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発売中 実売価格:54,800円 登場からわずか1年ほどで大きな成長を遂げたネットブック市場。当初は静観していた大手メーカーも、徐々にその存在を無視できなくなり、続々とネットブックカテゴリーの製品を投入しつつある。そして、ついにレノボからも登場することになった。それが「IdeaPad S10e」だ。TkinkPadシリーズでおなじみのレノボが放つネットブックは、どれだけの完成度を実現しているのか、さっそく見ていくことにしよう。 ●IdeaPadとThinkPadは別物 レノボのネットブックに期待するもの。それはやはり、ThinkPadシリーズの品質やユーザビリティがどこまで盛り込まれているか、という点だろう。優れた堅牢性、扱いやすい7列キーボードにスティック型ポインティングデバイス「トラックポイント」の搭載、黒一色かつ直線的なボディなど、ThinkPadには他のノートPCにはないさまざまな特徴がある。特に旧来からのThinkPadファンなら、レノボのネットブックはThinkPad 220の流れをくむ製品であって欲しいという思いがあるのではないだろうか。 しかし、IdeaPad S10e(以下、S10e)は、残念ながら、それらThinkPadの特徴の多くが受け継がれていない。ボディを見ると、本体前面や側面が直線的にストンと落ち、前方から後方までほぼ均一の厚さとなっているため、ThinkPadシリーズのボディを若干彷彿させるものはある。しかし、ボディカラーが白でプラスチック感が強い点や、液晶ヒンジ部分が丸く、バッテリが後方に出っ張っている点などは、ThinkPadというより、現在数多く登場している他のネットブックそのものといった雰囲気だ。 また、それはキーボードやポインティングデバイスについても同じだ。ThinkPadシリーズでは、操作性を重視し、7列キーボードの採用が頑なに守られてきた。また、最近ではタッチパッドの併載がが基本となっているが、[G][H][B]キーに囲まれたトラックポイントの赤いスティックも印象的だ。しかし、S10eには他のネットブックとほぼ同じような6列キーボードが採用され、またトラックポイントも搭載していない。 キーボードは、主要なアルファベットキーのピッチが約17mm確保されている点や、やや重めのタッチとしっかりしたクリック感、たわみを一切感じない点などもあって、他のネットブックよりもかなり扱いやすく感じる。ポインティングデバイスのタッチパッドは、縦がやや狭くなっている点が少々気になるものの、大きめのクリックボタンが用意されていることもあって、こちらも十分扱いやすい。ネットブックのカテゴリーで考えると、キーボードやポインティングデバイスに不満は感じない。しかし、ThinkPadと比べてしまうと、どうしても見劣りしてしまう。 本体サイズは250×196×22~36mm(幅×奥行き×高さ)となっている。奥の方が高さが高くなっているのは、バッテリが本体後方および下にはみ出しているためで、本体自体は後方までほぼ同じ厚さとなっている。バッテリ駆動時間を重視して6セルバッテリを採用しているために、本体後部に飛び出す構造となっている。重量は、実測値で1,291g。6セルバッテリを搭載していることを考えると、納得できる重さだ。ただ、より軽量かつコンパクトに持ち運べるように、3セルバッテリが用意されていてもいいように思う。
●アスペクト比16:9の10.1型ワイド液晶を搭載 S10eの液晶は、10.1型ワイドTFTと、他のネットブックで採用されることの多い10.2型液晶よりもわずかにサイズが小さくなっている。これは、表示解像度が1,024×576ドットと、縦がやや狭く、アスペクト比が16:9となっているからだ。一般的なネットブックの液晶解像度(1,024×600ドット)よりも、わずか24ドット少ないだけではあるが、もともとの解像度が低いため、これだけでもかなり狭くなった印象を受ける。実際に、Webアクセスや一般アプリケーションを利用する場合などで、縦の狭さを実感する。 ただ、動画再生時など、アスペクト比16:9のコンテンツを表示させる場合には有利となる。さすがにHDクオリティの動画を再生するのはパワー的に苦しいものの、全画面表示時に隙間なく映像が表示される点はなかなか気持ちがいい。 液晶パネルは、表面が光沢処理されており、発色は非常に鮮やか。また、LEDバックライトを採用しており、輝度も高い。光沢処理がきつく、映り込みがやや激しい点は気になるが、静止画や動画などを表示させるには申し分ないクオリティがある。 液晶パネル上部には、130万画素のWebカメラが搭載されている。また、キーボード左下のパームレスト部分にマイクが内蔵されており、本体のみでWebチャットが楽しめる。日本ではあまり重要視されない機能で、これらを省いてもいいから、キーボードやポインティングデバイスに力を入れて欲しいと思う人も多いかもしれない。筆者もその1人だが、海外では需要の多い機能であり、S10eも日本向けオリジナルモデルではないため仕方がないだろう。
●スペックは標準的 基本スペックは、他のネットブックと特に大きく変わる点はない。CPUはAtom N270(1.60GHz)、チップセットはIntel 945GSE Expressを採用。メインメモリは512MBをオンボードで実装し、標準では512MBのSO-DIMMが搭載されて1GBとなる。最大容量は1.5GBだ。OSは、Windows XP Home Edition SP3を搭載するので、メインメモリが標準の1GBでも動作に不満は感じない。 ストレージデバイスは、160GBのHDDを搭載。ドライブとしては、厚さ9.5mmの2.5インチSATA HDDを採用している。現時点でULCPCライセンスで認められている最大容量で、余裕を持ってデータを保存できる点は嬉しい。また、本体底面のフタを開けると、メインメモリ用のSO-DIMMスロットともにHDDベイが現れる。当然無保証ではあるが、HDDの交換も手軽に行なえる。このように、手軽にHDDを交換できるという点は、ThinkPadシリーズのDNAが受け継がれている部分かもしれない。
