元麻布春男の週刊PCホットライン

PCメーカーとして生きる覚悟を示した
東芝のネットブック参入




●ネットブックは避けて通れない道

CEATECの東芝ブースには触れる実機が4台置かれている

 我が国最大の総合エレクトロニクスショーであるCEATEC JAPAN 2008の開幕を控えた29日、東芝は低価格ミニノートPCの「NB100」を発表した。活況を呈しているAtomプロセッサ搭載のネットブック製品で、国内PC大手としては初の製品化となる。

 国内PCベンダがこのジャンルに及び腰だったのは、ネットブックにより既存のノートPCの市場が食われてしまう可能性があること、付加価値をつけることが難しい、といった理由であると推測される。プラットフォームベンダであるMicrosoftやIntelも、既存のノートPCの市場をネットブックに奪われることを望んではおらず、ネットブックの仕様にはさまざまな制限を設けているといわれる。

 しかし、全く市場を侵食されないハズがなく、個人向けノートPC市場の5台に1台が、この種の低価格ミニノートPCになったという調査結果さえある。すでにパンドラの箱は開かれてしまったのであり、見過ごしていては他社の躍進を招くだけだ。実際、ミニノートPC/ネットブックの登場で、従来はマニア層にしか知られていなかったAcerやASUSTeKの名前が一般層にまで浸透しつつあるという。

 また、グローバルにPC事業を展開するのであれば、新興国市場での品揃えを含め、ネットブックを避けて通ることはできない。下から上までトータルで品揃えするのが総合PCベンダであり、上位しかやらないというのではニッチベンダ扱いを免れない。動きが鈍いと言われる日本のPCベンダにあって、東芝が真っ先にネットブックの製品化を発表したのは、同社がグローバルにPC事業を展開していることと無縁ではないのだろう。

 東芝がPCメーカーとして生き続けようという覚悟を示した発表であり、賞賛したい。

来場者が絶えないNB100のコーナー NB100のキーボードは、特殊キーも極端に小型化されておらず素直な配列だ

●サポートに対する考え方の格差

 現時点でIntelのプラットフォームであるネットブックを製品化する場合、その心臓部であるCPUやチップセットに選択の余地はない。すべてのネットブックが、Atom N270プロセッサと945GSEチップセットを採用する。ネットブックはいわばワンメイクレースであり、他社との差異化を図ることは非常に難しい。むしろ、付加価値をそぎ落として低価格を実現したのがネットブックだとしたら、そこに付加価値を加えては本末転倒になってしまう。付加価値による差異化で高価格路線を維持したいと考える多くの国内PCベンダの目に、ネットブックは決して魅力的なジャンルには映らない。だが、それでもやらなければ生き残れないのがネットブックであり、PC事業ではないかと思う。

 製品に付加価値がない、あるいは付与できないのだとしたら、国内PCベンダによるネットブックに価値はないのだろうか。筆者は決してそうは思わない。

 今は一段落した感もあるが、ネットブックはどの製品も発売直後は完売が続き、都内の量販店でもなかなか製品を購入できない状態が続いていた。そんな状況において、おそらく地方の販売店にはほとんど入荷はなかったのではないかと思う。東芝がNB100をどれくらい用意しているのか、筆者には知るよしもないが、地方にまで製品を流通させる力という点において、海外ベンダより優れているであろうことに疑いの余地はない。

 同じことはオプション製品にも当てはまる。ネットブックが本格的に登場してから1四半期が経過したが、予備のバッテリやACアダプタを販売している台湾ベンダは今のところごく少数だ。ましてや2年後、本体に付属していたバッテリがへたってきた時、果たして交換用のバッテリを提供してくれるベンダがどれくらいあるだろう。筆者は東芝なら2年後であろうと3年後であろうと、交換用バッテリは購入できると信じている。それは過去の実績であり、国内ベンダとしての責任だと思うからだ。国内ベンダの製品価格には、こうした部品在庫のコストも含まれている。

 もちろん台湾ベンダのアフターサポートが全く期待できないと言っているわけではない。が、これまで彼らはアフターサポートが深刻な問題になるレベルまで、自社の完成品を売ってきた実績がない。マザーボードを売るのと、完成品のノートPCを売るのでは、求められるサポートやサービスが異なる。ネットブックが予想以上のヒットとなったことで、彼らはこれからそれを学ぶ必要がある。

