大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

PC業界各種統計データ、その傾向と対策




 12月が終わると、各調査会社から市場動向に関する統計データが相次いで発表される。

 これによって、2008年の市場規模を把握したり、対前年成長率で市場の成長性を明らかにできる。なかには、2009年以降の中期予想まで含まれることもあり、各業界の関係者にとっては重要な指針の1つとなっている。

 2008年のデータは、早いものでは、1月4日過ぎに明らかになるだろうし、業界団体でも1月下旬にはその数値を発表することになる。いずれにしろ、3月までの間は、調査会社各社から統計データが相次いで発表される。それを過ぎると、今度は年度締めの各種データが発表される。

 PC業界でも同様に、市場動向を示す数値が調査各社や関連団体から発表され、それが業界の「いま」を浮き彫りにする。

 だが、各種の調査手法や、製品のカテゴリー分けが異なるだけに、発表される数字には、当然のことながらズレが生じる。

 このあたりの見方を誤ると、記事や予測が間違った形で掲載されることになる。PC業界における統計データの見方について、その「傾向と対策」をまとめてみたい。

●業界団体としての数字を発表するJEITA

JEITAによるPC出荷統計

 業界団体として数字を発表しているのが、社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)である。

 PCの統計は、同協会のCE部会が担当し、毎月発表されている。

 2006年度までは、四半期に1回ずつデータが発表され、四半期ごとに記者会見が行なわれていたが、2007年度からは毎月のデータ公表に移行するとともに、基本は資料配付とし、記者会見は、ほとんど行なわれていない状況だ。

 調査方法は、自主統計調査として、PCメーカー各社が、他社にわからないように、それぞれ毎月の出荷数字などを入力し、その合計値が発表される。つまり、統計に参加しているメーカーの数字だけが集計されているものだ。業界団体の自主統計という性格上、メーカー別シェアは発表されないという特徴もある。

 そのほか、PCの出荷価格がベースとなるため、平均単価は市場価格よりもやや低めに出る傾向がある。シェアの大きいメーカーが、在庫処分のために低価格で大量に出荷すると、それによって一気に平均単価が下がることもある。最近ではサプライチェーンマネジメントの進化により、在庫処分といった動きは減っているが、月ごとの出荷台数を発表しはじめたことで、短期での集計となり、こうした在庫処分を背景にした平均単価のブレが生じる可能性が大きくなったともいえる。

 実は、2007年度以降、JEITAが発表している数値は、参考値にしかならない。

JEITAの統計にはASUSTeKやエイサーのネットブックは含まれない

 というのも、統計には、JEITA会員会社ではないアップルコンピュータは参加しているものの、国内第3位のデルや、日本ヒューレット・パッカードなどが調査参加企業から外れたことで、市場カバー率が一時期の約95%から、現在は約80%に減少。市場全体を示しているとは言えないからだ。

 とくに、ネットブックなどで先行するエイサー、ASUSTeKなどが含まれておらず、JEITAの出荷統計にはまったく反映されていない。むしろ、これらのメーカーのシェア拡大によって、JEITA統計の市場カバー率はさらに減少したといってもいい。

●市場全体を俯瞰するIDC Japanとガートナー ジャパン

 その点で、市場全体を俯瞰するには、IDC Japanやガートナー ジャパンが発表する調査データは、比較的、参考になる。

 これらの調査会社では、世界的な規模での調査や、部品メーカーなどへのヒアリング、そして、PCメーカー各社へのヒアリングなどを通じて、独自の調査分析手法を用い、数値をまとめ、発表している。

IDC JapanによるPC出荷統計 ガートナー ジャパンが8月に発表したミニノートブックに関する2つの見解

 継続的に調査を行なっていることから、対前年実績との比較もでき、中長期的に市場動向を見るには適している。また、同様に、日本に根ざした調査会社としてMM総研があり、やはり同社も独自の調査手法などを用いて、市場規模やメーカーシェアを算出している。

 対象とする市場カバー率は100%なのだが、その一方で、メーカーの自主統計とは異なり、調査各社の手法によるものであることから、どんな観点で数字を導き出しているのかを知っておくべきなのが本来の姿だろう。

