年も台風の目となるだろうか

 Microsoft関連では、もう1つのWindowsである「Windows XP」の動きも見逃せない。

 いまさら開発コードネームを引っぱり出すのもどうかとは思うが、Windows XPの開発コードネームも、「Whistler」。やはりWで始まる。

 Windows XPは、2008年には店頭市場においても約20%を占めたほか、企業向けクライアントPCにおいても、一部メーカーのコメントでは、Vista Business購入者の7割がWindows XPへのダウングレードを選択しているという声も出ているほどだ。まさに、現行OSといってもいいほどの構成比となっている。

 とくに、店頭市場では、Windows XPを搭載したネットブックの影響が見逃せない。昨年末には、ノートPCのほぼ4台に1台がネットブックが占めるという状況になり、まさにPC市場の台風の目となったのは周知の通り。ネットブックに搭載されている主流OSは、しばらくWindows XPとなりそうだ。2009年は、ネットブックに加えて、ネットトップの動きも見逃せない一年となるだろう。

●WiMAXもサービス開始

 モバイル環境の進展も、2009年の大きな出来事となりそうだ。

 それを支えるのが、いよいよ商用サービスが開始される「WiMAX」である。

 KDDIなどが出資するUQコミュニケーションズは、2月から首都圏で試験サービスを開始し、夏には中部圏、関西圏を含めて商用サービスを開始する予定だ。そして、2009年度末には政令指定都市での利用が可能になる。

 通信速度は、サービス開始当初で最大40Mbps、次のステップでは最大80Mbpsでの利用が可能となり、まさに、ワイヤレス(Wireless)ブロードバンド環境が実現され、モバイルコンピューティングの世界が大きく変わることになる。

WiMAXの商用サービス開始が、2009年の大きな出来事になるのは間違いない(CEATEC 2008の富士通ブースより)

 こうした動きにあわせて、外出先で利用するスマートフォンやモバイルPCの進化も期待される。どんな端末が登場するのか、今年1年は楽しみだ。新製品投入としては、最も賑やかな分野になるかもしれない。

 しかし、企業では、情報漏洩などの問題があるとして、PCの持ち出しを制限する例が出ている。このルールが企業に浸透したままだと、WiMAXというせっかくのインフラも宝の持ち腐れになりかねない。PCメーカーや関連企業は、セキュリティ機能の強化をはじめとして、外に持ち出しても安心して利用できる環境の整備を急ピッチで進める必要があるだろう。そうしなければ、WiMAXというすばらしい技術が、PCの利用促進につながらない、ということになりかねない。

WiMAXに関する製品も数々登場することになりそうだ(CEATEC 2008より)

●Webサービスによるクラウドコンピューティングの普及開始

 一方で、WiMAXというインフラ整備の追い風を得ながら、利用促進が注目されるのが「Webサービス」だ。これも、やはりWで始まる。

 Webサービスは、エンタープライズ領域を中心に年々浸透しはじめており、2009年は、Webサービスプラットフォームを基盤に、クラウドコンピューティングの利用が促進されることになりそうだ。

 クラウドコンピューティングでは、セールス・フォースや、Microsoft Windows Azure、Google App Engineといった企業での利用のほか、Windows Liveをはじめとする個人向けのサービスも本格化しており、利用は一気に広がる可能性もある。

 言い換えれば、こうしたサービスを総称することができる「Web2.0」の世界が、本当の意味で浸透しはじめる1年になるといえそうだ。

●関西で工場建設が続く薄型TV

 一方で、薄型TVは、ここ数年、デジタル家電業界にとって欠かすことができないテーマ。今年も大画面化とともに、大幅な価格下落は避けては通れない1年となりそうだ。

 薄型TVにおいて、2009年のポイントは、「West」(西)になるだろう。

 西でなにが起こるのか。それは、シャープの大阪・堺工場、パナソニックがマジョリティを握るIPSアルファの姫路工場、パナソニックのプラズマ尼崎第5工場といったパネル生産の大型拠点が、関西地区に立ち上がるからだ。