 台湾のベンダは、すでに米国等では大きな成功を収めているが、日本に関してはマザーボードやグラフィックスカードといったPCパーツを除き、大きな存在となっていない。その理由は、サポートやサービスという点で、まだ日本市場から信用されていないからだ。

 たとえば米国では、ノートPCに限らず、製品の修理をサードパーティが行なうことが珍しくない。Central Computersは、San FranciscoのMoscone Convention Centerのすぐ裏にも支店があるPC販売店だが、139ドルでノートPCの修理を行なうとしている。

 こうしたサードパーティによる修理は、国土の広い米国では珍しくないが、我が国ではほとんど利用されない。それは、我が国の消費者は純正志向が強く、純正部品を用いるとは限らない、サードパーティによる修理を避ける傾向が強いからだと考えられる。台湾ベンダのサポート体制も、ある部分、こうした米国の常識に合わせたところがあり、我が国の常識とは必ずしも合致していない。

 しかし、我が国でビジネスを展開するのであれば、我が国の常識に合わせなければならないのは言うまでもないことだ。ネットブックの大ヒットは、彼らが日本の市場に合わせたサポート体制や流通体制を築くチャンスであると同時に、それができるかどうかの試金石でもある。台湾ベンダのネットブックが一時的なブームに終わるのか、これをきっかけに台湾ベンダが本格的に日本市場に進出する足がかりになるのか、これから1年が勝負だろう。

 さて、話を東芝に戻すと、NB100のスペックで特筆するべきことはそれほど多くない。目立つのは内蔵スピーカーがネットブックの常道に従ってステレオであること、Bluetooth 2.1+EDRを標準で内蔵していること、くらいだろうか。大きさはほぼASUSTeKのEee PC 901-X相当だが、バッテリが後部に飛び出したデザインの分、奥行きが長くなっている。この内蔵バッテリは3セルで、カタログ上の駆動時間は2.9時間だ。6セルバッテリを搭載したEee PC 901-Xとは比べるべくもないが、日本語キーボードについてはNB100の方が犠牲が少ない。完全等ピッチではないものの、読点や句読点、カギ括弧などのキーにも、比較的余裕がある。タッチパッドも一般的なレイアウトが守られている。

●期待される独自技術のSCiBとSSD

 このNB100が展示されていた東芝ブースでもう1つ目についたのは、SCiB(Super Charge ion Battery)と呼ばれる技術だ。負極材料にチタン酸リチウムを用いたリチウムイオン二次電池の一種であるSCiBは、安全性(負極材料が異なるため破裂や発火の危険性が低い)、優れた低温特性に加え、約6,000回以上の充放電サイクルが可能(通常のリチウムイオン二次電池は500回程度)、短時間で充電可能(10分で90%)といった特徴を持つ。6,000回の充放電サイクルを経た後も、80%を超える容量が利用可能という。バッテリが繰り返し利用可能になることは環境面でもプラスだ。

 2007年暮れの発表時は、そのアプリケーションとして電気自動車や電動フォークリフトなどが挙げられていたが、今回のCEATEC JAPAN 2008ではノートPCへの応用例が参考出品されていた。

 東芝といえば、もう1つNANDフラッシュメモリやそれを応用したSSDが注目されるところだ。現在同社のSSDは1.8インチタイプで128GB、2.5インチタイプで256GBが最大容量となっている。データ転送速度はリードが最大100MB/sec、ライトが最大40MB/secというところだ。

 2009年に登場する次世代モデルでは、フラッシュメモリが43nmプロセスに進化し、2.5インチタイプで512GBの容量を実現する。データ転送速度の面でもリードで2.4倍の240MB/sec、ライトにいたっては4倍の160MB/secと大幅な高速化を果たすロードマップが示された。こちらも期待して製品化を待ちたい。

参考出品されたノートPC用のSCiB 急速充電できるSCiBの実用化で、ノートPCの利用モデルが変わるかもしれない

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【9月30日】【CEATEC】【東芝編】ネットブックNB100を展示、SpursEngine搭載カードも
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0930/ceatec03.htm
【9月29日】東芝、同社初のネットブック「NB100」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0929/toshiba1.htm
ネットブック/UMPCリンク集(東芝)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/link/umpc.htm#toshiba

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(2008年10月2日)

[Reported by 元麻布春男]


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