 ただ、その点は、各社とも具体的な集計、分析方法は公開しておらず、外部から知ることは不可能だ。残念ながら、ここは不透明なまま、我々はデータを使わなくてはならない。

 外資系の調査会社の場合は、日本独自での調査に加えて、ワールドワイドで算定された数字からも、日本市場向けのシェアが算出されるため、この観点からも分析が行なわれるようだ。

 これらの調査データを活用する際には、あくまでも調査会社の立場から、独自の手法で調査した結果である、という点を考慮しておく必要がある。

●POSデータを用いるBCNとGfK

 POSデータを用いた統計データを発表しているのが、BCNとGfK Marketing Services Japanである。

 POSデータとは、量販店やPC専門店に設置されているPOSレジを通過した時点で売り上げが計上され、それをもとにした売り上げデータを直接集計したものである。

 両社とも、月曜日から日曜日を1つのサイクルとして、週次ベースで集計を発表している。もちろん日次ベースでの集計も可能であることから、1日から31日までの1カ月間、新製品の発売日から何日間といった集計も可能だ。

 これらのPOSデータは、調査会社が販売店からデータを購入。それを調査会社がまとめて、メーカーなどに販売され、マーケティングデータなどに活用される。この一部が、調査会社から報道関係者に公開され、記事などに利用されるという仕組みだ。

 BCNは、週刊BCNというIT産業向け専門媒体を27年間に渡り発行していることもあり、マスコミを対象に、調査データに関する定期的な記者会見を行なったり、細かくデータを提供したりといった点が特徴だ。BCN Awardという年間トップシェア製品に対する表彰制度も行なっている。一方、GfKジャパンは、世界第4位の調査会社という利点を生かしたPOSデータの集計、分析方法の仕組みを構築している点が特徴。日本の家電量販店の市場カバー率は90%以上という高い構成比となっている。

 両社の調査データは、POSデータという性格上、販売数量や販売価格の集計そのものには間違いがない。また、PCに留まらず、周辺機器や消耗品まで、カラーバリーエーションまで含めて細かい集計や、販売店の地域ごと、価格帯別動向などの分析も可能だ。

BCNのホームページ GfK Marketing Services Japanのホームページ

 周辺機器やソフトなどに、BCNやGfKのロゴが入ったシェアナンバーワンを示すシールが貼られているのを見たことがある読者もいるだろう。これらのロゴを貼った製品は、販売店のPOSデータの集計の結果、年間で一番売れたものを示す証といえる。BCNでは、実に121品目もの商品ジャンルのデータを集計している。

 注意しなくてはならないのは、すべての店舗のデータを集計しているのではないということ。また、パネルと呼ばれる調査対象販売店のうち、有力な販売店の販売データに全体が引きづられる可能性があること。さらに、発売前の製品でも、予約でPOSレジを入金扱いで通過した場合には、それがデータにも計上されてしまうといった誤差が生じることなどだ。

 そして、POSデータが調査対象であることからもわかるように、企業向けのPC販売などは含まれていない。あくまでもコンシューマ分野における調査に限定される。また、メーカー直販サイトの売り上げや小規模のPCショップなどは含まれていない。


 このように、各調査会社のデータには、それぞれ特性がある。

 こうした特性を知って、各社のデータを見ると、数字に惑わされないで済むだろう。

 年明けから発表される各データを見る際には、数字そのものを見るのではなく、それがどこから発表されたものなのか、どんな調査内容なのか、そして、どんな背景があるものなのか、といった点を見てからにしたほうがいい。

 ところで、年明けに予定される最新データだが、極めて厳しい数字が出てくるのは間違いない。

 PC市況の低迷ぶりは明らかで、販売/出荷台数が増加したとしても、販売/出荷金額は前年割れを免れない。

 こうした状況のなか、明るいテーマを探すことができるどうかも、統計数字の見方の楽しみ方だ。もちろん、市況が明るい時には、逆に、課題となるテーマを、数字の中から探しているのだが……。

□JEITAのホームページ
http://www.jeita.or.jp/
□IDC Japanのホームページ
http://www.idcjapan.co.jp/
□ガートナー ジャパンのホームページ
http://www.gartner.co.jp/
□BCNのホームページ
http://bcnranking.jp/
□GfK Marketing Services Japanのホームページ
http://www.gfkjpn.co.jp/

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(2008年12月26日)

[Text by 大河原克行]


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