●ExpressCard/34スロット搭載で拡張性に優れる 発表会では、「積めるものは全て積んだ」と紹介されていたが、確かにS10eは他のネットブックよりも機能面が充実している。 ネットワーク機能は、100BASE-TX対応有線LANに加え、IEEE 802.11b/g対応無線LANを標準搭載。また、Bluetooth 2.1+EDRも標準搭載。本体側面には、左右にUSB 2.0を1ポートずつ備え、アナログRGB出力(ミニD-Sub15ピン)や、SDカード/SDHC/MMC/MS(PRO)対応の4in1メディアカードリーダも用意されている。そして、他のネットブックにはない大きな特徴となるのが、ExpressCard/34スロットを備えている点だ。 他のネットブックでは、機能拡張はUSB 2.0のみに頼ることになる。それに対しS10eではExpressCard/34スロットを利用した拡張も視野に入れられる。すでに、HSDPA対応のデータ通信カードやワンセグチューナー、キャプチャカードなどが発売されており、それらを利用した拡張が可能となる。もちろん、USB 2.0ポートの消費が抑えられ、拡張性も高まる。 ネットブックでそこまで拡張性が求められるかどうかは微妙ではあるが、あるほうが有利なのは間違いない。特に、HSDPA対応のデータ通信カードを利用したいと考えている人にとって、ExpressCard/34スロットの存在は大きな魅力となるだろう。 ●分解してみました では、内部の構造を見てみよう。
本体分解時には、まず底面のネジを外し、パームレストを取り外す。パームレストの下には、左にBroadcomの無線LANモジュール「BCM94312MCGSG」、右に同じくBroadcomのBluetoothモジュール「BCM92045NMD」が見える。 次に、キーボードを固定するネジを外し、ヒンジ部分のカバーに隠れているネジを外すと本体上部が取り外せる。 基板のキーボード面は、無線LANモジュールが取り付けられているMini PCI Expressスロットがあるぐらいで、比較的すっきりとしている。それに対し、CPUやチップセット、実装されているメモリチップなどは全て裏面に集約されている。CPUとチップセットのノースブリッジには空冷ファンが取り付けられている。また、メインメモリ用のSO-DIMMスロットの下に512MBのメモリが取り付けられていることもわかる。基板裏面の構造も、他のネットブック同様、特に複雑なものではない。それでも、HDDを取り付ける部分は大きく穴が開けられており、チップの集積度は比較的高いように感じた。
●パフォーマンスも他のネットブックとほぼ同等 では、ベンチマークテストの結果をチェックしていこう。利用したベンチマークソフトは、Futuremarkの「PCMark05 (Build 1.2.0)」と、HDBENCH.NETの「HDBENCH Ver3.40beta6」、スクウェア・エニックスの「FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3」の3種類。テスト時には、レノボ独自の省電力ユーティリティ「Energy Management」を、最大パフォーマンスが発揮される「Performance」に設定して行なっている。また比較として、Eee PC S101、Wind Notebook U100 Extra、Inspiron mini 9、Eee PC 901-Xの結果も掲載している。ただし、Inspiron Mini 9の結果は、出荷時のSSDのドライブの圧縮が有効となった状態でのものである点をご了承願いたい。 結果を見ると、パフォーマンスはほぼ同じスペックの他のネットブックとほとんど変わらないと言っていい。ストレージのパフォーマンスは、SSD搭載モデルの方が大きく上回っているものの、通常利用時の体感速度にはほぼ差がないと考えていいだろう。ある意味、期待通りの結果と言える。
次に、バッテリ駆動時間だ。こちらも、従来より行なっている方法と同じように、液晶輝度は最大に設定し、無線LANおよびBluetoothも動作させた状態で、動画ファイル(WMV9、ビットレート1156kbps、640×480ドット)をWindows Media Player 11を利用して連続再生させることで行なった。結果は約3時間25分と、同じく6セルバッテリをEee PC 901-Xとほぼ同じ結果となった。省電力機能を働かせれば、おそらく5時間は余裕で動作するものと思われる。やはり、6セルバッテリの採用は、駆動時間という観点から非常に心強い。
IdeaPad S10eは、全体的に見ると非常に良くまとまったネットブックという印象が強い。機能面に不足はなく、大容量HDD搭載でアプリケーションのインストールやデータの保存にも不安はない。またExpressCard/34スロットの搭載による優れた拡張性も大きなポイントだ。しかも、価格は54,800円と、手頃に抑えられている点も嬉しい。 ただ、レノボの製品ということで、どうしてもThinkPadと比較してしまう。そうすると、あれこれ残念に感じる部分が見えてきてしまう。特に、一般的な6列キーボードを採用していたり、トラックポイントが搭載されていない点は、かなり残念だ。 確かに、ThinkPadの特徴を盛り込むのは、コストの面から難しいことだとは思う。しかし、そこはレノボとしてもこだわってもらいたかったように思う。特に、ボディサイズが小さいからこそ、トラックポイントの搭載はなんとか実現してもらいたかった。 もちろん、だからこそブランド名がIdeaPadとなっているのだ。S10eは、ミニThinkPadと考えるのではなく、全くの別のカテゴリーの製品だ。そう考えると、S10eの良さも多く見えてくるだろう。少なくとも、現時点で他のネットブックと比較しても十分な魅力を備えており、ネットブックの購入を考えているなら、選択肢の1つとして加えておくべき製品であることは間違いない。 □レノボ・ジャパンのホームページ (2008年12月16日) [Reported by 平澤寿康]
【PC Watchホームページ】
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