シャープ堺工場の完成模型 IPSアルファの姫路工場の完成予想図 パナソニックのプラズマ尼崎第5工場の完成写真(合成)

 いずれも2009年度中の稼働が計画されているが、前倒しでの稼働を予定しており、2009年中にカットオーバーする可能性もある。

 これらの工場が共通的に得意としているのが40型以上の大型パネル生産。これまでの生産設備に比べて、大型のマザーガラスでの生産が可能であることから、より効率的なパネルの切り出しが可能になる。

 シャープの場合、亀山第工場では、32型で8枚取り、亀山第2工場では32型で18枚取りだったものが、新たに稼働する堺工場では、42型と大型化しながら、15枚取りが可能になるという。

 ただ、いずれの拠点も、一気に全設備を立ち上げるのではなく段階的な生産稼働としており、さらに、第1次稼働計画の規模を縮小しているという話もある。

 大幅にコスト削減したパネルの生産が可能な新拠点であるが、稼働に向けた各社の姿勢は慎重だといえる。

●国内メーカーも世界戦略が必要に

 そして、電機メーカー各社にとっては、「Worldwide戦略」が鍵になる1年だといえよう。

 北米市場で激化するデジタル家電の価格競争に加えて、市場成長が著しい新興国市場での地歩を固めることができるかが課題だ。

 ソニー、シャープの液晶TV事業を大きく左右するのは海外での業績となるのは間違いない。また、将来の海外売り上げ比率60%を目指しているパナソニックは、海外比率の高い三洋電機を傘下に加えて、2009年中にどこまで海外比率を高めることができるかが、今後の成長戦略に影響することになる。

 さらに、PCメーカーにとっても、やはり海外事業が業績を大きく左右することになる。世界戦略を早い段階から打ち出し、いよいよ1兆円規模に手が届くところまでPC事業を拡大してきた東芝、海外での販売地域を着実に拡大し、出荷台数を伸ばしているソニー、富士通シーメンスの完全子会社化によって欧州市場を基盤に世界戦略を明確化する必要に迫られた富士通というように、日本のPCメーカーがいかに海外で成果をあげることができるか試される1年ともいえる。

●PCもTVも低消費電力が重要に

低消費電力化は薄型TV、PCのいずれにとっても重要な要素となる

 PCや薄型TVに共通したテーマが低消費電力化。つまり、「Watt」(ワット)をいかに引き下げることができるかが今年の大きな課題だ。

 2008年から、環境に対する意識が高まり、データセンターの消費電力削減要求だけでなく、企業のPCやサーバー導入の指針の1つにエコが取り入れられるようになってきた。また、一般消費者の薄型TV購入においても、消費電力を検討材料の1つに加える動きが顕在化しているという。量販店店頭でも、エコを前面に打ち出した展示が増えていることからも、そうした購入者が増えていることが裏付けられる。

 今年投入が予定されているパナソニックのNeo-PDPをはじめ、各社から発売されるプラズマTVや液晶TVの低消費電力化は、2009年はますます進展しそうだ。

 PCにおいても、IntelのCore i7によって、メインストリームCPUにおける低消費電力化のほか、ネットブックやモバイルPCなどを想定した低消費電力型のCPUの登場や、低消費電力を実現するSSDの搭載が促進されるといった動きが見込まれている。もちろん、最新CPUやSSDが低消費電力だけで選ばれるわけではない。ここはややこじつけであるが、CPUの進化やSSDの促進は、2009年のテーマとして欠かせないものであったため、ここに含めた。

●年末には景気回復を期待

 Wをキーワードに、明るい話題を探してみたが、やはり2009年は厳しい1年になるのは間違いないだろう。

 後半以降からの市況回復を期待する声がアナリストの間からも上がっているが、慎重な姿勢を崩さない電機メーカー、周辺機器メーカー、ソフトメーカー、販売店は少なくない。

 2009年が、これまでに比べて「Worst」(ワースト)な1年にならないように、そして、年末には、「www」(大笑い)できる1年であってほしいと思う。

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(2009年1月5日)

[Text by 大河原克行]


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